剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
94 / 586
SS双子姉妹の追想

チート級の自己再生能力vs3人の少女たち+1匹

しおりを挟む



「すぐ来るよっ、みんなっ!」

 私は索敵モードで、位置を確認し、
 もう目前まで迫っていることをみんなに伝える。
 

「はいっスミカお姉さまっ!」
「うんっスミカ姉っ!」

『がうっ!』

 
 二人は、愛用の長柄、超重力の武器を構え、一匹は先ほど見せたように、3本の氷柱を自身の周りに発生させる。

 そして、その視線は鋭く、いずれも洞窟の出口に向けられる。


『しかしなんだって、こんな小さな森になんてトロールを配置するの? 目的は何? どうやってここまで、それに―――― おっと、お出ましだねっ!』


 私はそこで、一旦思考を切り替える。


 ズンッズンッズンッとその巨体が、洞窟より姿を現したからだ。

 その体長は最初に洞窟内より出てきた個体よりも、明らかに巨大だった。

 15メートル程の、筋肉質の黄土色した巨体で、片手には巨大な石斧。
 そしてその太い手首には、同じデザインの、あの腕輪が嵌まっていた。


『グォ』

 その姿を現した、異様な程の巨体のトロールは、短く喉を震わせた後、


「………………?」

「……………………」
「……………………」
『……………………』


 『グオオオオオォォォッッ――――!!!!』



 大気が震えるほどの、私たちを威嚇しての雄叫びなのか、咆哮なのか、怒りなのか、そんな絶叫を私たちに浴びせる。


「う、うるさいっ!」

「こ、これはっ――――」
「な、なんだこいつっ!?」
『がるるるるっ!』


 私たちに向けられたその絶叫に、思わず顔をしかめてしまう。

 途端に、その巨体が、


「っ!? 消えたっ!」

 
 その咆哮の後、巨体は洞窟の入口から消えていた。
 

「スミカお姉さまっ! 後ろですっ!!」
「うん、わかってるっ!!」


 ブフォンッッ!!!!


 ガギィッンッ!!


 私は咄嗟に、横薙ぎされた石斧の直撃を透明壁を展開して防ぐが、

「っとっ!!」

 衝撃を抑えきれずに、地面と平行に森に向かって飛ばされる。


「スミカお姉さまっ!」
「スミカ姉っ!」

「大丈夫っ!」

 叫ぶ二人に返事をしながら、すぐさま、透明壁を飛ばされた方向に設置する。


 ダンッ!

 飛ばされた私は、空中で態勢を整えて、透明壁の足場に着地し、

 タンッ!

「お返しだっ!」


 その着地した足場を蹴ってトロールに跳んで行き、円柱形のスキルを頭部に叩きつける。


 ブンッ!

 ガンッ!

「っとぉっ!」

 だが私の円柱スキルは、難なく巨大な石斧でガードされてしまった。
 が、今はこれでいい。

 なぜなら、

 ドゴォォォンッッ!!

『グオォォッッッ!!』


「よしっ! 直撃だぁっ!」


 私の攻撃を頭上で止め、ガラ空きの脇腹には、ゴナタが石斧にも負けない巨大なハンマーを打ち付けていたからだ。

 私は素早いアイツの動きを止める為、攻撃を囮に切り替え、わざとガードさせていた。

『グガァ――――ッ!!』

 ゴナタの超重武器の攻撃で、その巨体が真横に吹き飛ぶ。
 相変わらずの、その威力に「やるねっ!」と感嘆の声を短く上げる。

 だが、私たちの攻撃はこれだけでは終わっていなかった。

 トロールが飛んでいった先には、

 シュッ!

 グサッ!!

『グガァ――――ッ!』

 ナゴタが俊敏の能力で先回りをし、トロールに追撃をしていたからだ。
 背後から攻撃を喰らった巨体の胸からは、ナゴタの両剣の刃先が突き出していた。


「スミカお姉さま、ゴナちゃん、ありがとうございますっ!」

 後ろからは、ナゴタの弾むような返事が帰ってくる。

 だが更に、私たちの攻撃は続く

『がうっ!』

 グサ、グサ、グサッ!

 次いで、止めとばかりにシルバーウルフの氷柱3本が胴体に突き刺さる。


『グォォォッッ!!』
 

 そんな私たちのコンボを喰らっても尚、トロールは雄たけびを上げ、両剣を突き刺したままのナゴタに振り向き、石斧を振るう。


 シュ ―ン

「やはり普通ではないのですね? あのトロールは」
「やっぱり普通とは違うの? あのトロールは」

 トロールの一撃を難なく回避し、合流したナゴタに聞いてみる。

「はい。まず大きさがあり得ないですね。普通の個体は大きくても10メートル前後です。それに、トロールは自己再生能力を持っていますが、私たちから見たらさほど脅威ではないです。そこまでの能力ではないので、ただ、あのトロールは――――」

 ここまで告げて、視線をトロールに移す。

「―――ただあのトロールは、私やナゴちゃんが付けた傷と、シルバーウルフの氷柱の傷も既に塞がっています。私が突き刺したのは心臓です。それでも即死する前に再生してしまったあの能力は異常過ぎますね」

 鋭い視線を浴びせながら、油断なく武器を構え直す。

「あと、あの異常な速さだよなっ! ナゴ姉ちゃんほどじゃないけどさっ!」

 次いで、妹のゴナタも付け加える。
 あの異様とも言える、トロールの能力について。

 タッ ――

「っ!!」

 そんな話をしているうちに、トロールはまたもや姿を消す。
 あの巨体ではあり得ない動きだ。

「そこぉっ!」

 今度はゴナタの後ろに現れたトロールに、20メートルで展開したスキルで、巨体を真横からぶん殴る。
 重さは1機の最大の5tにしてだ。


 ドゴォォ――ンッッ!!

 『ブフォッ!!』

 ズザザ――

 トロールは、重さを最大にした透明壁の一撃で、全身を打ち付けられ飛んでいくが、途中で倒れることなく踏ん張り、鋭い視線で私たちを見据える。


『って、これでも回復するんだ。今の一撃で最大なんだよ?』

 全身の骨を砕いたはずが、即座に回復したようだ。
 ブンブンと腕を振り回し、石斧を構えてこちらを伺っている。

『…………やっぱり、あの腕輪の特殊な力で、全体的に能力が底上げされてるってわけかぁ。厄介なのはあの自己再生の速さと、あの巨体での俊敏性かな。馬鹿力は当たらなければ怖くないし――――』

 
 
「うおぉ~っ! 今度こそぶっ飛べっ!」

 ゴナタが、回復したばかりのトロールに間髪入れず攻撃を仕掛ける。
 だが、その攻撃は素早い動きで躱され、逆に背後を取られる。


「見えてますよっ!」

 ただしその現れた先にはナゴタが回り込んでいた。

 そして演舞のような攻撃で両剣を振り回し、トロールを切り刻んでいく。
 

『グガァ――――っ!!!!』

 ナゴタの苛烈な攻撃に、トロールは防御が間に合わず、速度でかく乱しようとするが、その後ろにもナゴタは回り込み「ザシュザシュ」と肉や血飛沫を撒き散らせる。

『グゴァ――――っ!!!!』

 それでもトロールは倒れない。
 切り刻まれた傷口を、泡状の物が覆った時には、すぐさま回復していた。


「ナゴ姉ちゃんっ! 足を狙ってくれっ!」
「うん、わかったわっ!!」

 そのゴナタの掛け声で、ナゴタは足に攻撃を集める。


 ザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッ!

『グガォ――――ッ!』

 巨体を支える野太い脚に、ナゴタの斬撃が集中する。
 またもや肉片が飛び散り、血飛沫が舞い、辺り一面を血の色に染める。


 その執拗で壮絶なナゴタの連撃に、遂に、

 グラッ

 トロールも態勢を崩す。
 ナゴタの攻撃が、回復速度を一瞬だけ上回ったようだ。


「ありがとっ! ナゴ姉ちゃんっ!」

 ダダダッ

 動きを止めたトロールに向かって、ゴナタが地を蹴る


「ゴナタっ! トロールの頭を狙ってっ! そこまでの足場は私が用意するからっ! ナゴタはそのまま、足に攻撃を集中させておいてっ!」


 私はトロールに向かうゴナタにそう指示を出し、視覚化したスキルを展開する。

「それに乗って飛んでっ!」

「うんっ! わかったぞっ!」

 妹のゴナタは、巨大武器を構えたまま、私のスキルを足場にして跳躍し、


「んんんっ ――――」

 グルングルンと空中で、コマのように回転する。

「いっ、くぞぉ~っ!――――」

 回転による遠心力と超重の武器、それにゴナタの人外の膂力が加わった、重く鋭く速く、凶悪で理不尽な、その一撃は――――


 ボゴォ――――ンッ!

 グジャァ――――ッ!

 巨大トロールの首を木っ端みじんに吹き飛ばしていた。
 すると首を無くした巨体は、次第に傾き地面に倒れ込む。

 ズズゥ――――ン


「はぁはぁ、やったぞっ! ナゴ姉ちゃん!」
「ハァハァ、お見事ね、ゴナちゃんっ!」

 二人は息を切らせながら、お互いを健闘し合っている。


 それでもその目は、首のない倒れ込んだトロールから目を離さない。
 こんな状況でも油断せず、事の成り行きを見守っている。


『さすがだね、二人とも。あのトロールを殺しきるなんて』

 そんな二人に視線を移し、心の中で賛辞を贈る。
 ナゴタの回復を上回る連撃と、首を吹き飛ばすゴナタの最後の一撃に。


 ただ――――

『ただ、あのトロールが普通のトロールだったら、終わってたんだけどね』

 索敵モードを見ながら「はぁ」と短くため息をついた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...