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第8蝶 ちょうちょの英雄編2
誰かを守る覚悟と足りないもの
しおりを挟む「なっ? ナゴタゴナタ姉妹だけじゃなくて、あ、あなたまで冒険者狩りだったのっ!?」
「ははっ! だったら何だって言うの。力を使い果たしたあなたはもう動けないでしょ? そのままこの少女が痛ぶられるのを黙って見ていなよ。この少女が苦痛に歪むその顔を、あなたは悲痛に顔を歪めてね」
そう言って私は、姉妹に捉えられているユーアの前まで歩いて行く。
ラブナに大事な事を伝える為に。
「さあ、お姉さまっ! どうぞこの可愛らしい少女を思う存分愛でて下さいっ!」
「お姉ぇっ! ワタシにも取っておいてくれよっ!」
と、これはユーアを捕まえている姉妹の演技だが、ちょっと口元が緩んでいる。
きっと笑いを噛み締めているのだろう。
てか「愛でて」って何?
一応人質の設定だよね?
「ふふっわかったよ。姉妹の二人にもいいところを取っておいてあげよう。でもまずは私からだけどね。どれ、味見をするとしようか」
「ス、スミカお姉ちゃん?」
身動きの取れないユーアの足元に座り込んで「ペラッ」とワンピースのスカートを捲り上げる。
「ふ~む縞々か。中々にツボを押さえているねっ!」
「えへへっ、お揃いだよっ! スミカお姉ちゃんと」
「お、お姉さま……」
「お姉ぇ……」
「にやりっ」とほくそ笑みユーアの中の感想を口に出す。
姉妹の冷たい視線が私に向くけど、今はそれを無視する。
そして今度は脇の下に手を伸ばす。
「あ、スミカお姉ちゃん、そこはダメだよぉ!」
「ユ、ユーアっ! 待って、アタシが今助けるからっ!!」
ちょんっ。
「あああっ、そこはボクっぅ!」
次なる私の攻撃に、悶絶し、悩ましい声を上げるユーア。
「ユ、ユーアっ! あんたらユーアを離しなさいよっ! なんでアタシはこんな時に動けないのよっ!ユーアっ! く、くそぉっ!」
「ふふ」
ツン ツン
「ぐふっ!」
更にユーアを追撃していく。
因みにラブナからは、私が影になってユーアの姿は見えない。
「ここがお前の弱点ね? なら念入りにここを責めてやる」
「ぐふふふふふっ! ボ、ボクもうダメだよっ! ラブナちゃんっ!」
堪らずラブナに助けを求める。
「く、悔しいっ! アタシはユーアを守る為に、ユーアに恩返しをするために強くなったのにっ! なんで動けないのよっ! こんな時なのに、アタシはっ!」
『…………もう、いいかな?』
自身をひたすら責める姿を見て、名残惜しくもユーアの脇から手を離す。
そして、地面に顔を向け苦悶の表情のラブナに近づく。
「ラブナだっけ。ユーアを助けられなくて悔しい? せっかくの守れる力が通じなかったのが悲しい?」
そう声を掛ける。
「あ、当たり前じゃないっ! だってアタシはユーアの為にっ―――――」
「なら、なんでラブナは私たちに勝負なんて仕掛けたの?」
「ユ、ユーアを守るのはアタシが相応しいと思ったのよっ!」
「それじゃ、ラブナはユーアを守れたの?」
「ま、守れなかったわっ!」
「それはなんでだと思う?」
「ア、アタシが弱かった………… く、悔しいけどっ!」
目尻に涙を浮かべて、自身の力のなさを嘆く。
「そう。それはそうなんだけど、それは戦ってからの結果の話だよね? あなたは戦うまで、姉妹の実力も、私の事も何も知ろうとはしなかった」
「………………だって、それはっ!」
「それは相手の力がわからないのに、挑んできたあなたのせいだよ」
「だって、だって知らなかったんだから、あなた達が敵だなんてっ!」
「へえ、ユーアを守ろうとしてた人間が、相手の事を知らなかったで済ませるんだ。それで戦って負けてユーアを守れなくてもいいんだ」
「そ、それは――――――」
私はおもむろに、アイテムボックスから『バイタリティポーションS』を出して、未だ膝をついているラブナに使用する。
「な、何よこれっ!? か、体が魔力がっ!?」
「あとこっちも回復アイテムだから飲むといいよ」
ついでにドリンクレーションも渡す。
私がラブナを回復したのは、勝負もユーアも守れなかった喪失の念と疲労の為に、正常な判断が出来ないと思ったからだ。
体力も、そして喉も潤せば少しは冷静に話を聞いてくれるだろうと考えて。
そしてラブナが回復したのを見届けて、更に話を続ける。
ラブナには酷な話と、必要な話だ。
「もう正体をばらすけど、私たちはユーアのれっきとした仲間だから。それにユーアは私の妹だし、ユーアを守る為だったら、この世界の神にでも逆らって見せる。ユーアに危険が及ぶなら、国ひとつ相手取ったって構わない。その為に私は絶対に倒れない。守る人間が倒れてはいけないから。でもあなたみたいに、守る人間が倒れてどうするの? 力尽きて叫ぶだけでユーアは守れるの? もっと慎重になりなさい。誰彼構わずに戦うのではなく、逃げる選択肢もあると言う事を。敵が誰なのかを選別する思慮や、視野の広さをこれから学びなさい。誰かを守るって言うのならば、それくらいの覚悟と実力を付けてからにしなさい」
「…………ううっ」
今のラブナには、きっと私の言葉は非常に辛辣に聞こえた事だろう。
ただこれは、誰かを守る為の最低限の事。
私はその覚悟と意志を持って妹の清美を守ってきたのだから。
「ううっ、だってアタシはユーアをっ!」
「…………あなたの気持ちもわかる。だから尚更、中途半端なその力ではユーアを守れないし、逆に危険に晒す事にもなる。だから実力をもっとつけなさい。もっと技以外も磨きなさい。そうすればきっと誰かを守れるに相応しい人間になれるから」
「うううっ、アタシはまだ誰も守れないのっ! うわあああああ~~んっ!」
私の忠告、いやこれは誰かを守る為の想いの言葉だろうか、
それを聞いたラブナは、ボロボロと涙を流し、激しく嗚咽を漏らす。
「うわあ――――――んっ! アタシの負けだわっ! ちきしょうっ!」
「……………………」
空に向かって咆哮し、目一杯に悔しがるラブナ。
その小さい拳は血が滲みそうなほど「ギュッ」と固く握り、細い足は地面を「ダンッダンッ」と強く何度も踏みしだく。
悲しくも、悔しく、両方の感情がごちゃ混ぜになっているのだろう。
ファサッ。
そんなラブナをそっと抱きしめる。
「えっ? な、なんでっ!」
「ラブナは悔しいよね? 悲しいよね? 何もあなたたちの関係なんか知らない、私なんかに言われたって納得できないよね? でもこれだけは信じて欲しい。今、私が言ったことは全部あなたに必要な事。誰かを守る為に不可欠なもの。今はまだあなたは弱い。だから自分をもっと磨きなさい。落ち込まずに悔しがるあなたは、これからもっと強くなれるはずだから。それにその強い想いも本物なのだから」
「うん、うん、わかったわっ! ア、アタシはもっと強くなるわっ! 魔法の腕だけじゃなくて、もっとたくさん知って、もっと色々考えて、それで守れる資格を手に入れてみせるわっ! きっと必ずよっ! グスッ、ううう~」
そう言って私の胸に顔を埋めて、今度は静かに嗚咽を漏らした。
※
ラブナの能力追記と説明
特殊能力
『Four elements Master「四大元素使い」』
ラブナは4つの魔法を行使する事が出来る魔法使い。
この世界では多くとも2種類の属性の魔法を行使するだけでも極稀だ。
その極稀の中でも、更にラブナは
「火・風・土・水」といった4属性の魔法を行使できる。
ただ行使はできるが、現在のところは属性が多すぎて
どれも威力が中途半端なもの。
それとラブナの能力は、その道を長年に渡り、研鑽している属性の魔法使いには遠く及ばないし、これからも届くことはない。届くとすればそれは、普通の魔法使いの数倍もの鍛錬の時間と更に長い寿命が必要になる事だろう。
そこだけを見ると、ラブナの能力は、ただの器用貧乏な能力に見えるが「四大元素使い」の呼び名の由来は、4種類の属性魔法を使えるのではなく『相対する属性』や『同時行使』が出来るのがその名の由来になっている。
澄香との戦いで足元を沼地に変えた「泥沼」の魔法は、土魔法と水魔法を同時行使して作成したものだ。範囲はまだ小さいが。
他にも同時行使によって威力を倍増させる「火」「風」を使っての『炎嵐』や、相対する「火」「水」で『水爆炎』などにも派生が可能だ。
それと3属性同時、更に4属性、2属性×2属性など、その幅は普通の魔法使いを大きく凌駕するものだ。
これからの成長次第では、
最強の魔法使いの称号も夢ではない程の、強力な能力であると言える。
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