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第4蝶 初めての街探索編
ボクっ娘少女と屋台を周ります
しおりを挟む私たち二人は仲の良い姉妹の様に手を繋ぎ、人混みが増えてきた露店や、屋台が立ち並ぶ繁華街を歩いていく。
お昼時なので、列を作っている屋台が多く見られ、パンに野菜や肉を挟んだハンバーガー的な物や、サンドイッチ、香辛料で味付けをした串焼き、野菜が溶け込んでいる具沢山のスープ。
また海の幸を使った、焼き魚や、貝の壺焼き、煮魚や魚介類のスープ、果実水のようなドリンク、など多くの屋台がひしめいていた。
「んー、ユーア、屋台で食べたいんだけど、まだ混んでるから、先に肉以外の食材を買おうよ」
調理していない生肉はアイテムボックスに大量にある。
私は肉類の屋台を眺めているユーアに声を掛ける。
「はい、わかりましたスミカお姉ちゃん……」
今度は、串焼きを食べながら歩いている人たちを見ながら返事を返してくる。
そんなユーアの頭にポンっと手を置いて、
「食材を買ったら、たくさん食べていいから先に露店をみよう」
「はい!」
まだ後ろ髪引かれるユーアの手を引いて、露店向かう。
「まずは、ユーアの好きな果物ね」
「もう! スミカお姉ちゃんっ!」
「あれ、違ったっけ?」
「嫌いじゃないけど、ボクが大好きなのは『お肉』ですっ!!」
お、とうとう大声でカミングアウトしちゃった。
しかも大まで付いた。
そんな大声でお肉大好き宣言をしたユーアを、皆んなが温かい目で見ている。
若干私も含めて注目されている。
「も、もう、スミカお姉ちゃん! 早く行こうっ!!」
注目された事に気付いて、顔を赤くし、私の背中をグイグイ押してくる。
「わ、わかったから押さないで、他の人にぶつかっちゃうでしょ」
そうしてユーアとじゃれ合いながら沢山のお店を回っていった。
※
「よし、これで当分は食糧に困ることはないよね?」
果物と野菜類を何軒かに分けて、大量に買い込んだ。
あまりにも大量に買い込んだため、その都度、店の人に驚かれ、その全てをアイテムボックスに収納したら、更に驚かれた。
「さて、これであらかたは買い込んだね? それじゃ約束まであまり時間ないけど、何か食べようか。何処かお勧めある?」
「はいっ! スミカお姉ちゃん、あそこの串焼きがおいしいよぉ!」
ユーアは、昼時が過ぎても、結構な人数が並んでいる屋台に並んでいく。
肉ソムリエのユーアが言うんだから人気なんだろう。
私も一緒に列に入る。
「??」
列に並びながら、ふと、目立つ一角を見つけた。
昼時を過ぎても、そこそこの列を作っている屋台と露店だけど、何故かその一角だけは異様に目立った。何故なら、
殆ど人が並んでいなかったからだ。
一度並んだ人も、店番らしい小さな女の子と少し話をして離れてしまう。
それでも数人に一人は何かを購入しているようだ。
少し気になったので、ぴょんぴょん跳ねているユーアに聞いてみる。
「ねえ、ユーア。あそこは何のお店なの?」
「え?…… あ、あそこは最近来たお店だよ。なんか腐ったお豆を売ってるって聞いたことがあります」
「ふーん、そうなんだ。ユーアは食べた事あるの?」
「食べた事ないです。ボクは冒険者になってからあまりここに来てないので」
ああ、そうだった、自分の食い扶持と孤児院でギリギリだったんだっけ。
「そうなんだ、串焼き買ったら行ってみようか?」
「う、うん、スミカお姉ちゃんが、そう言うなら……」
ユーアの反応を見る限り、あまり良い印象はないみたいだった。
でも、腐った豆って、多分あれだよね?
※
二人で並んだお勧めのお店は、またユーアの働いた事があるお店だった。
このボクッ娘、毎回肉関係のお店でばっかり働いてない?
肉が最優先で仕事選んでない?
もぐもぐと頬張るユーアを見て、そう思った。
そうして、串焼き屋や、他の屋台も数件はしごして、売ってもらえるだけ購入しアイテムボックスに収納していく。どのお店にもびっくりされたが、同時に感謝もされた。
※
露店や屋台で、食料を大量に買い込んだ後。
さっきユーアに聞いた、気になるお店の前にやって来る。
『大豆工房◎出張所』
そう看板には書いてある。
やっぱり大豆の専門店みたいだ。
この世界にもあるんだ大豆。
でもあまり人気がない感じだ。
『う~ん、出張所って事は、加工する建屋は別にあるのかな?』
なんて、看板を見ながら中に入っていく。
「こんにちはー、ちょっと売り物見せてもらっていい?」
「え、あ、はいなのっ! 自由に見てなのっ!」
店番の女の子が、ちょっと意外そうに私たちを見て慌てて返事をする。
エプロンをして、少し茶色が掛かった髪を、ギリギリお下げに結っていて、クリっとした大きな目は非常に愛らしい。身長は、ユーアと同じくらい?だったら年齢はユーアより下かも。ユーア小さいし。
「それじゃ、見せてもらうよ」
私はユーアと一緒に見て周る。
枝豆に、もやし、煮豆、それと豆腐っと。あ、厚揚げもある。
大豆食品のオンパレードだ。
「ねえ、味噌とか、醤油はないの?」
私がここに来た一番の目的が、この調味料たちだ。
せっかく食材を買いこんだのだから、塩や胡椒以外でも味付けしたい。
「あ、ありますの……、こっちですの。あれ?お姉さんは味噌をしっているの?」
店番の女の子は、案内の途中で振り返って聞いてきた。
「うん、知ってるよ。食べたことあるし」
私の場合、一人になってからは殆どレトルトの味噌スープだったけど。
「そうなの? ここの街の人は、しらない人が多くて人気がないの。買ってくれるのは枝豆や、もやしばっかりなの、味噌も醤油もおいしいのに……」
そう言って下を向きながら、
「みんな、味噌も醤油も不思議がって、作り方を聞いてくるの。作り方を説明すると『腐らせてある食べ物なのか!』『はっこう?なんだそれは!』って言って大丈夫だって言っても聞いてくれないの…」
「………………」
はぁ、やっぱりね、お決まりのパターンだよ。
ってかパンだってワインだってビールだって、みんなそうでしょう。
なんで受け入れられないのかな。単純にこの辺りでは一般的ではないのかな?
「えーと、あなたは、ここ最近この街に来たんだよね?」
「はいなの、あ、あたしは『メルウ』っていうの。西の方のシラユーア大陸の、シコツ国から来たの」
「ユーア、知ってる?」
「うーん、聞いたことはあるけど、どこにあるかボクはわからないです」
「………………」
結構遠い国なんだろうか?
なら簡単に大陸間を行き来できないこの世界では、他の大陸の食品までは入りづらいのだろう。
ん、あれ?
「ねえ、メルウちゃん、味噌とかの材料はどうしてるの?」
他の大陸の特有のものだったら、売れ切れたらどうするんだろう?
そう思いメルウちゃんに聞いてみる。
「この街のギルドに依頼を出してるの」
え、普通に流通してるの?
「ユーアは、その依頼を受けた事あるの?」
「はい、何回かお仕事したことあります。森まで行かなくても生えてる所が多いんです。それといっぱい取れるし」
「へぇ」
普通に生えてるらしい……。
しかも大豆の食品が広まってないから、ある意味一人勝ちだろう。
私とユーアは、小さめの壺が十数個置いてあるところに案内される。
「こっちが、味噌でこっちが醤油なの」
「ちょっと味見してもいい?」
「はいなの」
メルウはそう返事して、味噌と醤油を小皿に分けてくれた。
「どれどれ……」
私はスプーンで掬って味見してみる。
うん、充分に味噌と醤油だ。
「あ、そうだっ! 大豆の食品なら納豆はないの?」
「え、ありますの、でも…………」
なんかメルウは自信なさげに返事をする。
多分この店の一番の人気なんだろう。悪い意味で。
「メルウ、私は納豆も知っているから、出してくれる?」
「はいなの…… これが納豆なの」
メルウは木箱から、藁に包まれた納豆をだしてくれた。
ムワっと納豆特有のニオイが充満する。
「ズ、ズミカお姉ちゃん、ごれ何?」
ユーアは我慢できなかったのか、鼻をつまみながら聞いてきた。
「これが納豆よ。こうやって藁に入れて納豆菌を発酵させて作るの」
うろ覚えの知識でユーアに説明する。
「はっこう、ってなんでずか? もしかじで、それが腐っでるって意味でずか?」
ユーアは、メルウの話にも出ていた腐っているのワードに反応したのだろう。
「さあ、私も詳しくは知らないけど、大まかにそうなんじゃない?」
メルウを見てみる。
「大体はそうなの。詳しくはお父さんがしっているの」
メルウもあまり知らなかった。
それでよく店番していたね。
「それじゃ、今日は味噌と醤油と納豆を売ってくれる?」
「は、はいなのっ! どれくらいですの!」
まさか買ってもらえると思わなかったのだろうか?
ちょっと驚いて見える。
「とりあえず、そうね。ここにある分は全部売ってちょうだい」
「え、全部なのっ? え、えっ!?」
メルウは、訳が分からないって様子でオロオロしている。
「スミカお姉ちゃん、またですか…………」
傍らのユーアは呟いている。
全部っと言っても元々この出張所には、あまり数は置いていなかった。
売れない商品を置くなら、少しでも売れる発酵食品以外が多く置いてあったからだ。
「お、お姉さん、本当に、あの……」
「私は、スミカっていうの。この可愛い子はユーア。もちろん買うよ。あ、豆腐もお願い」
「ス、スミカお姉ちゃんっ! ボクは可愛くなんてないですよっ。き、気にしないでね、メルウちゃん」
「は、はい、なのスミカお姉さんと、ユーアお姉さん………… ありがとなの…グス……うぅぅ…」
「ど、どうしたのっ!? メルウちゃんっ!!」
ユーアが泣き始めたメルウに驚いて声を掛ける。
「……最初の頃わね、お金もあったの、大豆の採取に依頼をだしてたの。でも商品がなかなか売れなくて、お父さんが、街の外に取りに行ったの、そしたら、大けがして帰ってきたの、でもお薬買えなくて、お父さんもよくならないし、わたし一人でお店やってたの、不安だったの、だから……嬉しくて……」
メルウは、ポロポロと大粒の涙を流しながらそう言った。
「大丈夫っ! 大丈夫だよっ! メルウちゃっん! お薬あれば、お父さんもよくなるよっ!」
ユーアが泣いているメルウを励まし、慰めている。
「それに、ここの食べ物が、売れるようにボクもお店手伝うよっ! だからお願い、スミカお姉ちゃんっ!!」
そう言ってユーアは私に確認をしてくる。
本当にこの世界の子供たちは、一体どれだけ苦労すればいいんだろう。
私はもちろん。
「ユーアとメルウちゃん、スミカお姉ちゃんに任せなさい」
私は、無い胸を張ってそう言った。
ユーアのお願いだし。それにメルウちゃんも頑張っている子供だしねっ!
この自慢の私の妹のユーアみたいに。
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