剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第3蝶 街に待った初めての街編

逃げられなかった無双少女

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「スミカお姉ちゃんっ!!」


 ユーアはタタタッと私に近付いてきて胸に抱き着いてくる。

「ごめんね待たせちゃって。もう終わったから大丈夫。依頼は完了できたの?」

 私はそんなユーアの頭に手を置きながら、そう声を掛ける。


「はいできましたっ! それよりも後ろの……」
「それは良かったね、じゃあ登録するから案内してね」
「えっ! う、うん……」

 私はユーアと手を繋ぎギルド入口に向かって歩きだす。
 それもさり気なく立ち去るように。

「オイィッ!! ちょっと待てぇ!スミカ嬢ッ!!」
「ちっ」

 何やらルーギルが後ろで騒いでいる。
 私は仕方なく振り返ってそんなルーギルを見る。

「何、自然に立ち去ろうとしてんだァ!」

 そう言うルーギル目尻が吊り上がり、声に怒気も含んでいた。
 そして心なしか顔も真っ赤に見えた。

 誰が見てもお怒りの様子なのはよくわかる。

「…………何って? 私はここに冒険者の登録にきたんだよ。 ユーアもお仕事が終わったから案内してもらう約束だから」

 なんて白々しく言い訳してみる。
「ねっ!」てユーアにも同意を求めようとにっこり微笑む。

「ハァー、全くお前はなぁ……」

 それを聞いたルーギルは、ガシガシと頭をかいて溜息をついてる。

「スミカお姉ちゃん……さすがにそれはちょっと……」
「えっ!?」

 ヤバいっ! ユーアにまたこの目をさせてしまったっ!!
 止めてユーアお姉ちゃんが悪かったからっ!!

 だってこんな蝶のコスプレした年端も満たない少女が、ランクC冒険者4人も素手で圧倒したんだから、どう考えても絶対に面倒な事になる。

 だから何気なく立ち去ろうとしたのに……
 このルーギルめっ!!

「はぁ――、わかったよ。それで何?」
「何って、ひとまず冒険者登録は俺の方でやっといたから、後は中で説明聞くのと、職業を決めてもらうだけになってる。お前が面倒起こしそうだったんで俺の権限で進めてあんだよっ」

「俺の権限って、ルーギルってただの冒険者じゃないでしょ?」

「ああ、冒険者っちゃ冒険者なんだがなぁ。俺は冒険者とギルド長を兼任してんだ。まぁ冒険者の方は趣味っていうか、気晴らしっていうか、そんな感じだッ」

「………………」

 やっぱりね。

 所々で怪しいと思ってたんだよね。

 スバが率いる集落の30人に仕事斡旋してるみたいだったし、ギルドに報告に来たと言って受付裏の階段に消えていったし、更に俺のギルドとか言ってたしね。

「あれっ??」

 なんか隣のユーアがふるふるしている。

 寒いのかな?
 お姉ちゃんが温めてあげようか?

「ごっ」

 ご?

「ごめんなさぁ――いっ!! ルーギルさんがギルド長なんて知らなくて! ボクとスミカお姉ちゃんが色々、あ、あの、そのぉっ……!!」

 ユーアは半泣き状態でルーギルに謝っている。

「??」

 でもユーアはルーギルに何かしたかな?
 私はボコったけど。

『――あっ、そう言えばっ』
 私はポンと手の平を鳴らす。

 ユーアは私を逃がすためにルーギルと戦おうとしたっけ。
 もしかしてそれが原因で冒険者証剥奪になるとか思っているのかな?

 だとしたら私は断固戦うと誓うよ!
 あれは正当防衛だったんだからっ!!

 私は『ギンッ』てルーギルを睨む。

「うっ、なんだぁ、あ、あれは俺らも悪かったし正体も知らねぇってんだから、もういいだろ。それにそこの嬢ちゃんに半殺しにされた、俺やスバたちを治療したいってスミカ嬢を説得したのもユーアなんだろ?寧ろ助けて貰ったのはこっちの方だ、だからスバの奴らも俺も感謝してんだよォ」

「そ、そうなんですか!? 良かったよぉ~~っ!」

 ユーアは今度はホッとして涙ぐんでる。
 泣くならお姉ちゃんが(自称)豊満な胸貸してあげるよ?

「っと、俺の事はァどうでもいいんだよォ。それより嬢ちゃん後ろを見てみ」

 ルーギルがクイっと首で後ろを促す。

 そのルーギルの後ろには、私たちのやり取りの間一言も言葉を発しなかった、コムケ街の冒険者たちが神妙な顔でこちらを見ている。

「――――――――」

『…………ほら、あんなの見たら、やっぱりこうなるんだよね、畏怖というか恐怖というか、かなり引かれたんじゃないかな。やることやってさっさと街を出ていこう。ユーアもついてきてくれるかな? 食事と住むところはなんとかなるかな。あれあるし』

 私はユーアの手を取って無言で歩きだす。
 これ以上いて、ユーア何か言われても嫌だし。

『あ、でも、一応ルーギルにはお礼言っとこうか?』

 何でも冒険者じゃないと模擬戦ができなかったらしく、更に冒険者じゃなかったら罪になっていたそうだ。

 それは冒険者以外でも知ってて当たり前のことらしかった。
 そしてルーギルが登録してくれてて助かったから。

 私は振り向いてお礼を言うために口を開く。

「一応、ありがとうね、ルーギ――――」

『うおぉぉぉ――――っ!!』
『うおぉぉぉ――――っ!!』
『うおぉぉぉ――――っ!!』
『うおぉぉぉ――――っ!!』

 幾人もの声援が私に向けて豪雨の様に打ち付ける。


「きゃっ!な、何っ!?なんなのっ!!」

 私は突然の事にルーギルに叫ぶ。

「何って、見りゃ分かんだろ?俺もそうだがアイツらもお前に感謝してんだよ」

 そして気が付くと、私とユーアはコムケ街の冒険者たちに囲まれていた。

「おう、嬢ちゃんのお陰でスッキリしたぜっ!!」
「なんだあの強さは!俺とパーティー組まないか?」
「今夜はうまい酒が飲めそうだ!これも嬢ちゃんのお陰だ!」
「近くで見るとホント小さいな色々と」
「嬢ちゃん、もうランクAくらい余裕じゃないのかぁ!」
「自分と付き合ってください!」
「ホントは俺がやる筈だったんだが、今回は嬢ちゃんに手柄譲るぜ!」

 冒険者たちは、私たちを囲んで満面の笑みで口々にお礼を言ってくる。
 なんか聞き捨てならない奴もいたけど。

「………………あれ?」
 
  私みんなに怖がられてたんじゃなく……


 こんな大勢に感謝された事なんて一度もなかった。
 だから正直いうと逆に怖い。

 因みにユーアはまた涙目になってた。

「わかったか嬢ちゃん。コイツらはここの冒険者が馬鹿にされた時、何んも出来なかったんだ。それをコムケ街の冒険者(仮)の嬢ちゃんが、コイツらの無念を晴らしてくれたんだ、正直、俺も残り4人相手はキツイと思ってた。スミカ嬢が何を考えてたのか知らねぇが、今は胸を張っていいぜぇ!」

「………………うん」

 何気にルーギルには見透かされてたらしい。
 ふんっ!ルーギルのくせに。



△ △ △ △


「はぁ~~~~」
「あははっ――――」

 あれから30分後、私とユーアはやっと解放された。
 感謝されるのは悪い気はしないけど、ユーアが参っていた。

 あんだけ厳つい男たち大勢に囲まれて、けたたましくされたら、子供のユーアはさぞ怖かっただろう。

 そんなユーアは最初の頃は愛想笑いっぽい笑顔を浮かべていたが、それが次第に真顔になり、涙目になり、全泣きになった後で、最後遠い目になっていた。

 それを見た私もガマンの限界になって、ドス黒い殺気を全身から漲らせた。

『私のユーアを……うがあぁぁ~~っ!!』

 そんな私に冒険者たちも気付いたのだろう、

「お、おうまたなっ!」
「な、なんか困った事があったら声かけてくれっ!」
「こ、今度、旨い屋台紹介してやるよっ!」

 蜘蛛の子を散らす様に散り散りと解散していった。
 まぁ悪い人たちじゃないと思うけど流石にね。


「ねえ、ルーギル。 ギルド行くの明日でいい?」

 もう暗くなってきている空を見ながらルーギルに尋ねる。

「んーそうだなァ、だったら明日は午後から来れるかァ?午前だと依頼待ちの冒険者が多いから騒がしいし、スミカ嬢もその方が都合いいだろ?」

「そうだね、それでいいよ」
「おう、それじゃ明日なっ!今日は色々ありがとなァ!!」
「別にいいよ。お互い様だったし」
「まぁいいじゃねえか。俺は感謝してんだからよォ。またな!!」

 そう言ってルーギルとは別れた。


※※※※※


 さて、後は宿屋でも探して食事と宿泊が定番。
 なんだろうけど、手持ちが全くない。

「…………」

 それじゃどうしようかな?
 これから。

「ユーアはこれからどうするの?お家に帰るの?」
「帰りますけど、スミカお姉ちゃんは何処に泊まるんですか?」
「私? 私全然お金ないから、街の外で野宿しようかなって思ってる」
「え、スミカお姉ちゃんダメだよっ! 街の外は魔物がいるんだから、夜の魔物の方が狂暴なんだよ、危ないよぉっ!」
「まあ、何とかなるんじゃない? 一晩だけだし」
「だったら、ボクのお家においでよっ! 何もないけど……」
「いいのっ!!」

 ユーアが自分の家に招待してくれる流れに。
 お姉ちゃん嬉しいっ!!

「そ、そう? だったら晩ご飯は私がご馳走するねっ! 森の中で食べたのと違う美味しい物出してあげるからね。楽しみにしてね」
「うんっ!!!」

 ユーアは嬉しそうに私の手を取って歩いていく。


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