36 / 586
第4蝶 初めての街探索編
コムケ街の冒険者になったようです
しおりを挟む「すまねぇっ! さっき嬢ちゃんにからかわれたから、ちょとした仕返しのつもりだったんだァ!」
「も、申し訳ございませんっ! スミカさんの容姿の事は今後決っして言いませんっ!!」
コムケ街の冒険者ギルドの重鎮二人が、必死の形相でソファーの上で平伏していた。見た目変な格好の小娘の私に。
「はぁ、まあ、もういいよ。私は気にしないけど、ただ年頃の女の子のユーアもいるんだから、もうそういうのやめてよね? 私はぜ~んぜん気にしないけど」
先ほどのユーアの一言で、ある意味ガス抜きされた私は
冷静になって二人に告げる。
「い、いや、凄げぇ気にしてただろうよォ……」
頭を下げたままのルーギルから「ボソッ」と何か聞こえる。
「ああんっ!! 何か言ったっ!?」
私は再度、視覚化した巨大な円錐を、驚き顔を上げたルーギルの眼球ギリギリの距離に出現させる。
「ギ、ギルド長っ!! 早くスミカさんに謝罪して下さいっ!!」
驚愕に固まったかのように動けないルーギルにクレハンが必死に催促する。
「ス、スミカお姉ちゃんっ! ボクは気にしていないから大丈夫だよっ!!」
ユーアはルーギルの危機を感じ取りあわあわしている。
「そう? 別にユーアが気にしていないなら私はいいよ。私も最初から大して気にしていなかったからね」
傍らのユーアを撫でながらそう話し、スキルを消す。
「い、いや、ユーアじゃなく嬢ちゃんの方が―― っておわぁッ!」
「し、失礼しましたっ! スミカさんっ!」
また何かを言い掛けたルーギルの頭をクレハンが無理やり頭を下げさせる。
更に続けて――
「ス、スミカさんにユーアさんっ! ギルド長もこの様に謝罪されてますから、どうか矛を収めてくれませんかっ! わたしからもキツく言い聞かせたおきますからっ! どうか恩赦をっ!」
懇願するような目でもう一度頭を下げる。
もうどっちが上司かわからなくなる。
「スミカお姉ちゃん、もうルーギルさんたちを許してあげてっ?」
ユーアも私の腕にくっついてお願いしてくる。
『えええっ!』
うぐぐっ! なんか私が悪者になってないっ!
私は被害者だよね? そうだよね!?
※※※※
「さて、それじゃ登録も済んだ事だから私たちは帰るよ」
なんか余計な騒動があったけど、用事がないならここにいる必要もない。
「少し待ってくれッ。今クレハンが嬢ちゃんのカードを持って来るからよォ」
背中を見せ扉に向かう私とユーアに、ルーギルが引き留めるように声を掛けてくる。カードって事はもちろん冒険者のカードの事だろう。
確かにさっきクレハンは、私の書類を持って部屋を出て行った。
その際にユーアの冒険者カードも預かって持って行ったみたいだったけど、何かあるんだろうか?
「そうなの? 別に下で受け取っても良かったんだけど」
「まァ、なんだァ、下でしずらい話もあんだよォ。だからわざわざクレハンに行かせたんだァ」
「ふーん、そうなんだ。わかった。待ってるよ」
クレハンを待つために、ユーアとソファに座りなおす。
紅茶も飲み終わってしまったので、アイテムボックスからドリンクレーションを出して、ユーアには練乳味を渡す。私はレモン味だ。
「はい、ユーア。これでも飲んで待ってようか」
「あ、ありがとうスミカお姉ちゃんっ!」
「うん」
「今日のは甘くておいしいですっ!」
「そうだね、私のは酸っぱい奴だよ」
「あ、本当だっ! でもこれもおいしいですっ!」
「ん、これは私には甘すぎるかな?」
二人で飲み比べながら、キャッキャしていると、
「なんだァ、それ。見たことない飲み物だな」
ルーギルが不思議そうな顔で見ていた。
「あ、ルーギルも飲む? なんならあげるけど」
もう一つドリンクレーションを出して渡す。
「そうか、悪りィな。もらうぜぇ」
ルーギルはしげしげと容器を眺めてから、封を切って口に付ける。
『ニヤリッ』
「ブフォ――ッ! マジイッ!! なんだこの味はッ!?」
そしてルーギルは口に含んですぐ盛大に噴出した。
実はルーギルに渡したのはグロ味シリーズの『塩辛味』だ。
さっき私たちを小さい大きい言ってた仕返しだ。
「あ、それ塩辛の味だから」
「シオカラァ? なんだァこの味はッ! でもこれはァ!? 体が?」
「あとそれ、少しだけ体力回復する飲み物だから」
私はシレっと味と一緒に種明かしをする。
「…………少しッ? これがかァ!?」
マジマジとした顔で私に聞いてくる。
「一応、少しのはずだよ。それと同じもの今日買い取ってもらったから」
「皆さん、お待たせしました」
クレハンが扉を開けて部屋に入ってくる。
登録は無事済んだのだろう。
「なんか廊下までギルド長の叫び声が聞こえてきたんですが、まさかまたスミカさんの事を……」
「違げぇよ。嬢ちゃんに変わった飲み物を貰ったんだよォ。それを嬢ちゃんが何処かで買い取ってもらったらしいんだァ、嬢ちゃん悪りィけど、まだあるかァ?」
「あるよ。一つでいい?」
「ああ、すまねぇ」
クレハンにもドリンクレーションを渡す。
今度はスイカ味だ。
「どうもありがとうございます」
クレハンは受け取って、やはり外側を眺めてから口に含む。
「ああッ! クレハン気を付けろッ! 恐ろしく不味ィぞ!!」
慌ててクレハンに注意をするルーギル。
「え、もの凄く美味しいですよ?」
それを聞いたクレハンは目をぱちくりさせて感想を言う。
「えっ!? でもこれは………… 回復薬っ!?」
クレハンも驚いて私を見てくる。
「ってか、なんで俺だけ不味ィの渡したんだよォ」
「ああ、さっきの仕返しだから。私たちを乏しめた事の」
「お前なァ――――」
ルーギルは私をジト目で睨みつけてくる。
「それほどの事をしたんだよ。私は我慢できるけど、ユーアの事はね」
「い、いやっ、我慢できてねぇのは成人のお前ッ――――」
「これ、何処に買い取ってもらったんですか?」
飲み終わったクレハンが神妙な顔で聞いてくる
「だよなァ、やはりそこが気になんだろォ」
そんなルーギルも、真剣な表情になっている。
「ノコアシ商店ってとこだけど?」
「ノコアシ? ああッ『ニスマジ』のとこかァ!」
「え、あの変なお店の店長知ってるの?」
色々特殊過ぎて、悪目立ちし過ぎているのだろうか?
「ああ、アイツは俺のパーティーのメンバーだったんだよォ」
「ええっ! ニスマジさんは冒険者だったの?」
ユーアが驚いたようで会話に入ってくる。
「昔な。アイツはあれでも当時Cランク冒険者だったんだぜぇ」
「そ、そうだったんだっ! 凄かったんですねニスマジさんっ!」
それを聞いてキラキラした目になるユーア。
「そうだなァ。あと店やってるといやァ。肉屋と食堂を経営している夫婦の『ログマ』と『カジカ』もだなァ」
「え?」
あの常識人の二人も冒険者だったの。
「それと外の集落の『スバ』も元メンバーだ。あいつは斥候役と盗賊だったなァ」
「へぇ~」
そういえば昔世話になったとかスバが言っていたっけ。
「ええと、それじゃ『ルーギル』と『ニスマジ』と『ログマさん』と『カジカさん』と『スバ』の5人のパーティーだったんだ」
私は顔を思い出しながら聞いてみる。
「あんッ? 敬称付ける奴と付けない奴の差がわからねぇがァ」
苦笑しながら私を見ている。
「だがなァ、もう一人いるんだよォこの街に。現役のそいつは今じゃ『Aランク』の冒険者だァ」
何やらドヤ顔で話すルーギル。
「Aランクの人がこの街にいるなんて、ボク知らなかったっ!」
ユーアはそれを聞いてかなり慌てている。
「そりゃ、そうだろうよォ。アイツの拠点は、一応この街になってはいるが、Aランクといやァ、もう国の持ち物だァ。あちこち国の依頼で飛び回っているだろうよォ」
「ふーん、そのAランクって強いの?」
初めて耳にした「Aランク」の事を聞いてみる。
もしもユーアに敵意を向ける様な可能性があるなら情報は欲しい。
そう考えルーギルに尋ねた。
「ああ、強えぇ、なんせアイツは『ドラゴンキラー』の称号持ちだかんなァ」
「…………ふぅん」
それを聞いて私は適当に相槌を打つ。
そう言う二つ名みたいなの好きだよね? 異世界って。
「スミカ嬢の強さを全部見た訳じゃねぇからわからねが、もし戦ったらいくらスミカ嬢でもよォッ――――」
ニヤニヤしながら私を試すような口調でそう話す。
「そのドラゴンキラーのAランクが、どのくらいの強さかはわからないけど、私は誰にも負けない絶対の自信があるから」
「ギン」とルーギルを睨み返答する。
私には単純な強さではない、この世界の住人には到底経験できない、何万、何十万の戦闘の経験があるのだ。おいそれと負けるはずが無い。
それにスキルも「LV.3」だからまだまだ伸びしろがある。
「そうだよっ! ボクだってスミカお姉ちゃんが強いの知ってるもんっ! 絶対に勝てるもんっ!!」
ユーアが私の味方になってそう叫んでくれた。
そんな私とユーアの話を聞いたルーギルは――
「ハハッ」
「??」
「ワハハハッ! Aランク相手に勝てるってかァ!? ワハハッ!」
突然ルーギルが大声で笑い飛ばす。
私とユーアが言った事を。
「何? 喧嘩売ってんの? 買って欲しいなら買うけど速攻潰すよ」
そう冷たく言い放ち、更に殺気を込めてルーギルを睨みつける。
私だけならまだしも、ユーアを乏しめる事は許せない。
「!!ッ いいや違げぇよォ! さすが俺が面白れぇっと思った奴だァ! って事を言いたくてだなァ――――」
両手を上げながら意味が分からない事を言う。
「なんだ。結局私だけじゃなく、私を擁護したユーアまで馬鹿にするんだ」
鋭く細い円錐を5機をルーギルの周りに展開させる。
私がその気なら、速攻で串刺しにできる。
「ああああ―― ち、違いますよっ! スミカさんっ! ギルド長の言い方が少しだけ悪かったんですよっ!!」
クレハンがその様子を見て割って入ってきた。
「ギルド長は、あなただけじゃなくユーアさんの事も含めて認めているんですっ! それがその証拠ですっ! 確認してくださいっ!」
慌てて2枚のカードをそれぞれ私とユーアに手渡す。
「なに?」
「な、なんですか?」
私とユーアは受け取ったカードを見てみる。
「……………」
「えっ!?」
『冒険者ランクC』
渡された、私のカードにはそう記載してあった。
FとDは何処に行ったの?
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる