剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第5蝶 大豆少女と大豆工房◎出張所の救援編

知らないうちに悪さをしたようです

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「結構遅くなっちゃったけど、ユーア、もう待ってるかな?」


 人気の少ない通りにストンと降りて小走りで向かう。

 街から若干離れたところにある孤児院は、灯りも届かずに周りは薄暗くなっている。
 私は昨夜レストスペースを出した、雑木林の前の空き地へと向かう。


「あっ! その前にユーアが帰ってきているか見てみよう」

 元々ユーアが住んでいたテントの中を覗いてみる。

「うん? まだ戻ってきてないなぁ」

 テントの中はもぬけの殻だった。荷物も何もなかった。
 ユーアもマジックポーチを持っているから、全部その中だろう。


 私は雑木林の前に戻って、レストエリアを設置する。

「よし、周りには誰もいないね」

 確認して中に入り、誰もいないリビングの床に座り込む。


「ふう~、今日も色々あったね。防具のお陰で身体的な疲れは殆どないけど、気を張ってたから疲れちゃった」

 ユーアまだかなぁ?

 アイテムボックスより、屋台で買った果実水を飲みながら脚を伸ばす。


「あっ! そういえばキチンと確認してなかった」

 ふと思い出し、ステータス画面を出す。
 Cランクの冒険者の4人をボコった時に、レベルが上がっていたのを忘れていた。


――――

 スキル1 【透明壁LV.3】

 任意の図形に変更可能
 任意の距離、 0-25メートルの範囲で設置可能
 任意の大きさ 0-25メートルの範囲で調整可能
 任意の数   最大5箇所

――――


「おお~っ!」

 かなりパワーアップしてたよ。

 一番の変更は『任意の図形に変更可能』かな?

 今までは四角の立方体しかできなかったのが、ギルドのルーギルの前で展開したように『円柱』や『円錐』『三角錐』など他にも種類が増えた。

 特に『スイ』などの図形は、飛ばせば投げ槍に、
 装備すれば通常の槍にも使える。

「ただ、投げ槍にするにはちょっと難しいかな?」

 射程が25メートルしかないから、使いどころが難しそう。


 あと最大の変更はなんといっても『最大5箇所』に設置だね。
 もうこれ、なんでもありじゃない!?

 攻撃、防御、移動、トラップに使ってもまだ余るし。


 ただ『任意の大きさ 0-25メートルの範囲で調整可能』は、今のところあまり使い道がない。ってか、そんな巨大な敵なんて滅多にいないしね。


「あ、でも――――」

 私は一度外に出てレストエリアを確認する。

「これならいけるかも……」

 うんうん、と頷いて一人満足する。





「あ、スミカお姉ちゃん帰ってきてたんだっ!」
「ん?」

 レストエリアを眺めていると、ユーアがトテテと駆けてきて抱き着いてくる。

「おかえりユーア。孤児院は大丈夫だった?」
「う、うん、大丈夫だったよ。ラブナちゃんもいるし……」
 
 笑顔で答えるが、どこか歯切れの悪いユーア。
 ってか、ラブナちゃんって誰?


「そう。なら家に入ろうか。今夜は私がご飯作っちゃうから」
「えっ? スミカお姉ちゃん、お料理もできるのっ! 凄いよっ!」

 ユーアがなんかキラキラした目で見ている。

「ま、まあ、あまり期待しないでね?」
「え? う、うん」


 二人で家の中に入っていく。


「おっと忘れるとこだったよ」

 周りを確認し、レストエリアにスキルを展開した。

     

―――――     
     
     

「スミカお姉ちゃん美味しかったっ! ごちそうさまでしたぁっ!」

 私が作った料理に、味も量も満足したユーア。
 今はニコニコと果実水を飲んでいる。


「うん。ユーアが喜んでくれて良かったよ」

 笑顔のユーアを撫でながら『高級素材と調味料は偉大だねっ!』なんて心の中で絶賛する。

 だってちょっと焼いただけなのと、少し塩コショウして、適当に付け合わせの野菜を乗せただけで、それで美味しくなっちゃうんだから。

 これでまた私に対する『お姉ちゃん株』が上がったことだろう。


「それじゃ、明日も早いからお風呂に入って寝ようか」
「やった~っ! おっふろ、おっふろっ! え~と……」

 ユーアはお風呂コールをしながら、マジックポーチからタオルとパジャマと下着を出して、抱えて待っている。

 やっぱり女の子だね。
 お風呂が好きになったみたいだし。

 私も今日購入した物をだして、洗面所に向かう。

「今日はボクがスミカお姉ちゃんを洗ってあげるねっ!」
「そう、ありがとう。それじゃお願いするね」
「うんっ! 任せてっ!」

 私とユーアは楽しくお風呂に入って、購入した布団で眠りについた。


※※


「――――――きてっ!」
「うん?」

 グラグラと体が揺れている。

 私は薄く瞼を開ける。

「う、うん?」

 まだちょっと薄暗い。
 なんだ、じゃないの。

 私は再び瞼を閉じる。

「――――――ちゃん、起きてっ!」

 ドサッ 

「うっ!?」

 今度はお腹に重みを感じ、そして両手が引っ張られる。

「スミカお姉ちゃん、起きてっ! もう明るくなっちゃうよぉっ!」
「……………………誰?」
「ボクだよっ、ユーアだよぉっ! スミカお姉ちゃん、早く起きてっ!」
「………………冗談だよ。もうとっくに起きてたよ」

 目を開けてみると、私は脚を伸ばして、上半身だけ起こしている。
 恐らく体を起こす途中だったのだろう。


「ほらね? 私起きてるでしょう?」

 自分の状態を見て、両手を広げて起きてるアピールする。

「それ、ボクがスミカお姉ちゃんを引っ張って起こしたんだよぉっ! いいの? メルウちゃんの所に行くんでしょっ!」

「え?」

 ああ、そうだった。今日は作戦決行の日だ。


「ユーア、まだ時間はあるから、シャワーと朝食を先にしようよ」
「え? スミカお姉ちゃんがそう言うなら」

 私とユーアは先にシャワーを浴びて目を覚ます。


 朝食はユーアがキッチンを使って用意をしてくれた。
 昨日買ったユーア用のエプロンを着けて。

 朝食の献立は肉野菜炒めで美味しかったけど、9割は肉だった。
 いい加減肉嫌いになりそう。


『う~ん、明日からは私だけはレーションだけでいいかな?』

 朝からボリューム満点の肉料理はちょっと、ねぇ……
 あ、でも私があまり食べないと、ユーアが遠慮しちゃうかな?

 なんて考える。

『ただユーアは育ちざかりだし、今まで好きなものを食べてこれなかった分、食べさせてあげたいしね…… なんかいい言い訳を考えておこう』

 小さくて線の細いユーアを見ながら、いつもの装備に着替える。


「ス、スミカお姉ちゃん。準備できた、よ?」

 着替えが終わったユーアは頬を赤く染め、モジモジしている。

 ユーアは昨日私がプレゼントした、白のワンピースを着ていた。


「こ、こういうの着たの初めてだから、そのぉ、似合う、かな?」

 目をうるうるとさせて、上目遣いで聞いてくる。

 タタッ

 ガバッ!


「ちょ、ちょっと、スミカお姉ちゃんっ?」
「んんっ! ~~」

 そんなユーアに我慢できる訳もなく、抱きしめて頬ずりをする。

『むふぅ~っ!』

 ムギューッ! スリスリッ! スリスリッ!

「や、やめてよぉ! シワシワになっちゃうよぉ! スミカお姉ちゃんに貰ったお洋服なのにっ~!」

 ジタバタと私の腕の中で暴れるユーア。
 それを無視し、数十秒堪能した後でゆっくりと離れる。


「ふう、ごちそうさまユーア。とっても似合ってるからねっ!」
「う、うん、ありがとう、スミカお姉ちゃんっ!」

 ユーアは私に褒められて、屈託のない笑顔で喜んでいた。
 買って上げて良かったよ。

 本当は『高い高い』の予定だったけど、レストエリアではできなかった。


 玄関口でユーアは昨日買ったばかりのクツを出し履いている。
 そういえば昨日まで裸足だった。

 ユーアはつま先を「とんとん」と鳴らして履き心地を確かめているようだ。


「どう、ユーア大丈夫そう?」
「うん、足にぴったりだよっ!」

 今度は「ピョンピョン」とジャンプしている。

「サイズがあって良かったね。それじゃ行こうか」
「うんっ!」

 ユーアが先頭に玄関を出て行く。


 ごんっ!

「きゃっ!」
「あっ!」

 その途中、ユーアは何かにぶつかったようで短い悲鳴を上げる。

「あれ? これってもしかして、スミカお姉ちゃんの魔法?」

 ユーアはおでこを抑えながら聞いてくる。
 少しだけ涙目だ。

「あ。ごめん、ごめん。今、解除するね」

 ぶつけたユーアのおでこを撫でながら謝る。


 そうそう、LV.3になって、範囲の広がった透明壁スキルで、レストエリアを覆って、保護色に着色したんだっけ。

 前よりかは見つかりずらいけど、流石に近づきすぎたらバレてしまう。
 でも、無いよりはずっといいだろう。


 私とユーアは、いつものように手を繋いで、繁華街を目指して歩く。

 商店街を抜け、繁華街に近づくにつれ、店の開店準備やそれを待つ人々で喧騒が大きくなってくる。


「お? いたいたっ! そこの『ちょう』の嬢ちゃ~~んっ!」

「??」
「えっ?」

 通りを歩く私たちの後ろから、見知らぬ声が聞こえる。

 『超』? 一体どんな女の人よ、それは。
 が付く程の美人さん? とかかな?


『それじゃ私は関係ないや……』

 聞こえないふりをしてユーアと歩く。
 振り返ったら人違いでした。なんて、恥ずかしすぎるからね。


「お~いっ! そこの羽根生えてる嬢ちゃんだよ――っ!」

「へっ!?」

 え、美人で羽根が生えてるって………… 天使さま?


「…………多分、スミカお姉ちゃんのことだよぉ……」

 ユーアが私に向いてそう伝えてくる。

「え、私っ?」

 なんで?

 声のした方に振り返る。

「はぁはぁ、やっと気付いてくれたか、ちょっと話があるんだ、はぁはぁ」

 そんな男は、両膝に手を掛けて息を整えている。

『……あれ?』

 この人って確か、街に入った時の門兵じゃない?
 街へ入る為の登録してくれた。


 それにしても――――


「…………あなたにとって、私が天使に見えるからって、朝から少女をナンパするなんて感心しないよ」

 そんな門兵の男に冷たく言い放つ。

「なんぱ? はぁ、なんのことだ? それに天使だとっ!?」

 この期に及んで、まだしらばっくれている。

「だって美人で、羽根が生えてるんでしょう? それって天使じゃないの?」

「いや、美人がどこから出てきたのかわからないが、俺が言ってるのは『蝶』の『羽根が生えている』嬢ちゃんのことだっ!」

 門兵の男は半笑いで、私の背中を指してそう言った。


「あ」
「あ、じゃねえよ。そんな目立つ服を着てて、自覚がないのかよぉ……」

 今度は薄い目で見てくる。


「スミカお姉ちゃん…………」

 そして、隣のユーアも門兵と同じ目をしていた。

「そ、それで、私に何か用なの?」

 そんなユーアの視線に耐え切れずに話を進める。


「おう、それなんだが。嬢ちゃんにある嫌疑が掛けられてるんだ。だからちょっとだけ話を聞かせてくれ」

 門兵の男は、真剣な顔でそう言った。


「ワ、ワナイさんっ! スミカお姉ちゃんは悪い事なんてしないよっ!」

 ユーアは何度も街の外に出ているからか、この門兵と顔見知りのようだ。
 そんなワナイにユーアは、私を守るように前に立ってくれた。


「私は大丈夫。ユーアありがとうね、後は私が聞くから。」

 ユーアを撫でながら、安心させるように伝える。


『それにしても…………』

 この街に来て、まだ二日目なんだけど、何かしたっけ?

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