141 / 586
第8蝶 ちょうちょの英雄編2
お絵かきと口撃合戦
しおりを挟むしゃがみ込み、地面に何かを書いているナジメに近寄っていく。
暇潰しなのはわかるけど、これ程お絵かきが似合う大人も珍しい。
『こんななりでも昔は冒険者なんだよね? しかも元とは言えAランク。年齢と見た目に関しては私も言えた義理ではないけど、さすがにこの幼女には敵わないよ』
見た目は6歳くらいの女の子。
もちろん実年齢より幼く見えるユーアよりも小さい。
「おっ? 話はもう終わったのじゃなっ?」
「うん、終わったよ」
近付いてくることに気付いたナジメが、顔を上げて話しかけてくる。
「ねえ、一体何書いてたの?」
しゃがみ込んで、何かを描いていたのが気になり聞いてみる。
ルーギルと私たちが話している間に地面に描いていた絵だ。
「うむ?」
何やら途中から、暇つぶしじゃなく、夢中になってたようだけど。
「うん、これって…………何?」
「おお、これはな、わしがこの街の英雄を負かした絵じゃ」
「えっ!?」
「わしの得意な魔法で、英雄のお主を『参った』と言わせてる絵なのじゃっ!」
「………………はぁ?」
「こんな風に両脇から「ギュッ」と挟み込んでのう。それで動けなくなって『ごめんねっ! 許してっ!』とお主が言ってるのじゃ。そんな未来の絵を描いてただけなのじゃっ!」
ナジメをそう言い「スクッ」と立ち上がる。
私を見る目と雰囲気は、さっきまでの子供らしい無邪気さは抜けていた。
威嚇するように目尻を上げ、僅かに口角が上がっていた。
『……ふぅん、中々良い威圧と殺気じゃん。何がこの幼女をここまでやる気にさせたのかは分からないけど、これで私も遠慮しなくてすむよ。うん面白いよ。それにしても……』
私はもう一度地面の絵をよく見てみる。
ナジメ説明していた事を確かめる為に。
「?」
どれがナジメで、どれが私か正直わからない。
幼児がお絵かきで描くような、ふにゃりと手足の関節がない軟体生物らしい何かが1匹と、それと壁らしき線が2本だけ書いてある。
あれ?
一人しかいないように見える。
挟み込んでどうとか言ってたけど。
「ねえ、この絵って私はどこにいるの? 見当たらないんだけど」
「えっ!?」
結構集中して描いてたよね? それとも見方が違う?
わかる事は壊滅的に絵のセンスがない事だけだ。
「ど、どこじゃ、とっ?…… な、何を言っておるのじゃっ! お、お主は壁に挟まれて見える訳がないのじゃっ! 壁の中におるのだからなっ? きっとそうなのじゃっ! そうじゃよな?」
「いや、私に聞かれても書いたのはあなただし。そもそも何で壁の中にいるのに私が『ごめんねっ! 許してっ!』とか言えるの? これ、絶対書き忘れてたよね?」
微妙に落ち着きのないナジメに突っ込んでみる。
目もなんか泳いでるし。ちょこちょこと歩き回ってるし。
「ううっ、こ、これはお主が叫んだ後で閉じ込めたのじゃっ! だからお主の姿は見えないのじゃっ! どうだ、これでいいじゃろっ! うんうんっ!」
今度は言い訳がましく喚きたて、最後はない胸を逸らし満足げに頷いている。
これで無理やり通すつもりだろうか。
「もうそれはいいや。あなたが悩んでいる間に私が書き直してあげたから。ほら、これがあなたの結末だよ? 私のじゃなくてね」
私はそう言って地面を指差す。
「うなっ、お主絵がうまいのっ! ところで、この大きな■の脇に立っておる、乳の大きな人物はわしかのう?」
そうナジメが言った通りに、巨大な■が積み重なった脇に、胸を強調している人物が描いてある。
そんなものは勿論ナジメな訳がない。
だったら真実は一つ。
「それ、私だから」
「えええっ! お主となっ!?」
豊満な胸を逸らして当たり前のように言い切る。
そんなナジメはジロジロと私と絵を見比べて見ていた。
少しだけ大袈裟に書き過ぎたかも。
「それとね、ナジメはこっちでしょ?」
■が積み重なっている物体を指差す。
「私が作った魔法壁の中で身動きが取れず、ベソ描いているのがナジメなんだよ。まあ、壁の中だからナジメの絵と同じように見えないけどね」
白々しく、ナジメの顔を見ながら言ってみる。
「どう、わかった? ナ・ジ・メ・ちゃん」
ついでにちゃん付けして挑発してみる。
「むかっ! わしは長かった冒険者時代でもここまでコケにされたことはなかったのじゃっ! お主、覚悟はできておるのだろうなっ!」
「いやいや、最初にあなたが挑発してきたんでしょ? 私はただお返ししただけだよ、やられっぱなしは性に合わないしね。それに覚悟っていうけど、ナジメこそ覚悟はできてるの?」
更にナジメを煽ってみる。
「はんっ! わしに何を覚悟しろというのだ! 言うてみろっ!」
「そんなの私と戦うんだから決まってるじゃない――――」
私は踵を返して、ナジメから距離を取り振り返る。
「――――もちろん、あなたの心が折られる覚悟だよ」
「んなっ!?」
指をナジメに突きつけそう宣言する。
「うぬうっ、たがが小さいこの街の英雄風情がっ調子に乗り折ってからにっ! その減らず口をきけなくしてやるのじゃっ! 『土団子』」
余程プライドを抉られらのだろう。
小さい体を震わせ、歯を剥き出しにして先制攻撃を仕掛けてきた。
『うは、自分の治めている街なのに小さいって言ってるよ。にしても、ここの世界の冒険者はやたら挑発に乗って来るよね? しかもみんな戦闘好きだし』
私の周囲の地面から、拳大の鉄球のような黒の塊が飛び出し浮遊している。
前後左右、それと空中にも浮遊している。その数は凡そ100以上。
「って思ったよりも多いっ!?」
「まずは小手調べじゃっ! このくらいでやられる出ないぞっ! 『土合戦』っ!!」
そしてナジメの掛け声とともに一斉に動き出す。
『土合戦って、雪合戦を真似た感じなのかな? でもこの数はさすがにある程度スキルを使わないと無理だね? それにゴナタの時みたく、観客に危険が及ばないようにするのには』
この状況でそう判断しスキルの封印を解く事にした。
今回の戦いでは、ある程度、能力を見せても仕方がないと結論付けた。
『……でもこの感じも懐かしいかも』
それ程の相手だと認め、少しだけ高揚感を感じる。
過去最強の相手を前にして、今まで以上に鼓動が高鳴る。
そんな中、
「ってオイッ! 勝手に始めるなッ! 俺もまだここにいるんだぞッ! よしッそれじゃ前置き話せなかったが試合開始だッ!!」
その存在を忘れ去られたルーギルは、慌てて訓練場から出て行った。
「なんだかんだ言って嬢ちゃんも血の気が多いよなァッ」
そんな事を呟きながら、脱兎のごとく走り去った。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる