剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
76 / 586
第7蝶 蝶の少女と双子姉妹との邂逅編

スミカ無双vsゴナタ編

しおりを挟む



 私はスキルで囲まれて、身動きの取れない姉妹の内、まずは妹のゴナタの前までくる。

「………………っ」

 戦う意思はないように見えるが、私を見るその視線は未だに鋭い。
 恐らくだけど、その理由は――――


「ゴナタだっけ? あなた。私の冒険者としての強さに納得はしたけど、自分が負けたとは、まだ思っていないよね?」

 そう問いかける。

「んん、まあそうだなっ! ワタシはこうやって捕らえられたけど、これって相性の問題もあるだろ? ワタシの攻撃はあんたに当たってないけど、ワタシだって何も喰らってない、捕らえられただけだしなっ!」

「ふ~ん」

 まあ、そりゃそうだよね。

 私だって同じ状況なら、そう思ってしまう。

 ただ卑劣な罠にかかって身動きが取れないだけなんだと。
 一撃も与えてないけど、一撃も受けてはいない。そう思うはずだ。

 ただそれは、スポーツや競技なら、そう納得しなくても構わないけど、ここは戦場。ある意味そこにはルールなんてものは存在しない。

 身動きがとれなくされた時点で、勝敗は決しているのだから。

 でも、今回はそれじゃ意味がない。

 私は、私とのヒエラルキー上下関係をはっきりさせる為に、この戦いを望んで、終わりにはしないのだから。

 勝敗を決するのは、相手が私に屈服させた時だ。
 その心と体に序列を刻み込む為に。


「もう、魔法を解いたから、動けるはずだよ」

 ゴナタを囲っていたスキルを解除して、そう告げる。

「おおっ本当だっ! もう何もないやっ!!」

 武器を上下左右に振って、確認している。

 そして私を睨みつけて、

「んで、これからどうすんだい? さっきの続きでもやらしてくれるのかっ?」

 動けると分かった途端に、強気な発言が出てくる。

「そのつもりだけど。今度はあなたが得意な戦い方でやってあげるよ。だからかかってきなよ」

 白に視覚化した円柱2本を両手に展開する。
 長さも太さも、標識のポールに似た感じのを。

「ああっ! それは、ありがと、よぉっ!」

 ゴナタは、その端正な顔を歪めて、超重量のハンマーを振りかざす。
 先ほどの特殊な能力を使っているのであろう。
 その体はわずかに光を帯びていた。

 ブフォンッ!!

 ガギィィィンッッッ!!!!

 私はその攻撃を、片手の円柱だけで、難なく受け止める。


「ぐうっ、さっきからそれはなんなんだってっ、よぉっ!!」

 ブウンッ!ブウンッ!ブウンッ!ブウンッ!

 ゴナタは、二度も止められた攻撃に今度は手数で打ち込んでくる。

 それを――

 ガギィッガギィッガギィッガギィッガギィッ!!

 私は先ほどと同じように、全て片手で防いでいく。

「ぐあああっ!!」

 ガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ!!

 ゴナタはその手数を、更に回転を上げて打ち込んでくる。
 私はその全てを受け止める。

 手数を増やしたゴナタの一撃は、その手数の為、軽いと見られがちだが、その一撃一撃は、巨大オークの一撃に匹敵するほどの強さだった。

 クレハンだったら、何十回も即死している事だろう。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「それじゃ、今度はこちらからいくよ」

「っ!?」

 私はそう予告して、片方の円柱をその巨大なハンマーに叩きつける。

 ブンッ

 ガギィィィンッッッ!!

「っがあああっ!!」

 ゴナタは、その一撃だけで、たたらを踏むように後ろに後退する。


 私は更に追撃して、今度はスキルの円柱2機を交互に、ゴナタを守っているハンマーに打ち付けていく。

 ガギィッ ガギィッ ガギィッ ガギィッ!
 ガギィッ ガギィッ ガギィッ ガギィッ!

「ぐ、ぐぐぐぐぐぐっ! ぐがががぁっ!! な、なんだってこんな重い一撃をっ! か、片手でもワタシ以上にっ!!」

 ピタッ!

 私は一度、その攻撃を止める。

「今度は、上段から振り下ろすから、全力を出して受け止めなよ。じゃないと死ぬからね」

 そう宣言して、2本の円柱を頭上に振りかぶる。


「はぁっはぁっ、って、舐めやがってぇっ――――!!」

 
 ナゴタが頭上で構えているハンマーに、2本の円柱
 総重量『10t』を叩きつける。

 ブブンッ!

 ゴガァァンンンッ!!


「がぁっ! 重い、受け止められないっ! 負けるの、ワタシが――」


 私の一撃を受けたゴナタは、ガクガクとなんとか耐えてはいたが、次第に倒れ込んでいく。

 そして、パタリと武器を手放し、前のめりに倒れ込んだ。

「ふぅ」

 妹のゴナタは、超重量の攻撃に耐え切れずに、最後は能力を使い果たして気絶したようだった。

 ただ、あの一撃を受け止める力に正直驚いた。

 なんせ、重さが10tの一撃だ。


 それでも、体にはケガがないようだった。
 それは、私が元々武器しか狙ってなかったから。


 ただその脳裏には、きっと私との力関係がインプットされた事だろう。
 得意とした土俵で、完膚なきまでに叩きのめされたのだから。

 ガンッガンッガンッ

「ゴナちゃん、しっかりしてっ! い、今いくからっ! くっ、なんなのよっ! この頑丈な壁はっ! ゴナちゃんっ!」

 ただ、姉のナゴタは、崩れ落ちるそんな妹を見て絶叫していた。


 私はそれを見て、アイテムボックスより、リカバリーポーションを出して、妹のゴナタに使用する。


「うん、あれ? ワタシは何ともない、けど、負けたんだっ! ううっ」

 ポーションにより、回復した途端に、すぐ状況を把握して泣き崩れる。


『さっきの一撃を止めた限界を超える力といい、すぐに状況を把握する回転の速さといい、この妹はきっと後々に、そして姉の方も』


「ゴナちゃんっ! 大丈夫なのっ? ケガは、体はっ!!」

 目を覚まし、泣き崩れる妹を心配してそう声を掛ける。

「ナゴ姉ちゃん、ワタシ負けっちゃったよっ! 何も出来なかった! コイツは圧倒的に強かったっ! 全力を出しても、手も足も出なかったんだっ! うううっ」

「…………そんな事はないよ」

 泣き崩れる妹と、それを心配する姉に向かって声を掛ける。

「え?」
「グスっ?」

「そんなに悲観することはないよ。あなたは十分に強かった、だから顔を上げなよ。もう、どこも痛くないでしょ?」

「あ、ああっ全然大丈夫だっ! か、回復してくれたんだよな。ありがとなっ! でも―――― グスっ」

 顔を上げ、私を見るけど、また顔を下げてしまう。
 よっぽど負けが堪えたのだろう。

「なら、それでいいでしょう? 今回は私に負けたけど、まだまだ強くなる見込みはあるんだから」

「あ、ああ、そうだな、そうだよなっ!」

 何とか顔を上げて、私を見てくれた。

「あ、あなたは、一体何者ですか? ただの冒険者ではないでしょう?」

 妹のゴナタと私の話を聞いていた、姉のナゴタが声を掛けてくる。

「えっ? ただの冒険者だよ。それ以外何もないよね?」

「いえ、私に聞かれましても、あなた本人の事なので、私には――」

「う~ん」

 まあ、言えない事はたくさんあるけど、この世界ではただの冒険者で合ってるはずだ。別に、カッコイイ二つ名みたいなのや、伝説を残してるわけでもないしね。

 きっとみんなそう思ってるはずだ。間違いない。
 私はこの世界では、ただの冒険者だ。


「んん、それしか自分でも言えないから、今はそれでいいでしょう? それと、あなたを囲っている魔法壁は解除してあるから、もうそこから動けるはずだから」

「え、そうなのですか!? あ、本当ですねっ!」

 そう言って妹のゴナタに近づいて行く姉のナゴタ。

 だが

「あれ? 妹に何故、まだ魔法壁を張っているのですか?」

 妹に触れる距離に来て、その異常に気付く。

「ああ、だって、それは――――」

「はい」

「姉のあなたには、まだ納得してもらってないから」

「えっ!?」

「とりあえず、これからすることを邪魔されても嫌だなと思って」

「なぜ?」

「だって、そうでしょう? まだ私はあなたに、私の事をんだから。これから、姉のあなたにも戦ってもらうよ」

「えっ? だってそんな必要はもうないんじゃ、十分私たち姉妹は、あなたを認めていますよ? それでもですか?」

「うん、それでも」

「はぁっ、わかりました」

 一呼吸吐き出して、その手に巨大な両剣を握り締める。


 『なんだかんだ言っても、双子の姉妹なんだね』


 私はその武器を構える、姉の表情を見てそう思う。


『私を射殺そうとする程の鋭い視線なのに、そんな嬉しそうに口元歪めちゃってさ。もう戦う気満々だよね』


 この姉にして、あの妹あり。

 そんな二人を交互に見ながら、私は――

『これは二人とも頼もしいね。来たる何かの為の、戦力には――』

 そう思うのだった。
 これから起こるであろう、近い未来の事を思って。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...