剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

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SSユーアとラブナの出会い

仲良しの方法はお体ふきふき?

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 今回も、ある少女の思い出話になります。


 前回のあらすじなんだからねっ!

 孤児院に入ったアタシは、その性格の為か、いつも一人だった。
 孤児院裏の雑木林の奥で、八つ当たりを繰り返し、次第にそれは泣き声に変わる。

 そんなアタシに声を掛けてきた少女がいた。 


※ちょっとシリアスが続きます。
※少女同士のイチャイチャはあります。


 悲しくも、心温まる友情のお話です。きっと。
(2/2)




「ラ、ラブナちゃんっ、だよねっ?」


 そう言って、アタシに声を掛けてきたのは、
 いつも小さい子の面倒をよく見ている、ボクっ娘の少女だった。


 アタシは泣き顔を見られないようにと、咄嗟に顔を隠すが、


「どうして泣いていたの? ラブナちゃん…………」


 それは遅かったようで、もう泣き顔を見られていたようだ。


「べ、別に泣いてなんかいないんだからっ! それにアンタになんか関係ないでしょっ! もう、どっか行ってよっ! アンタなんか嫌いなんだからっ!」


 アタシは、アタシを心配してくれたこの少女を突き放すように、そう大声を上げる。拒絶するように、その優しい少女を睨む。


『なんでいつもこうなのっ! なんだってアタシはっ! 本当は……』


 アタシは貴族だった、まだ父が領主をしていた頃からそうだった。
 通っていた学園でも似たようなものだった。アタシはいつも威張り散らしていた。

 それは拒絶じゃなく、防衛本能に近いものだったんだろう。

 年の離れた幼い三女っていうのもあったとは思うけど、舐められないように虚勢を張って生きてきた。アタシは、父の妾に産ませた子供だった事が、大きい理由かもしれない。
 そこに劣等感を感じていて、それを気付かれるのを嫌った。
 見下されるのも嫌だった。

 だって、母はどうであれ、アタシはアタシ自身なんだから。
 それにアタシを愛してくれた父も大好きだった。

 だからアタシは自分が傷つく前に、他人を傷つけて自分を守ってきた。

 でも、それは関係ない。

 アタシは守るべく立場もプライドも、もうない。
 今はただの小娘に成り下がっているんだから。


 なのに、辺り構わず威張り散らすアタシはおかしかった。
 ここにいる子供たちとは、みんな平等だ。


 それでもアタシはある意味その『癖』が抜けなかった。


 だからこの声を掛けてくれた少女も、アタシから離れて行くだろう。
 もうアタシには関わらないだろう。


 そして、アタシはまた独りになる――――――


 ザッザッザッ


 地面を歩く音がする。アタシは諦めて視線を降ろす。

 きっとこんなアタシから、遠ざかっていく音だ。
 アタシを嫌いになって、離れて行く歩みの音だ。


『でも、本当は、ホントのアタシは――――っ!』


 また涙が出そうになる。
 だってまたアタシは独りぼっちになるから。


 ザッ

 ガバッ

『えっ?』


 その時アタシは、柔らかく、暖かいものに包まれていた。
 それと、ちょっと甘い匂いがした。ミルクのような。

「な、なっ!」

 アタシはその少女に、抱きしめられている事に気付いた。


「ラブナちゃんはお腹が空いているんだねっ! ボク良いもの持ってるから、分けてあげるよっ! これ取りに、。だから一緒に食べよ? そうそれば、きっと悲しくなくなるから。はいこれ上げる」


 そういって、アタシに見せてきたのは、何かの赤い木の実だった。
 何これ? 見たことないんだけど。

 もしかしてこれを取りに、林の奥まで来たんだろうか?


「えっえっ? べ、別にアタシお腹なんか減ってないわよっ! なんだって、こんな訳の分からない食べ物なんてっ! グボッ!? す、すっぱ~~~~~~いぃッッ!」

 会話の途中で木の実を無理やり入れられ、その味に絶叫するアタシ。


「えええっ! す、すっぱかった? ちゃんと熟してるのを選んできたのに?」

 見当違いにアタシを慰めるこの少女は、首を傾げながら「あれっ」って顔をして、自分も一つ口に入れる。アタシに食べさせたみたいに。


「あれ? 甘いよ? 甘くておいしいよ? ちょっとだけ酸っぱいけど」

「はぁっ? なんでアタシのだけ酸っぱいの食べさせたのよっ! アンタわざとやってるんでしょ! アタシが嫌いだからっ!」

 アタシは訳の分からないこの少女の行動に、いつものように金切り声を上げる。


 アタシのだけ酸っぱいだなんて、理不尽過ぎるっ!


『あっ!』


 アタシはまたいつもの『癖』が出た事に気付く。
 慌てて両手で口を塞ぐが、口から出た言葉は帰ってこない。

『――――――ううっ』

 アタシは、そ~と指の間から様子を伺う。
 幸い立ち去る気配は感じない。まだ取り返しがつくだろうか?


「あ、あのっ、アタシはっ!!―――――」

「ねえ、ラブナちゃんはボクの事嫌いなの?」

 離れるどころか、クリっとした目の可愛い顔が目の前にあった。

「~~~~~~~~!?」
『ち、近いからっ!』


「べ、別に、アンタの事なんてどうも思ってないわよっ! 何っ? アタシにそんなに気にして欲しいの? アタシに目を掛けて欲しいのっ!」

「どうも、思ってないんだぁ。でもボクはラブナちゃんの事好きだよ??」

「はぁ!? なんで本人のアタシに聞いてくるのっ! アンタの気持ちなんて知らないからっ!」

「ふうん、まあいいやっ。それじゃ行こうっ!」

「………………」

 そう言ってアタシの腕を引いて立ち上がる。


『一体何なのよっこの子はぅ! まだ話の途中だったじゃないのっ! アタシを好きだって話は、どうなってるのっ!?』


「ちょ、ちょっと、アンタっ! さっきの話はっ!」

 アタシは手を引かれ、ズンズンと前を進む少女に声を掛ける。


「ボク、アンタじゃないよ? ユーアだよっ!」

「い、いや、そうじゃなくてっ!――――」

「帰ったらラブナちゃんの体拭いてあげるね。ボク小さい子の体もいつも拭いてるから、結構得意なんだっ!」

「はぁっ!? 何言ってっ! アタシの事はっ! ――――」


 ピタリ。


 アタシの手を引いた少女。
 ユーアはその歩みを止めて振り返り、


「今は好きかどうかわからないけど、これから好きになればいいでしょ? だってボク、ラブナちゃんとあまり話したことないからよく知らないもん。ね、だから体拭いてあげるね」


『え――――――』


 アタシはその言葉に息をのんだ。

 この少女は、アタシの上辺でだけで好き嫌いを判断しない。
 アタシの中味を見てくれる。今までアタシを見てきた人たちとは違う。


「ね、だからねっ? 行こう、ラブナちゃんっ!」
「う、うん」

 アタシはそのユーアの言葉に素直に頷く。
 もっとこの少女の事を知りたい、もっとアタシを知って欲しいと思って。


 雑木林を抜ける頃、そこにはユーアが持ってきた、あの

 『赤い木の実』がなっていた。


『――――――なんでっ』


 そう、わざわざアタシがいた、林の奥まで取りに来る必要はなかったのだ。
 きっとアタシが心配で見に来てくれたのだろう。


『全く、この子は――――』


 アタシは手を引かれながら、目の前の小さな背中をみる。

 身長も体つきも、アタシよりずいぶん小さい。
 きっと同世代に比べたら小さい方だろう。

 でも、その心は大きかった。
 アタシはその心に救われることになる。






 でも、そんなユーアにアタシは夜にその洗礼を受ける。


「あれ? ラブナちゃんっ! お胸大きいんだねっ!」


 そう。
 帰ったらユーアの言っていたお体フキフキが待っていたのだ。

 どうやら、小さい子たちも、これで仲良くなったらしい。
 ユーアなりの儀式みたいなものだろうか。


「おおっ! 柔らかいねっ! おっきいねっ! いっぱいふきふきするねっ!」


 そう言うユーアは、アタシに比べて小柄だ。
 至る所がまっ平だった。どこを見てもストレートだった。


 サワ、サワ、
 ぷにっぷにっ


「ちょ、ちょっとっ! ユーアそこは自分でやるからっ!」


 アタシは今まで、ユーアの好意だと思って我慢していたが、
 ある部分まで来た時その腕を止める。

 そ、そこはっ!


「ええ~~いいよ。ボク小さい子のここもきちんと拭いてあげてるし」

 そう言って、アタシの手を振り払い、その手を進めていく。


「あっ、ユーア、も、もうちょっと、優しくっぅううんっ~~~~!!」


「??どうしたのラブナちゃん。もしかして痛かったの? ごめんね。先っちょだからもう少し丁寧にするね。また痛かったら言ってね」

「~~~~~~~~っっ!!!!」


『にゃっ! にゃあぁぁぁぁ~~~~~っ!!』







 そんな事があって、ユーアが冒険者になって半年が過ぎた。


 アタシはもう日課になっている、ある鍛錬を終わりにする。


「はぁっ、はぁっ、きょ、今日はここまでねっ! これ以上はきっと逆効果だし」


 アタシは息を整えながら、草の上に「ゴロン」と寝そべる。


「ふぅ~~~~~~っ!」


 鍛錬で掻いた汗に、サラサラと肌を撫でる、そよ風が心地いい。
 そして空を見上げて気付く。もう日が傾いている。


「っと、こんなところで、ゆっくりしてる場合じゃないっ! もうそろそろ来ちゃうじゃないのよっ!」


 アタシは「ガバッ」と起き上がって、雑木林の奥から孤児院を目指して、小走りで駆けていく。

 そろそろ、あのボクっ娘が、孤児院に来るからだ。
 ユーアが冒険者で稼いだお金を援助しに。孤児院に。


「さあ、今日はどんな話を聞かせてくれるのかな?」

 タタタッ

「それに、そろそろアタシもここを出て良い頃合いかな?」

 タタタタッ

「アタシもユーアと一緒の冒険者になるんだからっ!」


 そうアタシは恩返しをしたかった。
 アタシを救ってくれたユーアの為に。


 ユーアのお陰で孤児院では、それ以来孤立する事がなくなった、
 ユーアがアタシと孤児院の子供たちの間を取り持ってくれたからだ。

 そんなユーアに逆らう子供もいなかった。
 きっとユーアはみんなに愛されているんだろう。


「アタシが冒険者になるって言ったら、ユーアはどんな顔するんだろうっ! うん、楽しみだわっ! ユーアの驚く顔を見るのはっ!」


 アタシは笑いながら、慣れた林の中を孤児院に向かって駆けていく、

 どうしても止められない笑顔で、足取り軽く駆けていく。


 恩人で初めての友だちの、ユーアに会いに。

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