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第3蝶 街に待った初めての街編
お家に招待されたらしいです
しおりを挟むユーアは私の手を引いて、先導するように歩いていく。
時折振り向いては「ニコッ」と微笑んでくる。
「ユーアのお家はここから近いの?」
微笑んでいるユーアに声を掛ける。なんか嬉しそうだ。
「ボクの家っていうか、ボクが前にいた、孤児院の裏に住まわせてもらっているんです」
孤児院?
ああ、そういえば孤児院にいたけど孤児の子供が増えてきて、
負担にならないように孤児院を出て、冒険者になったって言っていたね。
ユーアは孤児院を出た後も、たまに手伝だったり、冒険者の稼ぎの何割かを渡しているのもあり、孤児院の裏に住まわせてもらっているとのこと。
「孤児院の人たちはいい人なんだね」
「う~ん、そうだね、孤児院をみている大人の人たちはちょっと怖いけど住まわせてくれてるし、それにボクと仲のいい子たちもいるんです」
ユーアはお世話になった孤児院に恩返ししているのだろう。
だけど――――――
『……………………』
だけどそれは、自分の生活、ましてや着るもの、
食べるものを我慢してまで返すものなのだろうか?
危険な冒険者の仕事で命を危険にさらしてまでするものだろうか?
せめて冒険者ランクを上げて、自分の生活基盤が安定してからでもいいのではないだろうか?私だったらきっとそうする。自分をまず一番に持ってきて。
恩返しが悪いとは思わない。寧ろ崇高な行為だと思う。
ましてやユーアの様な子供が頑張っているのだから、誇らしい事だとは思う。
なんだけど――――
私は思い出す。
『…………………』
ユーアと森を抜けたあと、ルーギル率いる野盗もどきに襲われて返り討ちにした時、ユーアは手当をしたいと、強い意志で私に進言してきたこと。
元冒険者の高ランクのルーギルを前に、会ったばかりの私を逃がすために立ち向かったこと。そして孤児院を手伝い、自分の稼ぎを何割か渡していること。
私はユーアを守りたい。
ただそれにはユーアに対する想いと、この世界にない能力を持っていたのも大きい。
ユーアを守れると思った『チカラ』を持っていたのが、ある程度の自信にも繋がっている。
ただユーアをにはそれがない。その為犠牲にするのは自分の身体だけ。
ユーアは他人に優しい、いや他人だけに優しいと言った方が当てはまるだろう。
その考えは私にとって、とても歪んでいる様にも、酷く脆く危うい様にも思える。
人に優しく自分より他人を優先するこの幼い女の子は、これから先このままで、心が壊れないままで生きていけるのだろうか?優しさが裏切られても、自分を保っていられるのだろうか?
『………………いや』
――――いいや、きっとこの世界は甘くはない。
ユーアが持っているものでこの世界を生きていくのには、きっと――――
『今の姿の私よりもずっと…………』
握られている手をみる。
こんな小さい手で私を守ろうと立ち向かった手だ。
ユーアが持っているもので私はこの世界で救われた――――
ならユーアが持っていないもので私がユーアを救うだけだ。
「どうしたの?スミカお姉ちゃん」
ニコニコと私の手を引きながらも、時折後ろを見ては私を気遣って声をかけてくるユーア。
「――――うんとね、今夜はどんなご馳走を用意するか考えてたんだよ」
そんなユーアを撫でながらそう笑顔で答える。
「そうなんだ、楽しみですっ!」
ユーアもそんな私を見ながら笑顔で答えてくれる。
優しく照らしていた夕の陽が、私たち二人の影を長く伸ばしていた。
ああ、そういえばこの世界に来て初めての夜になるんだね、
なんかたった半日で色々あり過ぎたよ。
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