剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第8蝶 ちょうちょの英雄編2

帰って来たよっ!

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「ふぃ~、やっと街に入れたよ」


 私たち6人と、シルバーウルフのハラミはなんとか街に入る事が出来た。


 ナゴタとゴナタ姉妹は、元々街へは入れないわけではなかったから、そこは問題なかった。ただこの後が色々と面倒だけど。

 そして一番の懸念材料だったのは魔物の『ハラミ』だ。

 正直無理だと思っていたから、最悪、防具の透明鱗粉で姿を隠して、不法に街に入ろうかなと算段していたけど。

 そこで我らが頭脳担当の、クレハンの出番だった。


 特別な例であれば、街へ魔物を入れること自体禁止ではないらしい。
 ただそれが普通の魔物であれば、もちろん入街は出来ないが。

 その入街出来る特別な例が『魔物使い』と呼ばれる職業だ。
 ゲーム風に言うと「モンスターテイマー」っといったところだ。

 ユーアとハラミはそれに当てはまると、クレハンがワナイに説明し、その証拠にハラミとある程度、意志疎通ができるユーアがハラミを操ってみせた。


「ハラミっ! お座りっ!」
『わうっ』

 スサッ

「ハラミっ! お手だよっ!」
『わうっ』

 ポスッ

「ハラミっ! ごろんっ!」
『わうっ』

 ゴロンッ


 から始まり、

「ハラミっ!ボクを乗せてジャンプねっ!」
『わうっ!』

 ピョンッ!


「「「おおっ――――!!!!」」」
  
 パチパチパチッ


「今度は、ボクとスミカお姉ちゃんを乗せて宙返りねっ!」
『わうっ!!』

「えっ、私っ!?」

 クルンッ!

 スタッ!


「「「おおっ――――!!!!」」」

 パチパチッパチパチッ


「ハラミっ! ワナイさんとスミカお姉ちゃんを乗せて後方宙返りねっ!」
『わうっ!!』

「お、オレもっ!?」

 グルンッ!

「おわっ!?」

 シュタンッ!



「「「うおおっ~~~~~~~~!!!!」」」

 パチパチパチッ! パチパチパチッ!
 パチパチパチッ! パチパチパチッ!
 パチパチパチッ! パチパチパチッ!


 
「あ、ありがとうね、みんなっ! えへへっ」


 てな感じで、
 ワナイも巻き込んで、ハラミの危険性が無いって証明された。
 最後の方は、なんか曲芸になってた気がするけど。


「ハラミ、良くできたねっ! はいこれお肉っ!」
『わう~~っ!!』 ぺろぺろ。
「うふふっくすぐったいよっ! ハラミっ! あはははっ!」


 そんなユーアとハラミのやり取りを見て、誰も危険な魔物だなんて、思わないだろう。集まっている大勢のギャラリーも、暖かい目でユーアとハラミのじゃれ合いを見ていた。


「さあ、これでわかりましたね? ワナイさん。ユーアさんが連れている魔物に害はないと。彼女は高レベルの『魔物使い』としてギルドで登録いたします。従魔の首輪はこちらで用意するので、ご安心を。それと、スミカさんとナゴタとゴナタ姉妹の件なのですが、ごにょごにょ――――」


 と、そんな感じで、ユーアとハラミのパフォーマンスと、クレハンの謎の交渉で、私たちは街の中に入ることが出来た。


※※


「ふぁ~、やっと帰ってきたよっ! なんか落ち着くなぁ」


 たった二日間の冒険だったけど、見慣れた街並みを見てちょっと安心する。


 時間にしたら昨日の午後に出発して、今日の午前中に帰ってきただけなんだけど。オークから始まり、トロール討伐まで色々あったなって思い出す。

 ナゴナタ姉妹の件もハラミの件も。

 それと、

 あの『未知の腕輪』の存在の事も。


「どうするスミカ嬢ッ。一度ギルドに寄るのか? こっちとしては、ナゴタゴナタ姉妹の件も、報酬の件も明日で構わねえんだけどよォ」

「う~~ん」

 ルーギルの問いかけに、ユーアとハラミ、そして姉妹の二人を見る。
 心なしか表情に硬さが見られる。

 ユーアにしても初めての戦闘だし、ハラミとの出会いでも色々と気疲れもある。
 姉妹にしても、数々の戦闘と長旅と、街への懸念事項もあるだろう。


「ルーギル。私たちは今日は帰るね? 色々疲れちゃったし」

 そんな3人を見てからそう答える。

「そうかァ? 今日はそれがいいかもなァ。わかった。それじゃ明日の夕方に来てくれ。その方が人が揃ってんから、手っ取り早いだろッ」

 私の視線の先を見て見て、ルーギルもそう答える。


「なんか色々悪いね」

「気にすんなッ! 俺も色々知っちまったし、俺が手を出せる範囲でなんとかすっから心配すんなァッ! それに俺たちはパーティーの仲間だろう? 『バタフライシスターズ』のよォッ!」

「はあっ??」

 途中まで良い事を言っていたルーギルだったが、最後の言葉だけは聞き捨てならなかった。仲間は仲間だろうけど。

 それは…………


「ルーギルはパーティーメンバーには入ってないよ?」
「ルーギルさんは、シスターズの一員じゃないですよ?」
「一体あなたは何を狂った事を言っているのですか? ルーギル」
「それはお前の勘違いだぞっ! ルーギルっ!」


 それは現バタフライシスターズのメンバー全員によって否定された。

 ていうか、そのパーティー名で決定なんだろうか?

「オ、オゥッ! そ、そうか、俺の勘違いだったかァ。そ、そっかァ……」

 ちょっと寂しそうに頭を掻いていた。


「ルーギル、そもそもシスターズって、姉妹とかの呼び名なんだよ。ルーギルは男だからシスターズではないけど、れっきとした私たちの仲間だよ。それとクレハンもね?」

 肩を落とすルーギルにそう付け足す。
 二人とも共に戦い、街を脅威から救った仲間だから。


「そ、そっかッ! 俺もクレハンもパーティーの一員かッ! オ、オウッ! 良かったなクレハン! お前もだぜッ、わっははッ!」

 バン バンッ

 それを聞いたルーギルは、破顔しながらクレハンの背中を叩く。

「い、痛いですからっ! 余り背中を叩かないで下さいよギルド長っ! でも、そうですかっ! わたしも仲間ですかっ! ふふふっ!」


 仲間宣言を聞いた二人は、お互いに顔を見合わせ笑顔になる。


 二人はどう思っていたのかはわからないけど、私はこの旅の途中で仲間にすると決めていた。
 この二人は信用も信頼も出来る数少ない存在だ。
 
 それにこれ以降でも、色々と一緒に行動する事もあるだろうし、
 頼りにさせてもらう事もあるだろう。

 今はまだ薄っすらとだけど、他にもやりたい事が見付かったし。

 って、いうか、この二人はそのやりたい事に欲しい人材なんだけどね? 
 それはここだけの話で、もっと先の話だけど。



「それじゃ、私たちは帰るね。明日はよろしくね。二人とも」
「ルーギルさんとクレハンさん、お世話になりましたっ!」

「明日は私たち姉妹の事をよろしくお願いします。二人とも」
「それじゃ、また明日なっ! ルーギルとクレハンっ!」

 家路に足を運びながら、今日冒険した二人にお別れをする。


「オウッ! なら俺たちも帰るとするかッ! まぁ、ギルドにだけどよォ! それじゃシスターズたち、今回は楽しかったぜッ! また明日なッ!」

「シスターズのみなさん。今回はいい経験をさせていただきました。また一緒に冒険したいですね。わたしも仲間ですから。それでは失礼いたします」


 私たちは女性陣と男性陣に別れ、それぞれに挨拶をして違う方向に歩んで行く。
 ルーギルたちは冒険者ギルドへ、私たちはいつもの孤児院の裏へ。

 
 今は歩く方向は違うけれど、それぞれの想いの進む方向は一緒。


 これからもそうあって欲しいと、みんなの背中を見渡して、そう思った。



※※

 
 その頃、孤児院裏の雑木林の奥では―――――


「はぁっ、はぁっ、はぁっ―― ふぅっ」

 バタンッ

 アタシは火照った体を冷やすため、短い草の上に倒れ込み、そして呼吸を整える。


「ふぅ~ 自己流だけど、随分とサマになってきた気がするわっ! もしかしてアタシって天才っ!? っじゃなくて、この力のせいだわっ! でもこれを使いこなすアタシってやっぱり天才かもっ! これなら間に合うわっ!」

 空を見上げ、独りそう叫んで、胸に掛けている薄い布に入ったカードを手にする。

 そこにはこう記されていた。


 『名前 ??? 冒険者ランクF 職業 ???』


 それは午前中に冒険者ギルドで取得してきたものだ。
 アタシが正式な冒険者だと証明するカードだ。


「これならアタシも戦えるわっ! あの子と肩を並べて冒険できるわっ!」

 手に持ったカードをニヤニヤしながら眺める。


 だってこれがあれば、大手を振ってあの子に恩返しができるんだから。



※※



 更に一方、コムケの街から十数キロ離れた森の中では、


「ううむっ、久し振りじゃから、迷ったのじゃっ。なんで街道を歩いておったのに、森の中におるのじゃ? やはり付き添いを頼めばよかったかのぉ?」


 わしは、気付いたら森の中を彷徨っていた。
 周りを見渡してもここが何処だか、ましてや方向さえわからない。


「はぁ、これではコムケの街に着くのは夜になってしまうかもじゃ。だったらここで野宿でもした方がええかもしれぬなぁ?」

 わしはもう諦めて、野営できそうな場所を探すことにした。


「こ、今度は、川が何処にあるかもわからないのじゃっ! わしは一体どこに行けばいいのじゃっ? やはり一人では無理があったのじゃっ! もう、ここでいいのじゃっ! 『土倉』」

 わしは短く呪文を紡いで、土のドームを作り中に入る。

 ついでに、その周りにも土で出来た壁を作成する。
 要は簡易的な防壁みたいなものだ。


「ふむ、高さは10メートルもあれば足りるじゃろ? それにしても、冒険者を止めてこの仕事を選んだのは失敗じゃったな。やるべきではなかったのぉ。領主になるなんて。はぁ―――――」

 わしは懐かしい冒険者時代を思い出して、自然と愚痴が出てしまう。

 更に続けて、こうも思う。

「戻りたいのぉ、Aランクだった冒険者時代に」


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