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SS双子姉妹の追想
巨大トロールとスミカの想い
しおりを挟むズズゥ――――ンッ。
ナゴタの両剣での苛烈な斬撃、ゴナタの遠心力を使っての、まるでハンマー投げのようなフルスイングで、巨大オークは頭部を吹き飛ばし、遂にその巨体が地面に沈みこんだ。
最後の止めを放ったと思われる二人の姉妹は、それでも警戒を緩めない。
頭部を吹き飛ばしても尚、視線は倒れ込んだトロールに向けられていた。
「はぁ、はぁっ、やっぱあれでも倒しきれてないかなぁ? ナゴ姉ちゃん、はぁ、はぁ」
「そ、そうね、普通ならこれで終わりだけど、きっと起き上がってくるわっ、ハァ、ハァッ」
先ほどの、怒涛の連続攻撃に能力と体力を消耗した姉妹は、息を荒げながら、それでも己の武器を構えなおす。
その姿には、一部の隙も油断も微塵も感じられなかった。
さすがは、Bランク冒険者といったところだろうか。
いや、そんなランクだけで一括りにしたくない。
若いながらも、幾重もの戦闘や戦場を経験したこの姉妹が強いのだ。
『ただ、私と戦った時よりも、二人の消耗が激しい。あの異常な強さのトロールにいつも以上に体力も精神力も使ったんだろうね。まあ、そりゃそうだよ。あの巨体にあのスピード、そして破壊力。極めつけは一瞬で回復する自己再生能力。反則を通り越して、チートだね、あれは――――』
私はそんな事を考えながら、視線は頭部のないトロールに向けるが、やはりと言うか予想通りと言うか、姉妹の言う通り、頭部のないトロールは「ビクビクッ」と体を震わせ、頭部のない首から泡状の物が溢れ出てきた。
すでに再生が始まっているのだろう。
「ナゴ姉ちゃんっ!」
「うん、わかってるわっ! ゴナちゃん」
それを見たナゴナタ姉妹は、すぐさま臨戦態勢を取る。
消耗した体力は、ドリンクレーションで回復していた。
あれだけの攻撃で倒しきれない魔物を見て、それでもまだ戦う気概がある。
ただ体力とやる気だけでは、この以上は正直危うい。
だって、それはそうだろう。
戦いで削られた精神力は、アイテムだけでは回復しないのだから。
このまま姉妹が戦っていても、いつかはトロールの自己再生にも限界がきて、もしかしたら倒すことは可能かもしれない。
実際はどうなるかはわからないが。
ただ一撃でも喰らったら、戦闘不能の可能性が大きい攻撃を避け続けるのには、更に精神を削られることになる。
そしていつかはトロールの攻撃を喰らってしまうだろう。
集中力が薄れた時には。
『よし、ここまでだね。二人は予想以上によく戦ってくれたけど、これ以上は危険。何かあったら、私が出張ってもいいんだけれど、それが癖になっちゃっても困るし。それに――――』
スタスタ
私はナゴタとゴナタの姉妹、二人に向かって歩みを進める。
『――――それに、この戦いはきっと私の役目だろう』
そう。
この世界の存在では無い物との戦いは、私の領分だろう。
きっとこの騒動の一端には、ここではない異世界人が関与している。
「どうしたのですか? スミカお姉さま」
「どうしたんだ、スミカ姉っ!」
ゆっくりと二人に近付く私に気付き、不思議そうな表情で声を掛けてくる。
「あのさ、後は私に任せて貰っていい?」
端的に、姉妹の二人に告げる。
「えっ? わ、私たちでは足手まといでしたか? でも私たちはまだっ!」
「スミカ姉っ! ワタシもまだまだ戦えるよっ! あんなトロールなんてっ!」
それを聞いたナゴタとゴナタの姉妹は、ちょっと目を開いて、心外だとばかりに少し声を荒げる。
「違うよ。足手まといだなんて全然思ってないよ。あなたたち姉妹は十二分に強いよ」
そう答える。
この姉妹は強い。
肉体的な強さだけじゃなく、年齢の割には、戦闘経験も知識も豊富。
それと精神力も両親の夢の為に、曲げない想いを持っていた強さも姉妹の強さのひとつだろう。
そっちは、色々方向は誤ってしまったが――――
「な、なら何故ですか? 時間は掛かるかもしれませんが、私たち姉妹なら」
「気持ちはわかるんだけど、この異様なトロールは私が倒さないといけないんだ。多分だけど、この個体は、私と同類の者が関わっている可能性があるから」
「同類の者? ですか…… スミカお姉さま、あなたは一体――――」
「…………スミカ姉っ! 同類って――――」
姉妹は要領を得ない私の返答に、驚いた様子で息を飲んでいる。
「ごめんね、今はまだ説明できないかな? 私の事にしてもこのトロールについても。ただ、いつかは話す時がくるかもしれない。私だけで守れない時には二人にも手伝ってもらうから」
「だから、その時はお願いねっ」と、沈鬱な表情の二人に声を掛ける。
「わかりました……、もしその時が来たら、私たち姉妹は全力であなたをサポートします。スミカお姉さまが何者だろうと関係ありません。私たちにとってあなたは――――」
「ワタシたちはスミカ姉に救われたんだっ! スミカ姉の為なら、なんだってやってやるっ! そうナゴ姉ちゃんと話し合ったんだっ! だから――――」
「「今はまだっスミカお姉(さま)に任せますっ!」」
「うんっ!」
我儘で、意味の分からない内容でも、姉妹はそれでも信じてくれている。
正体不明な、こんな存在の私を。
この出会ったばかりの私の事を――――
「うん、ふたりともありがとうね。それじゃここは私に任せて。終わったらケーキご馳走するからさ。それとオオカミには、生肉を出してあげる。コムケの街の一番のお肉屋さんの」
姉妹にそう答えながら、ずっと大人しかったシルバーウルフにも声を掛ける。
そのフワフワな毛皮の背中をなでなでしながら。
「はい、楽しみにしておりますっ! スミカお姉さまっ!」
「スミカ姉の出す物はみんな美味しいから、楽しみだっ!」
『わうっ!!』
姉妹は笑顔で、シルバーウルフは太い尻尾を振って私を送り出してくれた。
「ありがとう。直ぐに済むと思うけど、念のため、二人とオオカミには魔法壁を張っておくから、その中で待っててくれる?」
そう告げて、トロールに視線を移す。
ここからは私の戦いだときを引き締める。
「ん? あれ?」
だけど、私はその異変に気付く。
『あれ、なんかニヤニヤが止まらない? 頬が緩んだままになってる?』
今までたくさんのプレイヤーと、ネット世界で、敵としても味方としても接してきた。
だけど、こんな風にお礼を言われたり、
笑顔で送り出してくれる人は、妹以外にいなかった。
妹の清美がいなくなって、ずっと私は独りだった。
パーティーを組んでも、心は孤独だった。
この世界に来て、ユーアを始め、清美以外にも大切なものが増えてきた。
守りたいものがある事が嬉しくなった。
私は守る為に手に入れた力を奮えるのが喜ばしかった。
それはきっと幸福な事なんだろうと思う。
『はぁ、戦闘中に何を考えてるんだろう。今は色々考えてる場合じゃないのに』
戦闘中に、戦い以外の事を考えるのは愚か者だ。
戦いのプロであればあるほど、その考えが染みついている。
余計な感情や考えは必要ないと。邪魔なだけなんだと。
『ふふふっ! それじゃ私はプロじゃなかったのかな? まぁ、別に元々プロを自称してたわけじゃないし、守れるものが守れれば私はプロじゃなくてもいいやっ! それに倒しきる方法も再生してる間に考えたしね』
『グオォォォッッ――――!!』
再生が終わったのか、巨大なトロールは咆哮を上げる。
ゴナタに吹き飛ばされた首は、見事に再生していた。
「スミカお姉さまっ! 来ますよっ!」
「スミカ姉っ!」
『わうっ!』
それを見て、姉妹とシルバーウルフは緊張した声を上げる。
「うん、大丈夫っ! すぐに終わらせる予定だから」
透明壁スキルを、再生が終わったトロールに向けて展開した。
ドゴォ――――ンッ!
それを受けたトロールは、巨体が空に向かって跳ね上がっていった。
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