剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
64 / 586
第6蝶 冒険者ギルド騒乱編

チートアイテムでパワーアップ!?

しおりを挟む



『いや~、それにしても』

 パーティープレイなんて久し振りだよ。
 清美がいた時を別にすれば、殆どソロプレイだったしね。

 まぁそれでも一人でクリア出来ないクエストは、さすがにパーティーに入れてもらってはいたけど、私は目立たないように行動していたつもりが気付いたらなぜか、陣頭指揮を任せられたりしてた事もあった。

 一応私はソロではトッププレイヤーだったから、それもあって任せられたんだと思うけどね。でも、なかなか楽しかったと思う。
 一人とは違うスリルもあったし、協力プレイでしか味わえない達成感もあった。


 それを今回は――

 私・ユーア・ルーギル・クレハンの4人。
 それでパーティーを組んで巨大オークを討伐するんだ。


「なんか、楽しくなってきたかも」


 私はこの状況下で不謹慎ながらもそう思ってしまった。


 ただ忘れちゃいけないのは、ここは『ゲームの世界ではない』し、ユーア達にとっては『現実の世界』の中にいる事。

 ここに住む人たちは、餓死もするし、病死もするし、老衰も、事故死も、そしてもちろん、魔物に致死のダメージを受けたら即死することも。

 それを忘れてはいけない。



「それじゃ、早速だけど、言われた通りに動いてもらうよっ!」

「はい、スミカおねえちゃんっ!」
「おうッ!何でも言ってくれッ!」
「スミカさん、お願いします」

「よし」

 大丈夫。
 みんな固くなっていない。


 この世界の中では、かなりの化け物を相手するというのに、臆した様子も緊張もみられない。ルーギルやクレハンはともかく、ユーアも随分と肝が据わってきたようだ。


 なら私がやる事は魔物をただ倒すだけじゃない。


 全員生き残る。 ――でもない。
 全員無事に。 ――でもない。
 大怪我を負わずに。 ――でもない、


 『誰一人、かすり傷さえ追わずに戦いを終わらせる』


 3人の仲間を見て、私の中のルールをそう決めた。
 私にはそれが出来る。


「よし、それじゃ、ユーアは私と一緒に戦った時みたいに、空中から狙撃してアイツの動きを止めて。ただ、スタンの効果はあの巨体には効きずらいか、かなり効果時間が短いと思う。それと、私以外に当たったら、巨大オークの格好の的になっちゃうから気を付けて」

「はいっ! スミカおねえちゃんっ!」

「次にルーギル」
「おうッ!」

 ルーギルは気合が入った様に一歩前に出て、私の言葉に注視する。

「好きに動いていいからね」

 端的にそう告げる。

 そんな私の指示の内容に、

「ハァッ!?」

 ガクッっと体勢を崩す。
 どうやら拍子抜けだったみたいだ。


「じょ、嬢ちゃん、そんなんでいいのかァ? それって指示っていうのかァ!?」

「大まかには、それでいいんだよ。細かい指示は戦いながらするから。それにルーギルもあれこれ言われて戦うより、自分で戦いたいでしょう?」

「まァ、できればそうしてえところだがよォ。さすがにそれじゃスミカ嬢の足を引っ張っちまうだけになんねえかァ? それに多分俺はアイツの攻撃を一撃でもまともに喰らったら戦闘不能になるぜ。それこそ邪魔になっちまう」

「………………」


『う~ん。ルーギルも戦闘狂の割に意外と細かいこと気にしてんだね?』

 こういう気遣いも周りに慕われる魅力のひとつになってるんだろうか。


「ルーギル。アイツの攻撃とかは別に気にしなくていいよ。私が絶対にアイツの攻撃を当てさせないから。だからある程度はルーギルの好きにしていいよ」

「オ、オウッ! そこまで言うなら嬢ちゃんに任すぜッ! よろしく頼むッ!」

 心底嬉しそうな顔で「グッ」と拳を握る。


「最後は、クレハン」
「はい。なんでもおっしゃって下さい」
「あなたはオークの牽制、兼、陽動、兼、万が一の時の回復、兼、ユーアの護衛ね。それと他にも敵が現れないかの索敵もね。こっちはそこまで気が回らないかもしれないから」

「ちょッ! なんでクレハンだけそんなに――――」

 何やら不満顔のルーギル。

「は、はいっ! でもギルド長と比べて随分多いですね?」

 クレハンは、私の指示の多さに少しだけ驚いている。

 そんなクレハンの言葉はほっといて、

「あとは、これを渡しておくから」

 アイテムボックスから『閃光手榴弾』と『スペツナズ・ナイフ∞』を渡す。

「ス、スミカさん、こ、これって!?」

「これは『閃光手榴弾』て言って、このボタンを押して、5秒後に光が爆発して、視界を一時的に麻痺させるから。だから使うときは一言声を掛けてね? 味方は目を塞げばやり過ごせるから」

「えっ!? えっ?」

「それと、このナイフは『スペツナズ・ナイフ∞』て言って、グリップの上のボタンを押すと、ナイフの先を射出できるから。あとナイフの刃は射出したら、無限にオートで補充されるけど、ターゲットに刺さった刃は無くなるからね。その分連射はできないから気を付けて」

「ええっ! 刃が勝手に戻ってくるんですか!? それも無限に!?」

 そんな私の説明に、クレハンは目を見開き驚いている。

「ちょッ! なんでクレハンだけッそんなによォ――――」

 それを見て、またルーギルが騒ぎ出す。
 取り敢えずまだ説明の途中なので無視する。

「戻ってくるのとは、ちょっと違うかな? 刺さったものは消えちゃうし。どういう仕組みかは、私もよくわからない。ただ実際の刃は一本だから―― あれ? 戻ってくるのに近いのかな。ごめん、細かい事は私もわからないや」

「………………」

「あ、あともう一つ。そのナイフは普通に切り付ける事もできるけど、射出は主に牽制用だから、威力はあまり期待しないでね?」

「………………」

「クレハンどうしたの?」

 突然黙り込んでしまったクレハンに声を掛ける。

「はっ!? すいませんっ! 少し動揺してました。スミカさんの説明はよくわかりました。けれど、こんな見た事もない高度な、それこそ国宝級や伝説級と言ってもいい程のマジックアイテムをわたしに託していいんですかっ?」

「良くはないよ。終わったら返してね」

 何やら興奮気味なクレハンに素っ気なく返事をする。

「えええっ!? あ、ああ、は、はい…… そ、そうですよね、こんな高価な。それも金額も想像できないようなマジックアイテムですものね。そうですよね………… 仕方ないですよね…… あはは」

「………………」

 なんか、アイテムを強く抱きしめたままブツブツ言ってる。
 大丈夫かな? 終わったら返してくれるのかな?


「ス、スミカ嬢ッ! い、いやッ、スミカちゃんっ! 俺にもなんかないのかッ? ユーアやクレハンばっかり珍しいアイテムを上げてよォ。俺にもなんか頼むぜッ! な、いいだろうッ!」

 クレハンにだけ渡したのが羨ましかったのだろう。
 ルーギルが発情期の犬の様に物欲しそうに訴えてくる。

「う、うう」

 な、何だろう? もの凄く気持ち悪い。
 そもそも『ちゃん』て誉め言葉でも、おべっかに使う言葉でもなんでもないよね?

「な、いいだろうッ? なんかあるだろう? 俺向きの奴がよォッ!」
「な、ないよっ!」

 ちょっと逃げ腰になりながらルーギルに返答する。


 そもそも武器はこの衣装のせいで装備出来ないから、主武装の武器関係は殆どルーム内のストレージボックスの中にある。ルーギルが使う剣なんて尚更持っていない。


「な、無いのかァ…………」

 それを聞いてガックリと項垂れるルーギル。

『う~ん………… あれなら』

 私はちょっと考えて、ルーギルにあるものを手渡しする。
 このまま拗ねられても、士気に関わるからね。


「はい、ならこれあげるよ。私はルーギルみたいに、メーンの武器とか持ってないから、ひとまずはこれでいい?」

「うん? なんだこれはッ? 回復薬? じゃねえなァ?」

 ルーギルは私に渡された小瓶をもの珍しそうに見ている。

「それは『ブーストアップα』ていって、身体能力を10分間増大するポーションだよ」
「は? はぁっ!?」

 首を傾げるルーギルにそう説明する。


『ブーストアップα』

 身体能力を10分間10%上昇させる。
 効果が切れたら10分間のクールタイム(CT)が必要。
 副作用はないが、CT前に服用すると動くたびにHPが減少。


 たかだか、10%の効果だけど、私の勘ではこの世界の人たちには効果が上昇すると思う。
 リカバリーポーションS、しかり、レーション関係もそうだったからね。

 予想では、倍の20パーセントくらいは上がると思う。

 因みに『αアルファ』以外にも、
 上位の『βベータ』『γガンマ』『Σシグマ』などもある。


「マジかッ! そんなものまで持ってたのかッ! 凄げぇッ! ありがたく使わせてもらうぜッ!」

 落ち込んでいた様子から一転して嬉しそうなルーギル。

「あ、ルーギル。一度使ったら10分は時間置いてよ。じゃないと体に負担が掛かって、動けなくなるからね。そこだけは注意して。あと、2本使ったからって、効果が2倍にはならないからね」
 
 はしゃぐルーギルにそう注意点を伝える。

「オウッ! 了解したぜッ!!」





 私たちは透明壁の中で身動きの出来ないでいる巨大オークの前までやってくる。


「それじゃ、オークの魔法を解除するよ。みんな大丈夫?」

 振り向いて、皆のいる後方を見て声を掛ける。


「はい、スミカお姉ちゃん、ボクはいつでも大丈夫ですっ!」

 この可愛い声は、すでに私のスキルで10メートル程の空中で待機しているユーア。
 その手には『ハンドボーガン』が握られている。

 透明壁は足場分とバリケードに前面として既に設置してある。
 念のために透明の鱗粉も身に纏っている。


「オウッ! いつでもいいぜッ!」

 こっちは私の右後方の『ブーストアップα』を片手に待つルーギル。

「はい、こちらもいつでもOKです。一番手はわたしに任せて下さい」

 最後は後方にいて『スペツナズ・ナイフ∞』を構えているクレハン。


『うん、これなら』

 私はみんなの状態を確認し、問題ないと判断する。
 気負いどころか、逆に笑顔を浮かべている。

 中々に頼もしい仲間たちだ。


「それじゃ、行くよっ! みんな無理はしないでねっ!」

「オウッ!」
「はい、スミカお姉ちゃんっ!」
「はいっ!」


 そして私たちは最後の一匹の巨大オークに立ち向かうのだった。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...