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第6蝶 冒険者ギルド騒乱編
男たちの危機に姉妹たちはがんばります
しおりを挟む『クレハン視点』
ドゴォォォォォォンッッ!!
「とっ!」
『ブグォッ?』
わたしがいる後方、その下から轟音が響いてきた。
その余波の影響か、ビリビリと空気の震えがここまで伝わってきた。
そしてその衝撃で動きを止めるオーク。
わたしはその隙に一足飛びに近付き1体の首を刎ねる。
「ブェッ!」と血飛沫を出しながら屋根の上から落下する。あと2体だ。
「……さっきの爆発音はギルド長ですね? さっそくスミカさんから貰ったアイテムを使ったんですか。ならわたしも――――」
残る2体にナイフを投擲する。
その2体の両脇を掠るように――――
2体は左右ギリギリのナイフを避け、屋根の上で躱すように中央に体が移動する。
その途端に、
ボゴォォ――――ンッ!!
屋根が轟音と共に弾け飛ぶ。
もちろんその威力にオーク2体は粉々になりながら絶命する。
わたしはオークたちが屋根の中央に集まるように投げナイフで誘導した後で、スミカさんから貰った筒の爆弾を起動させていた。
「――こ、これは、凄いですねっ! 予想以上ですよっ!」
って言いますか、この威力だったら中央に誘導する必要なかった。
そんな事を考える。
その余波が通り過ぎてから、伏せていた姿勢から立ち上がり、爆心地であっただろうそこを見下ろし確認してみる。
「…………いやはや、これは本当に5人分程度の威力ですか? 1個でも10人は下らないですよ。あの人は一体何と比較しての数字だったんですかね?」
その威力に対する歓喜なのか、はたまた相反する恐怖なのか、知らず知らず強張ったまま、笑顔を浮かべてしまう。だってそうでしょう?
一軒分の屋根が丸々吹き飛ぶ程の破壊力を目にしたら。
「さて、それじゃこの辺りは片付いたでしょう。スミカさん達と合流しましょうか」
ギルド長を探そうと破壊の跡から目を離す。
途端 ――――
「クレハンッ! 危ねェ後ろだッ!」
「えっ!?」
後ろっ!?
そのギルド長の怒号にも似た警告の声に、即座に後ろを振り向く。
そこには……
「はっ!?」
屋根の上にいる、私を見下ろす程の大きさのオークがいた。
そして手持ちのその巨大な鉈を、私に振り下ろす瞬間だった。
ブンッ!
「ぐぅっ!」
ガギガギィンッ!
わたしは咄嗟に手持ちの短剣2本で受け止める。
しかしわたしの身長くらいの巨大な鉈の一撃を受けて――――
「がはぁっ!」
ボキッボキッボキッ!!
屋根の上から小石のように飛ばされ、隣の建屋の屋根に激突し、
ドゴォンッ!
「がっ!」
ボゴォッ!
そのまま屋根を突き破りながら、家の中を成す術もなく転がる。
「ぐふっ! がはっ!」
わたしは大量の血を吐き出す。
「はぁ、はぁ、はぁ……………」
内臓だけじゃない、あばらも片腕も折れている。
胴体があっただけまだ助かった。
もしも短剣で塞いでいなかったら……
「はぁ、はぁ、あんな化け、物が一体、どこ、から……」
息もするのにも口を動かすのも体に激痛が走る。
それでもなんとかスミカさんから貰った回復薬を取り出す。
「ス、スミカさん、信用、してますよ? これでダメならわたしは、もう……」
そんな満身創痍のわたしの瞳には、オークの姿が映っている。
そんなオークはわたしの生死の確認か、はたまた止めを差す為か、開いた屋根の上から見下ろしている。
そして一撃でわたしを再起不能にした鉈を振りかざし咆哮する。
『グオォ――――ッ!』
ブンッ!
「ま、間、に合わな、いっ ――――」
無慈悲にも、回復が間に合わない死に体に鉈が襲い掛かってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ、し、しかし ――――」
回復が間に合い、いくら退避できたとしてもこの魔物には敵わない。
そもそもこんな化物は決してオークなんかではない。
わたしはその存在を見て心が負けてしまった。
それほどの圧倒的な存在感と異質さが自信の心を打ち砕く。
『――――――』
だからわたしは諦めて、そっと目を閉じた。
ドガァ――――ンッ!!
『ルーギル視点』
「クレハンッ! 危ねェ後ろだッ!」
クレハンの後ろに信じられねえくらいの巨大なオークを見る。
咄嗟に叫んだが間に合わなかった。
アイツはオークの攻撃を受けて見えないところにぶっ飛んでいった。
「クレハンッッ!」
ダダッ!
クレハンを助ける為、飛ばされたであろう方向に走り出す。
「だ、大丈夫だッ! 生きてりゃ嬢ちゃんの薬があるッ! だから生きてろよッ! クレハンッ!」
だがクレハンの元に急ぐ俺に――――
シュンッ
「痛ぅッ!」
ザザ――ッ!
その時、右足に激痛が走りそのまま倒れ込む。
何かの攻撃を受けたのは明白だった。
「ちッ!」
俺は転がりながら態勢を起こし、片膝で立ち上がり双剣を構える。
「こ、今度は、なんだァッ! コイツもオークなのかッ!?」
『ブギャ』
新たに現れた魔物はオークと呼ぶには小さすぎた。
まるでゴブリンのような小さな体躯だった。
そして両手には、短剣を持っていた。
「チッ! 今は相手にしてらんねえッ! クレハンの治療が先だぜッ! なッ! か、体がッ!?」
俺はそう言って立ち上がるが体が動かない。
「テメエ、毒を塗ってやがったなッ! この野郎ッ! ウグッ!」
立ち上がろうと体を無理やり動かす。
早くしねえとクレハンの奴がヤバい。
「そうだッ! 嬢ちゃんに貰った回復薬ッ! 毒にも効くかどうかわかんねえが、試して見る価値はあるぜッ! はッ? な、ないッ?」
急いで手を伸ばすが、そこにはある筈のポーチがなかった。その回復薬が入っているポーチは、いつのまにかその小さなオークが持っていたからだ。
「お、俺の足を切りつけたと同時に盗ってやがったのかァッ!」
『ブギッ!』
シュ―― ン
「なッ!?」
奇声を発した後、一瞬でオークは俺の前から消える。
ただ実際には消えたわけではない。その早さが異常なのだ。
「コ、コイツはッ! 嬢ちゃんよりも、早い…………」
俺がそう言い終わる前に、オークは首筋にナイフを突き立て――――
『ギギッ!』
られる事はなかった。
なぜか突然動きが止まったからだ。
そう、まるで痺れたように痙攣している。
「大丈夫っ! ルーギルさんっ!」
「ユーアかッ?」
そして、スミカの相棒のユーアが姿を現した。
俺はユーアに助けられた? のだろうか。
スミカ嬢の妹のこの子供に。
『クレハン視点』
「ま、間、に合わない――――」
回復薬を手にするが、もし回復しても間に合わない。
それどころか、こんな化物に勝てる気がしない。
わたしは自身の命の危機の前に何もできない。
圧倒的な力の前に、意志よりも先に心が砕けた。
ゴガァアンッッ!
そしてオークの一撃が建屋ごと破壊し、わたしを飲み込む。
「ははは、もっと冒険してみたかった、んですが、ね……」
乾いた笑いで一人呟き、全てを諦め目を閉じる。
ただ心残りはあった。
ギルドでの仕事は満たされていた。天職でさえあると思える程に。
だけどもっと冒険したかった。もっとこの世界を見てみたかった。
尊敬するギルド長とも、そして小さな姉妹とも…………
「はぁ、はぁ、はぁ、………… なんです?」
だがわたしを死に至らせる、その凶悪な一撃は来なかった。
その代わり――――
「なら、すればいいでしょ? 冒険。生きてるうちは好きな事しなよ」
「えっ!?」
その代わり、この場に似つかわしくない澄んだ声が耳に入ってきた。
「はぁ、はぁ、あはは、そうかわたしは――――」
間一髪で助かった。
わたしは救われた。
これからの人生を、まだ好きな事をして謳歌できる。
そう一瞬で思考を埋めてしまう、そんな頼りになる声。
そう。
この声の持ち主は――――
わたしは閉じていた目を開ける。
そこには、
「ス、スミカ、さんっ!」
「良かったっ! どうやら間に合ったみたいでっ!」
そこには、わたしよりずっと小さな体で、巨大なオークと対峙する少女がいた。
仁王立ちでわたしの前に立ち、見えない壁の魔法で強烈なオークの一撃を防いでいた。
「あはははっ! さすがですよっ! スミカさんっ!」
どうやら、まだわたしはこれからも冒険ができるようだ。
小さくてもオークよりも大きく映る、蝶の背中を見て私は安堵した。
それ程の存在なんだと実感させられた。
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