62 / 581
第6蝶 冒険者ギルド騒乱編
巨大オーク放置で作戦会議?
しおりを挟む『魔物を強化し操って、人々を、そして村を占領する。それも自分の手を汚さずに。こんな企てする奴が絶対真っ当な人格なわけがない。これが他の転生者や私が知らないゲーム内の転生者だったら、かなり厄介な存在かも。それでも…………』
自身の中の『Safety device』をONにする。
そして「ふうーっ」と大きく息を吐き体の調子を確かめる。
『……大丈夫。今回はほんの数秒しか使っていないし』
なのでリミットにはまだまだ余裕がある。
更に数段階上げるとどうなるかはわからない。
そんな機会が来ない事を今だけは祈りたい。
「まあ、もし厄介な存在が私たちに手を出してきても、絶対に負けないけどね」
私は持っていた謎の腕輪をアイテムボックスに収納する。
幸いユーア達からは見えてはいなかった。
なにせこのアイテムは未知の部分が多い。
他の者が触れたらどうなるかがわからない。
『これは当分私のアイテムボックス内に封印かな? ここが一番安全だし。それに何か不穏な動きがあったら、もし敵対する動きがあったならば――――』
「スミカお姉ちゃん! 大丈夫っ? どこか痛くないっ!」
「おうッ! スミカ嬢、焦ったぞォ! お前がケガするなんてなッ! それでも瞬殺だったけどなァ!」
「大きなケガがなくて何よりですっ! でもさっきの動きの影響は大丈夫なんですかっ!?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう。みんな」
各々に心配位してくれた皆にそう答える。
もし、私に敵対する動きがあったその時は――
『……私が直接出張って殲滅してやるから。私の仲間に二度と歯向かおうなんて思わせないくらいに、執拗で圧倒的に徹底的に』
駆け寄ってくるみんなを見てそう決心した。
謎の腕輪と謎の組織の事を想定して。
それと私が敵と認識した事を後悔させてやるために。
※
「それじゃ、もう1体もさっさと倒しちゃうから、またみんなは魔法の壁の中で待っててくれる?」
人数分のスティックタイプとドリンクタイプのレーションを出して、三人に配りながらそう切り出す。
「それ、なんだがよォ、嬢ちゃんの足を引っ張るのは重々わかってはいるがァ、俺たちも巨大オークの戦いに参戦させ――――」
そこでルーギルは言い掛けた言葉を止め固まる。
が、それは一瞬で、何やら表情がみるみる変わっていく。
「ブフォッ! マジィッ! なんだこの味はッ!? ウエェッ!」
そしてドリンクレーションの味に盛大にむせ返っていた。
「え、ボクのは、美味しいですよ? 甘くて」
「わたしのもフルーティーな感じで抜群に美味しかったですよ?」
そんな二人の感想にルーギルは。
「じょ、嬢ちゃんッ! 俺に何を飲ましたッ! ま、まさかあの素早いオークみてえに毒を盛ったのかッ!?」
喉を抑えながら、涙目になって私に迫ってくる。
「毒なわけないでしょう? それは『納豆味』だよ」
因みにユーアは『練乳味』
クレハンは『メロン味』
私のは『サイダー味』 だ。
「なんだって毎回俺だけマジイの渡すんだよォ! ユーアはお前と違って、ちゃんと旨いの渡してくれたぞッ!」
「マズイって。その味は大豆工房サリューにある納豆の味と一緒だよ。マズナさんに失礼でしょう? そんな事言ったら」
まぁ、これは別にマズナさんが作ったわけじゃないけど。
「い、いや、だからってよォ! 納豆は飲み物じゃねえだろォ? それ作った奴、絶対おかしいぜえッ!」
「う、うん。そう、だね?」
確かに言われてみればその通りだ。
でも作ったのは多分運営会社だ。だから私は悪くない。
だって三人にランダムで渡したら、たまたま、ルーギルに、それが当たっただけだ。だから私は悪くない。
「はぁ、全くルーギルはその年でわがままだよね。 美味しくてもマズくても、効果は一緒なんだから別にいいじゃん」
なんて、これは文句を言うルーギルを抑え込もうと言ったつもりだったんだけど……
「スミカお姉ちゃんっ! ボクは美味しい方がいいですっ!」
「わたしもですスミカさん。できれば同じ効果でも美味しい方がいいので、これからもよろしくお願いします」
驚いたことに反応したのは予想外の二人だった。
「味は大事………… だろッ?」
「………………うん、そうだね」
※※
「で、結局。三人とも参戦したいって話だったんだよね? 別にいいよ」
ルーギルのせいで脱線した話を戻す。
だって、いつまでもあの巨大オークが放置プレイなんだもん。
なんか微妙に不憫に思えてきた。
でもまあ倒すときは容赦しないけど。
「ああ、そうなんだよォ。嬢ちゃんの邪魔になるのはわかってる。けどそれでもこのままやられっ放しなのはよォ。んで、クレハンも同じ気も…… ってっ! いいのかよォ!」
「うん、いいよ」
実は、私は小さいオークとの戦いで自分の目的を果たし終えている。
だから無理に一人で戦わなくてもいいと思った。
それに、ルーギルの達の気持ちもわかる。
だから参戦してもいいと返事をした。
たださすがに、このままでは――
「いいけど、条件があるよ。それでもいい?」
「条件? なんだそれはァ?」
真剣に私の話に耳を傾けている三人に説明する。
「一つ。私の指示に従ってもらう」
人差し指を立ててそう説明する。
「ああ、そんなの当たり前だァ! それで、二つ目は?」
「以上」
私はこれで説明を終わりにする。
「って、終わりかよォッ! じゃ、なんだったんだァ? 立てたその指はよッ!」
「ス、スミカお姉ちゃんっ! 最初の『一つ』はいらなかったんじゃ…… 二つ目がないんだったらさ」
「いや、でもそれが一番じゃないですか? スミカさんの指示がある限り、わたしたちは勝手に動きませんから」
ちょっと呆れ顔なルーギルとユーアだったけど、クレハンはわかっている。
「さすがクレハン。名前だけのどっかの脳筋ギルド長とはおつむが違うねっ」
「ちょ、それって俺のことかッ?」
「お褒めに預かりまして光栄です。スミカさん」
クレハンはそういって華麗にお辞儀をする。
さすが男前がやると絵になる。
「ねえねえ、スミカお姉ちゃん? ボクは、ボクはっ!」
褒められたクレハンを見てユーアがキラキラした目になっている。
どこか褒める要素があっただろうか?
「ユ、ユーアは、そうねえ~。うん…… か、可愛いツッコミだったよっ! さすがユーアもわかってるねっ!」
何とか絞り出し、誤魔化すようにユーアのほわほわした頭を撫でる。
「いい子、いい子」
「えへへっ」
けど、自分で言ってなんだけど、何が可愛いツッコミなのか? 何がわかってるのか? 何てことは実際のところよくわからなかったりする。
「ありがとうねっ! スミカお姉ちゃんっ!」
「ふふっ」
それでもユーアが喜んでいるみたいだからいいや。
「俺はこれでもギルド長なんだがなァ。結構俺を慕ってくる奴はァ、多いんだがなァ。なんだこの扱いはよォ」
ルーギルだけは少しいじけてるみたいだった。
※※
「はいはい、傾注。傾注」
私はまた脱線した話を戻すために「パンパン」と手を叩く。
「全く、ルーギルのせいで話が進まない。少し黙って聞いてくれる?」
「ちょ、おま、元はと言えば――――」
「ルーギルさんっ! スミカお姉ちゃんの話を聞きましょうよぉ!」
「ギルド長。わたしもユーアさんも、聞く準備は出来てますよ? まだなのはギルド長だけですよ」
「う、うぐッ!」
反論するルーギルを珍しくユーアが注意をしていた。
数日前までの関係からは想像できないだろう。
それに今回が初めてではないだろうか?
「こほんっ!」
私は一つ咳払いをする。
「条件は私の言う事に従う事。これは、攻撃・防御・回避・逃走・陣形・アイテムのタイミング。全てに当てはまる事だよ? そうなるとアイツと戦いたいルーギル達は窮屈になるかもしれないし、好き勝手できないよ? それでも戦ったって言える? それとこんなか弱い小娘の言うことを聞かなきゃならないんだよ?」
最後に「それでもいいの?」と付け加える。
そんな私の説明を聞いた三人はというと……
「まぁ、それは仕方ねえんじゃねえかァ? 最高戦力は嬢ちゃんだし、戦闘慣れしてるのも嬢ちゃんが一番だろう? だがよォ――――」
「そうですよ。どのみちわたしたちは、スミカさんの戦いにお願いして参戦させていただくのですから、それが一番いいと思います。ですが――――」
「うん、ボクはどのくらいお役に立てるかどうかわからないけど頑張るつもりだよっ! でもね――――」
「ん、なに?」
全員が全員。
話の尻を端折った事に疑問を覚えて聞き返す。
「スミカ嬢がか弱いって事は、絶対にねえだろォッ!!」
「スミカさんには絶対に似合わない言葉ですね」
「スミカお姉ちゃんは絶対に弱くはないよぉ! ボク知ってるもんっ!」
そんな三人の総ツッコミを受けた。
しかも『絶対』ってお墨付きで。
『う~~っ!』
何よ何よっ! 三人して声を合わせてさっ!
私だって元は『か弱い』乙女なんだよっ!
『何これ、おも~い、私一人で持てな~いっ!』
て、現実世界では2ℓのペットボトルも一人で持てなかったんだよ。
『そ、それなのに酷いよっ! ユーアまでぇっ!』
あの二人といるとユーアの教育に悪いんじゃない?
少し距離を置いた方がいいかも。 まるで反面教師みたいだしっ!
真剣にユーアとギルド長コンビとの距離を考える私だった。
『ブグォォ――――ッ!!』
ガタガタッ!
建屋の向こうではずっと待たされている巨大オークが、
『オレの存在を忘れるなっ!』
そう言ってるように聞こえた。
まぁ、そんな訳ないけど。
0
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる