137 / 586
第8蝶 ちょうちょの英雄編2
耳年増と無効試合?
しおりを挟む私はなし崩し的に、ナゴタとゴナタのお願いを聞き入れた。
いつになるかわからないけど、双子の姉妹との混浴に……
『そ、それよりも』
ていうか、今はそれどころではないよね? 何か忘れてない?
私たちが何の為にここに来て戦ったのかを。
※※
私とナゴタとゴナタの模擬戦は終わった。
街の人たちは何だかんだで盛大に盛り上がってたように見えた。
もちろん懸案の冒険者たちも同じように見えた。
少なからず私たちにはそんな風に映った。
だったら、
『…………終わったんだよね? なんで、ルーギルもクレハンも終わりにしないの? 終了を宣言しないの?』
訓練場の真ん中で、何やら話し合っている3人に視線を向ける。
ルーギルとクレハン、そして一人加わった冒険者のまとめ役のギュウソに。
『あれ? なんであの幼女もあそこにいるの?』
最初は小さくてその姿が見えなかったが、ナジメがルーギルたちの足元にいた。
そして何やら話し合いに混じっている。
「あっ、スミカお姉ちゃん」
「うん、どうしたの?ユーア」
隣にいるユーアに顔を向ける。
「羽根が少し大きくなってないかな?」
「へ? 羽根が」
「うん、いつもより大きくなってるよ」
「う~~ん、そう言われてみれば、少し大きくなってるかも」
ユーアに言われて首を回して見てみたが、確かに視界に映る部分が多く見える。
形や色は全く変わらず、大きさだけが変化したようだ。
「そうだよねっ! 前よりも蝶ちょみたいになったよスミカお姉ちゃんっ! もしかしたら飛べるのかなっ! いいなぁっ!」
キラキラした目で背中の羽根を見つめる。
「う~ん。それは無理みたいだね。ユーア」
「え? それは残念です…… スミカお姉ちゃんが飛ぶの見たかったです」
ヒラヒラと動かしてみたけど、飛ぶどころか全く浮かなかった。
そもそもそんなに高速で動かせないし、大きさも足りない。
『てか、そもそもなんで大きくなったの?―――― ああ、なるほどね』
そっとステータス画面を見て一人納得する。
これでは飛べるわけがないと。
「本当ですね、お姉さまっ! 前よりも魅力的ですよっ!」
「なら、ワタシの『蜜』吸ってくれよっ! 蝶だけに。なんてなっ!」
「「「えっ!?」」」
「え?」
ナゴタは良いとして、ゴナタの言葉に一瞬硬直する。
冗談なのか本気なのか知らないけど、そこはかとなくセンシティブなセリフに。
「ゴナちゃんっ! あなた自分が何を言ってるかわかってるのっ!?」
「ゴ、ゴナタ、そ、そう言う冗談はやめてよねっ!」
「ゴナ師匠の変態っ! 痴女っ! 露出狂っ!!」
「え?」
そんなハレンチともとれる台詞に、私とナゴタと何故かラブナが反応していた。
大人の私とナゴタはいいとして、なんでラブナが反応してるのだろう。
確かユーアの1歳年上なだけだよね?
「へっ? なんでそんなに怒ってるんだい? 顔を赤くしてさ。ってかラブナ、お前は師匠に向かってなんてことを言ってるんだよっ! ちじょって何だっ!」
「へっ? う、わああああ――――っ!」
「……………」
「……………」
ゴナタは意味も分からずにラブナを追いかけ始めた。
そんな二人他所に、いの一番に反応した姉のナゴタを覗き込む。
「~~~~っ!!」
視線が合ったナゴタは「カァ~~ッ」と真っ赤になって下を向いてしまった。
ずっと一緒だったこの姉妹の、なぜか姉だけが耳年増だった。
まあ、それを言ったらラブナが一番だけどね。あの年齢でさ。
それと私のユーアに変な事教えてないよね?
えっ!? 私?
私はほら、精神年齢的には一番年上だからね。色々とね。
※※※※
(いやっ―――――――?))
(だから―――――――っ!?))
(うん―――――――?))
((はあっ! ―――――かっ!))
((――まあ ―――――だろう?))
私たち以外のたくさんの声が聞こえる。
街の人たちも冒険者も一緒になって、ガヤガヤと何かを話し合ってる。
ただそれは、野次や文句と言った、誰かを乏しめるものではなく、
どちらかと言うと――――――
『――――困惑している?』
そうそんな感じ。
隣同士や顔見知り同士で首を傾げ話している様子は、何か困ってると言うか、なんか納得できてないって言うか、何やらハッキリしないといったそんな表情だ。
正直、あまりいい雰囲気だとは思わない。
私たちの全ての試合が終わった後で、この様子はどこか不安になる。
「う~ん」
「お姉さま、これは一体? もしかして今回の件、私たちは失敗…………」
「お姉ぇ…………」
「ナゴタさん、ゴナタさん……」
「師匠たち、まさかっ!」
街の人たち、そして冒険者たちの表情を見て何となく察する。
それに合わせるかのように、シスターズの面々の表情にも影が差す。
「ちょっとルーギルっ! 一体どうなってんのっ!」
中央に集まって、未だ話し合っている4人に大声を上げる。
少しの殺気と、ちょっとの怒気を含んで、鋭く睨む。
ここまでやって収穫無しじゃ、割に合わないし、やりきれない。
二人とも全力で戦ったんだから、それに見合う結果が欲しい。
一番の目的は、この姉妹のこれからの事なんだから。
この街を出ていくか、私たちと一緒に街で暮らせるかの。
「オ、オウッ! 待たせて悪りいなッ! 今ようやく話が纏まったからそっち行くぜッ! それじゃ、俺はスミカ嬢たちに説明してくるッ。お前たちは街のやつらと冒険者をたのむッ!」
私の呼びかけに気付いたルーギルは、話し合ってた他の3人に何かの指示を出し、こちらに小走りで駆けてくる。
因みにナジメだけには声を掛けず、その場に残ってはいたけど。
「アア~、なんだァッ、かなり言いづらいんだけどよォ――――」
ルーギルは何やら苦虫を嚙み潰したような表情で話し出す。
この顔から察するに、あまりいい話ではなさそうだ。
「それはいいから、一体どうなったの?」
それでも聞かないと話が進まないので、ルーギルに問いかける。
シスターズの面々は、一様に口を閉ざし話に注視している。
「ア~~、今のお前たちの模擬戦の話なんだかよォ、どうやら良く分からなかったんだよォ。って言えばわかるかァ?」
頭の後ろをガシガシ搔きながら、私たち全員に視線を送る。
「全然」
「「「………………」」」
「まァ、そうだよなッ。ならハッキリ言うぜッ? さっきのお前たちの、ナゴタとゴナタの模擬戦は『見えなかった』んだよッ!」
「はぁっ!? いきなり何言ってんの? 見えなかったって何? 私とナゴタとゴナタはキチンと戦ったよねっ! みんな何見てたの?」
意味の分からない、ルーギルの答えに心外だと詰め寄る。
見えなかったってどういう事?
私みたいに消える訳じゃないし。
「それじゃ、一から説明するぜッ? まず最初のナゴタとの戦いからだッ」
こうして、誰も納得できない私たちに、ルーギルの説明が始まった。
その『見えなかった』と言っている、内容とは……
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる