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第6蝶 冒険者ギルド騒乱編
決戦準備と新たなアイテム
しおりを挟む「結構たくさんいるね、あいつら」
森の木々から見える範囲でも、オークたちが20体以上は確認できる。
その村を囲っていただろう柵は、無残にも破壊されてただの木片になっており、ここから見える数軒の建屋は、外壁はある程度無事だが、扉や窓などは壊されているものが多い。
「ああ、そうだなァ。予想だと30以上はいる筈だァ」
屈んで様子を見ていた私に、ルーギルがそう答える。
「だったら村の人たちは、もう……」
「はい、おそらくですが全滅していると思われます。コムケの街への流通が絶ってから、一か月は経っているので、生きている村人はいないものと思われます」
「残念ですが」とクレハンがルーギルの代わりに答える。
「…………ねえユーア。あのオークたちは何体いると思う?」
隣で真剣な眼差しで、村を見つめるユーアに尋ねる。
「ちょっ、嬢ちゃんッ。そんな事ユーアがわかるわけ――――」
「スミカお姉ちゃん、多分だけど100体近くはいると思うの。ボク……」
ルーギルが何かを言い終わる前に、自信なさげにユーアが答える。
「100体!? 村人は100人くらいしかいなかったんだぜぇ! その100人に対して、100体のオークが襲ったっていうのかァ!? そんな話は聞いたことがねえぞォ!!」
「そ、そうですっ! もしも100体ものオークがいたら、とっくに食い荒らして、わたしたちの街に向かってきてますよ!」
ルーギルに続きクレハンもユーアの話に異を唱える。
「それによォ、仮に100体いるとして、ユーアはどうしてわかるんだァ?」
「あ、それなんだけど、ちょっと先にいい?」
私は軽く手を挙げて、ルーギルの質問に割って入る。
「ああ、どうした嬢ちゃんッ?」
「私の『目視』でも95体はいるよ。間違いなく」
私の場合は『目測』ではなく『目視』。
索敵に映っている数が見た目で95なのだ。
そして、ユーアの『目測』は100近く。
100以上だとは言っていない。
それでもほぼ正確に目測をしている。
「間違いなく、かァ。ユーアも嬢ちゃんも殆ど一緒の数なんだよなァ……」
「そうですね。そんな数は本来あり得ない筈なんですが、わたしたちが認めるお二人が言うと、あり得ないことが現実になりそうですね……」
二人はそう言って腕を組みながら考え込む。
「あ、あのぉ、ちょっといいですか?……」
そんな思案顔の二人に、ユーアがおずおずと手を挙げる。
「ん、どうしたァ? ユーア」
「あのぉ、そもそも、あのオークたちもトロールどこから来たんですか?」
ユーアはそうルーギルに尋ねる。
「どこからってぇ…… オークはビワの森だろォ? トロールはちとわからねえがァ」
「……ボクは、よくビワの森に行っていました。でも、オークもトロールも見た事も視た事もないんです」
『…………………?』
見た事?
視た事?
「あ~それは奴らが来たのが、ごく最近だからじゃねえかァ?」
「………………」
ルーギルはそう答え、クレハンは何やら考え込んでいる。
「ユーアはきっとこう言いたいんだよ。オークもトロールも何処か他の地域から追いやられたんじゃないかってね。ユーアそうでしょう?」
私が代わりにユーアが言いたかった事を話す。
それは私も考えていたことだ。
「……はい、そうです」
「……………………」
「……………………」
「ねえ、このサロマ村の近くに、他に人が住んでるところはないの? 村でも集落でも」
「…………村があるにはあるが、ここから馬車でも一昼夜かかるところだぜぇ? 小さな集落なんかはわからねえがァ」
「そうですね『クシュの村』があります。規模はサロマ村よりも大きいですが、コムケの街とは取引がないので、細かい詳細まではわかりませんが…」
そう言ってルーギルが説明をし、クレハンが補足をいれる。
それを聞いて私は、
「もしも。だよ? もし『クシュの村』の人たちの生き残りが、オークやトロールから逃げて来たのであれば、ユーアがビワの森で見なかった事も、オークの数が多いのも説明がつくんじゃない?」
「まあ、憶測だけどね」と付け加える。
「ちょ、ちょっと待てよォ、だったらその魔物たちは何から逃げて来たんだってならねえかァ?」
「そこまでは、わからないよ。他の街の冒険者が追い立てたとか、コイツらより強い魔物から逃げて来たとか、そんなところじゃない? それを考えたらキリないし」
そう。所詮それは机上の空論なのだ。
それを今考えても仕方ないし、私たちではどうしようもない。
「……スミカさんの言う通りですね。今それを考えるのではなく、わたしたちは今何しにここに来ているのかが重要です」
「まァそりゃそうだがよォ。なんか気になっちまうじゃねえかァ、他の街がもし危険にあってるって可能性があるっつうだけでよォ」
クレハンは、本来の目的を忘れない初志貫徹の心構えだ。
だけどルーギルは性分だろうか。他の村や街まで気にしている。
そんなルーギルに私は釘を刺そうと
「あのね、ルーギル――――」
「オウッ!わかっている。今はそれを考えても仕方ないのもなァ」
口を開いたが、ルーギルが割って入ってそう話す。
元々聡明なルーギルだ。わかってはいるんだろう。
ただ感情を捨てられないのもルーギルらしい。
「村とかの事はわからないけど、他の地域とか街とかにも私みたいな新人冒険者もたくさんいるんだから大丈夫じゃないの? もっと強いベテランもいるだろし」
気休めながらも心配するルーギルに告げる。
「だからきっと大丈夫だよ」とも付け加える。
だけどそれを聞いたみんなは……
「嬢ちゃんみてえな、新人冒険者はいねえよォ!!」
「スミカさんみたいな冒険者が大勢いるわけないじゃないですかっ!!」
「スミカお姉ちゃんみたいな、変わった冒険者はいないよっ!!」
「…………………」
そんな三人に私は三者三様の総ツッコミを受けた。
私の励ましは、ある意味無駄になったようだ。
※ ※ ※ ※
「あのさぁ、お願いがあるんだけど」
私はある作戦のため、三人にそう切り出す。
「ああ、なんだァ、スミカ嬢?」
ルーギルが代表してなのか、そう答える。
「出来るだけ、私ひとりで倒させて」
短く告げる。
「ちょ、嬢ちゃん!いくらなんでも一人ではッ?」
「100体近くいるのでしょう!流石にそれは危険ではないでしょうか」
「そ、そうだよっ危ないよぉ!ボクも頑張るからっ!!」
私のお願いに三人は驚き、口々に反論される。
「『出来るだけ』って言ったでしょう? それに100体近くも同時に相手できないし、絶対に討ち漏らしが出るから、それを二人にはお願いしたいの。あ、だから、ユーアは私と一緒ね」
そう言って私はアイテムボックスより、あるものを取り出す。
「はい、これ。二人には渡しておくから」
私はアイテムボックスより、
『スティックタイプレーション』 ×5
『リカバリーポーション【S】』 ×5
『ハンドグレネード【リモート式】』 ×20
ゲーム内のアイテムを、二人にそれぞれ渡す。
「っ!? こ、これは…… あん時の回復薬かァ? それと激マズの菓子と、あとは何だァ?」
「これがギルド長が言っていた回復薬ですかっ!? あとは体力回復のものと、この筒状のものは一体?」
上の二つは、ルーギルも知っているもの。
リカバリーポーションの効果は、ルーギルから聞いたのであろうクレハンも知っていたようだ。
そして残り最後の一つは
「その小さな筒の物は、このリモコンで爆発するからこれも渡しておくよ。セットだから」
そう言って私は手榴弾を起動させるための送信機を二人に渡す。
「りもこん? これが爆発するだァ?」
「そ、そうみたいですね? そのままの言葉ですと……」
二人とも見た事もないアイテムを興味深く見ている。
「爆発させたいところで、これを投げても転がしても設置してもいいから、このボタンを押して。それで爆発するから。そんな小さな筒でも5メートル範囲でも人間だったら5、6人は吹っ飛ぶよ。それと爆発の範囲は20メートルくらいあるから距離は考えて使ってね」
そんな二人に簡単な説明と注釈を教える。
「……………………」
「……………………」
唐突に何故か黙り込む二人。
「??」
「………………ハハハッ」
「………………フフフッ」
「っ!?」
「ハハハハハハハッ! こりゃあァスゲエやッ! 嬢ちゃんこんな物騒な物まで、持ってたんかァッ!!」
「フフフフフフフッ! これは凄いですねぇっ! しかも最高級の体力回復と最上級の回復アイテムまであるんですから負ける気はしませんよぉっ!!」
「…………」
なんかめっちゃはしゃいでいた。
「だから範囲には気を付けてよ、フレンドリーファイヤーなんて止めてよね」
そんな上機嫌の二人に注意をする。
なんかこのテンションだとやらかしそうだし。
「ふれんどりふぁいあ?」
「同士討ちって事よ」
「ああ、なるほどなァ。でも嬢ちゃんに貰った回復薬使えば大丈夫だろォ?」
「さ、さすがに腕が取れちゃったとか、足がなくなっちゃったとかは無理だと思うよ。多分だけど……」
「ああ、わかったぜぇ! ありがとよ嬢ちゃん。それでこんなもの俺たちに渡しちまっていいんかァ? こういうのって嬢ちゃんの秘密の一つなんだろォ?」
ルーギルのくせに、そんな細かい事を言ってくる。
まぁこれから説明するつもりだったからいいけど。
「その事なんだけど、後々面倒くさくなる可能性もあるからあまり吹聴しないでくれる? 一応二人とも信用はしてるけど」
そう言って私は少し威圧を込めて睨んでみる。
「ああっ! 心配すんなァ! 絶対に口外しねえッ!!」
「わたしもですスミカさん。そんな重大な秘密まで、街の為に教えてくれて感謝しますっ! 誓ってスミカさんたちに、不利益になる様な事は喧伝しませんっ!」
私の威圧した雰囲気にも呑まれずに真剣に答える二人。
これなら信用してもいいだろう。
「じゃ、そろそろ開戦と行きますかっ!」
そう言って私はアバターの背中の羽根を操作する。
その背中ではパタパタと小さな羽が揺れ鱗粉が舞う。
やっと使い道ができたよ。
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