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SS双子姉妹の追想

おかしな魔物との遭遇

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 『敵意がないなら、少し様子見ようか。私たちをスキルで囲えば、危険はないしね』

 そう考えてその生物が来るであろう薄暗い森の先を注視する。


「早いっ! 来るよっ! 二人ともっ!」

「はいっ!」
「おうっ!」


 索敵で見ていたが本当に脅威のスピードだ。
 グングンと森の中を抜けてきている。


「相手はかなりの速さだから死角にも気を付けてっ! それと木々の上からもっ!」

「はいスミカお姉さまっ! 速さ勝負で私には勝てませんよっ!」
「そんなに速いのかっ! 一体何者なんだろうなっ!」

 姉のナゴタは、速いと聞いて舌なめずりをし、
 妹のゴナタは、その正体に興味深々みたいだ。


「あ、ごめん、一つ言い忘れてたんだけど、あまりこの森の生物形態を崩したくないから、最初は様子見でお願い。私が魔法でこの一帯を囲むから敵意があったら倒しちゃう方向で」


 二人にそう告げる。
 こうでも言っとかないと速攻で死体が出来そうだったから。


「え? でしたらその魔物らしき者を直接囲めばよろしいのでは?」

 姉のナゴタが至極当然のように言ってくる。

「それだとこっちから攻撃をされたと思って、私たちが敵だと認識されちゃうでしょ? だったら、私たちを囲んで中から様子を見た方がわかりやすいよ」

 姉のナゴタの疑問に私はそう答えた。

「な、なるほどっ! さすがスミカお姉さまですねっ! お強いだけではなく大変に思慮深いですね!」

「うんっうんっ!」

 それを聞いた、姉のナゴタはキラキラした目で見つめてくる。
 妹のゴナタは、コクコクと首を振っているだけだった。


『う~ん』

 さっきも同じやり取りをやってたような。


「来るよっ! 南西の方角っ! あと5秒っ!」

「はいっ!」
「うんっ!」

 そう叫んで、打ち合わせした通りに透明壁スキルで囲む。

 よん秒っ!

 さん秒っ!

 にぃ!

 いちっ!

 ぜろっ!!


 ガサガサッ!!


『くぅ~~ん、くぅ―んっ』


「……………………」

「……………………」
「……………………」


 森の中から現れたそれは、鼻をクンクン鳴らしながら、私たちを囲む透明壁の周りをグルグルと何かを探すように周回している。


「シルバーウルフですね。まだ子供みたいですが…………」


 何が来るの、身構えていた私たちは、その姿に拍子抜けしてしまう。
 そしていち早く我に返ったナゴタが、その生物を見て魔物の名前を教えてくれた。

「シルバーウルフ? それって人を襲ったりしないの? てか、この大きさでまだ子供なんだ」

 グルグルと地面をクンクンして周っている魔物を観察してみる。

 シルバーって言うくらいだから、体毛はグレーの長くてキレイな毛皮だった。

 子供って言っても、前足や後ろ脚は私たちよりも3倍以上は太く、体長は2メートル以上はありそうだった。


「はい、これでもまだ子供ですね。大きくなると個体差はありますが倍くらいの大きさになりますから。それと基本的に人は――――」

「あっ! ナゴ姉ちゃんっ! ワタシにも説明させれくれよっ! あのなっ! スミカ姉――――」

 ナゴタが丁寧に説明していると、なぜかゴナタが脇から割って入って来た。


「ふふっ、いいわよゴナちゃん。それじゃお願いね」
「うんっ! ありがとうナゴ姉ちゃんっ! スミカ姉シルバーウルフってのはさ――」

 なぜかナゴタに説明を譲り受けたゴナタ。 
 そんなゴナタの説明が始まる。ちょっとだけ嬉しそうだった。
 

――――――

 個体名:シルバーウルフ
 
 西の大陸に主に生息するオオカミの魔物の一種。

 数頭の群れ、もしくは親族同士で行動することが多い。
 長いシルバーの体毛と群青色の瞳が特徴。
 性格は、非常に穏やかで、強い忠誠心を持つ。

 攻撃力は非常に高く、その脅威の速度で攪乱し、
 鋭い牙と爪で獲物を狩る。
 頑強なので、その速度の体当たりも非常に強力。


 以上。ゴナタの魔物図鑑でした。


――――――


「シルバーウルフ、ね。良く分かったよ。説明ありがとうナゴタとゴナタ」

「はいっ! これぐらいお安い御用ですっ!」
「うんっ! それとこちらから攻撃しなければ基本は大人しい魔物なんだっ! 頭もいいしなっ!」

 姉妹とも私にお礼を言われて満足げに見える。
 妹のゴナタは得意げだ。更に追加情報まで話してくれた。


『うん、こっちからちょっかい出さなければいいんだ。だったら害ははなさそうかな? にしても、毛並みもきれいでホワホワしてそうだね。顔もなかなかに凛々しいし、瞳もルビーみたいな真っ赤で神秘的にも見える。ん、あれ? ゴナタの説明で「群青」って言ってなかった? まぁ色はこの際どうでもいいや。害意がなければどちらでも』


 相変わらずシルバーウルフはスキルの周りをグルグルしている。


 まあ、これなら問題ないかな?


「それじゃ、魔法壁を解くよ。一応警戒だけしておいて」

「はい、お願いします。スミカお姉さまっ!」
「うん、よろしくスミカ姉っ!」

 二人の返事を確認して透明壁スキルを解除する。


『わう?』

 すると、地面をクンクンと嗅ぐように鼻を鳴らしていたシルバーウルフは、その下げていた首を持ち上げて私たち三人を視界に収める。

 そしてまた『くぅ~ん』と一鳴きしたと思ったら、


「????」

「えっ??」
「んっ??」


 シュタタタタッ――――


 私たちの周りを「ハッハッハッ」と息を吐きつつ駆け周り始めた。
 よく見るとフサフサの太い尻尾がブンブンと振られている。


「………………このオオカミは何してんの?」

 この魔物の行動の意味がわからず姉妹に聞いてしまう。

「…………なんか喜んでいる様に見えませんか? このシルバーウルフ」
「…………そうだなぁ。なんかめっちゃ尻尾振ってるもんなっ!」


 さすがの姉妹にもハッキリとした答えは分からなかったようだ。

 ただなんとなく雪の上を喜び走る犬を想像してしまう。
 雪やコンコの。


 私たちはグルグル周る犬、でなはくオオカミに見惚れてると、


『わふぅっ~!』

「え?」

 雄叫びらしい緩い声を上げ、軌道を変えこっちに向かってきた。
 その目は三人の中の私を映していた。


 シュタッ!


「えっ! スミカお姉さまっ!」
「スミカ姉っ!?」


 ガシッ!


「っと、心配しないで、何とか受け止めたから。それと敵意はないし」


 私は飛び掛かってきた大きな毛皮を咄嗟に受け止めた。
 シルバーウルフの脇に手を差し入れて。

 そして迎撃しなかった理由は、どう見ても敵意らしきものを感じなかったからだ。

 現に私が受け止めた後も「ハッハッハッ」と言うだけで、牙や爪なんかも出してこない。

 ただ受け止めてはいたけれど、体が大きいこの魔物はしっかりと地面に後ろ脚が付いているた。別に私が小さ過ぎる訳ではない。


「ちょっ、くすぐったいよっ! ペロペロ舐めないでよっ!」


 シルバーウルフは覆いかぶさるように体重を掛けながら、顔全体を舐め上げてくる。体も大きいせいか、舌も大きくザラザラしていて、ひと舐めで私の顔半分をベロンとしてくる。

『わふぅ~!』

 ペロペロ

「て、もういいでしょっ! いい加減にどいてよっ! あ、ちょっと一体どこ舐めてるのよっ! もう調子に乗ってっ! な、なんでそんなところまでっ! んんっ~~っ!」


「えっ!? ちょっとスミカお姉さま?」
「スミカ姉?」

「だ、大丈夫っ! ただ変なとこまでペロペロしてくるからびっくりしただけっ!」

 私の姿はシルバーウルフの大きい体に隠れて見えないであろうから、心配しないでと姉妹にそう声を掛けておく。


「ス、スミカお姉さまがそう言うならいいですけど。でも へ、変なところペロペロされても大丈夫なんですか? そ、そのぉ~~」

「あわわわわっ! ス、スミカ姉が~~~っ!」

「いや、違うからっ! 変ってそう意味じゃないからっ!」

 私は首筋を舐め上げられて、くすぐったくて声を出しただけだ。
 決して姉妹たちが考えている変なところではない。


 そして私が変なところと言った理由。
 それは普通は首筋なんて舐めないであろうと思ったからだ。


 しかも執拗に同じところの臭いを嗅いで、舐め上げてくる。
 それは敵意なんか全くなく、むしろ嬉しそうにも見える。


 まるで会いたかった飼い主にでも会えた、かのように……


「ちょっと、ナゴタとゴナタもこっちに来てくれる?」

「は、はいっ! スミカお姉さま」
「う、うん、わかったよスミカ姉っ!」


 私はシルバーウルフに揉みくちゃにされながら二人を呼んだ。


 『予想が、正しければきっと――』


 もしかしたらユーア自身も知らない謎の能力もわかるかも。

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