剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第6蝶 冒険者ギルド騒乱編

不穏な空気と急ぐ少女たち

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 タタッ

 私は屋根の上から、地面に向けて軽く跳躍する。
 屋根の上のオークたちはあらかた片付いたからだ。

 そんな着地する先に、3体のオーク共が待ち構えていた。

「っと」

 私は透明壁を足場にして空中に留まる。

『ブグォッ』×3

 そして、その3体のオークはいずれも動きを止める。

 私は「ぴょん」と跳躍しながら、足場の透明壁を消す。
 そして痺れるオークを飛び越えながら、3機の円錐で脳天を貫いて絶命させる。

『ガァァッ』×3

 そして、そのまま着地した私は

「ユーア、ありがとうねっ! ナイスタイミングだったよっ!」

 何もない空中を見て感謝の言葉を叫ぶ。

「うん、ボクも初めてスミカお姉ちゃんの役に立てて嬉しいですっ! それにこれ凄いんですっ! 軽くて速くてかっこよくてっ!!」

 すると今度は何もない空中から返事が返ってきた。

 それは透明壁スキルで宙に浮き、尚且つ姿も透明なユーアだ。
 普通の人なら見えないが、私が設置したんだからさすがに見える。

 そもそも本人が見えなかったら、操作できないし自分がぶつかっちゃうしね。


 笑顔のユーアに手を振って、再度索敵モードに切り替える。

 オーク共は、もう殆ど残っていない。

『………………』

 今現在残っている数は11体。

 その残りの11体は、私たちから森に向けての後方。
 多分ルーギル達がいる方向だ。

『あれ?』

 11体?

 それじゃ、離れたところにいた2体はどこに?
 

 位置的には、この後方200メートルほどに11体がいたはず。

『あれ? 今度は9体になった』

 索敵で見えるマーカーが突然2個消滅した。
 きっとルーギル達が数を減らしているんだろう。

 でもあとの2体、小さい反応と大きな反応だったものが消えている。

 さっき見たその2体の反応は、私たちのこの先300メートル程にいたはず。

 ただ、この先はMAPができていないので、正確な地形とか建物のとかまではわからないし、それと深い洞窟までは索敵できない。まぁ村の中に洞窟があるとは思えないけど。

『もしかして逃げた?』

 だったら悔しい。

 私はまだ、私の目的を果たしていない。
 スキルレベルがあがってない。

 それにあの2体はきっと上位種か、レア個体だったんじゃないかと思う。

 オークたちに命令をして、自分たちは状況によっては逃げる為に、あそこから動かなかったんじゃないかと予想する。

 残り9体。

『うん。仕方ない。きっと楽しんでいるであろう、ルーギル達には悪いけど、残りは私がいただいちゃおう。そうしよう』

 早速、私はユーアに一度合流するために索敵を閉じ、ユーアのいる場所に戻るため移動を開始する。2人でルーギル達のところに向かうために。

 それにもうこの辺りには、経験値となるオークがいなくなったから。


 トン、トン、トン、っと、スキルで足場を作ってユーアのいる空中に向かう。

「――――――」

 その際に、ルーギル達がいるであろう方向をみるが、建物が遮って見えない。
 これ以上減ってたら、もう間に合わないかも。と若干諦めながら思った。


『トロールは、それでもなんとかなるかな? ちょっと面倒かもだけど』

 そう考えているうちに、ユーアのもとに到着する。


「ユーア、おつかれさま。初めてにしては、上手だったよっ!」

 可愛い妹に、労いの言葉をかけながら、頭を優しく撫でる。

「うん、スミカお姉ちゃんからもらった、この小さい弓も凄いんだよっ!」

 私に撫でられながら、少し興奮したようにそう話す。

「それにしても命中し過ぎでしょう? 本当に初めてとは思えないよ」

「う、うんっ! ボク、石投げや、石当ても得意だったんだよ? 孤児院では負けた事なかったんだっ!」
「?」

 石投げ? 石当て?
 何それ? 私知らないんだけど。

 私が首を傾げていると、ユーアが簡単に説明してくれた。


 円の中に石を置いて、順番に石を投げて、誰が一番最初にその石を円の外にはじき出すかで、最初に円から出した人が勝ち。これが石投げ。

 石当てが、円の中に石を置いて、ここまでは石投げと一緒だけど、円の中に入れる石は、各プレイヤーの手持ちの石。それをプレイヤーが交互に投げて、一番多く出した人が勝利。みたいな感じ。

 私が子供の頃は、TVゲームばっかりだったからなんか新鮮な感じ。
 って、大人になってからもゲームばっかりだったけど。


 ユーアにそんな話を聞きながら、アイテムボックスよりドリンクレーションを出して、ユーアに渡す。もちろん私も飲む。

「ありがとうスミカお姉ちゃんっ!」
「うん」

 そう言えば、毎回ユーアに渡すのもあれだから、まとめて渡しておこうかなあ?
 ユーアもマジックポーチ持っているしね。

 そしたらユーアも好きな時に飲める。

『ん? 待てよ。毎回渡してお礼を言われるのも嬉しいんだよねっ!』

 私がそんな事を考えていると、

「…………スミカお姉ちゃん、なんか増えてるかもです」 

 ユーアが言い出す。

「ん? 増えてるって何が?」
「オークの数が、増えてるんですっ!」
「え?」

 


 ユーアの言葉を確かめようと、私はMAPと索敵モードに切り替える。
 そこに映る数は2体。

 ユーアに合流する前は9体だったから――――


「ユーア、さっきより減ってるよ? さっき9体だったけど、今は2体だから」

 私は確認して、そうユーアに告げる。

「スミカお姉ちゃん、違うんです。さっき一度全部いなくなったんです。でも急に増えたんですっ!?」
「へっ?」

『えっ!? もしかして――――』

 私は再度、索敵モードに切り替える。


 その数は2体。それは変わらない。
 ただ変わらないけどその内の1体はマーカーが大きかった。

『はぁっ? なんでっ!?』

「ユーア、ちょっと急ごうっ。その2体のところにいるのはルーギル達だからっ! 私の背中に乗ってっ!」
「はい、わかりました、スミカおねえちゃんっ!」

 ユーアを背負い、透明壁の足場から飛び降りて、直ぐに解除する。

『……………………』

 迂闊だったかも。


 多分私が、ユーアとのんびりしている時にルーギル達は全てを討伐したんだろう。

 そして、その後に2体が後から現れた。
 私と、ユーアの探知を切り抜けて。

 その2体は、私が逃げたと思った2体だろう。
 上位種もしくはレア個体だと予想した。

 私の索敵は、360度全てを索敵できるわけではない。

 私の視界に映るのはだからだ。これが、地下、地上、空、などが映った場合私が処理できないし、情報が多すぎて逆に混乱する。

 かといって、360度が全くダメな訳ではない。
 屋根の上も地下でも見える。ただそれにも死角がある。

 それは『極端に離れている』場合だ。
 
 多分その2体は、上空か地下深くからきたのだろう。

 ただ、そこまでユーアが視えなかったのが気になる。
 ユーアの能力にも何か、制限か限度か条件とかがあるのだろうか?

 今はとりあえず、二人の安否が気になる。


「ユーア、少し急ぐから、しっかりつかまっててっ!」
「はい、スミカおねえちゃん!」

 私は、ギュッと強くしがみ付いてくるユーアを確認して
 スピードを上げるのだった。



※※※※※



 時間は少し戻って、その頃のルーギル達は。


「よっしゃァッ! 4体目ェ! しっかし手応えねえなァ!!」

 俺は、オークに刺さった剣を抜き取り振るって血糊を払う。
 ビジャッとその体液が地面を濡らす。残りは9体。
 俺の周りには6体で、屋根の上のクレハンの所には3体だ。

 クレハンはオーク3体に善戦しているが、少しもたついてるように見える。 

 まぁ相手はオークとはいえ、飛び道具もっているからなァ。
 アイツの事だから慎重になってるんだろう。

「なら、さっさと、こっちは片付けちまうかァ!」

 俺は、切り掛かってくるオークの1体の攻撃を。そしてもう一体も、ここぞとばかりに、その後ろから大振りな大剣がくる、それをもう片方の剣でこれも受け止める。

 さすがに2体のを受け止めきれずに、俺は建屋の壁に押し込まれる。
 そして、その後ろにも4体のオーク共が押し寄せる。

 どおォれ、嬢ちゃんから貰った「あれ」試してみっかなァッ!

「グググググッ――――ダリャアァァァッッ!!!!」

 俺はわざと受け止めていた、オーク2体の攻撃を力一杯弾き飛ばす。そしてそのまま建屋の壊れた窓から中に転がり込む。

 筒状の『グレネード』は、飛び込む前に奴らの足元に置いてきてある。
 そして、俺は嬢ちゃんから貰った「りもこん」とやらのボタンを押す。


 ドゴォォ――――ッッッン!!


 途端に壁が破裂した。

「ウオォッ!!」

 俺はその強力な爆風により、反対側の壁まで飛ばされる。
 そして「ガンッ」としたたか背中を打ち付ける。

「あだァッ!!」

 パラパラと、爆風により飛ばされた細かい瓦礫が落ちてくる。「イデデッ」と一緒にぶつけたであろう頭を押さえながら立ち上がり、埃が舞う中俺は苦笑いを浮かべる。

「さすがに、一度に2個は、やり過ぎだったかァッ! ってかあり得ねえだろォ、この威力はよォッ!!」

 建屋の壁が半壊どころか、縦横一面そして地面には大穴が開いていた。
 建屋はほぼ全壊していた。

 「スミカ嬢よォ、威力は1個で5人くらいつってたからよ、2個にしたんだぜッ? なんせオーク共は人間よりも頑丈だからよォッ! それなのに――――」

 そこにはオーク6体分の肉片どころか、全てが吹き飛ばされいた。

「オオッ怖えッ!!」

 俺は、建屋が崩れる前に外に出ようと立ち上がり、光の方へ走り出す。

 予想以上の威力の、あり得ないそのアイテムに俺は――

「ったくよォ、アイツは元々んだよォ、1個でも十分だったぜ」

 一人愚痴りながら、クレハンの元へ急ぐのだった。


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