剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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SS双子姉妹の追想

二人の笑顔とお説教

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 ※今回は、姉妹を中心にしたお話になります。
  澄香にお仕置きされた双子の出来事と心情になります。



「ま、まだ、痛いかいっ? ナゴ姉ちゃん」
「え、ええ、まだヒリヒリするわ」


 私たち姉妹は、目を覚まし、お互いにお尻の治療を行っている。
 赤く腫れあがってしまった、酷い有様のお尻を。


「はぁ、お尻の治療に、高レベルな回復薬を使わなきゃならないなんてね――――」

 思わず、そんな愚痴が口から出てくる。

「しかも、回復薬でも完治しないなんて、あの方はどれだけの力で叩いたのかしら? しかも、私たちが起きたら、魔法壁はそのままでいなくなってしまってるし」

「ナゴ姉ちゃん、それじゃ一応塗り薬も塗るよっ!」
 
「え、ええ、お願いね」

 私は妹に、お尻を向けたままそう答える。


 正直かなり恥ずかしい。妹にこんな醜態を見せるなんて。
 こんなお尻丸出しでは、姉としての沽券にも関わってくる。

   
「い、いたっ!」

「ご、ごめんよっ! ナゴ姉ちゃんっ! これでもそっと塗ってるんだよ」

「う、うん、いいから気にないで続けて。私が終わったら、次はナゴちゃんも治療するから、もうちょっと我慢しててね」

「うううっ、痛いのはっ、いやだなぁっ!」

「仕方ないでしょ。ほっといたら、中々治らないんだから」







「はいこれで終わりよ。どうゴナちゃん。少しは楽になったでしょう?」

 そう言って、まだお尻を向けている妹に声を掛ける。

 回復薬、それと塗り薬を塗って治療したが、まだ赤く腫れ上がっていた。
 それでも随分と、痛みは和らいだはず。私がそうだから。


「うん、ありがとうナゴ姉ちゃんっ。かなり痛みは治まったよっ!」

「そう、それは良かった。それにしても、あの方は一体どこに行ってしまったのかしら? 私たちを閉じ込めたままで―――― ま、まさかっ、このままっ!?」


 あの方は、私たちが目を覚ました時にはいなくなっていた。

 体を押さえつけていたものはなくなっていたけど、まだあの人の、魔法の壁らしいものの中に閉じ込められたまま、ここから出る事も出来ない。

『――――――』

 それとなんか、気を失う前と魔法壁の模様が変わっっているけど……

 もしかして、私たちをこのままにして餓死させようと――――


「そんな事あの方は絶対しないよっ。ナゴ姉ちゃんもそれは分かってるだろ? あの強さなんだ、こんなまどろっこしい事なんてしなくても、ワタシたちなんかひと捻りだよ。だってあの人、あんなに強かったのに全然本気じゃなかったもん。まだまだかなりの実力を隠してるよあの人は…………。それよりもナゴ姉ちゃん、ワタシ困ってるんだぁ――――」

「うん。本当はわかってた。あの方はこんな卑劣な事はしないって。っで、ゴナちゃんどうしたの?」

 未だに下に衣服を履かない下着姿の妹に視線を向ける。


「どうしよう、ナゴ姉ちゃん、ワタシ、ズボンが履けないんだっ! 腫れが酷くてズボンが入らないんだよおっ!」

「……………………」

「ナゴ姉ちゃんはいいよ、ドレスだからっ! でも私はピチッとしたハーフパンツなんだよぉ、腫れてて、痛くて、履けないんだよぉ――――っ!」

 ゴナタはそう言って、無理やり履こうとするが、途中で痛みと、腫れが原因で、ちょっと顏をしかめてしまう。「ううっ無理っだよぉ!」なんて呟きながら。


 そんなゴナタを見て、


「……………………クスッ!」

「ナゴ姉ちゃん?」

「フフフフフッ、あ、あははははっ――――!!」

「ナ、ナゴ姉ちゃんっ!?」

「はぁ、はぁっ、ご、ごめんね、ゴナちゃん、つい、その、面白くて、笑ってしまって、本当に、ごめんなさいねっ」

 不覚にも声を上げて大笑いしてしまった。
 痛くてゴナタが困っているのに。

 私ったら、なんて、ゴナタに可哀想な事を……


「………………楽しかったの?」

 笑われたゴナタは無表情で、私にそう問いかけてきた。

「ご、ごめんね、ゴナちゃん、そんなつもりじゃ私っ――――」

 私はちょっと驚いて更に謝る。
 ゴナタが私にそんな態度をするなんて、と若干驚きながら。

 でも、ゴナタは表情を崩して、

「………………良かったぁ」

「良かった?」

「うん、ナゴ姉ちゃんが楽しそうで良かったっ! わははっ!」

 そういってナゴタは、向日葵のような「ぱあっ」と無邪気な明るい笑顔で私に答えるのだった。

「っ!?――――」


 ――――忘れていた、そしてそれを今思い出した。


 妹のゴナタの、この笑顔を久しく見ていなかった事に。

 この笑顔はきっと、あの酒場での出来事以前のゴナタ本来の笑顔だろう。


 私はそんな妹の笑顔を忘れていた。


 いつの間にかその笑顔が私の前から、消え去っていた事に。

『――――――』

 そして、それはきっと私も同じだろう。

 だから、私は――――


「うん、楽しかったっ! でも笑ってしまってごめんなさい、ゴナちゃん」

 と、笑顔で答えるのだった。

「――――――――ふふっ」
「――――――――ははっ」

「うふふふふふっ!――――――――」
「あはははははっ!――――――――」


 私たち姉妹の忘れていた笑顔と、笑い声が夜の森に木霊する。

 こんなに笑ったのはいつ頃だろう。
 こんな何気ない事で笑えたのはいつ以来だろう。


 これを思い出させてくれたのはあの人。

 私たち姉妹を、本気で叱ってくれたあの人。

 そして、今まで聞いたこともない、おかしなお説教。
 それでも私たち姉妹の心の奥底に、厳しくも、深く暖かく染み渡った。


 「あのね、ゴナちゃん。あの人の事と、なんだけど」
 「うん、ナゴ姉ちゃん。ふたりでよっ!」


 それから私たち姉妹は、あの人の言う通り話し合いの為、口を開く。
 意志疎通なんて曖昧なものではなく、キチンとした言葉で相談し合う。


 それは、あの人が帰ってくるまで続いた。



□□



 『ねえ、二人とも。そんな事してて楽しいの?』


 私たちの事を散々聞き出した後で、あの人の話はそんな一言から始まった。


 もちろん、そんな戯言に、私たちは怒りを覚えた。

 楽しい?

 私たちの境遇を知ってもなお、そんな軽口を言う、この少女に憎悪した。


「はっ! ふざけた事言わないでっ! 楽しいわけなんてないじゃないっ! 私たちが、一体どれほどの想いをっ―――――!!」

「そうだっ! 楽しいとか楽しくないとかそんなのは関係ねえっ! ワタシたちがそうしなきゃならないと思ったから、そうしたんだっ! それを――――!!」


 この正体不明の少女には、私たち姉妹の力は遠く及ばない。
 今までなんでも力でねじ伏せてきた、この力が、この少女には通じない。


 それでもその一言に我慢が出来なかった。


 敵わないと思っても、死を賭してでも立ち向かっていきたかった。
 私は、私と妹の想いを守りたかった。


 ただ、それすらも叶わない。


 私たち姉妹は、見えない何かに押さえつけられているのだから。
 妹の能力でさえ、それは破壊できない代物だった。


 そしてまた――――


 パァ――――――――ンッ!!!!
 パァ――――――――ンッ!!!!

「イッ!?」
「いたッ!?」

 今は背後の見えないお尻を強打されている。

 そして、たまに、

 サワサワ
 スリスリ

 と、撫でられる。

 これが良く分からなかった。

「………………~~ッ!」
「………………~~っ!」



『あのさぁ、今まで聞いてて思ったんだけど、あなた達って、姉妹でちゃんと話し合って、今までやってきた事を決めたの?』

 合間にそんな事を聞いてくる。

「わ、私たちは双子なのよっ! 妹が考えている事なんて、聞かなくてもっ――」
「ワタシたちはずっと一緒だったっ! だから、そんな事しなくてもっ――」

 それを聞いた少女は、ツカツカと私たちの背後から歩いてきて正面に回る。


『いいから、そう言うのじゃないから。双子だから意志疎通ができる? そんなのは信じてないから私。言葉にしないと全ては伝わらないから』

 腕を組み、私たちを見ろしながらそう告げた。

『それで、どうなの?話し合ったの、合わなかったの?』

「………………」
「………………」

『返事が無いって事は、お互いに何も話してないね。だったら――――』

 パァ――――――――ンッ!!!!

「痛っ!」

『だったら、一番悪いのは、姉のあなただよっ!』


 そう言って、未だ私たちの前で腕を組みながら、その少女は私だけに向かってお尻を叩きあげる。今度はその不思議な魔法の力で。


『なんで、あなたは、そんな事にも気付かなかったの』
「えっ!?」

 パァ――――ンッ!!!!

『なんで、姉のあなたが、止めなかったの』
「くっ!?」


 パァ――――ンッ!!!!


『なんで一緒になって妹と間違った事してんの?』
『なんであなたは守らなかったの―――――』
『なんで姉のあなたが、もっと考えて――――』

 パァ――ンッ! パァ――ンッ! パァ――ンッ! 
「っ!!」「っ!!」「っ!!」「っ!!」――――


 私はその少女の慟哭にも似たお説教に何も言い返せなかった。


 この少女の言う通り、お父さんとお母さんの子供以前に、

 私はこの可愛い妹の『姉』だったのだから。


「ちょっ! も、もう、やめてくれよっ! それじゃナゴ姉ちゃんが全部悪いみたいじゃないかっ!」

 隣のナゴタが、いつまでも苦痛に与えられている私に我慢できなかったのか、庇う様にその少女にそう叫んでくれた。


『え? そうだよ。最初から全部、あなたのお姉ちゃんが悪いんだよ』

 それを聞いて、あっけらかんと答える少女。

「………………」
「………………」

『お姉ちゃんとして妹の間違いを叱らなかった、このお姉ちゃんが悪いんだよ』

「だ、だからって何も全部ナゴ姉ちゃんがっ! だったら妹のワタシはどうしたらっ!」

『お姉ちゃんに甘えたらいいよ。妹の特権だもん』

「………………えっ?」
「………………はぁ!?」

『あ、ごめん。間違った』

「………………」
「………………」

『今回ばかりは、妹のあなたも同罪ね』

「…………えッ!」
「…………えええっ!!」

『よく考えたら、二人とも同い年だった。幼い妹ならいざ知らず? い、いや、姉のほうが―― んんんっ?』

 今度は「どうなんだろう?」と考え込んでしまう。
 一体この少女は何を――――


 パァ――――――ンッ!!!!
 パァ――――ンッ!!!!


「痛っ!?」
「いたっ!?」

 と、またお尻叩きが再開されるが、今度は妹のナゴタも一緒だった。


『やっぱり、姉も妹も同罪だね、でも少しだけ姉の方が悪いから、妹の方は少し加減してあげる』

「~~~~~~ッ!?」
「………………っ!?」


 そうして、またお尻への執拗な攻撃が始まる。

 でも他人の私たち姉妹に、ここまで真剣に叱ってくれた人は初めてだった。
 こんなに私たちの事を他人に話したのも、この人が初めてだった。


 私たち姉妹は、両親と祖父が亡くなって以来、初めてお説教をされたんだと気付いた。


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