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SS双子姉妹の追想
絶対的存在とスミカの絶叫
しおりを挟む※前半は姉妹の心境の変化の回想になっています。
後半より、スミカ視点のお話に戻ります。
――――――
姉妹の回想
『それで、話は最初に戻るんだけど、楽しかったの? ふたりとも』
数度も繰り返されたお尻叩きの痛みでの感覚が麻痺し出した頃、この人はそう話を切り出す。
最初の話に――――
『ああ、ちょっと待って、それじゃ痛くて話せないでしょ?』
そう言って、何かを取り出し私たち姉妹に使用する。
それはさっきも私たち姉妹に使ってくれた回復薬だろう。
ただその効果は異常過ぎる。こんなもの見た事もない。
そんな高価なものを、惜しげもなく使うこの少女は本当に何者なんだろう。
『これで痛くないでしょ。で、さっきの続きなんだけど』
「そ、それは―― 楽しくはなかったんです。あんな事が……」
「た、楽しいと思った事はなかった―― 少し辛かった、か、も」
そう。
よくよく考えたら、あんなものが楽しいわけがない。
そもそも、楽しんでなんてやる事ではない。
『ふうん。それじゃ、死んじゃった両親は楽しそうに冒険者してた?』
「はい、それはもうっ。子供の頃はよくお話ししてくれました……」
「うん、ワタシたちも楽しみにしてたっ」
『そう。それでそんな両親に憧れて冒険者になったんだよね?
「はいっ!」
「も、もちろんっ!」
『だったら同じことしようよ。冒険者じゃくてもいいから、なんか楽しく思える事をさ』
「そ、そう、です……け…… ど――」
「…………それは、そう、だけど――」
この人の言いたい事は少しだけわかる。
わかるけど、子供の頃から両親を追いかけてここまで来たんだから、今更楽しめる事なんて出来ないと思った。
「………………」
でも、両親を追いかけて、ナゴタと一緒に特訓をしていた頃は「楽しかった」
ふとそんな思い出が、脳裏をよぎる――――
『それに私だって、これ言っちゃうと不幸自慢みたいで嫌なんだけど。両親も、妹も、一緒に亡くしてるんだよね。まあ、あなた達とは事情が違うけど……』
「えっ!? い、妹もですかっ!」
「………………」
この人も大切な人を一度に失くしている。
しかも妹も一緒にだなんて――――
『その時に、私は何も出来なかった。ただ逃げて自分に閉じ籠っていただけ。その点、あなたたちは姉妹なんだから、その時に何か話し合って欲しかった。これまでの行動と、これからの行動の事をね。せっかく二人いるんだから、それが出来た筈なんだよ』
「それは、きっと、そう……で、すね――」
「話し合う……」
もし、この人の言う通り、私がそれに気づいて、ナゴタとも話が出来てたら、もしかしたら、もっと他に何か方法が見付けられたの?
『まあ、その後。私はある事が切っ掛けで、ある人に救って貰ったんだけど、その時に何となく、気付いたんだよね。このままじゃダメなんじゃないかなって、損してるだけなんだって』
「あなた程の強者を救える方が………… それと『損してる』とは?」
「……ここままじゃ、ダ、メ――」
『だって、損しちゃうじゃない? まだまだ人生長いんだから、楽しんだ方が勝ちだって。だから、今私は楽しんで生きている。あと何十年も生きるんだもん。それと目標?義務? もできたしね』
「でも、私たちが今までしてきた事を変えて、急に許せる人なんて……」
「うん、絶対に絡まれるよ。ワタシたちの今までの事を考えるとっ!」
『なら、今すぐに変える必要はないよ。とりあえずは両親のやり残した事を追いかけながらでも探せばいいんじゃない? それが罪滅ぼしにもなるし。それでもガヤガヤ言ってくる奴がいたら、私が守ってあげるよ。まあ、何か危険があっても、あなたたちに敵う奴なんて、そうそういないから、守るってのはあまり意味ないけど』
ガバッ
「えっ」
「あっ」
そういってこの年下の少女は、私たち姉妹を優しく抱きしめてくれた。
そして耳元で、囁くように続けてこう言ってくれた。
『だから、しばらくは私についてきなよ。なんか楽しい事、やりたい事、見つけるのを手伝ってあげるからさ。でも、今までの事も忘れちゃダメだかんね。それもあなたたちの生き方の一部だったんだから』
「――――――――あ」
――――――不思議な感じがした。
そうじゃない。
懐かしいと感じた。
この少女に抱かれていると、力が抜ける、ホッとする、安心する――
まるでお父さんとお母さんに抱かれているような、幸福感――
そんな温もりを与えてくれる。
この少女に、私たちは――
「…………は、い、私たちは、あなた、に、――ずっと――」
「…………う、ん、ワタシとナゴ姉ちゃんは、――あなたに――」
『あ、それと、まだお説教終わってないから。私はもう少し、その弾力を――― じゃなかった。まだ、叩き足りないんだよね?』
そう言って、ガバっと私たちから離れて「シュッ、シュッ」と素振りを始める。
手首がどうとか、角度がどうとか、手触りがどうとか言いながら。
「ッッッッッッ!!」
「っっっっっっ!!」
この私たちより小さい少女は、何を考えているのか本当に良く分からない。
こんな少女のかわいい容姿と、幼い体なのに、もの凄く腕がたつ。
考え方も、その立ち振る舞いも少女のものでは決してない。
パァ――ンッ!! パァ――ンッ!!
スリスリ、モミモミ、――――
パァ――ンッ!!
――――――
未だ繰り返される謎のお尻叩き。
もう、お説教なのか趣味なのかなんだかよくわからない。
でもそんな痛みに耐えながら私は思った。
『この人には敵わない。全てに於いて――――』
そんな特異な存在なんだと。
そもそも私たちと比べる事自体、おかしい話だったのだ。
誰もトカゲとドラゴンの強さなんて比べるはずがない。
種族は似ていても、そこには絶対に埋められない、そんな――
根本的な差があるのだから。
それほどの次元の違いなんだと、私は心からそう思った。
◆◆
その頃、澄香はオークの回収を完了して姉妹の元へ急いでいた。
「ちょっと思ったより時間かかっちゃった。さすがに死体は索敵に映らないからね。ユーアは喜んでくれるかな?」
なんて、その受け答えをちょっと想像してみる。
『スミカお姉ちゃんっ! ボ、ボクの為に取ってきてくれたんだね大好きっ!』
ガバっと、私の豊満な胸に抱き着いてくるユーア。
『ありがとうスミカお姉ちゃん! お礼に今度スミカお姉ちゃんが好きな衣装着てあげるねっ!』
頬を染めて、ちょっとはにかんだ笑顔で答えるユーア。
『ありがとうっスミカお姉ちゃん。ボクの為にお肉取ってきてくれてっ! ボ、ボクのお肉も、ど、どうぞ?』
なんて、真っ赤になって、内股をもじもじさせるユーア。
「……………………早く帰りたい」
そんな想像を膨らませながら、姉妹のいる透明スキルの前に到着した。
「そういえば治療もまだだったから痛くて騒いでいるかも。もしかしたら閉じ込めたままだったから、怒ってたりしてね。トイレにもいけないし…………」
透明スキルに異常がない事を確認してから、スキルの展開を解除した。
途端――――
「おかえりなさい、お姉さまっ!」
「おかえりなさい、お姉っ!」
そこには、三つ指ついて、平身低頭する姉妹の姿があった。
「…………ええええええええっ――――!!」
私は姉妹のその変わり様に、普段滅多に上げない絶叫をあげる。
『な、何っ!?』
何が、どうなって、ってそれより『お姉さま』ってなにっ!?
私の方が見た目、年下なんだけどぉっ!!
本来の目的は、私という絶対的存在をわからせることだった。
まあ、途中で私情も入って、お説教にモードになっちゃったけど、
結果、私に敵意を向けなければ、特に問題はないはず。だよね?
「………………」チラッ
今は顔を上げて、私を見つめている姉妹を観察してみる。
特に姉妹の目には、私に対する敵意などないように見える。
寧ろ少し目元が潤んでいる様にも見える。
『………………なら、まあいいか?』
私はそんな姉妹を見下ろしながら、姉妹のお尻の治療の為に、アイテムボックスより、リカバリーポーションを取り出す。
よく見ると、妹だけなんか下着姿だった。
『………………?』
白のピチTと下着姿。うん。まあ。
私がいない間に、二人に何があったかはわからない。
けれど、きっと良い変化なんじゃないかと思う。
二人の笑顔には、最初に感じた翳りのようなものは、少し薄くなってきているように見える。本来の笑顔に戻るのは、そう遠い事ではないだろうと、今の姉妹を見て私はそう思った。
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