44 / 586
第5蝶 大豆少女と大豆工房◎出張所の救援編
さらに増える頼もしい味方たち
しおりを挟む「あらぁ、随分と賑わってるじゃないのぉ――っ!」
人混みの中から、見知った全身黒の革タイツのムキムキ男が声を掛けきた。
「ニスマジ、あなたも結構な人数集めてくれたんだにゃ!」
まぁ、ガチムキのオネェ軍団だけど。
「じぃ~~」
「にゃっ!?」
ギュッ
ニスマジの視線から隠す様に、とっさに二人を抱き寄せる。
いつの間にか無表情で、こちらをガン見していたからだ。
「…………にゃ、にゃによっ!」
「…………いいわぁっ!!」
「っ!?」
「いいじゃないのぉ~、その衣装っ! 最っ高だわぁっ! 三人とも凄く素敵じゃないのぉー! よく触、じゃなくて、見たいからわたしもそっち手伝っていいでしょっ――――!!」
『っ!?』
「きゃっ!」
う、うわっ――っ!!
私たち三人を見る目が血走って涎まで出てるよこの人。
完全にロックオンされてるよね、私たちっ!
ユーアは平気そうだけど、メルウは短い悲鳴の後、腕の中で「ブルブル」震えている。
そういう私も鳥肌がたっていた。
こ、怖すぎる。
「ニ、ニスマジは、悪いんにゃけど、カジカさんと、接客と販売の方を、手伝ってくれるかにゃ!」
そう。
冒険者たちと、ニスマジが連れてきた人らの影響で、カジカさんも手が回らなくなっている。そちらにも人手が必要だ。
決して気持ち悪いとか、近くにいて欲しくないとか、そんな理由などない。
「んーもう、わかったわよぉ~、。それじゃ、わたしは接客の方をみてくるわ。後でまたくるからねぇ~」
「う、うん、よろしくねっ!」
よし、これで変○は去った。
そうは言ってもニスマジも立派な戦力になっている。
そして意外と中身は常識人だったりする。
だから無下にもできない。
「ふぅ、ニスマジは見た目あれだけど、任せても大丈夫かな? それよりも助っ人たちはうまくやってるかな?」
私は一息吐き出して、状況把握する為、周りの様子を見てみる。
※※
「お、なんだ、この味噌って奴で焼いた肉、焼き具合もそうだか味噌の味と焦げも相まって、香ばしくてうまいじゃねえか!?」
「この、味噌肉野菜炒めも野菜の甘味と合わさってうまいっ!」
味噌料理に舌鼓を打ち、感嘆の声を上げる冒険者の二人。
そこに、
「お前たちは、味噌が腐ってると思って口にしなかったらしいが、それは大きな間違いなんだぞ」
冒険者二人の感想を聞いて、口を挟む肉担当のログマさん。
「そうよ、わたしたちもルーギルやニスマジ達と冒険者時代に何度も口にしているのよ。体に悪いわけないでしょ?」
近くにいたカジカさんもフォローを入れる。
「ええっ! ログマさんとカジカさんは、昔ルーギルギルド長と組んでいたんですか!?」
それを聞いた冒険者の男は、上ずった声で反応する。
「まあな、昔の話だがルーギルも俺たちも大豆の食品は気に入っている。だから安心して食べろ」
「そうよ、あなた達もルーギルのいう事なら信じられるでしょう?」
「は、はいっ! ギルド長も食べた事があるなら大丈夫ですねっ!」
どうやら、トロノ精肉店の二人は問題なさそうだ。
※
こちらは味噌汁担当の店主のマズナさん。
そして近くにいたニスマジ班。
「あら、このお豆腐も、サッパリして美味しいわぁ! それと、このタレもいいわねぇ!」
「味噌のスープも、優しい味でおいしいかもぉ!」
ガチムキオネェ軍団が、マズナさんに向かって感嘆の声を上げる。
「おうっ! 俺の作った豆腐も味噌も、褒めてくれてありがとよあんた達っ! あと、豆腐にかかってるタレは醤油ってんだっ! それも大豆からできてるんだぜっ!」
二人の会話を聞いていたマズナさんは、すぐさま注釈を入れる。
続いてニスマジも、
「そうよぉー、あんたたち。なんか勘違いして食べてなかったみたいだけど、わたしも好きなのよ大豆を使った食べ物は。美容にも健康にもいいしねぇ」
畳み込むように、追加アピールする。
「ええっ! 美容にも健康にもいいなんてぇしかも美味しいしぃっ!」
「ねぇっ! みんな聞いたぁ――! ニスマジさんのお墨付きよぉ!」
「ソウナノ! あのニスマジさんが言うなら、アンシンダネッ!」
そして、ユーアが声を掛けて集まった、おじちゃん達冒険者30人。
更にニスマジが連れてきたガチムキのオネェ軍団20人が加わって、どの大豆料理にも舌鼓を打ち、その味を絶賛していく。
なんか微妙に説明口調で演技っぽい人もいた気もするが、ニスマジに頼まれたのだろう。
だがそんな大根役者の演技でも、人は多く集まってきている。
「おい、なんだあれ! ネコの格好の少女たちが宙に浮いてるぞっ!?」
「はぁ? 何言ってんだ、おま――へ? 本当だっ!?」
「…………か、可愛い…………ハァハァ」
「大豆だって? 面白そうだからちょっと行ってみようぜっ!」
こちらは街の男性陣。
「見てっ! あの子供たち空中を歩いてるわよっ!?」
「はぁ? 何言ってんの、あな――は? 本当だっ!?」
「…………か、飼いたい…………ハァハァ」
「大豆? 何かしら面白そうだから行ってみようよ」
こちらは街の奥さま方。
「うん」
私たち三人の空中宣伝も、かなり目立っていい感じになっている。
まあ、キャストもいいからねっ。
なんか嫌な視線も感じたけど。
「おーい! この味噌を買いたいんだか誰かいないのか―っ!」
「私は、豆腐と醤油が欲しいんだけど、どこで払えばいいの?」
「俺は、一通り買うぞ――っ!」
そしてその影響で購入者も一気に増えてくる。
これじゃ販売する人数も足りなくなる。
下にいる応援の人たちは、絶えず何かの対応に追われている。
色々な結果が重なって、みんなもいきなり忙しくなる。
「お――い、スミカさんっ! もう持ってきてたうちの商品が足らなくなりそうなんだっ! 俺が取りに行ってもいいかっ?」
人ごみに揉みくちゃにされながら、マズナさんから声が上がる。
「スミカ、こっちも肉とか野菜が諸々足りなくなっている。どうする?」
間髪入れずログマさんからも。
「う――、ログマさん、材料は私が持っているから直ぐに行くにゃ! マズにゃさんの方は、私とメルウが取りに行ってマジックバッグに入れてくるにゃ! あ――それとも……」
それでも微妙に回らないと思う。この人数だと。
「オ――イッ! スミカ嬢ォ! なんか人手が足りなさそうじゃねえかァ!!」
「そうですね。流石にこの人数だと回らなそうですね」
味噌肉の串焼きを両手にそれにガブついているルーギルと、味噌のスープを片手に飲んでいるクレハンの二人が、悩む私に声を掛けてくる。
「ま、まあちょっとだけヤバいにゃ。ちょっとだけにゃ」
見栄を張って、ちょっとだけをアピールする。
あまり弱みを見せたくないからね。
「カァッ! これがちょっとだけかァ? クレハン、ギョウソに言って冒険者の奴らに料理が出来る奴と、勘定をできる奴は手伝ってやれって伝えてくれやァ! それと、ニスマジの奴らも来ていたろォ、そいつにも伝えてくれェ!」
「はい、オーダー承りましたギルド長。では」
ルーギルの注文に、クレハンは人混みの中に入っていく。
どうやら二人には見透かされていたようだ。
「…………ルーギル、いいの?」
下にいるルーギルに、ネコ耳カチューシャを外してそう問いかける。
何でそこまで?
「クレハンも昨日言ってたろォ! 俺たちは嬢ちゃんたちを気に入ってるんだァ! だから気にするなァ!」
「前にも言ったけど、私たちに期待されても迷惑なんだけど」
「それも昨日言ったろォ? 勝手に期待してんだァ、それこそ気にするなァ!」
「…………うん、わかった。今回は甘えるよ。お願いするルーギル」
正直今はネコの手も借りたい状況なのだ。
まあネコは自分たちだけど。
「ボクからもお願いするにゃ! ルーギルさん!」
「オウッ! 承ったぜぇ! 嬢ちゃんたち任せろォ! さあ、面白くなるぜぇ!!」
そう言って、ルーギルも人混みの中に消えて行った。
「ふう、それじゃ、そっちはルーギル達に任せて、私たちは出来る事をしようか?」
「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」
「はいにゃのっ!」
「ユーアは一人で上にいるのは嫌でしょう? 一度下に降りて皆を手伝う?」
独りだけ、取り残されるであろうユーアを気遣いそう提案する。
こんな空中でネコ装備。しかも一人。
私だったら悶絶ものだ。恥ずかしくて。
「スミカお姉ちゃんボクは一人でも大丈夫にゃのっ! 任せて欲しいにゃ!」
決意のみなぎった表情で、そう返事を返す。
どうやらユーアの意志は固いようだ。
「そう? だったらお願いにゃユーア。メルウと私は大豆商品の在庫持ってきたら、すぐに合流するからにゃ」
ネコの手袋をはめながら、ユーアの猫耳カチューシャを付けた頭をなでる。
「はいっ! 任せて欲しいにゃ!!」
「うん、それじゃすぐに戻ってくるから、よろしくにゃ」
「うニャッ!!」
タンッ
メルウを抱き上げて、透明壁を展開しながら下に降りる。
「はい、ログマさん。お肉と野菜をここに置いておくにゃ。これで全部にゃ」
まずはログマさんに材料を渡す。
「ああ、すまない。お前たちは昨日大量の買った肉はこれで使い切ったのか?」
「そうにゃんです」
ユーアが選んで、ログマさんから買った肉はこれで最後だ。
「そうか、なら明日以降に取りにくるといい。お前たちの分を仕入れておく」
「ログマさんお願いするのにゃ。それじゃ私は他に行くところがあるから行きますにゃ」
「ああ、大豆商品の在庫を取りに行くのだろう。気を付けて行ってこい」
「はいにゃ」
「ニャニャニャッ!」
ログマさんと別れて、メルウを抱えなおす。
そして透明壁を足場にして屋根の上にでる。
「ねえ、メルウ。倉庫は何処にあるにゃ? 案にゃいしてくれる。遠いの?」
首に抱き着いて、プルプルしているメルウに声を掛ける。
「は、はいニャの! あっちですニャ! ここから歩いて10分くらいですニャの!」
「わかったにゃ。それじゃ、ちょっと急ぐにゃ」
「ニャっ!」
メルウをしっかりと抱きかかえながら、大豆工房◎の倉庫を目指して屋根の上を疾走していった。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる