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第8蝶 ちょうちょの英雄編2
街の英雄と自分らしさ
しおりを挟む『はぁ~~、もう逃げられないかぁ……』
私は今注目を浴びている。
私を見る大勢の、目 瞳 眼。
そして私が何か話す事を感じた人たちは、一斉に私に視線を集めている。
誰一人物音も起てず、固唾を飲んで見守っている。
『いや、そんな堅苦しくないか? 見守ってるって言うか、期待してる?』
そう、どちらかと言うと、そんな感じだ。
緊迫した様子ではなく、何かを楽しみにしている表情。
例えるならば、ビンゴゲームの数字を発表するように、
福引のガラガラ抽選器から、玉が出てくる時のように、
それはまるで、
『そうなんだよね、みんなにしてみればお祭りみたいなものなんだよね。なら畏まらずに、普段の私の言葉と思ってることを言えばいいか?みんなも楽しんでるみたいだし』
そう思い、ちょっと心が落ち着いてくるのを感じた。
『そもそも誰かの期待に応えるとか、誰かに合わせて生きるとか、そんなのは私じゃないし、肩肘張らずに思うことをやるのが、私だったじゃない。なら――――』
私は「スゥ――」と軽く息を吸い込む。そしてゆっくり吐く。
「スミカお姉ちゃん、どうしたの?」
それを見たユーアが私を心配してか、そう声を掛けてくる。
「ううん、何でもないよ。ちょっと色々考えちゃっただけ」
「うん、それなら良かった。スミカお姉ちゃんはボクたちの自慢のお姉ちゃんだから、何も難しい事考えなくても大丈夫だよ? スミカお姉ちゃんがボクたちを守ってくれたように、ボクたちもスミカお姉ちゃんを守ってあげるから。だからね?」
「ふふ、ありがとうねユーア、でももう大丈夫」
「うんっ!」
たどたどしくも、笑顔で励ましてくれたユーアを撫でる。
その気遣いと笑顔で、かなり落ち着いた。
「え~、みんなは、私の事をこの街を救った英雄なんて思ってくれてるけど、私はこの街や、ここに住んでいる人々を守る為に戦った訳じゃないんだ―――― ん?」
ここで一旦言葉を止め、違和感に気付く。
冒頭をから既に、みんながお互いに顔を見合わせてソワソワしていたからだ。
『……まあ、そうなるよね? でも私は―――』
その反応を無視して更に続ける。
「――――私は私の大好きな妹を守る為、妹の住むこの街や、関わった人たちを危険に晒したくなかっただけ。その為に戦ってきたんだ。だってそうでしょ? 話した事もない街の人たちや、ここに来てまだ10日も住んでないこの街を守るために危険な事に顔を突っ込むなんておかしいでしょ? 私はただ自分が守りたいものを守っただけ。今回はその結果なだけの話なんだよね、でも――――」
今度は顔を見合わせていた者同士で「ザワザワ」と囁き始める。
そのざわめきの内容はわからないけど、英雄に似つかわしくない事を言ったことはわかっているし、凡そ英雄とはかけ離れているとも自覚している
それでも私は言葉を紡ぐ。自分の言葉で。
「――――でも、私はここにいる妹のユーアは勿論、私たちのパーティーの『バタフライシスターズ』と今回同行したルーギルとクレハンも私が守りたい一部になってた、一緒に旅をして気付いたらそうなってた」
ユーア達に視線を向ける。
「スミカお姉ちゃん…………」
「お姉さまっ!」
「お姉ぇっ!」
「…………スミカ嬢」
「スミカさん…………」
そこには嬉しそうでも、若干不安そうな表情をした仲間がいた。
それでも続けて話しをしていく。
「――――そして私は気付いたんだ。私はきっと英雄にはなれないし、なりたくない。こんな事を言う時点で資格はないし、元々が分不相応だったんだと思う。でも、それでも私を英雄と呼んでくれるならそれはそれで構わないし、英雄でなくても何も変わらない。だってこれからも私は、私がが守りたいものを守っていくだけだから――――
私の想いを自分らしい言葉で伝えて、そしてゆっくりと目を閉じる。
『言いたい事は言った。これで私の立場がどうであろうと、私は何も変わらないし、これからも好きな事をして行くだけ。私が守りたいものを私が決めて守るだけ。だってそれが私の生き方なんだから』
「ふぅ~~」と心の中で深呼吸をする。
そして目を開けると、そんな私にはきっと非難の目と罵倒が殺到して……
「「「うおぉ――――――っ!!!!」」」
「「「いいぞぉ―――――っ!!!!」」」
いなかった。
非難を向ける輩も、ましてや罵詈雑言を浴びせる人たちも。
「きゃっ!?」
「ス、スミカお姉ちゃんっ!!」
「お、お姉さまっ!!」
「お姉ぇっ!!」
それどころか、多くの声援と拍手に圧倒され悲鳴を上げる私たち。
「いや~よく言ったぜっ! 英雄様の言葉とは思えねえけどなっ!」
「それでも、この街を救ってくれた事実は変わらねえぞぉ!!」
「そうだぜっ!「俺が命を賭けて守る!」なんてどっかの勇者みたいに、なんの関係もない人間に言われたって逆に信用できねえっ! ならスミカの言う事の方が人間味があって信用できるっ!」
「ああ、確かにその通りだなっ! なら俺たちはスミカに気に入られるように、この街や俺たちを好きになってもらうように努力するだけだっ! そうしたら英雄のスミカに守ってもらえるっ!」
「ああ、そうなれば、この街には英雄スミカ率いるバタフライシスターズがいるんだから、何が合っても安全だなっ!」
「ありがとうねっ! 蝶のお姉ちゃんっ!」
「バタフライシスターズばんざーいっ!!」
「わたしも蝶のお洋服着たいわ、ママっ!!」
「えっ!? し、刺繍で、我慢してねっ、ねっ!」
私たちはそんな絶叫とも轟音とも思えるほどの歓声に包まれた。
※※※※
「う~~む、わしはいったいどうすればいいのじゃ? 気付いたら、ルーギルやクレハンたちから離れてしまったのう。それにしても、あの蝶の少女は面白いのう。本人は気付いていないが、あれこそ英雄の素質ではないか? あそこまでルーギルは勿論、この街の人々に気に入られたのじゃからな」
わしは遠目に街の人の中心にいる英雄とその仲間を見てそう思った。
「ああ、すまんのぉ、わしを肩車してくれて。もう降ろしてくれていいぞ」
と、わしはルーギたちが見えなくて「ぴょんぴょん」してた時に、声を掛けてくれた冒険者風な男にお礼を言う。
おかげで人混みで見えなかった、英雄の雄姿が見れたのは良かった。
「それじゃ、あっしは持ち場に戻るんで、また困ったら声かけてくんなせえ」
「そうか、助かったのじゃ、えーと、それでお主の名前は?」
「あっしは…… ただの『おじちゃん』とでも呼んで下さい」
「『おじちゃん』でいいのかの?」
「はい、みんなからそう呼ばれてるので、それで構いませんよ」
「うむ、おじちゃん今回は世話になったな。また何かあったら頼むのじゃ」
「はい、わかりました領主さま。それではこれで」
わしはおじちゃんに肩車から降ろしてもらい「トコトコ」と屋台に並び注文し、フォレストベアの串焼きを頼み口に頬張る。
「いったい、わしの出番はいつになるのかのぉ?」
モグモグしながら出番を待った。
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