剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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SS双子姉妹の追想

超高速自己再生能力!?関係ないよっ私には。

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 『グオォォォォッッッ!!!!!』

 
 再生を終えたトロールは立ち上がり、その巨体を震わせ空に向け咆哮を上げる。
 ビリビリと、その咆哮が空気を震わせ、その振動が私にも伝わってくる。


「あ―もうっ! 治った途端にうるさいんだよっ!」

 ヒュンッ

『ガボォッ!?』


 私はあまりのう騒音に、三角錐のスキル▲を展開して、その口を塞ぐ。
 塞ぐというか、完全に口から頸部を貫通してしまったが。

 まぁ、大人しくなればそれでいいんだけど。


「よっし、これで静かになった。それじゃ空中遊泳に行って見ようかっ!」


 トロールの真下から、突き上げるように透明壁スキルを展開する。

 ドゴ――――ンッ!!!!

『ッッッッッ!!!!』

 トロールの15メートルの巨体は、その一撃で50メートル程上空に跳ね上がる。


「おっと、危ない、スキルの射程がギリギリになっちゃうよ」

 足場の代わりにもう1機、透明壁スキル[□]を展開して巨体の姿を追う。


『ブボォ―――ッ!!』


 トロールは未だに喉をスキルで貫かれたままで、身動きの取れない空中で、ジタバタと藻搔いている。

 そこへ追いついた私は更に、

「もっと高くて、見た事もない景色を見せてあげるよっ!」

 ドゴ――――ンッ!
 
『ッ!!』

 2機目のスキルを展開して、さらにトロールを上空に打ち上げる。


 もう一度、
 ドゴ――――ンッ!!

 そして、
 ドゴ――――ンッ!!

 更に、
 ドゴ――――ンッ!!


 繰り返し、繰り返し、トロールの巨体を上空に向けて打ち上げる。
 それに離されないように、私もその後を追って、スキルを展開していく。


――


「ひゅ~っ! さすがに高いねっ! この高さで日本の某電波塔と同じくらいかな? 絶景っ! ではないなぁ~、周りはまだ薄暗いし」

 せっかく異世界の景色を上空から堪能したかったけど、まだ夜は明けてはいない。
 それを見て、ちょっとだけ落ち込む私。


 今、私は、打ち上げたトロールの真上に着き、重力に任せて落下している。
 高さは凡そ、300メートル位だ。

 バタバタと衣装が風でなびいているが、寒さは殆ど感じない。
 このゴスロリ衣装の効果のおかげだ。チート装備さまさまだ。


 上空で周りを見渡してみても、今はまだ夜。特にきれいでも美しくもなかった。
 月明かりで、映し出されて見えるのは、足元の暗い森と遠くの山の影だけ。

 私とユーアが住む、コムケの街なんかはさすがに見えなかった。


「明るかったらきっときれいなんだろうね、この景色は」


 風で乱れる、長い髪を抑えながらそう思った。
 ユーアが住むこの世界は、きっと美しいものなんだろうって。


「今度ユーアでも連れてきたいねっ! 『怖くて楽しいよぉ! スミカお姉ちゃんっ!』て言って、私に抱き着いてくるんだよ、きっと。まあ連れてこようと思えばいつでもできるけどね。それよりも――――」

 真下で地面に向かい、落下しているトロールに目を向ける。


「さすがに、強化された自己再生能力でも、全身が跡形もなく粉々になれば、絶対に再生はできないよね。アンタも」


 自身の上に透明壁を展開して、それを蹴って真下のトロールに急降下する。
 
 シュンッ


「それっ!」

 ドゴォンッ!

『グゴッ!?』

 その勢いのまま、トロールの背中に跳び蹴りをする。
 更にトロールの落下速度が上がっていく。

 次に再度透明壁を蹴って、今度はトロールを追い抜く。

 その際にトロールを、真上から抑え込むように、20メートルサイズの平面体[□]の透明壁を展開する。
 その数は『6機』いずれも重さは今の最大の『5t』になっている。


 合計重量『30t』


 それを背負ったトロールは、地上に向けて落下していく。


 ビュオォォォォッッッ――――


 風切り音を出しながら、30tもの重しを乗せたトロールは、その速度をグングンと上げていく。


『グオォォォォッッッ!!』

 ガンッガンッ ガンッガンッ!!


 速度を上げ落下するトロールは、背中を押されながらジタバタと抵抗するが、空中では身動きが取れないせいで、透明壁の範囲から脱出できない様子だった。
 せいぜい壁に石斧を叩きつけるだけだった。
 因みに喉を塞いでいたスキルは解除してある。

「よし」

 トロールが動けないのを確認し、更に地上に向けて透明壁を蹴っていく。

 ヒュンッ!

「っと!」

 スタン

 私は足場を何度か展開して、落下速度を緩め、トロールより先に地面に辿り着く。
 風圧で髪がボサボサになってしまったが、手櫛で適当に直しながら空中を見上げる。


「ス、スミカお姉さまっ! そ、空を飛んでいましたよねっ! 今!」
「うんっ!うんっ!!」
『わうっ!』

 そんな驚いた声が、森に近い所から聞こえてくる。
 念のために透明壁で覆っていた、ナゴナタ姉妹とシルバーウルフだった。


「違うよ。魔法壁を足場にして、跳んで行ったんだよ。それよりも――――」

 上空から視線を外さず、姉妹にそう説明する。


「はいっ? な、なら、トロールはなぜあんな上空に飛んで行ったんですかっ!? あ、あれもスミカお姉さまの魔法の効果なんですかっ!?」

「うんっ! うんっ! あれどうなったんだっ!」

 こんな時なのに、姉妹の二人は私に食って掛かってくる。
 余程の衝撃を受けたんだとは思うけど、

『う~ん』

 今はいちいち説明するのが面倒くさい。
 ていうか、時間がない。トロールが落ちて来るし。


「二人とも、それは追々話すから、今はちょっと待って。だってトロールを倒すのが先決でしょう。それにそろそろ地面に落ちて来るからね」


 30tもの重りを背負ったトロールが落ちて来るであろう地点に、
 視覚化した透明壁[■]を設置する。


 300メートル以上の上空からの落下スピード。
 20メートル四方の5tの透明壁を6機。合計30tの重し。

 後は、私が地面に展開した透明壁で、あのトロールをプレスする作戦だ。
 

 そんな物に挟まれたら、一瞬で全身が粉々に。
 しかも地面には破壊不可能な、私のスキルの透明壁がある。
 

『きっと、粉々じゃすまないなぁ』

 事の成り行きを見る為に、落下してくるトロールに注視する。


「みんなっ! 一応気を付けてっ! トロールが落ちて来るよっ!」

 見上げながら透明壁の中の姉妹二人と、一匹にそう声を掛ける。
 手振りで新たに設置した、視覚化した透明壁を指差しながら。


「えっ! まさか地面に叩きつけるつもりですか!?」
「スミカ姉っ! それだけじゃあいつは倒せないんじゃ! すぐ回復しちゃうよっ!」
『がうっ!』

 二人と一匹は、それでは倒せないと判断したようで、不安そうな声を上げる。

 まぁ、姉妹とオオカミには、トロールが背負う、巨大で透明な重しは見えていないのだから、その反応が当たり前だろう。
 ただ単に地上に激突するようにしか見えないし。


「いいから黙って見ててっ! あと衝撃が来るから、身構えててっ!」

 心配する姉妹とシルバーウルフに声を掛けるが、その異変に気付く。


「あれっ!?」

 風圧なのか、元々の落下地点の予測が間違っていたのか、トロールと共に落ちてくる超重量の透明壁は、私が地面に設置した透明壁の軌道より


「えっ?」
「はっ?」
『わうっ?』

 それは、そんな短い驚きの声を上げる透明壁の中の姉妹と一匹に向かって、超高速で落下していく。


 グオォォォォッッッ――――


「あ、やばっ!」

 そして、

 ゴッガァ――――――ンッ!!

 グジャァ――――――ッ!!!


 姉妹と一匹が入っている、透明壁のに落下した。
 そしてその威力にトロールは破裂する。

「キャアァ――――ッッ!!」
「うっわァ――――ッッ!!」
『キャンッ!!』


「うわ、やっちゃった~っ!」

 すぐさまその惨状を確認する。

 そこには、辺りを真っ赤に染めた、姉妹たちが入った透明壁。
 そして、私の足元には、あの腕輪がコロンと転がってきた。

 それを拾い上げて、アイテムボックスに収納する。


「…………この後どうしよう」


 姉妹たちを囲む、透明壁の屋根の隙間からは、その肉片やら、体液やらが、ボチャボチャと垂れ落ちてきている。グロイ。

 そして、その周りにはかなりの異臭が。

 更に、透明壁の天井にはがへばりついている。
 中から見たら、さぞかしスプラッターだろう。


 私はその惨状と、ショックで気絶している姉妹と一匹を見て、泣きたくなった。


「みんなが無事なのは良かったけど、そこに落ちると困る……」

 それはどうスキルを解除しようかという事だった。

 だって、解除した途端に、そのグロイ物体が、中の姉妹とオオカミに降りかかりそうだったから。それで起きたら、更に大変な事に。


「う~ん。どうしたらいいんだろう?」

 トロールを倒す事よりも、私にとっては難しい問題だった。

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