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第4蝶 初めての街探索編
いかがわしい店と取引とお金が欲しい
しおりを挟む『一体これっ! 何屋さんなのぉ――――っ!!』
私はユーアお勧めのお店を見て、心の中でそう突っ込む。
「え、雑貨屋さんだよ? スミカお姉ちゃん」
「えっ?」
あれ? また声にでてたっ!?
いや、それは出るよ!
心の中だけでは抑えきれないよっ!
『ノコアシ商店』
そう看板には書いてある。
『………………』
それはいい、それはいいんだ。
けど――――
「……ユーア、あ、あの人は何してるの?」
「え、呼び込みの人だよ」
「そ、そうなんだ、へ、へぇ~」
うわっ目が合ったっ!?
サッっと急いで目を逸らす!
なるべく見ないように俯いて、今度は違う人物を指差しユーアに尋ねる。
「ユ、ユーア、あっちの人は?」
「多分呼び込みの人だよ?」
「ふ、ふ―ん、そうなんだ…………」
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そんな訳あるかぁぁぁっっ!!
絶対いかがわしい店だよここっ!!
なんであの人は、四つん這いで首輪までしてるの?
あの人はなんで、木製の馬に乗ってるの?
どうしてあの人は、二階の看板の脇に張り付けられてるのっ!
しかも半裸のテカテカムキムキで
目元だけ蝶のようなマスクしてるしっ!
それに入口も暗幕で塞がっていて中見えないしっ!
絶対これアダルトなお店だよねっ!
不潔だよっ!ギルティだよっ!!
「ユ、ユーア! ユーアにはまだ早いから! ほ、他の店に行きましょう!」
「え、どうしたの、スミカお姉ちゃん? お顔が真っ赤だよ? 体調悪いの?」
「わ、私は大丈夫だから! は、早く他のお店に――――」
「あらぁ? いらっしゃいっ!」
「ぎぃやぁぁ――――っ!!!!」
私は声のした方を振り向きもせずに、ユーアと私に透明壁を展開する。
け、気配を全く感じなかったっ! 何者なのっ!
「ちょっとぉ、久し振りじゃないのぉ、ユーアちゃん」
「はい、ニスマジさん。おはようございますっ!」
「随分と、服がボロボロねぇ、冒険者は大変よねぇ、あ、中古だけどいいの入ってるわよ」
「あ、ニスマジさん、今日は買取をお願いしたいんですっ! そうですよね? スミカお姉ちゃん」
「………………」
敵だっ!
絶対こいつはっ!!
私はいつものように、敵の分析から開始する。
『~~~~っ!!』
こ、怖いっ!
2メートル超えのガチムキの男、そしてテカテカ、全身黒のピッチリ皮タイツに口元しか見えない黒マスク。腰に手を当ててなんかクネクネしている。
ぶ、武器はない。
なら先手必――――
「スミカお姉ちゃん、買取をしてもらいたいんですよね?……」
「はっ!?」
ジト目でこちらを見ているユーアに気付き、意識を戻す。
「あらぁ、なんか可愛いお洋服の美少女ねぇ、ユーアちゃんのお知り合いなの? ちょっとわたしの好みか――」
「ユ、ユーア、この変―― じゃなくてこの人はっ!?」
私はこの見た目、変態の言葉を遮ってユーアに質問する。
最後まで聞いてはならいと本能が教えてくれた。
「ここのノコアシ商店の店長さんの、ニスマジさんだよ。いつも優しくしてくれるんですっ!」
「どうもぉ、店主のニスマジよぉ、スミカちゃんでいいのかしら?」
「そ、そうだけど、私に何かよう」
私は身構えながらニスマジに相対する。
「何かって、買取りの品があるって聞いたけどぉ?」
「い、いいえ、結構よっ! ほ、他に行くから!」
コイツは、私の天敵だっ!
戦場で培ってきた勘がそう訴えているっ!
「スミカお姉ちゃん、ボクが案内したお店はダメなんですか?」
それを聞いたユーアは悲し気な目で私を見つめてくる。
『っ!!』
そ、そんな潤んだ目で私を見ないでっ!
「ここのお店は、ボクもよく来ているし、種類もいっぱいあって、ニスマジさんも優しいし、安くしてくれる時もあるんだよ?」
『うううっ』
今度はそんな捨てられた仔犬のような目で見ないでっ!
「わ、わかったよ、せっかくユーアが勧めてくれたんだもんね?」
ユーア撫でながらそう答える。
「あらぁ、なんか怯えてない? わたしが言うのもなんだけど、この街で一番のお店だと自負しているわぁ」
「そうだよスミカお姉ちゃん、だから一緒に入ろうっ!」
「わ、わかったから押さないでっ! 入るっ! 入るからっ!」
「なんか、姉妹みたいねぇ二人とも可愛いわぁ、食べちゃいたいくらいよぉ――」
「っ!!」
後ろから聞いてはならないことが聞こえた気がしたけど、あれは空耳だったと自分に言い聞かせた。だって正気を無くしそうだもん。
私たち3人は暗幕を捲って店内に入る。
中は意外と明るくて大量の商品が並んでいた。
『こ、これはっ――――』
ユーアとそれに店主のニスマジが言うだけあって
商品の種類が非常に――じゃなく『異常』に多い。
なんだろう?
雑多に陳列されているように見えて、それでいてカテゴリー毎にキチンと陳列してある。でもそのカテゴリーの種類が異様に多いのだ。あらゆるジャンルの商品を置いている。
とにかく、なんでもかんでも売れそうなものを詰め込み過ぎ。
異世界版ドン〇ホーテ?って感じにも見える。
「とりあえず、買取だったわねぇ、奥のカウンターへいらっしゃいな」
ニスマジに後に続いてユーアと二人店内を奥に進んでいく。
ユーアは見慣れてるせいか真っすぐ前を見ていた。
「さあ、どんな物を買取って欲しいの?」
カウンターに着くなり、しなを作ったままそう聞いてくる。
「うん、これなんだけど」
アイテムボックスより、試しにスティックタイプのレーションを10個出して見せてみる。
「あら、若いのにマジックバッグ? 持っているのね、で、これは何?」
「あ、ニスマジさんっ! これ、甘くて色んな味があっておいしいんだよっ! 元気も一杯出るしっ!」
ユーアがニスマジに渡したレーションを見て得意げに話す。
なかなかナイスな売り込み振りだっ!
「ふーん、お菓子みたいなものかしら?」
「なんなら開けて食べてもいいよ」
物珍しそうに眺めるニスマジに試食を勧める。
まだまだ大量にあるからね。
「なんか、見たことない材質の袋ね。ここから開けるのかしら? あら、ピンク色のお菓子なのねぇ」
「あ、味も色も種類あるよ。甘いのも塩辛いのもあるし」
「ふ~ん」
ニスマジは一口含んで、口の中で噛み締めているようだ。
「あら、おいしいわねっ! 果物の味かしら? それになんだか体が楽になってきたわっ! これって回復してるっ?」
相変わらず、この世界の人にはゲーム内アイテムの効果が高い。
リカバリーポーションもそうだったけど、効果(小)でもかなりの効果がある。もしかして元々の基礎能力の違いのせいかもしれない。
「あ、それとこれは保存食だから日持ちするよ」
更に追加情報を伝える。
「ど、どのくらい保つのかしらっ!」
「これだと、3年くらいは持つんじゃない? ただ味は劣化していくと思うけど」
「3年っ!? そんなに保つのぉ――!」
「うん、保証はできないけど、それぐらいは平気」
「味もそこいらのお菓子より美味しいしバリエーションもあって、しかも体力も回復できる。更に保存が長い――冒険者に――もしくは貴族の――――」
「………………」
どうやらニスマジは長考モードに入ってしまったようだ。
初めてのアイテムだろうから仕方ないね。
でもユーアが退屈そうに見える。
「はい、ユーアこれでも飲んでて、もうちょっと待ってようか」
私はドリンクタイプのレーション(キュウイ味)を渡す。
私はヨーグルト味だ。
「スミカお姉ちゃん、おいしいねっ!」
「そうだね」
「ちょ、ちょっと待って!それは何!っ?」
ニスマジはカウンターに身を乗り出しながら聞いてくる。
かかったねっ!
「これはね、実は飲むタイプのやつなんだよ」
軽く説明をして「そうだよねっ!」てユーアに微笑む。
「…………き、決めたわっ! りょ、両方とも売ってちょうだいっ! ありったけ売ってちょうだい!何個あるのっ? できればあるだけ欲しいわっ!!」
ニスマジは口早になって、一気に捲し立てる。
『うっ』
だ、大丈夫っ?
目が血走ってもの凄く怖いんですけど。
「そ、そうだね、全部はまだ売れないから、とりあえず千個ずつだったら私もいいんだけど」
人差し指を立ててそう説明する。
「それって、全部で二千個ぉぉぉっ!?」
「わっ!!」
「きゃっ!」
び、びっくりしたっ!
そんなに急に大声上げないで欲しいっ!
私だけじゃじゃなくユーアだって驚いてるよっ!
「いっ」
「い?」
「いくらなら、売ってくれるのっ!」
「そっちで決めてもらっていいよ。その代わりに一つ約束してもらうけど」
「約束……? それって何?」
「まだ売るって決めてないから、話せないよ。売るのは価格が決まってからだし」
「そ、そうよね、ちょっとだけ考えさせてねっ」
そうしてニスマジは頭を抱え込み何やらブツブツと呟き始める。
(か、可愛い顔して、やるわねこの子。わ、わたしを試してるんだわっ!)
何て呟きが微かに聞こえてくる。
「………………」
試すつもりも何も、私は適正価格知らないだけなんだけど……
「金貨――枚」
どうやら考えが纏まったのか、ニスマジが話してくるが良く聞こえない。
「うん? いくら?」
「金貨――枚」
「えっ?」
「き、金貨千枚で売ってちょうだいっ!!」
「いいよ」
「いいのおぉぉっっ!?」
私は悩まずにその金額に即答する。
それを聞いてまた大声を上げるニスマジ。
だって今は直ぐにでも現金が欲しいんだもん。
私もユーアもほぼ一文無しだからね。
「ね、ねぇ? 本当にいいのっ?」
「別にいいよ。ユーアが紹介してくれた店だから決めただけだし」
ここでさり気なくユーアの株を上げておく。
「ユ、ユーアちゃんありがとうね、こんないい取引を紹介してくれてっ」
「ボ、ボクは別に、スミカお姉ちゃんを案内しただけですっ!」
そんなニスマジにお礼を言われて、ユーアがまたあわあわしている。
これでまとまったお金が入りそうだ。
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