剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
148 / 586
第8蝶 ちょうちょの英雄編2

触るな危険スミカの逆鱗

しおりを挟む



 赤に視覚化した10メートルを超える巨大な電柱状のスキルを、私の頭上に扇形に展開する。

 その数は9/10機。
 なら残り1機は?

 実はずっと設置したままだったりする。
 ナジメとの戦闘中はある所に。


「さあ続きをやろうか。もう時間もないしね」

 頭上のスキルをユラユラ揺らしながら、ナジメにそう告げる。


「ふん、分身もそうじゃが、お主の魔法も本当に得体が知れぬのう。そもそも魔法かどうかも怪しいのじゃ。そんな自在に色や形を操っているのも不思議じゃ。但し数はあまり出せないとみた。これが限界なんじゃろ? お主の」

 ナジメは組んでいた腕を降ろし、頭上のスキルを見てそう聞いてくる。

「…………それは秘密かな? でもこれはある意味魔法の一種だって思ってくれても良いよ。私の能力なんだから」

「能力?…… そうか、まあそれもお主を負かせた後で聞けばよいじゃろ。ではそろそろ行くぞっ!『土蛇』」

「っ!」

 ナジメが新たに唱えた魔法はその名の通り、蛇を模した形のものだった。
 それが地中から無数に這い出て来た。


「行くのじゃっ! そして動きを封じるのじゃっ!!」

「相変わらずレパートリーが多いよねっ! でも今更そんな小さな蛇なんて、恐くも何ともないよっ! ならさっきの龍みたいなのが迫力があったよっ!」

 足元より現れた土蛇に向かって、待機させていたスキルを操作する。

「そんなの消し飛ばしてあげるよっ!」

「そこじゃっ!『土葬』」
「って今度は何っ!」

 ガバァッ!!

 ナジメの更なる魔法は、私を中心にして周囲の地面に大穴を開ける。

「い、いきなり落とし穴っ!? 一体いくつの魔法をっ!」

 私は土蛇に向けた1機を足場にして、ギリギリ穴の上に留まる。

 すると、ナジメ自身が出現させた土の蛇が、その暗い地中に落ちていき、

 即座に、

 ガァゴォ――ンッッ!!

 と、その大穴は無数の蛇を飲み込んで、すぐさまその口を閉じる。
 ターゲットを地中の中に閉じ込める。そんな魔法なのだろうか?


『ううん、そんな生易しい魔法じゃないよ、あれは。落ちた獲物を圧迫死させるのが目的の魔法だよ。随分とやってくれたね……』

 タンッ

 足場にしたスキルからひょいと飛び降り、ナジメに向かって駆ける。
 円錐の巨大なスキルは、私の後を付いてくる。


「はぁはぁ、うぬぬっ、これも避けられるとはっ! 次はっ―― がはぁっ!」
「遅いよっ!」

 シュ―― ン

 次の魔法を唱えるよりも早く懐に辿り着き、細い首を片手で掴み、宙づりにする。

 そしてその無防備な小さい体には次々と、


 ズガガガガァ――――ンッ!!


 待機させていたスキルを立て続けに打ち込んでいく。。

 背中、両足、頭、両脇腹、臀部、後頭部、両腕、

 10メートルを超える透明壁スキルを、小さな体に順に叩きつける。

 ズガガガガ――――

「うがっ! うががっ! うががががぁぁぁっっっ!!!!」

 その怒涛の連撃に、ナジメは堪らずに叫び声を上げる。
 どうやら今度はダメージを与えられたようだった。


「いつつっ、はぁはぁはぁはぁ―― ま、まだじゃ、ま、だ、わしはっ!」

 ナジメは息を切らせ痛みに耐えながらも、まだ気力は衰えていないようだった。
 それでももう限界が近いと分かる。浮いている手足には全く力が入っていない。


「…………どう、もう降参する? これ以上は意味ないよ」

 私は握っている力を少し抜いてナジメに問いかける。
 見た感じナジメの体力も気力も、そして頑強な能力も切れつつある。

 これ以上はただのなぶり殺しになる。
 そんな戦いはこの場に相応しくはない。

 もしそうなったら私は昔のように――――


「はぁはぁ、わしは、まだお主、の本気を、見て、おらぬ。だか、ら、わしはまだ、負けるわけには―――― 『土槍』」

「ナ、ナジメっ! もう私はっ!」

 ナジメは息も絶え絶えながらも次なる魔法を発動させた。
 それは地面から1本の土の槍を出現させていた。

「今さらこんなのでどうしたいのっ! もう降参しなよっ!」

 だがその1本の槍は、

「いくのじゃっ! これがわしの最後の攻撃なのじゃっ!」
「えっ?」

 その土の槍は、槍先を私に向けずに観客席の方を向いていた。

 そして、その向かう方向とは――――――


「ユーアっ!」

 あろうことか、ユーアに向かって高速で空を切り裂き飛んで行く。


「く、くそうっ! ナゴタっ! ゴナタっ! ハラミっ! ラブナっ!」


 私は咄嗟にシスターズの名前を呼ぶ。
 ユーアを守る事の出来る、今、最も信頼できる仲間の名前を。


「任せて下さいっ! お姉さまっ!!」
「うん、任せろっ! お姉ぇっ!!」
『がうっ!!』
「ま、魔法が間に合わないっ! ならアタシの体でっ!」


 そして高速で飛んでいくナジメの土槍は、

 グシャッ

 シスターズの前、数十センチで見えない何かに阻まれる。

 それを見届けた後で、掴んでいたナジメの首に力を入れる。

 グググッ

「…………なんだってユーアを狙ったの? 消されたいのあなた」
「うぐぐっ」

 苦しむナジメを無視して、更に締め上げる。
 
 ググググ――――

「うぐがぁっ!」
「うるさい。もういいや………… 3層―― sept」

 トンッ

 私はナジメを持ったまま、一度の跳躍で十数メートル空中に飛び上がる。


「…………孤児院の事とか、ナジメの過去とか、それと仲間になって欲しいとか色々思ってたけどもういいよ。ユーアに手を掛けようとしたんだから絶対に許さない。一応消さないではおくけど、一生復帰できない程の歪な体と、今後私を見る度に錯乱するほどの恐怖を植え付けて上げる――――」

「ぬぐぅっ!」

 呻き声を上げるだけのナジメの耳元でそう呟き、

 ギュルンッ!

 と、縦に高速で回転をして、

 ビュンッ――!

 地上に設置した剣山のようなスキル9機に向かって、全力で投げつける。

 この状態の今のナジメなら、確実に体中を貫けることだろう。


「スミカお姉ちゃんボクは大丈夫だからっ! ナジメちゃんをっ!」
「っ!?」

 ナジメがスキルに貫かれる直前に、私を呼ぶ声が聞こえてくる。

 それを聞いて、私は―――――― 



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...