剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
139 / 586
第8蝶 ちょうちょの英雄編2

不遇な戦いと ねくすとバトル

しおりを挟む



「それじゃ、一から説明するぜッ。まず最初のナゴタとの戦いからだッ」


 ルーギルの神妙な表情に、私たちは耳を傾ける。
『見えなかった』とは、一体どういう事なのだろうと。


「うん。話してよ」

「途中までは良かったんだッ、見えないナゴタの攻撃を見事に防ぎ続けてる嬢ちゃんに、皆んなも称賛してたかんなッ。もちろんナゴタの速い攻撃も凄ぇと喜んでいたッ」

「うん、うん。それで?」

「それで、だ。それ以降、スミカ嬢が消えて、ナゴタが吹っ飛んでそれを受け止めて終わったッ。誰もスミカ嬢がナゴタを攻撃したところを見てねえッ、ってか誰にも見えなかったんだよッ。気付いたらナゴタがスミカ嬢に抱きかかえられてた」

「そ、それって――――」


 つまり、私が今回の主役なのに、主役の一番盛り上がる最後の攻撃が早過ぎて見えなかったから、それが不満だって言うの? きっとそういう事だよね?

 それは何となくわかる気がするかも……


 一番最後の盛り上がるシーンで、気付いたらボスが倒れていた。
 そんな感覚なんだろうと。

 そして、そのあっけない終わり方に、最後の最後で白けてしまったんだろうと。

 でもそれって――――


「ちょっとっ! そんな事言われたら私たちは冒険者も含めて、街の人のレベルで戦わなきゃダメって言うのっ! そんな事出来るわけないよっ! 私たちはあくまでも強さを見せる戦いをしてたんだからっ!」

 さすがに私も我慢できなくなり、早口で捲し立てる。


 そもそもそんな戦いができるできない以前に、手を抜いたとも言える戦いで、街の人たちだけならともかく、冒険者たちにはイカサマに映るだろう。
 ナゴタの強さも、私の強さの一端も知られているんだから。


「ま、まあ待てよォッ! まだ続きがあるんだからよォ! それと2戦目のゴナタの試合だが、これも途中までは良かったんだッ! でもこれも最後は見えなかったんだッ! これはわかるだろッ?」

「………………壁。だよね?」

 そう。ゴナタの攻撃を防いでくれたあの壁の出現だ。
 あの壁のお陰で誰もケガ人が出なく感謝している。

 ただそれと同時に、ゴナタとの戦いを遮ってしまった。
 真っ黒な巨大パーテーションで、訓練場と観客席を寸断してしまった。


「ああ、その通りだァッ。突然現れた巨大な壁のせいで肝心の所が見えなかったッ。何故嬢ちゃんがゴナタに肩を貸していたのか? どうやってゴナタを倒したのかもなッ!」

「だってそれは私が原因じゃないし、あれがなかったらここにいた人たちも危なかったんだよっ! 仕方ないと思わないっ!?」

 そう、あれは仕方ない。って言うか最速で最善の処置だった。
 
 ただ思うところもあるにはある。

 あの時、私が透明スキルを躊躇せずに使っていたら見えなくなることはなく、今のこの状況は生まれなかった。誰しも納得できる決着を迎えただろう。

 ただ今更後悔しても意味ないし、ナジメに泥を塗ることになるから口には出せないが。


「まあ、そうなんだがよォ、でも実際は悪い方に傾いちまったァ。あの壁が無くなったら試合が終わっていたッ…… でだなあァ、俺から提案が――――」

 ガシガシと頭を掻きながら、どこか含みのある笑顔になるルーギル。

 ただその内容に我慢できない二人が食って掛かる。


「ル、ルーギルさんっ! それは酷いですっ! スミカお姉ちゃんとゴナタさんはいっぱい戦ったのに、見えなかったから信じてくれないなんて、あんまりだよっ!」

「そうよっルーギルっ! ナゴ師匠もゴナ師匠も全力で戦ったっ! スミ姉はよくわからないけど………… でもね、アタシの師匠があんな恥ずかしい目にあって、何にも無しじゃおかしいわよっ! ルーギル、あんたが何とかしなさいよねっ!」

「ユーアちゃん………………」
「ラブナ………………」

 ルーギルの説明に怒りの声をあげるユーアとラブナ。
 ナゴタとゴナタはそれを大人しく見ている。
 悔しくもルーギルの言う通りだと思ってるようだ。


「うおッ! ってまあ聞けッ! 話は途中だったろうがよォッ!」

 子供二人に詰め寄られたルーギルは怯みながら、

「いいか、良く聞けよォ、その為に俺がいるんじゃねえかッ! 俺はお前たちに協力すると言った筈だッ! だからこんなこともあろうかとよォ…………」

 ここでルーギルは一旦言葉を止めて、私たちを見渡す。
 気のせいかさっきよりも口元が緩んでいるような?


「この街の領主で、元Aランクの冒険者と今すぐにでも戦える許可は取ってあるッ! 一戦目のナゴタの試合を見てからそいつと話し合ってなッ!」

 もう隠すつもりもないのか、満面の笑みを浮かべたままでそう告げた。

 それを聞いた私たちは…………

「………………誰それ?」

「え、誰ですか? その人って。しかもAランクなんて……………」
「はん、そんなのがいるならさっさと連れてきなさいよっ!」

「A、Aランクですかっ!? ま、まさか? やっぱりここの領主さまはっ!」
「うん、うんっ! でもどこにいるんだいっ!」

 ルーギルの話を聞いて一様に驚く私たち。

 この街の領主が冒険者だった事もだが、今この街に来ているという事実に。
 そしてそのタイミングの良さに。


「アアッ、どこって? そこに突っ立ってんだろうよッ!」

 笑顔のままのルーギルが、指を差すその先には――――


「んぐんぐっ、英雄に貰ったこの飲み物はうまいのじゃっ! もう少しもらいたいくらいじゃっ! それとも売ってくれんかのう? うぐうぐっ! ぷはぁっ! 美味しいのじゃっ!」

 それは訓練所の真ん中で、何かを美味しそうに飲んでいる幼女だった。

 ってか、それ私が上げたドリンクレーションだよね?


「は、はああっ! あの子供が領主なのっ! しかもAランクってっ!?」

「ナ、ナジメちゃんがっ!」
「えええっ! ナジメが領主っ! って冗談だよねっ!?」
「あ、あの方が領主で元Aランクっ!?」
「あああ、ワタシ結構失礼しちゃったかもぉっ!」


 私を含め、シスターズの面々は誰もがその事実に驚愕した。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...