剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

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SS双子姉妹の追想

予定完遂!!急げユーアの元へっ!

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「激突する前に、スキルを操作して落下地点を調整すれば良かったんだ」


 私はそれに今更ながらに気付く。
 その色々ぶちまけた予想外の惨状を見て。


 透明壁の中の姉妹とシルバーウルフは、激突の衝撃が大きかったせいか、それぞれが中で横たわっている。

 どうやら気絶しているようだった。


「まあ、起きたら起きたで、更に驚きそうだけど。この状況は」

 「はぁっ」とため息をつきながら、この状況を片付ける為に動き出した。


※※


 シュタタタタタタタッ!


 私はまだ暗い森を駆けていく。


 姉妹と一匹は目覚めさせず、頭上に視覚化した透明壁[■]に乗せている。
 目を覚まさせて、色々説明してる時間はなかったから。


 それとみんなが寝ている間に、トロールの回収も済ませた。
 全部私が貰うのもおかしいので、後で分け前はきちんと話し合うつもりだ。
 姉妹のふたりにも、オオカミにも手伝ってもらったし。

「………………ん」

 見上げると、木々の隙間から、薄っすらとだが光が見える。
 もう少しで、夜が明けてしまいそうだ。


「早く帰らないと、ユーアが目を覚ましちゃうよ」


 私は更に速度を上げる。


「ん、ここは!?」
「う~ん、ワタシたちは一体?」

『わうっ?』


 速度を上げたための風圧か、その振動で目が覚めてしまったのか、寝ぼけたような声が頭上から聞こえてきた。


「あ、ごめん、起こしちゃった?」

 なので、私は一度透明壁スキルを地面に降ろす――


 事はしない。

 だって、急いでるんだもん。
 いちいち降ろして話するのも、時間が勿体ない。

 だから――


「もっとスピードあげるから、舌噛まないように気を付けてねっ」

 そう告げて、更にスピードを上げていく。


「えっ!?」
「はぁ!?」

『わう!?』

「あ」

 あれ? これって最初から空中を走って行った方が速いんじゃない?
 姉妹には、特殊なスキルを披露しちゃったし、オオカミは問題ないし。

「ごめん間違った。やっぱり空から行くから、振り落とされないように気を付けて。私が操作してるから、大丈夫だとは思うけど一応ね」

「そ、空っ!?」
「えええっ!?」

『わうんっ!?』


 私は再度、頭上の二人と一匹にそう伝え、木々の抜けている箇所から森の上に出る。透明壁スキルを頭上に展開したまま。

 東の空がかすかに明るくなっている。
 夜明けはもうすぐだろう。


 私は何度も足場を展開して、森の上を駆けていく。
 50メートルの足場を何度も作りながら、橋のように渡っていく。


「あ、そうだ。これからビワの森の手前に、私たちが設営してる場所があるから、そこにナゴタもゴナタも連れて行くね。もちろんオオカミも」

 頭上の驚いてる雰囲気の姉妹とオオカミに声を掛ける。


「えっ!? そうなのですか?」
「そうなのかっ!?」

『ばうっ!?』

「うん、そう。だからその中では、私が戻るまでは大人しくしててね。顔見知りがいると思うけど、あまりちょっかい出さないで頂戴。あ、それとオオカミは途中の森の中で待っててもらうから。いきなり魔物が来たらみんな驚くだろうし」

 私は簡単にそう説明した。
 もう着いちゃいそうだし。


「えっ! それはいいのですが、スミカお姉さまは何処かにいかれるのですか? そのような内容に聞こえましたが、なら、私たちも一緒に――」

 設営地に着いた途端に、置いてけぼりされると思ったのだろう。
 心配そうな声で聞き返す、ナゴタの声が聞こえた。


「ううん、何処にも行かないよ。ただ着いたら、設営している家のお風呂に入ろうかなと思って。何となく汚れてる気がするし」

 別に一切チート防具の効果で、汚れなどないのだが、あの巨大トロールの惨状を見た後だとなんとなく全身を洗いたくなる。

 気分の問題と、乙女の嗜みなのだ。


「えっ! 設営地にお風呂があるのですかっ!?」
「お風呂っ!? だったらワタシたちも一緒にスミカ姉とっ!」

「それは、却下」

 にべもなく、バッサリと姉妹のその提案を断る。


「え、ええ、そ、そうですか、それは残念です……」
「そ、そうか、なら、仕方ないなぁ……」

 私の返答に、わかるくらいにトーンを落として返事をする姉妹。

『………………』

 だって、わかるでしょ?
 一緒に入ったらどうなるかなんて。

 姉妹の二人はいいかもしれない。


 何処に出ても(出しても)恥ずかしくない『トップランカー』なのだから。
 誰もが羨望するだろう。その未だ成長途中の大きな実を見て。

 なのに、そんな姉妹とお風呂に入った日には私は発狂する。
 この世は不公平だって、私は神を呪うだろう。もちろん異世界の。

『………………』

 私は走りながらも、足元を見てみる。

 そこには――――

「…………………クッ」


 視界良好で、断崖絶壁。
 足元の光景が良く見える。

 きっと上の姉妹の二人なら、つま先さえ見えないだろう。
 そのビッグマウンテンが邪魔をして、靴紐が緩んでいても見えないだろう。

 そう、まるでお相撲さんのように。
 よくは知らないけど。

 ただ私はそこに遮るもの、視界の邪魔になる「山」も何もなかった。
 山だけじゃなく、なだらかな丘陵さえも見えない。


「………………はぁ」

 いや、あるのはあるのだが、この


 これを脱ぐと高ランクの私が姿を現す。はず。
 それが本来の姿だが今は訳あって隠している。はず。

 姉妹とお風呂に入って、正体をばらしたくない。
 私はあくまでも『高ランク』の存在なんだから。


「ああ、私は一緒に入らないけど、今日は二人にも貸してあげるよ」

 とだけ告げる。
 姉妹だって年頃の乙女だ。

 それに、オオカミに、ペロペロされたところも洗い流したいだろう。
 戦闘の汚れとか、旅の汚れとか、色々あるし。
 だって、女の子だもん。


「はいっ! ありがとうございます。ふたりで入りますねっ!」
「うん、、ナゴ姉ちゃんと入らせてもらうよっ!」

 元気のよい声が聞こえる。
 ここからは見えないけど、きっと笑顔になってるんだろう。


『なんか「今日は」て強調してた気がするけど、気のせいだよね?』

 前方の森の木々が薄くなっている所が視界に映る。
 そしてその中心に2軒のレストエリアが見えた。
 見た感じ特に異常はないようだった。


 「やっと帰ってこれたよっ」

 オオカミは途中で降りて貰って、説明後に呼ぶようになっている。
 ついでにログマさんの所の生肉を置いてきた。


 私と姉妹はまだ薄暗い、レストエリアを設置している土地に入る。

「それじゃ、適当に休んでて、くれぐれもさっきの件よろしくね」


 私は姉妹に、そう言って、4人掛けテーブルセットと、ケーキタイプのレーション(ショートケーキとマロンケーキ)と果実水をそれぞれ姉妹の分を出す。


「はい、何から何までありがとうございます。スミカお姉さまっ!」
「ここでゆっくりしてるから、のんびりしてきてよ。スミカ姉っ!」

「うん、ありがとう二人とも。助かったよ。それじゃまた後で」


 二人にそう返事をして、ユーアが眠るレストエリアに入っていく。


『ただいまぁ~~~~ユーア』

 ユーアの可愛い寝顔を確認してから、お風呂場に急ぐのだった。





 こうして、澄香から語られたお話は終わりです。

 次回は現実時間に戻っての物語が再開します。


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