105 / 586
SSユーアとラブナの出会い
仲良しの方法はお体ふきふき?
しおりを挟む今回も、ある少女の思い出話になります。
前回のあらすじなんだからねっ!
孤児院に入ったアタシは、その性格の為か、いつも一人だった。
孤児院裏の雑木林の奥で、八つ当たりを繰り返し、次第にそれは泣き声に変わる。
そんなアタシに声を掛けてきた少女がいた。
※ちょっとシリアスが続きます。
※少女同士のイチャイチャはあります。
悲しくも、心温まる友情のお話です。きっと。
(2/2)
「ラ、ラブナちゃんっ、だよねっ?」
そう言って、アタシに声を掛けてきたのは、
いつも小さい子の面倒をよく見ている、ボクっ娘の少女だった。
アタシは泣き顔を見られないようにと、咄嗟に顔を隠すが、
「どうして泣いていたの? ラブナちゃん…………」
それは遅かったようで、もう泣き顔を見られていたようだ。
「べ、別に泣いてなんかいないんだからっ! それにアンタになんか関係ないでしょっ! もう、どっか行ってよっ! アンタなんか嫌いなんだからっ!」
アタシは、アタシを心配してくれたこの少女を突き放すように、そう大声を上げる。拒絶するように、その優しい少女を睨む。
『なんでいつもこうなのっ! なんだってアタシはっ! 本当は……』
アタシは貴族だった、まだ父が領主をしていた頃からそうだった。
通っていた学園でも似たようなものだった。アタシはいつも威張り散らしていた。
それは拒絶じゃなく、防衛本能に近いものだったんだろう。
年の離れた幼い三女っていうのもあったとは思うけど、舐められないように虚勢を張って生きてきた。アタシは、父の妾に産ませた子供だった事が、大きい理由かもしれない。
そこに劣等感を感じていて、それを気付かれるのを嫌った。
見下されるのも嫌だった。
だって、母はどうであれ、アタシはアタシ自身なんだから。
それにアタシを愛してくれた父も大好きだった。
だからアタシは自分が傷つく前に、他人を傷つけて自分を守ってきた。
でも、それは関係ない。
アタシは守るべく立場もプライドも、もうない。
今はただの小娘に成り下がっているんだから。
なのに、辺り構わず威張り散らすアタシはおかしかった。
ここにいる子供たちとは、みんな平等だ。
それでもアタシはある意味その『癖』が抜けなかった。
だからこの声を掛けてくれた少女も、アタシから離れて行くだろう。
もうアタシには関わらないだろう。
そして、アタシはまた独りになる――――――
ザッザッザッ
地面を歩く音がする。アタシは諦めて視線を降ろす。
きっとこんなアタシから、遠ざかっていく音だ。
アタシを嫌いになって、離れて行く歩みの音だ。
『でも、本当は、ホントのアタシは――――っ!』
また涙が出そうになる。
だってまたアタシは独りぼっちになるから。
ザッ
ガバッ
『えっ?』
その時アタシは、柔らかく、暖かいものに包まれていた。
それと、ちょっと甘い匂いがした。ミルクのような。
「な、なっ!」
アタシはその少女に、抱きしめられている事に気付いた。
「ラブナちゃんはお腹が空いているんだねっ! ボク良いもの持ってるから、分けてあげるよっ! これ取りに、ここまで来たんだ。だから一緒に食べよ? そうそれば、きっと悲しくなくなるから。はいこれ上げる」
そういって、アタシに見せてきたのは、何かの赤い木の実だった。
何これ? 見たことないんだけど。
もしかしてこれを取りに、こんな林の奥まで来たんだろうか?
「えっえっ? べ、別にアタシお腹なんか減ってないわよっ! なんだって、こんな訳の分からない食べ物なんてっ! グボッ!? す、すっぱ~~~~~~いぃッッ!」
会話の途中で木の実を無理やり入れられ、その味に絶叫するアタシ。
「えええっ! す、すっぱかった? ちゃんと熟してるのを選んできたのに?」
見当違いにアタシを慰めるこの少女は、首を傾げながら「あれっ」って顔をして、自分も一つ口に入れる。アタシに食べさせたみたいに。
「あれ? 甘いよ? 甘くておいしいよ? ちょっとだけ酸っぱいけど」
「はぁっ? なんでアタシのだけ酸っぱいの食べさせたのよっ! アンタわざとやってるんでしょ! アタシが嫌いだからっ!」
アタシは訳の分からないこの少女の行動に、いつものように金切り声を上げる。
アタシのだけ酸っぱいだなんて、理不尽過ぎるっ!
『あっ!』
アタシはまたいつもの『癖』が出た事に気付く。
慌てて両手で口を塞ぐが、口から出た言葉は帰ってこない。
『――――――ううっ』
アタシは、そ~と指の間から様子を伺う。
幸い立ち去る気配は感じない。まだ取り返しがつくだろうか?
「あ、あのっ、アタシはっ!!―――――」
「ねえ、ラブナちゃんはボクの事嫌いなの?」
離れるどころか、クリっとした目の可愛い顔が目の前にあった。
「~~~~~~~~!?」
『ち、近いからっ!』
「べ、別に、アンタの事なんてどうも思ってないわよっ! 何っ? アタシにそんなに気にして欲しいの? アタシに目を掛けて欲しいのっ!」
「どうも、思ってないんだぁ。でもボクはラブナちゃんの事好きだよ??」
「はぁ!? なんで本人のアタシに聞いてくるのっ! アンタの気持ちなんて知らないからっ!」
「ふうん、まあいいやっ。それじゃ行こうっ!」
「………………」
そう言ってアタシの腕を引いて立ち上がる。
『一体何なのよっこの子はぅ! まだ話の途中だったじゃないのっ! アタシを好きだって話は、どうなってるのっ!?』
「ちょ、ちょっと、アンタっ! さっきの話はっ!」
アタシは手を引かれ、ズンズンと前を進む少女に声を掛ける。
「ボク、アンタじゃないよ? ユーアだよっ!」
「い、いや、そうじゃなくてっ!――――」
「帰ったらラブナちゃんの体拭いてあげるね。ボク小さい子の体もいつも拭いてるから、結構得意なんだっ!」
「はぁっ!? 何言ってっ! アタシの事はっ! ――――」
ピタリ。
アタシの手を引いた少女。
ユーアはその歩みを止めて振り返り、
「今は好きかどうかわからないけど、これから好きになればいいでしょ? だってボク、ラブナちゃんとあまり話したことないからよく知らないもん。ね、だから体拭いてあげるね」
『え――――――』
アタシはその言葉に息をのんだ。
この少女は、アタシの上辺でだけで好き嫌いを判断しない。
アタシの中味を見てくれる。今までアタシを見てきた人たちとは違う。
「ね、だからねっ? 行こう、ラブナちゃんっ!」
「う、うん」
アタシはそのユーアの言葉に素直に頷く。
もっとこの少女の事を知りたい、もっとアタシを知って欲しいと思って。
雑木林を抜ける頃、そこにはユーアが持ってきた、あの
『赤い木の実』がなっていた。
『――――――なんでっ』
そう、わざわざアタシがいた、林の奥まで取りに来る必要はなかったのだ。
きっとアタシが心配で見に来てくれたのだろう。
『全く、この子は――――』
アタシは手を引かれながら、目の前の小さな背中をみる。
身長も体つきも、アタシよりずいぶん小さい。
きっと同世代に比べたら小さい方だろう。
でも、その心は大きかった。
アタシはその心に救われることになる。
でも、そんなユーアにアタシは夜にその洗礼を受ける。
「あれ? ラブナちゃんっ! お胸大きいんだねっ!」
そう。
帰ったらユーアの言っていたお体フキフキが待っていたのだ。
どうやら、小さい子たちも、これで仲良くなったらしい。
ユーアなりの儀式みたいなものだろうか。
「おおっ! 柔らかいねっ! おっきいねっ! いっぱいふきふきするねっ!」
そう言うユーアは、アタシに比べて小柄だ。
至る所がまっ平だった。どこを見てもストレートだった。
サワ、サワ、
ぷにっぷにっ
「ちょ、ちょっとっ! ユーアそこは自分でやるからっ!」
アタシは今まで、ユーアの好意だと思って我慢していたが、
ある部分まで来た時その腕を止める。
そ、そこはっ!
「ええ~~いいよ。ボク小さい子のここもきちんと拭いてあげてるし」
そう言って、アタシの手を振り払い、その手を進めていく。
「あっ、ユーア、も、もうちょっと、優しくっぅううんっ~~~~!!」
「??どうしたのラブナちゃん。もしかして痛かったの? ごめんね。先っちょだからもう少し丁寧にするね。また痛かったら言ってね」
「~~~~~~~~っっ!!!!」
『にゃっ! にゃあぁぁぁぁ~~~~~っ!!』
※
そんな事があって、ユーアが冒険者になって半年が過ぎた。
アタシはもう日課になっている、ある鍛錬を終わりにする。
「はぁっ、はぁっ、きょ、今日はここまでねっ! これ以上はきっと逆効果だし」
アタシは息を整えながら、草の上に「ゴロン」と寝そべる。
「ふぅ~~~~~~っ!」
鍛錬で掻いた汗に、サラサラと肌を撫でる、そよ風が心地いい。
そして空を見上げて気付く。もう日が傾いている。
「っと、こんなところで、ゆっくりしてる場合じゃないっ! もうそろそろ来ちゃうじゃないのよっ!」
アタシは「ガバッ」と起き上がって、雑木林の奥から孤児院を目指して、小走りで駆けていく。
そろそろ、あのボクっ娘が、孤児院に来るからだ。
ユーアが冒険者で稼いだお金を援助しに。孤児院に。
「さあ、今日はどんな話を聞かせてくれるのかな?」
タタタッ
「それに、そろそろアタシもここを出て良い頃合いかな?」
タタタタッ
「アタシもユーアと一緒の冒険者になるんだからっ!」
そうアタシは恩返しをしたかった。
アタシを救ってくれたユーアの為に。
ユーアのお陰で孤児院では、それ以来孤立する事がなくなった、
ユーアがアタシと孤児院の子供たちの間を取り持ってくれたからだ。
そんなユーアに逆らう子供もいなかった。
きっとユーアはみんなに愛されているんだろう。
「アタシが冒険者になるって言ったら、ユーアはどんな顔するんだろうっ! うん、楽しみだわっ! ユーアの驚く顔を見るのはっ!」
アタシは笑いながら、慣れた林の中を孤児院に向かって駆けていく、
どうしても止められない笑顔で、足取り軽く駆けていく。
恩人で初めての友だちの、ユーアに会いに。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる