剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第5蝶 大豆少女と大豆工房◎出張所の救援編

見られたパン〇とお手伝い

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「それで、門兵さんは、私に何か用なの? ちょっと忙しいんだけど私たち」

 私はちょっと怒気を含んだ声で言う。

「あー悪りい、ちょっと確認だけだから時間はあまり取らせない。あと、俺はこの街の衛兵の『ワナイ』だ。嬢ちゃんに会ったときは門の警備の日だったんだよ。覚えているだろう、俺の事?」

「うん、覚えてるよ。それで私が何かしたの?」

「街の人から通報があってな、昨日の夕方なんだが嬢ちゃん、屋根の上、走り回ってなかったか? そこの小さい嬢ちゃんをおぶって、悲鳴を上げながら駆け抜けていったってぇ話と、嬢ちゃん一人ってのも話があったんだが、どうなんだ?」

「!?」
「え!?」

 私とユーアはお互いに顔を見合わせる。
 二人とも「あっ」とした表情だった。

「サ、サア、シラナイヨ――」

 私は目一杯の演技でしらを切る。

「そうか? だがなぁ『蝶のヒラヒラした格好』の少女との証言なんだが、流石に嬢ちゃんしかいないだろうよ? そんな恰好は」

「そ、それで、もし私たちだったらどうなるの? 牢屋に入れられるの?」

 だとしたら速攻逃げる、かも。

「別に、誰かを傷つけたとか壊したとかじゃないから、ただ単に注意しに来ただけなんだが。危ないしな」

 私とユーアは二人揃ってそっと手を挙げる。

「それ、私で間違いないよ」
「ボ、ボクで合ってます……」

「……やっぱり、お前たちで間違いないんだな? はぁ、危ないからもうやるなよ」

「ごめんなさい。もうしないよ」
「ご、ごめんなさい! もうしませんっ!」

 私たちは素直に頭を下げた。

「まぁ、もうやらないなら、それでいいんだ。それじゃ、俺は戻るぞ」

 ワナイはそう言って立ち去ろうとして、

「あ、それと、蝶の嬢ちゃん。中身が『黒』だって見られてたぞ? 女の子なんだからもっと気を付けろよ」

「え?」

 そんな爆弾発言だけを残して行った。

 中身が黒って?

「~~~~~~っ!」

 途端に、顔が凄い勢いで赤くなるのを感じた。

 思い出した。

 それって私の装備の下のじゃないっ!
 ローライズタイプのパ○ツじゃないっ!!

「ス、スミカお姉ちゃんの…… そのぉ、見られてたの? パン――」
「イヤァァァァッッ――――!!」

 だ、誰だよっ! 目撃者はっ!!

 なんでわざわざ報告するのよっ!


 犯人は出てきなさいよっ!
 記憶がなくなるまでカチあげてやるからっ!!
         




「ううっ、もうお外歩きたくない。街の人たちに広まってるんだ、きっと…………」
「だ、大丈夫だよ、スミカお姉ちゃんっ! ボクなんか見られても平気だしっ!」
「へっ?」

 泣きべそをかいている姉に、変な慰めの言葉をかけてくる妹。

「………………」

 でもそれってどうなんだろう。

 慰めてくれるのは嬉しい。
 けど、見られて平気って、乙女としての何かが足りないよ、
 ユーアさん……。


 道中そんな事があったけど、メルウが待つ『大豆工房◎出張所』に着いた。
 前にも思ったけど『◎』ってなんだろう?


「あ、スミカお姉さんと、ユーアお姉さん、おはようですのっ!」
「うん、おはよう。メルウ」
「おはようメルウちゃんっ! 今日は頑張ろうねっ!」

 私たちを店頭で見付けたメルウが、ニコニコの笑顔で近づいてくる。

 はぁ癒される、さっきの事はもう忘れよう。
 そんなメルウに私とユーアも挨拶を返す。


「どう? お店の準備は終わったの?」
「はい、終わってるのっ! あ、それと今日は……」

「オウッ、昨日はうちの商品買い込んでくれてありがとなっ! それとあんな高級な薬まで譲って貰ってすまなかった。本当に助かったぜッ! 恩に着るぜッ! ガハハハハハハッ!!」

 そう言いながら、私とユーアの背中をバシバシ叩いてくる男。

「………………」

 なんかうるさいのが来たなぁ。

「お、お父さんっ! 二人とも痛がってるのっ! もうやめるのっ!」

 訳が分からず痛がっている(特にユーア)私たちを見て、
 慌てて止めに入ってくれるメルウ。

「お、そうか? すまねえなッ! どうしても嬢ちゃんたちに礼を言いたくてなッ! ガハハハハッ!」

 そう言ってやっと叩くのを止めてくれた。
 ユーアはちょっと涙目だった。

「俺は『大豆工房◎出張所』の店主で、一人娘のメルウの父親『マズナ』だッ! そっちの変わった格好が『スミカ』で、そっちの小さいのが『ユーア』だなッ! 二人のお陰で俺はケガも治って店が再開できるって訳さッ! ありがとなッ!」

 ブンッ

 また背中を叩かれそうになったので、ユーアの背中に透明壁を展開する。

 ガンッ

「い、痛ってえッ! な、なんだァ?」

 衝撃に驚き、マズナは手を抑えている。


「ちょっと、お礼を言ってくれるのはいいけど、あんまりバシバシ叩かないでくれる? 私は大丈夫だけど、ユーアは凄く痛がってるから」

「うッ!!」

 少しだけ凄んでマズナを睨みつける。

((なんだ、聞いてたのより、おっかねえじゃねえかメルウよぉ……))
 コソコソとメルウに耳打ちしている。


「私これでもCランクの冒険者だから。ユーアに何かしたら私が黙っていないからね」

 そんなマズナに私は釘を刺す。

「Cランク冒険者ァッ!」

「ほら、お父さん、ちゃんと謝ってなの。今日はスミカお姉さんとユーアお姉さんは、お店を手伝いに来てくれたの。昨日お話したでしょう?」

「お、おうっ! 悪かったなッ! 礼を言いたくて、遂なッ! すまなかったッ!」

 慌てたように頭を下げ謝罪するマズナ。


「……わかってくれればいいよ、それで。それに娘のメルウの前で言い過ぎたよ。私も悪かった。ごめんなさい」

 私たちは別に、ケンカをしにここに来たわけではない。
 そう思い、私も悪かったと頭を下げる。


 どうしてもユーアの事になると周りが見えなくなる。
 
 これって危ないよね?
 今度から気を付けないと。冷静にね。


「いいって、いいってッ! 元々悪いのは俺なんだから気にしないでくれッ!」

「うん、わかった。これでこの話は終わりね。で、今日の作戦なんだけど」

 私は自分が考えてきた内容を伝える。


「なるほどッ! 確かに考えてみればそうだなッ! で、材料の件なんだが、今の家にはそんな余裕は…… 出来る限りはするが――――」

 まあ、そうだろうね。資金がなくて自分で素材を取りに行くくらいだし。
 流石に昨日私が購入した売り上げでは足らないよね。

 それと成功するかまではわからないから、出費は気になるだろうし。


「そこらの準備はこっちで昨日してきているから大丈夫。ユーアもいいよね? また後で買ってくるからね」
「うん、大丈夫だよっ! だってメルウちゃんの為だもんっ!」

 よし、ユーアの許しもでた。

「…………なんで、俺たち親子の為にここまでしてくれるんだ?」

 そこまで聞き、マズナは少し真剣な顔で聞いてくる。

「なんでって、メルウから聞いていないの?」

 確か昨日メルウには話してある。
 二つの理由を。

「いや、娘からは聞いている。だが――――」

 何か他に裏があると思われているんだろう?
 そんな表情だ。

「……なら、うまくいったら、もう一つ条件を追加するよ」

「な、なんだその条件とは…… まさか娘をっ!」
「それは違うよ」

 はぁ? なんで娘を貰う事になるの?
 どこかのお代官じゃあるまいし。


「別に難しいことじゃないよ。もし、うまくいったら、私たちにちょうだい」

「は、はぁ!? なんだそんなことでいいのか?」

 想像してたよりも、大した事がないと思ったのか素っ頓狂な声を上げる。

「うまくいったらって、言ったでしょう? もしそんな事になったら、商品がどんどん売れちゃうでしょう? その状況で私が買い占めたらどうなると思う?」

「ぶふッ!」

「ん?」

「ぐふふふふふ――――」

「お、お父さん大丈夫なのっ!? まだケガが痛いのっ!」

 変な声を上げる父親にメルウが駆け寄る。

「ガッ ハハハハハッッッッ!!!!」

 そんなマズナは心配をよそに辺り構わず大声で笑いだした。

「お、お父さん、笑ってるの?」

「これが笑わずにいられるかってかッ! ガハハハハハハッ! もしそんな状況になっても、ならなくても、俺は嬢ちゃんたちが欲しいと言えば絶対に売ってやるッ! 俺はお前たちを気に入ったッ! それでいいだろ? スミカの嬢ちゃんッ!」

「うん、そっちがそれでいいなら私たちもいいよ」

「よし、交渉成立だなッ! メルウ、それとスミカ、ユーア、今日はよろしく頼むッ! 俺も久し振りに熱くなってきたぜッ! ガハハハハハッ!」

「まぁ、そんなわけだから、今日はよろしくね」

 上機嫌で高笑いをするマズナを他所に、二人にそう告げた。


 お昼時には後一時間くらい、私たち4人は準備を始めた。

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