上 下
122 / 581
第8蝶 ちょうちょの英雄編2

いざ、お披露目会会場へ(予想外)

しおりを挟む




 私たち5人と1匹は、孤児院裏の雑木林から出て冒険者ギルドに向かう。

 この後冒険者ギルドで、街を救ったであろう私たちのお披露目と事実の確認。
 その為にルーギルやクレハンは、多くの冒険者をギルドに集めているだろう。

 そして集まった冒険者たちに、私がナゴタとゴナタを配下、そしてパーティーに入れて何も問題はないか? 姉妹が何か騒動を起こした時に、私に諫められるか? 姉妹を止められる実力が私にあるか?

 それを模擬戦で証明し、認めてもらう事。

 その戦い如何によっては姉妹の行く先が決定する。
 私の傘下に入って一緒に街に残れるか? それともこの街を出て行くかの。

 だったら、姉妹はわざと私に負けて、私に屈服しているフリをすればいいんじゃない? その方が簡単じゃない?

 なんて思わない事もないけど、過去には姉妹が相手した者もいるのだから、おいそれとイカサマは出来ない。もし見破られたら姉妹も含め、それに加担した私もこの街へはいられなく恐れがあるから。

 なので模擬戦では姉妹にも手加減は無しでと、話し合って決めてある。
 それがあと腐れもないし、リスクも背負わない方法だと思って。


※※



 私たちは冒険者ギルドへ向かう為、この街の人々が多く住む一般地区を抜けて、大通りのある商業地区を目指して歩いている。
 そのエリアには色々なギルドが集中し、その一角に冒険者ギルドもあるからだ。


「ねえ、スミカお姉ちゃん。何かいつもより人が少なくないですか?」

 ハラミの背に乗ったままのユーアが私に聞いてくる。

 因みにユーアの後ろには、ちゃっかりラブナが乗っていた。
 そしてその表情は、何故か蕩けるような顔だった。
 しかも何気にユーアの頭の後ろに寄りかかってるし。


「えっ、そう?――――――だね。なんだろう?」

 ユーアの言葉で周りを見渡すが、確かに街の人の姿が少ない。
いつもなら夕方のこの時間だと、仕事帰りの人々や、外で遊んでいる子供たち。そして夕飯の用意をするそのかぐわしい匂いも少なかった。


「あの、お姉さま。ギルドに向かう程人が増えてきていませんか?」
「お姉ぇ、しかも何か、だんだんいい匂いもしてくるんだけど」

 今度は私の後ろを歩いていた姉妹もその違和感に気付く。

「えっ、そう?――――――だね。なんだろう?」

 周囲を見渡しながら、空返事する。


 確かに姉妹の言う通り、大通りに近付くにつれ人が多くなってきている。
 しかも普段は街門に近い、繁華街の屋台が所々に出店している。


「ねえ、ユーア。今日はお祭りとかやる日なの?」

 私はその屋台と人々で賑わっている様子を見て聞いてみる。

「ううん、今日はお祭りはないですよ? それに昨日は普通だったし」
「う~~ん、そうだよね、昨日の午後は何も準備してなかったよね……」

 私たちはそう疑問に思いながらも、通りに増えてくる人たちを尻目に街中を歩いて行った。

 あちらこちらから「蝶」がどうとか、魔物に子供がっ! とか、そんな人々の嘲笑にも驚愕にも似た囁きを聞きながら。


※※


「なっ、何なのよっ! この人だかりはっ!」

 ラブナがハラミに乗ったユーアの後ろから絶叫を上げる。 

「な、なんでこんなに人が多いのっ!」

 私も堪らずに、その人だかりを前にして驚く。

「スミカお姉ちゃんっ! お肉の屋台もたくさんあるよっ!!」 
『わうっ!』

「な、何なのでしょう? まるでさっきお姉さまがユーアちゃんに聞いたお祭りみたいな様相ですよ。これはっ!」

「んなっ! なんだこの人だかりっ! なんで屋台がギルドの周りにっ!? そっちも凄いけど、ギルドの練習場の周りが特に大変な事になってるぞっ!!」

 姉妹の二人もその光景に思わず大声を張り上げる。


 私も含め、みんなも驚いている。
 広い大通りを埋め尽くすほどの人だかりが出来ているからだ。


 正直、これでは今日の目的地のギルドまで行くのにも、この人混みをかき分けなければ行けないし、かき分けた先がこんな状況では、姉妹との模擬戦に影響が出そうだ。

「何なの? 一体……」

 その人だかりを見て、内心で溜息を吐く。

「お、おうっ! スミカ達も姉妹も着いたんだなっ!」
「え?」

 そう混乱する私に声を掛けてきたのは、この街の警備兵のワナイだった。
 この人混みの中でよく私たちを見付けられたな、と変なとこで感心する。

 まあ、よく見ると、人混みを抜けてきたせいで髪や服装が乱れてはいたけど。


「こんにちはっ! ワナイさんっ!」
「おう、こんにちはユーア。ハラミもなっ! と、この赤い子供は?」
『わうっ』

 それに気付いてユーアがワナイに挨拶をしていた。
 私の妹は、姉に似て礼儀正しい。


「ふんっ!」
「ワナイ?ああ、昨日門番をしていた人ですね? こんにちは」
「うん、こんにちはだなっ!ワナイっ」

 それに続いて、ラブナと姉妹が頭を下げる。
 ラブナは相変わらずのスタンスだけど。

「ああ、こっちは今日からシスターズのメンバーになった、新人冒険者の『ラブナ』だよ。実践でも戦える、貴重な魔法使いなんだ。ほらキチンと自己紹介しなよ、ラブナ」

「そうだよっ、ラブナちゃん。ワナイさんはこの街を守るのをお仕事にしてる凄い人なんだよ? だからちゃんと挨拶しようね?」

 そんなラブナにユーアがお姉さんのように言い聞かせる。
 一体どっちが妹役か分からなくなってきた。

「そうか、ラブナだっけか? お前もスミカのパーティーの一員なんだな。それは凄く誇らしく光栄な事だぞ。良かったなスミカのパーティーに認められて」

「ふ、ふんっ! あ、ありがと、ア、アタシはFランク冒険者のラブナよっ! スミ姉に認められたのは、アタシの実力のせいだから当たり前じゃない? それとあまりユーアに馴れ馴れしくしないでくれる? していいのは、スミ姉は勿論、あとはアタシの師匠だけだからっ!」

「お、おうっ、そ、そうかそれは悪かったなっ…… おい、スミカ、こいつは本当に新人なんだろうな? 何かやたら高圧的だぞ? お前見たいな容姿のくせに」

「う、うん、それは間違いな――――」

「ワナイさん、ラブナには師匠の私たち姉妹から注意いたしますので、ここはどうか大目に見て下さると助かります」

「うん、ナゴ姉ちゃんの言う通り、私たち姉妹できっちり教えていくからさ、今回は許してくれるとありがたいなっ! ワナイ」

 私がワナイにラブナの事を説明する矢先、
 ナゴタとゴナタが割って入り、ワナイに謝罪した。


「お、おう、そうか、まあ、俺はあまり気にしないが。それよりお前たち姉妹も随分丸くなったな? このユーアも含めて、お前たち姉妹もスミカと出会えて良かったかもな。表情もそうだが、瞳が生き生きしているとわかるぞ。以前とは別人のようだ。色々問題を起こしてた昔とな」

 ワナイは姉妹の謝罪を聞いて、そしてまた私の事に戻る。
 それを聞き、みんなの視線が私に集まる。


「ちょ、何か照れるからそういうのやめてよ。ユーアの事は私が好きで一緒にいるし、ラブナはその友人だから。でもナゴタとゴナタは元々はそういう性格だったと思うよ? それが少しずつ本来の二人に戻ってきてるだけだし。だから私だけのせいじゃないからね?」

 皆の視線を受けながら、一気に捲し立てる。
 ちょっとだけ恥ずかしいし、それに嘘偽りない本当の話だし。


「だが、それでも切っ掛けを作ったのはスミカだろう?」

「はいそうです。私たち姉妹はスミカお姉さまに救われましたっ!」
「うん、スミカ姉には本当感謝だなっ! お姉ぇ!」

「うんっ! ボクもスミカお姉ちゃんに会えて良かったですっ! お陰でハラミにも再開できたし、毎日おいしいご飯やきれいなお洋服も着れて、それに一緒のお布団で寝れるんだよっ! 暖かくて柔らかなお布団にっ!」

『わうっ、わうっ!』

「そ、そうねっ! スミ姉は特別だから、そんなスミ姉の事をアタシも認めてるから当たり前なんじゃないの? だってそれがスミ姉だからっ!」

「ほらなっスミカ。お前はここにいる皆を、切っ掛けはどうあれ救っているんだぞっ! そんなお前たちの為に、昨日から俺も頑張ったんだからな」

「頑張った? なにを」

 ここでワナイは周りの大勢の人だかりや、多くの屋台を見渡す。
 私はその話の内容と行動に首を傾げる。

 そんな私を見やり、更に話し続ける。

「お前たちの為に、最高の環境と舞台を用意した。これでお前たちも一度に多くの人たちに注目を集められるだろう? 一度に集まった方が手っ取り早いしなっ!」

 そう言い切った後で、ドヤ顔で振り向くワナイ。


「えっ、も、もしかして、こ、このお祭り騒ぎの原因って?―――――」

 若干しどろもどろになりながらも、そう尋ねずにはいられなかった。

 も、もしかして、この大勢の人たちの目的って……


「おう、俺が昨日の午後から、持ち場を若いのに任せて声かけまくって集めた。まあ半分以上は口伝だろうけどなっ!」

「そ、そうなんだ、で、何でこの人たちは集まったの?」
「はあ? 何ってそりゃ決まってるだろ?」
「な、何がっ?」

「そりゃ、お前と姉妹の戦いと、街を救った『英雄』と『バタフライシスターズ』を見に来たからに決まってるだろ? それ以外に何か理由があるか?」

 最後にわざとらしく胸を張って、得意げにそう告げた。


「へっ?――――― えっ? えええええ――――っ!」

 ワナイの爆弾発言を聞いて、周りの目も忘れて絶叫する私。
 決してワナイみたいにわざとではない。本当に驚いたから。


「ええっ! ワナイさんがこんなに集めてくれたのっ!?」
「へえ、中々やるじゃないっ! 少しはユーアと話してもアタシが許すわよっ!」
『わう~~~~んっ!!』
「ワナイさんありがとうございますっ! 確かに手っ取り早いですね」
「ワナイっ! お前は天才だなっ! まぁ、お姉ぇの次だけどなっ!」

「は、はぁ?」

 ただ、慌ててるのは私だけで、みんなは口々にワナイを褒めている。


『いや、いやっ!』

 ちょっと待って、こんな大勢の前で戦うのっ!?
 冒険者たちの前だけじゃないのっ!?

 いくら何でもやり過ぎでしょうっ! 
 この街の一大イベントみたくなってるよっ!

『うううっ…………最悪』

 なんて、ノリノリのワナイとみんなに言える訳でもなく、独り内心で毒を吐く。

 そして今こそ透明鱗粉を使って、ここから離脱したくなった。

 だって元引きこもりの私は、こんな大勢の視線に耐えられないからね。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

「守ることしかできない魔法は不要だ」と追放された結界師は幼なじみと共に最強になる~今更俺の結界が必要だと土下座したところでもう遅い~

平山和人
ファンタジー
主人公のカイトは、王太子率いる勇者パーティーの一員として参加していた。しかし、王太子は彼の力を過小評価し、「結界魔法しか使えない欠陥品」と罵って、宮廷魔導師の資格を剥奪し、国外追放を命じる。 途方に暮れるリクを救ったのは、同じ孤児院出身の幼馴染のフィーナだった。フィーナは「あなたが国を出るなら、私もついていきます」と決意し、カイトとともに故郷を後にする。 ところが、カイトが以前に張り巡らせていた強力な結界が解けたことで、国は大混乱に陥る。国民たちは、失われた最強の結界師であるカイトの力を必死に求めてやってくるようになる。 そんな中、弱体化した王太子がついにカイトの元に土下座して謝罪してくるが、カイトは申し出を断り、フレアと共に新天地で新しい人生を切り開くことを決意する。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...