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第6蝶 冒険者ギルド騒乱編
2体の異常な個体
しおりを挟む巨大なオークはスキルに止められた大型の鉈を再度頭上に振り上げる。
だがそれはさっきの片手持ちとは違い、威力重視の両手持ちにシフトしている。
その事から私のスキルを破壊する思惑だろうと予測する。
「よし、今だっ!」
腕を振り上げた瞬間を狙って、スキルで巨大なオークを直方体で覆う。
両腕を上げた状態で四方を囲まれては、簡単には身動きが取れないからだ。
『グウオォォッッッ――――!!!!』
咆哮とともに「ガシガシッ、ガシガシッ」と壁の中で暴れるオーク。
だがその状態では力が入らないだろう。
「よしっ」
とりあえずは、これで大丈夫だ。
「お待たせクレハン。すぐ回復するからね」
一度クレハンを囲っていたスキルを解除し、私も近付き再度展開する。
これでちょっとした安全地帯の出来上がりだ。
「ス、ミカさ、ん、助かり、ました、よ…… はぁはぁ」
「いやいや、まだ助かってないからっ! もうしゃべんなくていいよ」
リカバリーポーション【S】をクレハンに使う。
そんなクレハンの状態は酷かった。
『………………』
目に見えるちぎれそうな腕だけじゃない。
内臓も、肋骨も、背骨も酷く損傷をしているはずだ。
生きていてくれて良かった。さすがは元冒険者と言ったとこだろう。
元と言っても、一般人からすれば充分バケモノ級の強さなのだから。
「わっ! すすす、凄いですっ! スミカさんっ!!」
重症だった体がものの数秒で回復する。
そしてクレハンは、治った体で早速立ち上がり、腕や足、首などを動かして状態を確認している。その際装備などの確認も済ませる。
そしてもろもろの確認が終わり、顔を上げて口を開く。
「スミカさんっ! あなたはわたしの命のおん――――」
「そういうのいいから。早く私の背中に乗って?」
クレハンの言葉を遮り、背中を向けて座り込む。
「えええっ! わ、わたしの感謝の気持ちは一体どうしたら?」
「うん大丈夫。ちゃんと伝わったから。それに――――」
「それに?」
「ううん、何でもない」
『もしかしたら、私の落ち度のせいかもしれないし……』
「スミカさん、では失礼します」
「うん。わかった早く」
背中から何となく重みが伝わってくる。
でも大の大人を背負っても体への負担は感じない。
さすがはアバターの姿だ。
私はスクっと立ち上がる。
「あのぉスミカさん? たびたび失礼なのですが――――」
「ん、なに?」
顔を後ろに向けて、言いずらそうにしているクレハンを見る。
「あの、足が地面に付いてしまうのですが……」
そう告げられる。
「あ、あの身長差があり過ぎて、足が………………」
「……………………」
「す、すいませんっ! 我慢するので気にせずに行ってくださいっ!」
「……………………」
背負っていたクレハンを「スッ」と地面に降ろす。
「ス、スミカさん?」
「これだったら、文句ないでしょ?」
クレーマーのクレハンの背中と膝の裏に腕を入れて持ち上げる。
「ス、スミカさんっ! こ、これは、ちょっとぉ!?」
「いいから黙ってて。じゃないと舌噛むよっ?」
私はクレハンをお姫さま抱っこしながら、巨大なオークと反対方向に進む。
「ふんっ!」
そして家の壁を「ドゴォッ」と蹴破り外に出る。
巨大なオークはまだもがいているが放置する。
今はそれどころじゃない。
「スミカさん。何もわたしを持って運ばなくても、スミカさんの魔法で運べば良かったんじゃないですか?」
クレハンがそんな至極当然の事を言ってきた。
「う、ぐぅ、それだと小回りがきかないからっ?」
なんとかギリギリ通りそうな言い訳をする。
「………………」
それを聞いて何故か無言になるクレハン。
「…………なによ?」
「い、いえ、それよりもあのオークはあのままで良かったんですかっ?」
「いや、それは良くはないけど、ユーアをルーギルの助太刀に置いてきたから心配なんだよ。だからあれは後回しにして、早くユーアのとこに駆け付けたいんだよ」
そう。
ユーアは自ら進言してルーギルを助けに行った。
もの凄く心配だったけど、冒険者としてのユーアの気持ちも大事にしたい。
それに、結果的に言えばそれで二人ともギリギリ助ける事が出来たし。
※
クレハンを抱っこしながら、ユーアとルーギルのところに到着する。
二人は痺れているオークを目の前にドリンクレーションを飲んでいた。
それでもユーアはハンドボーガンの照準をオークに向けたままだ。
「ん」
すかさずスタンで痺れている、小さいオークをスキルで囲んで動けなくする。
「ユーアお待たせぇっ! そっちは大丈夫だった? ユーアはケガはない? ルーギルに何かされてないっ!?」
「は、はぁっ!? なんで俺がユーアみたいな幼女を、せめて後5年――――」
ルーギルが何か騒いでいるけど無視する。
そして一足飛びでユーアに抱き付き、頬ずりしながら体を確認する。
「大丈夫だよスミカおねえちゃん! でも顔が熱いよぉ! だから離れてぇ!」
「え?」
どうやら頬ずりし過ぎて、ユーアの頬っぺたが熱くなったみたいだ。
「ハァ、全くお前たちときたら相変わらずだなァ、こんな状況だってのによォ」
「はぁっ?」
頭の後ろをガシガシ掻きながら、ルーギルが愚痴っている。
そんなブーメラン男を睨みつける。
だってそれはお互い様でしょ?
なんで敵を目の前にして、のんびりお茶してんの?
なんて言いたいけどグッと我慢する。
『くっ!』
それよりも今考える事があるから。
そう思って我慢してたんだけど、ギルド長コンビが騒ぎ始める。
「よおォ! クレハンお前も無事でよかったぜッ! なんだそっちは嬢ちゃんに助けて貰ったのかァ?」
「はいっ! でもギルド長もまさか未知のオークに襲われていたとは…… お互いに無事で何よりですねっ!」
『…………イラッ』
「おうよッ! ユーアいヤバかったところを助けてもらってなァ!」
「ユ、ユーアさんがですか? それって一体……」
「それがよォ。ユーアが凄ぇ武器をよォ、嬢ちゃんから――――」
『ぷるぷるっ』
「え、そんな武器までお持ちだったんですか? それは是非にでも」
「ああんッ! それは無理だッ! あれはユーア専用みたいなもんだぜッ?」
ギリギリッ(歯ぎしりの音)
「ハッ!」
「えっ!?」
プチッ!
「ああっ! もうっ! うるさ――――――いっ!!!!」
私は遂にブチ切れて、二人を睨み咆哮する。
「もう、今はそれどこじゃないでしょっ! なんかおかしいと思わないの? この変なオークたちを見てさっ! 緊張感が足りなさ過ぎだよっ!」
「そ、そうだなァ! でも緊張感とか嬢ちゃんたちに言われたく――」
「はっ! なにっ!」
「い、いやッ!?」
言い訳をするルーギルを威嚇して黙らせる。
「す、すいません、スミカさん。確かにそんな状況ではないで――――」
「いや、だってよォ、スミカ嬢だってユーアに抱き着いてニヤニヤしてたり、ユーアだって敵の前で『美味しいのありますよ?』とか言って休憩するし。俺たちよりもよっぽど緊張感なかったぜッ?」
クレハンの言葉に被せて、言いたい事を捲し立てたルーギルは、その後逃げるようにユーアの後ろに隠れる。
「……………………」
「なんとか、言ったらどうなんだァ? ああんッ!」
私が黙り込んだのを見て、隠れたユーアの後ろから出てくる。
ポケットに両手を突っ込み、私を真下から見上げるようにして啖呵を切ってくる。
「………………て、いいよ。ユーア」
「え、なんですか? スミカお姉ちゃん?」
「ああんッ? もしかして謝罪かぁ? だがよく聞こえねぇな」
俯き小さな声の私に、更に挑発をするルーギル。
『くっ、こいつだけはっ!』
「……もう撃っていいよユーア。ルーギルを」
そう端的にユーアにお願いする。
「…………いいんですか?」
「うん。バチってやっちゃって、責任は私が取るから」
迷っているユーアに、指を立ててニカっと笑顔で答える。
「ハァッ!? ユーアッ! お前まさかッ!?」
「ごめんなさいルーギルさん。ボクはスミカお姉ちゃんの弟子なので」
クルっと振り向いたユーアは満面の笑みを浮かべていた。
だけど、その手にはスタンボーガンが握られていた。
そんなユーアも思うところがあったのだろう。
きっとユーアの事だからルーギルを助けた後、クレハンを心配するルーギルの心中や、戦闘後を労ってドリンクレーションを与えて落ち着かせたんだと思う。
『まぁ、ユーアにしてみればその気持ちを裏切られた。って感じかな? そこら辺の事はルーギルも気付いてるとは思うけどね、さすがに』
ユーアをけしかけたそんな二人は、と言うと、
「ルーギルさんっ! もう動かないでくださいっ!」
「ユ、ユーアはお前なぁッ! ――――」
そんな二人はキャッキャ言いながら追いかけ回っていた。
少し見ないうちにずいぶんと仲良くなったものだ。
やっぱり命を懸けた戦いをした者同士の戦友みたいなものだろう。
でも――――
『ユーアは私のだからっ! 誰にもあげないからねっ!』
そう心の中で、私は再決心するのであった。
※※※※
「はいはい。そこまでぇ~っ! もう私の話を聞いてぇ~っ!」
落ち着いた頃を見計らって、手を叩き三人の注意を向ける。
「おうよッ! 嬢ちゃん」
「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」
「はい。スミカさん」
そんな三人は私の前に来て、なぜか一列に並び始める。
別に集合をかけたわけでもないのに。
「あのさ、あの2体のオークの異常性は戦ったルーギルたちはわかるよね? 絶対普通では存在しない個体だって」
そう言って、現在捕らえられている2体のオークを指さす。
――――
1体目
スタン効果が切れて、今は透明壁の中の小さなオーク。
その体躯はユーアよりも小さい。そして視認できない程す速い。
2体目
両手を上げたまま透明壁の中で、同じく身動きの取れないオーク。
その体躯は普通の建屋よりも大きい。そしてあり得ない程の怪力。
――――
「ああ、そうだなッ! どっちも見た事もねぇ奴らだッ! でもそこまで気にする事なのかッ? このまま退治しちまえばどうでもよくねぇかッ?」
ルーギルが代表してなのかそう答える。
今は身動きが出来ないからって、その意見は楽観的過ぎる。
「いや、そこは気にしようよ。数がいたら十分脅威だから。それにここからは私の推測って言うか、勘に近いんだけど聞いてくれる?」
些か、真剣な表情に変わったみんなを見てそう告げる。
「お、おうッ!」
「は、はいっ!」
「う、うん……」
そんなみんなを見渡しながら、
「ねぇ、これって、誰かに操られてるか? 人工的に作られてない?」
そのオークの特異性と、ある部分を見てそう発言した。
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