剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
109 / 586
第8蝶 ちょうちょの英雄編2

帰って来たよっ!

しおりを挟む



「ふぃ~、やっと街に入れたよ」


 私たち6人と、シルバーウルフのハラミはなんとか街に入る事が出来た。


 ナゴタとゴナタ姉妹は、元々街へは入れないわけではなかったから、そこは問題なかった。ただこの後が色々と面倒だけど。

 そして一番の懸念材料だったのは魔物の『ハラミ』だ。

 正直無理だと思っていたから、最悪、防具の透明鱗粉で姿を隠して、不法に街に入ろうかなと算段していたけど。

 そこで我らが頭脳担当の、クレハンの出番だった。


 特別な例であれば、街へ魔物を入れること自体禁止ではないらしい。
 ただそれが普通の魔物であれば、もちろん入街は出来ないが。

 その入街出来る特別な例が『魔物使い』と呼ばれる職業だ。
 ゲーム風に言うと「モンスターテイマー」っといったところだ。

 ユーアとハラミはそれに当てはまると、クレハンがワナイに説明し、その証拠にハラミとある程度、意志疎通ができるユーアがハラミを操ってみせた。


「ハラミっ! お座りっ!」
『わうっ』

 スサッ

「ハラミっ! お手だよっ!」
『わうっ』

 ポスッ

「ハラミっ! ごろんっ!」
『わうっ』

 ゴロンッ


 から始まり、

「ハラミっ!ボクを乗せてジャンプねっ!」
『わうっ!』

 ピョンッ!


「「「おおっ――――!!!!」」」
  
 パチパチパチッ


「今度は、ボクとスミカお姉ちゃんを乗せて宙返りねっ!」
『わうっ!!』

「えっ、私っ!?」

 クルンッ!

 スタッ!


「「「おおっ――――!!!!」」」

 パチパチッパチパチッ


「ハラミっ! ワナイさんとスミカお姉ちゃんを乗せて後方宙返りねっ!」
『わうっ!!』

「お、オレもっ!?」

 グルンッ!

「おわっ!?」

 シュタンッ!



「「「うおおっ~~~~~~~~!!!!」」」

 パチパチパチッ! パチパチパチッ!
 パチパチパチッ! パチパチパチッ!
 パチパチパチッ! パチパチパチッ!


 
「あ、ありがとうね、みんなっ! えへへっ」


 てな感じで、
 ワナイも巻き込んで、ハラミの危険性が無いって証明された。
 最後の方は、なんか曲芸になってた気がするけど。


「ハラミ、良くできたねっ! はいこれお肉っ!」
『わう~~っ!!』 ぺろぺろ。
「うふふっくすぐったいよっ! ハラミっ! あはははっ!」


 そんなユーアとハラミのやり取りを見て、誰も危険な魔物だなんて、思わないだろう。集まっている大勢のギャラリーも、暖かい目でユーアとハラミのじゃれ合いを見ていた。


「さあ、これでわかりましたね? ワナイさん。ユーアさんが連れている魔物に害はないと。彼女は高レベルの『魔物使い』としてギルドで登録いたします。従魔の首輪はこちらで用意するので、ご安心を。それと、スミカさんとナゴタとゴナタ姉妹の件なのですが、ごにょごにょ――――」


 と、そんな感じで、ユーアとハラミのパフォーマンスと、クレハンの謎の交渉で、私たちは街の中に入ることが出来た。


※※


「ふぁ~、やっと帰ってきたよっ! なんか落ち着くなぁ」


 たった二日間の冒険だったけど、見慣れた街並みを見てちょっと安心する。


 時間にしたら昨日の午後に出発して、今日の午前中に帰ってきただけなんだけど。オークから始まり、トロール討伐まで色々あったなって思い出す。

 ナゴナタ姉妹の件もハラミの件も。

 それと、

 あの『未知の腕輪』の存在の事も。


「どうするスミカ嬢ッ。一度ギルドに寄るのか? こっちとしては、ナゴタゴナタ姉妹の件も、報酬の件も明日で構わねえんだけどよォ」

「う~~ん」

 ルーギルの問いかけに、ユーアとハラミ、そして姉妹の二人を見る。
 心なしか表情に硬さが見られる。

 ユーアにしても初めての戦闘だし、ハラミとの出会いでも色々と気疲れもある。
 姉妹にしても、数々の戦闘と長旅と、街への懸念事項もあるだろう。


「ルーギル。私たちは今日は帰るね? 色々疲れちゃったし」

 そんな3人を見てからそう答える。

「そうかァ? 今日はそれがいいかもなァ。わかった。それじゃ明日の夕方に来てくれ。その方が人が揃ってんから、手っ取り早いだろッ」

 私の視線の先を見て見て、ルーギルもそう答える。


「なんか色々悪いね」

「気にすんなッ! 俺も色々知っちまったし、俺が手を出せる範囲でなんとかすっから心配すんなァッ! それに俺たちはパーティーの仲間だろう? 『バタフライシスターズ』のよォッ!」

「はあっ??」

 途中まで良い事を言っていたルーギルだったが、最後の言葉だけは聞き捨てならなかった。仲間は仲間だろうけど。

 それは…………


「ルーギルはパーティーメンバーには入ってないよ?」
「ルーギルさんは、シスターズの一員じゃないですよ?」
「一体あなたは何を狂った事を言っているのですか? ルーギル」
「それはお前の勘違いだぞっ! ルーギルっ!」


 それは現バタフライシスターズのメンバー全員によって否定された。

 ていうか、そのパーティー名で決定なんだろうか?

「オ、オゥッ! そ、そうか、俺の勘違いだったかァ。そ、そっかァ……」

 ちょっと寂しそうに頭を掻いていた。


「ルーギル、そもそもシスターズって、姉妹とかの呼び名なんだよ。ルーギルは男だからシスターズではないけど、れっきとした私たちの仲間だよ。それとクレハンもね?」

 肩を落とすルーギルにそう付け足す。
 二人とも共に戦い、街を脅威から救った仲間だから。


「そ、そっかッ! 俺もクレハンもパーティーの一員かッ! オ、オウッ! 良かったなクレハン! お前もだぜッ、わっははッ!」

 バン バンッ

 それを聞いたルーギルは、破顔しながらクレハンの背中を叩く。

「い、痛いですからっ! 余り背中を叩かないで下さいよギルド長っ! でも、そうですかっ! わたしも仲間ですかっ! ふふふっ!」


 仲間宣言を聞いた二人は、お互いに顔を見合わせ笑顔になる。


 二人はどう思っていたのかはわからないけど、私はこの旅の途中で仲間にすると決めていた。
 この二人は信用も信頼も出来る数少ない存在だ。
 
 それにこれ以降でも、色々と一緒に行動する事もあるだろうし、
 頼りにさせてもらう事もあるだろう。

 今はまだ薄っすらとだけど、他にもやりたい事が見付かったし。

 って、いうか、この二人はそのやりたい事に欲しい人材なんだけどね? 
 それはここだけの話で、もっと先の話だけど。



「それじゃ、私たちは帰るね。明日はよろしくね。二人とも」
「ルーギルさんとクレハンさん、お世話になりましたっ!」

「明日は私たち姉妹の事をよろしくお願いします。二人とも」
「それじゃ、また明日なっ! ルーギルとクレハンっ!」

 家路に足を運びながら、今日冒険した二人にお別れをする。


「オウッ! なら俺たちも帰るとするかッ! まぁ、ギルドにだけどよォ! それじゃシスターズたち、今回は楽しかったぜッ! また明日なッ!」

「シスターズのみなさん。今回はいい経験をさせていただきました。また一緒に冒険したいですね。わたしも仲間ですから。それでは失礼いたします」


 私たちは女性陣と男性陣に別れ、それぞれに挨拶をして違う方向に歩んで行く。
 ルーギルたちは冒険者ギルドへ、私たちはいつもの孤児院の裏へ。

 
 今は歩く方向は違うけれど、それぞれの想いの進む方向は一緒。


 これからもそうあって欲しいと、みんなの背中を見渡して、そう思った。



※※

 
 その頃、孤児院裏の雑木林の奥では―――――


「はぁっ、はぁっ、はぁっ―― ふぅっ」

 バタンッ

 アタシは火照った体を冷やすため、短い草の上に倒れ込み、そして呼吸を整える。


「ふぅ~ 自己流だけど、随分とサマになってきた気がするわっ! もしかしてアタシって天才っ!? っじゃなくて、この力のせいだわっ! でもこれを使いこなすアタシってやっぱり天才かもっ! これなら間に合うわっ!」

 空を見上げ、独りそう叫んで、胸に掛けている薄い布に入ったカードを手にする。

 そこにはこう記されていた。


 『名前 ??? 冒険者ランクF 職業 ???』


 それは午前中に冒険者ギルドで取得してきたものだ。
 アタシが正式な冒険者だと証明するカードだ。


「これならアタシも戦えるわっ! あの子と肩を並べて冒険できるわっ!」

 手に持ったカードをニヤニヤしながら眺める。


 だってこれがあれば、大手を振ってあの子に恩返しができるんだから。



※※



 更に一方、コムケの街から十数キロ離れた森の中では、


「ううむっ、久し振りじゃから、迷ったのじゃっ。なんで街道を歩いておったのに、森の中におるのじゃ? やはり付き添いを頼めばよかったかのぉ?」


 わしは、気付いたら森の中を彷徨っていた。
 周りを見渡してもここが何処だか、ましてや方向さえわからない。


「はぁ、これではコムケの街に着くのは夜になってしまうかもじゃ。だったらここで野宿でもした方がええかもしれぬなぁ?」

 わしはもう諦めて、野営できそうな場所を探すことにした。


「こ、今度は、川が何処にあるかもわからないのじゃっ! わしは一体どこに行けばいいのじゃっ? やはり一人では無理があったのじゃっ! もう、ここでいいのじゃっ! 『土倉』」

 わしは短く呪文を紡いで、土のドームを作り中に入る。

 ついでに、その周りにも土で出来た壁を作成する。
 要は簡易的な防壁みたいなものだ。


「ふむ、高さは10メートルもあれば足りるじゃろ? それにしても、冒険者を止めてこの仕事を選んだのは失敗じゃったな。やるべきではなかったのぉ。領主になるなんて。はぁ―――――」

 わしは懐かしい冒険者時代を思い出して、自然と愚痴が出てしまう。

 更に続けて、こうも思う。

「戻りたいのぉ、Aランクだった冒険者時代に」


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

処理中です...