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SS双子姉妹の追想
二人の笑顔とお説教
しおりを挟む※今回は、姉妹を中心にしたお話になります。
澄香にお仕置きされた双子の出来事と心情になります。
「ま、まだ、痛いかいっ? ナゴ姉ちゃん」
「え、ええ、まだヒリヒリするわ」
私たち姉妹は、目を覚まし、お互いにお尻の治療を行っている。
赤く腫れあがってしまった、酷い有様のお尻を。
「はぁ、お尻の治療に、高レベルな回復薬を使わなきゃならないなんてね――――」
思わず、そんな愚痴が口から出てくる。
「しかも、回復薬でも完治しないなんて、あの方はどれだけの力で叩いたのかしら? しかも、私たちが起きたら、魔法壁はそのままでいなくなってしまってるし」
「ナゴ姉ちゃん、それじゃ一応塗り薬も塗るよっ!」
「え、ええ、お願いね」
私は妹に、お尻を向けたままそう答える。
正直かなり恥ずかしい。妹にこんな醜態を見せるなんて。
こんなお尻丸出しでは、姉としての沽券にも関わってくる。
「い、いたっ!」
「ご、ごめんよっ! ナゴ姉ちゃんっ! これでもそっと塗ってるんだよ」
「う、うん、いいから気にないで続けて。私が終わったら、次はナゴちゃんも治療するから、もうちょっと我慢しててね」
「うううっ、痛いのはっ、いやだなぁっ!」
「仕方ないでしょ。ほっといたら、中々治らないんだから」
■
「はいこれで終わりよ。どうゴナちゃん。少しは楽になったでしょう?」
そう言って、まだお尻を向けている妹に声を掛ける。
回復薬、それと塗り薬を塗って治療したが、まだ赤く腫れ上がっていた。
それでも随分と、痛みは和らいだはず。私がそうだから。
「うん、ありがとうナゴ姉ちゃんっ。かなり痛みは治まったよっ!」
「そう、それは良かった。それにしても、あの方は一体どこに行ってしまったのかしら? 私たちを閉じ込めたままで―――― ま、まさかっ、このままっ!?」
あの方は、私たちが目を覚ました時にはいなくなっていた。
体を押さえつけていたものはなくなっていたけど、まだあの人の、魔法の壁らしいものの中に閉じ込められたまま、ここから出る事も出来ない。
『――――――』
それとなんか、気を失う前と魔法壁の模様が変わっっているけど……
もしかして、私たちをこのままにして餓死させようと――――
「そんな事あの方は絶対しないよっ。ナゴ姉ちゃんもそれは分かってるだろ? あの強さなんだ、こんなまどろっこしい事なんてしなくても、ワタシたちなんかひと捻りだよ。だってあの人、あんなに強かったのに全然本気じゃなかったもん。まだまだかなりの実力を隠してるよあの人は…………。それよりもナゴ姉ちゃん、ワタシ困ってるんだぁ――――」
「うん。本当はわかってた。あの方はこんな卑劣な事はしないって。っで、ゴナちゃんどうしたの?」
未だに下に衣服を履かない下着姿の妹に視線を向ける。
「どうしよう、ナゴ姉ちゃん、ワタシ、ズボンが履けないんだっ! 腫れが酷くてズボンが入らないんだよおっ!」
「……………………」
「ナゴ姉ちゃんはいいよ、ドレスだからっ! でも私はピチッとしたハーフパンツなんだよぉ、腫れてて、痛くて、履けないんだよぉ――――っ!」
ゴナタはそう言って、無理やり履こうとするが、途中で痛みと、腫れが原因で、ちょっと顏をしかめてしまう。「ううっ無理っだよぉ!」なんて呟きながら。
そんなゴナタを見て、
「……………………クスッ!」
「ナゴ姉ちゃん?」
「フフフフフッ、あ、あははははっ――――!!」
「ナ、ナゴ姉ちゃんっ!?」
「はぁ、はぁっ、ご、ごめんね、ゴナちゃん、つい、その、面白くて、笑ってしまって、本当に、ごめんなさいねっ」
不覚にも声を上げて大笑いしてしまった。
痛くてゴナタが困っているのに。
私ったら、なんて、ゴナタに可哀想な事を……
「………………楽しかったの?」
笑われたゴナタは無表情で、私にそう問いかけてきた。
「ご、ごめんね、ゴナちゃん、そんなつもりじゃ私っ――――」
私はちょっと驚いて更に謝る。
ゴナタが私にそんな態度をするなんて、と若干驚きながら。
でも、ゴナタは表情を崩して、
「………………良かったぁ」
「良かった?」
「うん、ナゴ姉ちゃんが楽しそうで良かったっ! わははっ!」
そういってナゴタは、向日葵のような「ぱあっ」と無邪気な明るい笑顔で私に答えるのだった。
「っ!?――――」
――――忘れていた、そしてそれを今思い出した。
妹のゴナタの、この笑顔を久しく見ていなかった事に。
この笑顔はきっと、あの酒場での出来事以前のゴナタ本来の笑顔だろう。
私はそんな妹の笑顔を忘れていた。
いつの間にかその笑顔が私の前から、消え去っていた事に。
『――――――』
そして、それはきっと私も同じだろう。
だから、私は――――
「うん、楽しかったっ! でも笑ってしまってごめんなさい、ゴナちゃん」
と、笑顔で答えるのだった。
「――――――――ふふっ」
「――――――――ははっ」
「うふふふふふっ!――――――――」
「あはははははっ!――――――――」
私たち姉妹の忘れていた笑顔と、笑い声が夜の森に木霊する。
こんなに笑ったのはいつ頃だろう。
こんな何気ない事で笑えたのはいつ以来だろう。
これを思い出させてくれたのはあの人。
私たち姉妹を、本気で叱ってくれたあの人。
そして、今まで聞いたこともない、おかしなお説教。
それでも私たち姉妹の心の奥底に、厳しくも、深く暖かく染み渡った。
「あのね、ゴナちゃん。あの人の事と、これからの事なんだけど」
「うん、ナゴ姉ちゃん。ふたりで話し合おうよっ!」
それから私たち姉妹は、あの人の言う通り話し合いの為、口を開く。
意志疎通なんて曖昧なものではなく、キチンとした言葉で相談し合う。
それは、あの人が帰ってくるまで続いた。
□□
『ねえ、二人とも。そんな事してて楽しいの?』
私たちの事を散々聞き出した後で、あの人の話はそんな一言から始まった。
もちろん、そんな戯言に、私たちは怒りを覚えた。
楽しい?
私たちの境遇を知ってもなお、そんな軽口を言う、この少女に憎悪した。
「はっ! ふざけた事言わないでっ! 楽しいわけなんてないじゃないっ! 私たちが、一体どれほどの想いをっ―――――!!」
「そうだっ! 楽しいとか楽しくないとかそんなのは関係ねえっ! ワタシたちがそうしなきゃならないと思ったから、そうしたんだっ! それを――――!!」
この正体不明の少女には、私たち姉妹の力は遠く及ばない。
今までなんでも力でねじ伏せてきた、この力が、この少女には通じない。
それでもその一言に我慢が出来なかった。
敵わないと思っても、死を賭してでも立ち向かっていきたかった。
私は、私と妹の想いを守りたかった。
ただ、それすらも叶わない。
私たち姉妹は、見えない何かに押さえつけられているのだから。
妹の能力でさえ、それは破壊できない代物だった。
そしてまた――――
パァ――――――――ンッ!!!!
パァ――――――――ンッ!!!!
「イッ!?」
「いたッ!?」
今は背後の見えないお尻を強打されている。
そして、たまに、
サワサワ
スリスリ
と、撫でられる。
これが良く分からなかった。
「………………~~ッ!」
「………………~~っ!」
『あのさぁ、今まで聞いてて思ったんだけど、あなた達って、姉妹でちゃんと話し合って、今までやってきた事を決めたの?』
合間にそんな事を聞いてくる。
「わ、私たちは双子なのよっ! 妹が考えている事なんて、聞かなくてもっ――」
「ワタシたちはずっと一緒だったっ! だから、そんな事しなくてもっ――」
それを聞いた少女は、ツカツカと私たちの背後から歩いてきて正面に回る。
『いいから、そう言うのじゃないから。双子だから意志疎通ができる? そんなのは信じてないから私。言葉にしないと全ては伝わらないから』
腕を組み、私たちを見ろしながらそう告げた。
『それで、どうなの?話し合ったの、合わなかったの?』
「………………」
「………………」
『返事が無いって事は、お互いに何も話してないね。だったら――――』
パァ――――――――ンッ!!!!
「痛っ!」
『だったら、一番悪いのは、姉のあなただよっ!』
そう言って、未だ私たちの前で腕を組みながら、その少女は私だけに向かってお尻を叩きあげる。今度はその不思議な魔法の力で。
『なんで、あなたは、そんな事にも気付かなかったの』
「えっ!?」
パァ――――ンッ!!!!
『なんで、姉のあなたが、止めなかったの』
「くっ!?」
パァ――――ンッ!!!!
『なんで一緒になって妹と間違った事してんの?』
『なんであなたは守らなかったの―――――』
『なんで姉のあなたが、もっと考えて――――』
パァ――ンッ! パァ――ンッ! パァ――ンッ!
「っ!!」「っ!!」「っ!!」「っ!!」――――
私はその少女の慟哭にも似たお説教に何も言い返せなかった。
この少女の言う通り、お父さんとお母さんの子供以前に、
私はこの可愛い妹の『姉』だったのだから。
「ちょっ! も、もう、やめてくれよっ! それじゃナゴ姉ちゃんが全部悪いみたいじゃないかっ!」
隣のナゴタが、いつまでも苦痛に与えられている私に我慢できなかったのか、庇う様にその少女にそう叫んでくれた。
『え? そうだよ。最初から全部、あなたのお姉ちゃんが悪いんだよ』
それを聞いて、あっけらかんと答える少女。
「………………」
「………………」
『お姉ちゃんとして妹の間違いを叱らなかった、このお姉ちゃんが悪いんだよ』
「だ、だからって何も全部ナゴ姉ちゃんがっ! だったら妹のワタシはどうしたらっ!」
『お姉ちゃんに甘えたらいいよ。妹の特権だもん』
「………………えっ?」
「………………はぁ!?」
『あ、ごめん。間違った』
「………………」
「………………」
『今回ばかりは、妹のあなたも同罪ね』
「…………えッ!」
「…………えええっ!!」
『よく考えたら、二人とも同い年だった。幼い妹ならいざ知らず? い、いや、姉のほうが―― んんんっ?』
今度は「どうなんだろう?」と考え込んでしまう。
一体この少女は何を――――
パァ――――――ンッ!!!!
パァ――――ンッ!!!!
「痛っ!?」
「いたっ!?」
と、またお尻叩きが再開されるが、今度は妹のナゴタも一緒だった。
『やっぱり、姉も妹も同罪だね、でも少しだけ姉の方が悪いから、妹の方は少し加減してあげる』
「~~~~~~ッ!?」
「………………っ!?」
そうして、またお尻への執拗な攻撃が始まる。
でも他人の私たち姉妹に、ここまで真剣に叱ってくれた人は初めてだった。
こんなに私たちの事を他人に話したのも、この人が初めてだった。
私たち姉妹は、両親と祖父が亡くなって以来、初めてお説教をされたんだと気付いた。
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