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第8蝶 ちょうちょの英雄編2
蝶の少女とスク水幼女と
しおりを挟む「ワナイっ! 何だってこんなに人を集めるのっ! こんな大勢の中で戦えるわけないじゃないっ! 私と姉妹の模擬戦は冒険者たちに認めさせるだけでいいのに、なんで街の人たちなんか集めちゃうのっ!」
ワナイが駆け集めた人たちや、屋台や訓練場でごった返す人々、それとワナイを交互に見て矢継ぎ早に詰問する。
「いや何って、訳はたった今伝えただろう? 一度に大勢集めた方が手っ取り早いって」
「いや、違うっ! そうじゃなくて、何で街の人も集めたって事っ!」
「こんにちは、スミカさんとシスターズの皆さん。ワナイ警備兵に出来るだけ大勢集めてとお願いしたのは、わたしなんですよ」
「えっ? クレハンっ! な、なんでっ!?」
ワナイに詰め寄った矢先に、クレハンがその後ろから姿を現す。
そしてその周りにはギルド長のルーギルとギョウソ、そして、なぜか小さな女の子がいた。
「えっ!?」
私は初めて見たその少女に、視線が釘付けになった。
『な、なんでこの女の子はスクール水着を着てるのっ!?』
そうこの少女って言うか幼女は、私の世界にもあった『旧型タイプのスクール水着』を着用していた。しかもお約束通りに胸にネームが入っていて、そこには「なじめ」と書いてあった。
『……なじめ? 私のいた所でそんな姓は聞いたことない。のかな? いや違う。この場合だと姓ではなく名前の方が「なじめ」だと思う。旧型は一般的に、一部のコアなファンやそれ系のお店にしか出回ってないから、なら、きっと名前が「なじめ」何だと思う……けど』
もしかしてこの世界でも流通してるって事?
『いや、それはない。と思う』
素材もそうだが、デザインが余りにも似すぎているし、旧型なんでマニアックなものは、絶対に私以外の異世界人が広めた可能性が高い。
『それかこの幼女がその当人の可能性も――――――』
私はその幼女を頭から、つま先まで注意深く観察する。
『…………身長は、私は勿論、ユーアやメルウよりも小さい。胸はペッタンコだけど、それは子供だから。髪色は緑?青?の中間くらい。目は髪色と同じ色でクリっと可愛らしい。目元鼻筋も堀が浅く、小さな口元は八重歯が覗いている。服装は、まあスク水風な物に、腰にはポーチ。足元は膝までの革製のブーツか。髪や目の色は私の世界の者ではないけど、アバターの可能性も――――』
「うむ、どうしたのじゃ? わしをそんなにジロジロ見て」
私の視線に気付いたのか、キョトンとした顔で聞いてくる。
それよりも、
『わし?』
今この子、自分の事「わし」って言ったよね?
こんな子供が一人称を「わし」なんて絶対におかしい。
今までの事諸々含めて、これはもう確実に、
『私と同じプレイヤーだ』
私はそう認識して、その子供の一挙手一投足を見逃さないようにと、同時に、注意深く辺りを見渡すが、街の人が溢れかえってるこの中で、他のプレイヤーの姿は見付けられない。
『はあ、これじゃ索敵も使えないか。かと言ってここで戦闘なんて起こしたくないし。そもそもこのプレイヤーは何が目的なの? とりあえず何か仕掛けてきた時は、私とこのプレイヤーだけをスキルで隔離して力ずくで聞きだせばいいか…………』
「あのさ、なじめちゃんでいいの? 名前は」
私は一先ずこの考えに落ち着き、先ほどのこの子の質問に答える為に口を開く。
そしてついでに何か情報を引き出そうと考えながら。
私たちの敵か味方か、そしてプレイヤーかを。
「うむ、わしはナジメで間違いないのじゃ。それじゃからナジメでいいぞ? わしはちゃん付けされるような年齢ではないからのう」
「えっ、そうなの? それじゃナジメは一体いくつなの? どう見ても子供にしか見えないんだけど。いや誰から見ても幼女にしか見えないけど」
と返しでこのナジメに聞いてみる。
プレイヤーだとしたら、私よりも年上だろうか?
「あ――わしはのう、――――」
「よう、スミカ嬢ッ! どうだかなりの人集めただろッ? これもクレハンの作戦ってわけだァ!冒険者の方は、ギョウソに頼んで集めて貰ったぜッ!」
「おう、スミカの嬢ちゃんっ! 諸々の活躍はルーギルさんとクレハンさんから聞いたぜっ! 本当にお前はよくやってくれたっ!」
ナジメから話を聞きだそうとしていたところ、クレハンの後ろにいた、ルーギルとギョウソが声を掛けてきた。
ルーギルはクレハンの作戦について、ギョウソはオークとトロールの討伐のお礼の件を口にしていた。ちょうどいいから一言言ってやろう。
「ルーギル。なんか思ったよりって言うか、かなり大げさにしてくれたね? 正直私は軽く恨んでるよ。 まあ、クレハンは昨日ワナイに何か言っていたのを見掛けたけど、まさかこんな事になってるとはね」
「お、おうっ!」
私は何気なくルーギルに恨み言を言う。
ついでに、
「ギョウソ、オークとトロールは私たちだけじゃなくて、後から仲間に入れたナゴタとゴナタも手助けしてくれたからね。それと魔物のシルバーウルフにも手伝って貰ったし。ねっ! 二人とハラミもね?」
と後ろに振り向き、姉妹とユーアに視線を送る。
間違ってはいないけど、私だけの手柄ではないから。
「おうっ! 姉妹を仲間にした件は、ルーギルさんとクレハンさんから聞いている。俺は姉妹の二人の事は、この国で一番最低な冒険者だと思っていたが、まさか昔冒険者同士でそんな事があったなんてな。そんな姉妹を俺は同じ冒険者が原因だとして、すまねえとも思ってるし、同情はするが、それでも姉妹のやって来たことは許されねえことだ。でもな――――」
「はい、私たち姉妹のしてきた事は、決して許されるとは思っていません…… これからもそれはないと思っています」
「うん、ナゴ姉ちゃんの言う通り。ワタシたちは間違った事をしてきたんだ…… だから何を言われても文句は言えないよ」
姉妹の二人は反論することなく、ギョウソの言葉に肩を落とし、自分たちの罪を認める。下を向き、どこか悲しげな様子でポツリと話す。
「ナゴタさん、ゴナタさん…………」
「師匠? な、なにっ? ど、どうしたのっ? 何の話っ!」
今のやり取りを聞いて、過去を知っているユーアは心配そうに見つめ、逆に、殆ど知らないラブナは不思議そうに、姉妹とギョウソを交互に見ていた。
「……ナゴタ、ゴナタ、まだギョウソの話を最後まで聞いていないでしょ? 落ち込むのはそれからにしなよ。きっとその方がいいから」
目を伏せる二人に優しく声を掛ける。
「ああ、スミカの嬢ちゃんの言う通りだ。でもそんなお前たち姉妹は、今日のこれからで全てを許されるわけではないが、それでも今以上にはよく思ってくれるはずだ。この街を救ってくれた英雄の仲間としてな。そうだろ? スミカの嬢ちゃん」
「えっ?」
「うんっ?」
「そうだよ二人とも。そのためにここに来たの忘れたの? 二人の為にルーギルもクレハンもギョウソもワナイもみんな手伝ってくれたんだよ? だから俯いてそんな顔しないで、きちんと上を向きなよ。前を向いてこれから生きて行こうよ。何かあっても私もみんなもいるんだしさ」
「は、はいっ! お姉さまっ! 私たちはもう下を向きませんっ!」
「うんっ、アタシも前を向いていくよっ! お姉を見習って」
そう言ってゆっくりと顔を上げた姉妹は、見惚れそうなほどの笑顔だった。
きちんと二人に私の言葉が届いてホッとした。
そうして私たちは、人混みをかき分けながら、訓練場に足を踏み入れた。
仲間になった二人のこれからと、その存在を証明をする為に。
ただ、一人の幼女を放り出したままだったけど。
「あれ? わしの話はいったいどうしたのじゃ」
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