41 / 586
第5蝶 大豆少女と大豆工房◎出張所の救援編
見られたパン〇とお手伝い
しおりを挟む「それで、門兵さんは、私に何か用なの? ちょっと忙しいんだけど私たち」
私はちょっと怒気を含んだ声で言う。
「あー悪りい、ちょっと確認だけだから時間はあまり取らせない。あと、俺はこの街の衛兵の『ワナイ』だ。嬢ちゃんに会ったときは門の警備の日だったんだよ。覚えているだろう、俺の事?」
「うん、覚えてるよ。それで私が何かしたの?」
「街の人から通報があってな、昨日の夕方なんだが嬢ちゃん、屋根の上、走り回ってなかったか? そこの小さい嬢ちゃんをおぶって、悲鳴を上げながら駆け抜けていったってぇ話と、嬢ちゃん一人ってのも話があったんだが、どうなんだ?」
「!?」
「え!?」
私とユーアはお互いに顔を見合わせる。
二人とも「あっ」とした表情だった。
「サ、サア、シラナイヨ――」
私は目一杯の演技でしらを切る。
「そうか? だがなぁ『蝶のヒラヒラした格好』の少女との証言なんだが、流石に嬢ちゃんしかいないだろうよ? そんな恰好は」
「そ、それで、もし私たちだったらどうなるの? 牢屋に入れられるの?」
だとしたら速攻逃げる、かも。
「別に、誰かを傷つけたとか壊したとかじゃないから、ただ単に注意しに来ただけなんだが。危ないしな」
私とユーアは二人揃ってそっと手を挙げる。
「それ、私で間違いないよ」
「ボ、ボクで合ってます……」
「……やっぱり、お前たちで間違いないんだな? はぁ、危ないからもうやるなよ」
「ごめんなさい。もうしないよ」
「ご、ごめんなさい! もうしませんっ!」
私たちは素直に頭を下げた。
「まぁ、もうやらないなら、それでいいんだ。それじゃ、俺は戻るぞ」
ワナイはそう言って立ち去ろうとして、
「あ、それと、蝶の嬢ちゃん。中身が『黒』だって見られてたぞ? 女の子なんだからもっと気を付けろよ」
「え?」
そんな爆弾発言だけを残して行った。
中身が黒って?
「~~~~~~っ!」
途端に、顔が凄い勢いで赤くなるのを感じた。
思い出した。
それって私の装備の下の中身じゃないっ!
ローライズタイプのパ○ツじゃないっ!!
「ス、スミカお姉ちゃんの…… そのぉ、見られてたの? パン――」
「イヤァァァァッッ――――!!」
だ、誰だよっ! 目撃者はっ!!
なんでわざわざ色まで報告するのよっ!
犯人は出てきなさいよっ!
記憶がなくなるまでカチあげてやるからっ!!
※
「ううっ、もうお外歩きたくない。街の人たちに広まってるんだ、きっと…………」
「だ、大丈夫だよ、スミカお姉ちゃんっ! ボクなんか見られても平気だしっ!」
「へっ?」
泣きべそをかいている姉に、変な慰めの言葉をかけてくる妹。
「………………」
でもそれってどうなんだろう。
慰めてくれるのは嬉しい。
けど、見られて平気って、乙女としての何かが足りないよ、
ユーアさん……。
道中そんな事があったけど、メルウが待つ『大豆工房◎出張所』に着いた。
前にも思ったけど『◎』ってなんだろう?
「あ、スミカお姉さんと、ユーアお姉さん、おはようですのっ!」
「うん、おはよう。メルウ」
「おはようメルウちゃんっ! 今日は頑張ろうねっ!」
私たちを店頭で見付けたメルウが、ニコニコの笑顔で近づいてくる。
はぁ癒される、さっきの事はもう忘れよう。
そんなメルウに私とユーアも挨拶を返す。
「どう? お店の準備は終わったの?」
「はい、終わってるのっ! あ、それと今日は……」
「オウッ、昨日はうちの商品買い込んでくれてありがとなっ! それとあんな高級な薬まで譲って貰ってすまなかった。本当に助かったぜッ! 恩に着るぜッ! ガハハハハハハッ!!」
そう言いながら、私とユーアの背中をバシバシ叩いてくる男。
「………………」
なんかうるさいのが来たなぁ。
「お、お父さんっ! 二人とも痛がってるのっ! もうやめるのっ!」
訳が分からず痛がっている(特にユーア)私たちを見て、
慌てて止めに入ってくれるメルウ。
「お、そうか? すまねえなッ! どうしても嬢ちゃんたちに礼を言いたくてなッ! ガハハハハッ!」
そう言ってやっと叩くのを止めてくれた。
ユーアはちょっと涙目だった。
「俺は『大豆工房◎出張所』の店主で、一人娘のメルウの父親『マズナ』だッ! そっちの変わった格好が『スミカ』で、そっちの小さいのが『ユーア』だなッ! 二人のお陰で俺はケガも治って店が再開できるって訳さッ! ありがとなッ!」
ブンッ
また背中を叩かれそうになったので、ユーアの背中に透明壁を展開する。
ガンッ
「い、痛ってえッ! な、なんだァ?」
衝撃に驚き、マズナは手を抑えている。
「ちょっと、お礼を言ってくれるのはいいけど、あんまりバシバシ叩かないでくれる? 私は大丈夫だけど、ユーアは凄く痛がってるから」
「うッ!!」
少しだけ凄んでマズナを睨みつける。
((なんだ、聞いてたのより、おっかねえじゃねえかメルウよぉ……))
コソコソとメルウに耳打ちしている。
「私これでもCランクの冒険者だから。ユーアに何かしたら私が黙っていないからね」
そんなマズナに私は釘を刺す。
「Cランク冒険者ァッ!」
「ほら、お父さん、ちゃんと謝ってなの。今日はスミカお姉さんとユーアお姉さんは、お店を手伝いに来てくれたの。昨日お話したでしょう?」
「お、おうっ! 悪かったなッ! 礼を言いたくて、遂なッ! すまなかったッ!」
慌てたように頭を下げ謝罪するマズナ。
「……わかってくれればいいよ、それで。それに娘のメルウの前で言い過ぎたよ。私も悪かった。ごめんなさい」
私たちは別に、ケンカをしにここに来たわけではない。
そう思い、私も悪かったと頭を下げる。
どうしてもユーアの事になると周りが見えなくなる。
これって危ないよね?
今度から気を付けないと。冷静にね。
「いいって、いいってッ! 元々悪いのは俺なんだから気にしないでくれッ!」
「うん、わかった。これでこの話は終わりね。で、今日の作戦なんだけど」
私は自分が考えてきた内容を伝える。
「なるほどッ! 確かに考えてみればそうだなッ! で、材料の件なんだが、今の家にはそんな余裕は…… 出来る限りはするが――――」
まあ、そうだろうね。資金がなくて自分で素材を取りに行くくらいだし。
流石に昨日私が購入した売り上げでは足らないよね。
それと成功するかまではわからないから、出費は気になるだろうし。
「そこらの準備はこっちで昨日してきているから大丈夫。ユーアもいいよね? また後で買ってくるからね」
「うん、大丈夫だよっ! だってメルウちゃんの為だもんっ!」
よし、ユーアの許しもでた。
「…………なんで、俺たち親子の為にここまでしてくれるんだ?」
そこまで聞き、マズナは少し真剣な顔で聞いてくる。
「なんでって、メルウから聞いていないの?」
確か昨日メルウには話してある。
二つの理由を。
「いや、娘からは聞いている。だが――――」
何か他に裏があると思われているんだろう?
そんな表情だ。
「……なら、うまくいったら、もう一つ条件を追加するよ」
「な、なんだその条件とは…… まさか娘をっ!」
「それは違うよ」
はぁ? なんで娘を貰う事になるの?
どこかのお代官じゃあるまいし。
「別に難しいことじゃないよ。もし、うまくいったら、私たちに優先的に商品を売ってちょうだい」
「は、はぁ!? なんだそんなことでいいのか?」
想像してたよりも、大した事がないと思ったのか素っ頓狂な声を上げる。
「うまくいったらって、言ったでしょう? もしそんな事になったら、商品がどんどん売れちゃうでしょう? その状況で私が買い占めたらどうなると思う?」
「ぶふッ!」
「ん?」
「ぐふふふふふ――――」
「お、お父さん大丈夫なのっ!? まだケガが痛いのっ!」
変な声を上げる父親にメルウが駆け寄る。
「ガッ ハハハハハッッッッ!!!!」
そんなマズナは心配をよそに辺り構わず大声で笑いだした。
「お、お父さん、笑ってるの?」
「これが笑わずにいられるかってかッ! ガハハハハハハッ! もしそんな状況になっても、ならなくても、俺は嬢ちゃんたちが欲しいと言えば絶対に売ってやるッ! 俺はお前たちを気に入ったッ! それでいいだろ? スミカの嬢ちゃんッ!」
「うん、そっちがそれでいいなら私たちもいいよ」
「よし、交渉成立だなッ! メルウ、それとスミカさん、ユーアさん、今日はよろしく頼むッ! 俺も久し振りに熱くなってきたぜッ! ガハハハハハッ!」
「まぁ、そんなわけだから、今日はよろしくね」
上機嫌で高笑いをするマズナを他所に、二人にそう告げた。
お昼時には後一時間くらい、私たち4人は準備を始めた。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる