剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第8蝶 ちょうちょの英雄編1

除け者少女とオオカミさんの贈り物

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「それは、スミカさんの『監視下』に置くという事です」


『………………はぁ~』

「「「……………………」」」


 私は内心で溜息を吐く。
 他のみんなは話の先が気になるのか、無言のままだった。

 クレハンの、自信ありげに言ったその内容は、私もある程度考えていたものだ。
 姉妹が何か問題を起こさないように、私の元に置いて、私が責任を持つ、と。

 ただそれも正直意味がないと思って、半分以上諦めていたものだ。

 そんな安易もので、皆が納得するとは思えない。

 たかだか数日の、駆けだし冒険者の少女の監視下に置いたって、それを信用する人間は、殆どいないだろうと思ってだ。


 なので私はそれを聞いて「ポン」とルーギルの肩に手を置く。


「ルーギルは来なくていいからね街の外には。だって奥さんもいるんだし。それに私たちも男がいたら、身の危険を感じるから、そのまま街に居なよ」

 とルーギルに伝える。

「い、いやッ、だから俺は、子供にはッ! せめて、もうちっと『ボンッキュッボンッ』とだなァ?」

「えっ! それじゃぁ――――」

 私はズイッと、ナゴナタ姉妹を前に出す。

「ほら、あんたが好きな『ボボボンッキュッボンボンッ』だよっ!」


 なんか擬音が異常に多くなってしまったけど、この姉妹はそれくらいがちょうどいい。ってかもっと多くてもいいぐらいだ。

 まぁ、私は控えめに言って「ボンッ」の部分が一個づつ少ないだけど。


「ス、スミカお姉さまっ! 私たちは男なんて…… それよりも、スミカお姉さまと」
「ワタシもだよっ! 弱い男なんてごめんだよぉ! だったらスミカ姉とさっ!」

「………………?」

 なんで、最後に私の名前が出て来るかな。
 今はその話じゃないよね? 「ボンッキュッボンッ」の話だよね?
 そうだよね?


「いいや、それも違うぜぇ、スミカ嬢。今はまだクレハンの話の続きだァ」
「あれ?」

 もしかして、また声に出してた?


「コホンッ、そうです。ギルド長の言う通りです。わたしの話はまだ終わっていません」

 再度、佇まいを直して、私たちに視線を向けるクレハン。


「最初にも言いましたが、確実でも、絶対でも、必ずでもありません。それを承知で最後まで話を聞いてください」

「あ、なんか長そうだから、ここに座ってよ。飲み物も出すし」
「………………」

 クレハンの前置きを聞いて、アイテムボックスから、4人用テーブルセットを2つ分設置する。ついでに果実水とレーションケーキを人数分出してあげる。


「あ、ありがとうございます。スミカさん」
「おうッ! ありがとなッ、スミカ嬢」

「いつもありがとうございます。スミカお姉さまっ!」
「うん、毎回ありがとなっ! スミカ姉っ!」

「スミカお姉ちゃん、ありがとうっ!」


 私が出した椅子に、各々一言いいながら着席する。

 因みにユーアは、私の膝の上だ。
 目の前にある、ホワホワした髪の毛がくすぐったい。


「それじゃ、わたしの考えを話しますね」


 そう言って、もう何度目かになるか、メガネを直して話し始める。


「まずは一つ目なんですが、スミカさんと姉妹は再度戦ってもらいます。これはさすがに今日街に帰って直ぐってわけにはいきませんが、なるべく早い方がいいでしょう。それで、二つ目ですが――――」


 クレハンは、一つ目で何も反論がなかったみんなの様子を見て、更に話を続ける。
 私も一応黙って聞いてはいるが、正直に言って安易な考えだった。


 簡単にまとめると、私が姉妹を、

 『力で捻じ伏せて、跪かせて、誓約させろ』みたいな感じ。


 もっと簡単に言うと、私が姉妹に

 『勝って、大勢の冒険者の前で、姉妹が私の監視下に入るって宣言する』

 って事。


 脳筋のルーギルならともかく、頭脳明晰のクレハンが出すアイデアにしては、かなり穴だらけだ。

 だってそうでしょう?
 勝って宣言したって、その後姉妹が悪さしない、って保証は何処にもない。

 私の監視下に置くって言ってもそれは同じこと。
 新人冒険者の私の事なんて、全面的に信頼はしないだろう。
 だったら、最初から街に入れない方がいいに決まっている。
 

 そう思ってたんだけど、他のみんなの反応は……

「なるほどなァ、さすがクレハンだぜッ! こういった事は頼りになるぜッ!」

『え?』

「クレハンさんすごいですっ! すぐにそんな事思いつくなんてっ!」

『ユーア?』

「クレハン、さすがはコムケの街のギルドの頭脳ですね」

『ナゴタ?』

「どっかの名前ばかりのギルド長とは、違うよなっ! さすがだクレハンっ!」

『えええっ!』


 予想外のみんなの反応に驚愕し、慌てて声を掛ける。


「ちょ、ちょっと待ってよっ! いくら何でもそれだけじゃ無理だってっ! ルーギルはともかくとして、クレハンならわかるよね? そんな単純な事じゃないって! それだけじゃ意味無いってっ!」

「ってオイッ!」

「そうですね、もう一押しが欲しいんですよ。でも大丈夫だと思いますよ? これで全ての冒険者の遺恨が無くなるとは思いませんが、ナゴナタ姉妹が街に居ても安心できるくらいにはなると思います」

「い、いや、だから、それだけじゃ絶対無理だってっ! ねえ、みんなっ!」

 更に慌てて、みんなに話を振る。


 これは考えでも作戦でもない。
 単なる願望だ。希望的観測の話だ。
 こんなの無理に決まっている。

 そんな簡単に人の心が動かす事は出来ない。
 戦い損なだけじゃなく、姉妹も今後周囲に羞恥の目で見られる事だろう。
 それだけは耐えられない。これ以上姉妹に嫌な思いをさせたくない。


「え? スミカお姉さま。騒動の本人が言うのもあれですが、クレハンの言ってることは的を得ていますよ? 冒険者たちの心を掴むくらいに」

「そうだぜっ! スミカ姉。ナゴ姉ちゃんの言う通りだっ! ワタシだったら納得する。危険はもうないんだってな。本人が言うのもあれだけどなっ!」


「ね、ねえっ、ナゴタ、ゴナタ、あなた達の事なんだよ? これからの人生を、もしかしたら左右する話だよ? 私と戦ったからってそんな簡単な話じゃないんだよ!?」

 なぜか渦中の二人がこの話に、なんの問題もないように感じていて驚く。


「スミカお姉ちゃん。ナゴタさんとゴナタさんが、スミカお姉ちゃんと一緒にいるって事は、そういう事になるんだよ? だからボクも大丈夫だと思いますっ!」

「え?」

 膝の上のユーアが、にこにこしながら、私を見上げてそう話す。

『ん~』

 そういう事って、どうゆうこと?


「カ――ッ! 相変わらず嬢ちゃんは、訳が分からないって、顔してんなァッ!」

 ボリボリと、後頭部を掻きながら、ルーギルが「ハァ」と溜息を吐く。

「い、いや、だからどういう事なの?」


 なんだろう、みんなは納得してる様子だけど、私だけが何も知らなくて、一人除け者になった気分だ。一体なんだっていうの?


「クレハン、ここもお前の出番だッ! 鈍い嬢ちゃんに説明してやってくれやッ!」
「はぁっ? あんたルーギル、言うに事欠いて私が鈍いって――――」
「わかりました。スミカさんわかり易いようにお話しましょう」
「あっ! クレハンあんたもいい加減に――――」

「スミカお姉ちゃん、きちんとクレハンさんのお話聞こうよぉ!」

「そうですよ、スミカお姉さま。ユーアちゃんの言う通りです」
「そうだぜっスミカ姉っ! 聞けばわかるってっ!」

「むぅ!」

 
 ユーアを含め、女性陣に言われたら仕方ない。
 クレハンの話の続きを聞くために、果実水を一口啜って待つ。


「一番の問題は、スミカさんがやってきた事なんです。それが今回の要になると思います」

 そう前置きし、再度クレハンの話が始まる。

『う~ん……』

 私がやってきた事って何?


 何か恐いんだけど、過去の犯罪歴を調べられるようで。
 って、私は人様に恥じる行為はしてないからねっ!

 私は微妙に、ビクビクしながら、クレハンの話に耳を傾けるのであった。




◆◆◆◆



 ここからはユーアが、冒険者になった直後のお話です。


 前回のあらすじです。

 初めてのお仕事で、森に来たボクはケガをしている、
 オオカミさんを見付けたので、治療して、お水とお肉をあげました。

 そして少し元気になったオオカミさんは、ボクを何処かに連れて行きます。
 その先には、お仕事の依頼品の素材が生えていました。

 オオカミさんは、この森の素材の場所に、案内してくれたのです。

 ※ユーア視点でのお話になります。
 (3/3)




「今日もいるかな? オオカミさんっ!」


 ボクは今日もお仕事でビワの森に来ました。

 昨日はオオカミさんのお陰で、依頼が達成できました。


 シュタタタタタタッ――――!

 ガサガサッ


『くぅ~~ん』

 ダッ!

『わふっわふっ!』
「あっ! こらっ! くすぐったいでしょっ!」

 ボクは森の奥から駆けてきた、オオカミさんに抱き着かれ、頬っぺたをペロペロされちゃいます。ざららざらして、ものすごくくすぐったいです。

「もう足のケガは大丈夫なの? もう直ったの?」

 ボクは勢いよく駆けてきた、オオカミさんの脚を見てみます。
 昨日巻いた布は、もう無くなっていて、赤い傷口が見えています。


「あああっ! まだ治ってないでしょ。あんまり動かないでっ! それとグルグル巻いた布も無くなってるよ?」

『くぅ~~ん』


 ボクはオオカミさんの足元に座って、治療をします。
 昨日も持って来た傷薬と、新しい包帯代わりの布切れを出して。


「はい、これで大丈夫。だけどあんまりいっぱい動かないでね? 傷口が開いちゃうかもだから」
『わうっ』
「それと、少ないけど…………」

 ボクは干し肉と、固いパンを一切れ出します。

「たくさん食べて治してね。なんて言えないけど、少ないけど食べてね」
『わうっ!』

 がぶがぶっ!

「よしよしっ! 早く治ってねっ!」


 ボクはお肉とパンを食べている、オオカミさんの頭を撫でます。
 きれいで、柔らかくて気持ちいいです。


「それじゃ、ボクはお仕事に行ってくるね」


 ボクは立ち上がって、オオカミさんにお別れを言います。

『くぅ~~ん』
「え、今日は何を取りに来たのって?」
『わうっ』
「今日はね、お料理に使う、○○の実なんだけど、ちょっと辛いやつなの」


 それを聞いたオオカミさんは、ボクに背中を見せてお座りします。


『わううっ』
「背中に乗るの? だってまだケガ治ってないよ? 大丈夫なの?」
『わうんっ!』
「う、うん、わかった」

 ボクはオオカミさんの言う通り、大きな背中にゆっくり座ります。

「わっ!」

 オオカミさんはボクを乗せると「スクッ」と立ち上がります。

『わうっ』
「う、うん、いいんだね掴んでも。ぬ、抜けないかな? オオカミさんの毛」

 ボクはオオカミさんの、長い毛皮を掴みます。


 ビュンッ!

 シュタタタッ――――!

「わ、わわっ、速いっ!オオカミさん速いっ!!」

 オオカミさんはボクを乗せたまま、森の中を抜けていきます。
 木の根も枝も、邪魔にならないくらいに、速く駆けて行きます。


『す、すごいっ』


 視界の先に映った木々が、すぐさま違う木々になっています。

 みるみる景色が変わっていきます。
 森の中を走っているのに、全然揺れません。まるで浮いて走っているようです。
 それに、こんなに速く走っているのに、


『全然風が来ないよっ! 寒くもないよっ!』


 これも、オオカミさんのお陰なのかは分からない、
 けど、それよりも――――


「オオカミさんっ! 速い速いっ! あは、あははははっ――――!」


 ボクは楽しくなって、大声を出して笑いました。

 だって、こんなに速く走ったことないんだもん。
 だって、こんなに速いのに、恐くないんだもん。



 こうして、森の中で出会ったオオカミさんは、ボクを乗せてくれて、お仕事のお手伝いをしてくれました。

 来る日も、来る日も。その次の日も。


――――――


 それが1週間続きました。

 オオカミさんの案内のお陰で、ボクはこの森の素材の場所を覚えてしまいました。
 もう一人でも探せます。


 そして、今日もボクはビワの森に来ました。


「オオカミさん、今日もいるかな? 今日は奮発して美味しい生肉にしたんだ」


 ボクはいつもオオカミさんと会える場所、初めてオオカミさんと会ったところに来ました。

 そう、オオカミさんが罠にかかって倒れてたところです。


「あれっ?」


 オオカミさんは、今日はボクを見付けて駆けてきてくれませんでした。

 でもそこには、


 『新鮮な兎の死体がありました』
 『たくさんの木の実がありました』
 『いっぱいのキノコが置いてありました』

 それもオオカミさんがいつもいた所に。

 ボクはそれを見てわかっちゃいました。
 オオカミさんは元気になって、いなくなっちゃったんだって。


「…………オオカミさん、ケガが全部治ったんだね。良かった」


 ボクは、オオカミさんのケガが治って嬉しいはずなのに、なんだか悲しくなって、涙が溢れてきちゃいました。

 目の前が滲んでしまって、オオカミさんからの贈り物が見えません。


「オオカミさん、今まで、ありがとう、ボクはもう、大丈夫だよっ、だから、オオカ、ミさん、ま、たね、ううう~~ オオカミさんっ!…………」

 
 ありがとう、オオカミさん。

 また会えるといいなっ!
 また会いたいなっ!
 また背中に乗りたいなっ!

 今度会ったら渡したいものがあるんだっ!
 だからまた会えるよね?
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