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SS双子姉妹の追想
双子姉妹ともう一人の姉と(過去編最終)
しおりを挟む※今回も、ナゴナタ姉妹の過去の話です。
とうとう憧れの両親と同じランクまで、最速で上り詰めた双子の姉妹。
そこまで到達できたのは、両親とおじいちゃんの教えがあったためだと。
昇格のお祝いよりも先に、墓参りに向かうナゴタとゴナタでした。
全3話 (3/3)
◆◆
「よし、それじゃ私たちのお祝いをしに行きましょうか?」
私はそう言って、両親、そして祖父の墓前より立ち上がる。
「うん、わかったナゴ姉ちゃんっ!」
妹のゴナタも、そう返事して隣に並ぶ。
そして私たち姉妹は繁華街に向かって歩きだした。
――
「お父さんとお母さん、喜んでくれたかな? おじいちゃんも」
「きっと喜んでくれたわよ。私たちの成長した姿と昇格の報告をしたんだから」
「成長かぁ、あんまり実感ないなぁ? ここまで突っ走ってきたから」
「そう、随分立派に成長していると思うけど?」
そう言って、妹のゴナタの背後に周り、最近やたら目立つようになってきた、その形の良いたわわな胸を持ち上げる。
ぐにゅんっ。
「ちょ、ナゴ姉ちゃんっ! それ気にしているんだからやめてくれよぉ! こんなの大きくなったって邪魔なだけだよ、動きずらいし。それに今までの服も防具も着れなくなっちゃうしっ! それにナゴ姉ちゃんだってさ――」
もぎゅんっ。
「きゃっ!?」
「たいして、変わらないじゃん? 双子だから成長も一緒なのかどうかわからないけど。あ、食べ物も一緒だからかなっ?」
ゴナタは、気にしている部分を触られたのが嫌だったのか? ただの仕返しなのか? 私の後ろから胸をたゆんたゆんと、上下に揺らし始める。
「んっ、ゴナちゃんっ! や、やめなさいっ! んんっ~~っ!」
ゴナタのその乱暴な扱いに僅かに声を上げてしまう。
「ほらなっ! やっぱりほとんど一緒だっ! ナゴ姉ちゃんも成長してるんだよっ!」
「…………そうね、今度もっと動きやすい服と装備を買いに行きましょう」
「うん、そうしようナゴ姉ちゃんっ! それじゃまた競争だっ! 今度は能力無しだっ!」
そう言って、来た時と同じように我先にと駆けていく。
「………………はぁ、全くあの子は」
そんな妹のゴナタの背中を見て、ため息をつく。
『あの子。相変わらず女性としての意識が低いわよね? ゴナタもこれから成長して、お父さんとお母さんみたいな幸せな家庭と、いい男性に巡り合えるのかしら? 将来が心配だわ……』
なんて、妹のゴナタのこれからを心配しながら、もう見えなくなりそうな、妹の背中を追い駆けて行った。
その心配に、自分が含まれていない事に気付かない振りして。
※
私たちがお祝いと称した打ち上げ会は、街中の食堂と酒場が併設している馴染みの店で行うことになった。
ここは、料金も安いしボリュームもある。
なので育ち盛りの私たちには最適だと言えた。
「おばちゃんっ! ワタシはロックベアーの香草焼きと、フォレストラビットの串焼き、それと、サンドワームの煮込みシチューをお願いっ! あ、それから、ええとぉ―――」
「ゴナちゃん、私も同じもので良いから、注文は一度それだけにしましょう? テーブルが一杯になるわよ?」
ガンガン注文をして行くゴナタを制止するように、そう声を掛ける。
『この妹はホント、ものすごい食欲だよね? まぁ、同じものを注文する私も大概似たようなものだけど』
なんて、大量に注文しようとするゴナタを見てそう思う。
「うん、わかったナゴ姉ちゃんっ! おばちゃんとりあえずはそれでいいよっ!」
「はいよっ!」
おばちゃんは忙しそうにカウンターに小走りで駆けて行った。
注文の品が来るまでとりあえず、果実水を飲んで時間をつぶす。
ふと、今入ってきた3人組の男たちが目に入る。
『ん? どこかで……』
その恰好からすぐさま、冒険者だとわかる。
年齢は全員20代半ばくらいだろうか。
「あ、あれって? ――――」
「ん、どうしたナゴ姉ちゃ? ああ、あれは昼間森で逃がした冒険者だろ?」
私の視線の先を見たゴナタはそう教えてくれた。
確かにあの三人組だろう。
「あいつら無事に街に返れたんだなっ! 良かったっ!」
「そうね、良かったわ。私たちがたまたま来なかったら、あの実力じゃ全滅もあり得たからね」
ゴナタの答えにそう返事を返し視線を外す。
※
「オウッ! お前ら、今日の討伐依頼どうだったんだっ? 数が多くてキツっかっただろ。まだひよっこのお前たちには無理だったんじゃないか? それとも逃げてきたんかぁ?」
私たちが、逃がした冒険者たちに、元々来ていた粗暴な感じの冒険者がそう声を掛けていた。
「はぁ? あのぐらいなら俺たちだけで楽勝だったよっ! それが途中から邪魔されたんだよっ!」
「そうだぜっ! なんか小っせえ、双子の姉妹に獲物を横取りされたんだよっ!」
「ああ、もう少しで討伐出来たのによぉ! なんなんだあの子供はっ!」
後から入って来たそのパーティーは、売り言葉に、買い言葉なのか? 声を掛けてきた口の悪い冒険者に、三人とも捲り立てるようにそう怒鳴っていた。
「………………」
「………………」
「アアッ !?双子姉妹?…… ああ、そいつらは最近噂の冒険者だッ! なんでも最速の昇格の記録をドンドン塗り替えてるっていう。そんで、たまに他の冒険者をその実力で手助けしてるっていう勘違いした奴らだァ!」
「そうなのかっ!? なんだってアイツら姉妹は俺たちの邪魔をしたんだ?」
「そいつら姉妹はギルドからも、もてはやされてっから、調子に乗ってんだろっ! 他の冒険者に、ちょっかい出してもまだ余裕があるんだってなっ!」
「………………」
「………………」
「それによォ、俺も何年か前にそんな勘違いした夫婦の冒険者に会ったんだっ! やっぱ、そいつらも俺たちにちょっかい出してきて「ここはヤバいから今のうちに逃げろッ!」なんつってな。そして俺たちを逃がしたその夫婦が、そのまま帰って来ねえってんだから、笑える話だろっ? ガハハッ」
「そうだなっ! とんだ勘違い野郎がいたもんだなっ! あははははっ!」
「あはははははっ!」
「プッ、ククククッ、ハハハハッ!」
3人の新人冒険者たちも、その冒険者の話が余程面白かったのだろう。
4人のその笑い声が酒場中に響いていた。
そう。
耳障りな程に――――
「ねえ? その逃がしてくれた夫婦の名前は憶えてる?」
私はスッと立ち上がって、その冒険者の男にそう声を掛ける。
後ろには、妹のゴナタも黙って付いてきている。
「アアッ? そんなの聞いてねぇ、それどころじゃなかったしよォ! って、なんだお前はッ?」
「それじゃ、特徴とか、身長とか覚えてない?」
私は男の質問を無視して、更に男に問いかける。
男の視線は、私の目ではなく、私の胸部に向けられていた。
「んん、そうだなァ、確か額に横一文字に、デカい傷があったかもなァ? それがどうしたッ!」
質問に答える間も、男の視線は未だ胸部に固定されたままだった。
それよりも――――
額の傷?
それはもしかしなくても、私たちの――――
「あ、そう。ありがとう、ございます……」
「ああ、ありがとう……」
私の隣に出てきた妹のナゴタも、教えてくれた男になんとなくお礼を言う。
ただその声は、私と同じで抑揚のないものだった。
いや、何かを押さえ付けているようだった。
「オウッ、なんだ、お前たち双子だったのかァ? んっ、も、もしかして、お前たち…………」
「ああッ!」
「!!!!ッ」
「お前たちはッ!!」
男たちは、並んでいるゴナタと私を見てやっと気付いたんだろう。
その話題の双子姉妹の冒険者が、今ここにいる事に。
「――――――ひつ、よ、ない」
「――――――か、ら」
「アアンッ? なんだってッ?」
「………………」
「………………」
「………………」
「お前たちの様な、自分の身も守れない弱い冒険者は必要ないっ!」
「お前たちみたいな、弱い冒険者がいるからお父さんとお母さんはっ!」
私たち姉妹はその4人の男たちに襲い掛かる。
「「「うわッ!」」」
私たち姉妹のこれまでの行いと想いと、お父さんとお母さんを馬鹿にした、その報いを受けさせるために、鍛えた人外の力を男たちに奮っていく。
今まで守る為に研鑽してきたその力を、守る者を壊すため、守ってきた者を弄るため、男たちにその力を振り下ろしていく――――
「うわぁぁぁぁっっ!!!!」
「があぁぁぁぁっっ!!!!」
この後、私たち姉妹は両親と祖父が眠るこの街を出て行った。
こんな冒険者がいるこの街にはもう居たくなかった。
――
そして、そんな悪夢から時間が流れ2年が経過していた。
私たち姉妹はその頃にはBランクまで上がっていた。
たくさんの魔物と大勢の弱い冒険者を狩り続けて。
※※
「ねえ、ナゴ姉ちゃん、次は何処に行くんだっ?」
「そうね、久し振りにコムケの街に行ってみましょうか?」
私たち姉妹は街道を歩きながらそんな話をしている。
空はどんよりと曇っていた。
「コムケかぁ、確かに久し振りだなっ! え、でもまだ1年くらいか? 帰ってないの」
「いいえ、もうそろそろ2年よ。あそこを拠点に移してからだから」
「そっかぁ、2年かぁ。まだ弱い冒険者いるのかな?」
「いたらわからせてあげましょう。弱い冒険者がそれだけで罪になるって」
「そうだなっ! 自分の身を守れない、冒険者はいらないよなっ!」
「そうよ。そんな冒険者がいたら、私たちと同じ思いをする人が不憫だわ。だから――――」
「「私(ワタシ)たちの手で、排除してやるっ!!」」
そう。
あの酒場での、あの男たちの一件で私たち姉妹は大きく狂い始めた。
お父さんとお母さんの想いを、あの時に踏みにじられてから。
でもその大きく狂った歯車は、一人の少女に出会って矯正される。
いや、矯正ではなく『強制』と言った方が正しいだろう。
私たち姉妹を強制させる程の、ある意味『強烈な少女』だったのだから。
そんな強烈な少女を、私たち姉妹は両親と同じように憧れた。
その澄んだ意志と、澄んだ生き方に私たちは切望した。
そして私たち姉妹は、私たちより幼い少女の事を『姉』と呼ぶことにした。
私たちより年下の少女を、そう呼ぶことに不思議と違和感を感じなかった。
まるで本当のお姉さんのように、私たち姉妹を叱ってくれたから。
そんな年下の姉に、私たちは伝えたい。
そう、憧れの「スミカお姉さま」に――――
そう、目標の「スミカ姉」に――――
「「ありがとうっ!」」って。
その小さな『姉』のおかげで、私たちの心は救われたのだから。
そんな私たちを救ってくれた姉だからこそ、心から誓いたい、
「「一生あなたに忠誠を誓います」」と。
私たち姉妹は、今度は二人で話し合ってそう決めた。
それを教えてくれたのも、あの小さなお姉さんだったから。
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