14 / 586
第3蝶 街に待った初めての街編
異世界の街と身分証
しおりを挟むぞろぞろと、美少女2人と強面の男10人で歩くこと2時間弱。
道中、魔物にも遭遇することもなく、ようやく街を囲む外壁が見えてきた。
ユーアは相変わらず、ここまできても男たちに可愛がられていて、みんなのマスコットみたくなっていた。
特に、初老を迎える位の年齢の男たちには大人気だった。
きっと孫みたいな感覚なのだろう。
まぁ、私がおばあちゃんだったら、もっと可愛がるけど。
『ん~……』
それにしても、一般人には見えない強面の男たちが、美幼女を囲んでいるのを見ると、思わず通報したくなる。
そんな中にいてもユーアは、屈託のない無邪気な笑顔で仲良くおしゃべりをしている。ここに来る間に、随分と慣れてしまったようだ。
話しかけられる男たちも、自然と目を細め、口元も緩みきって、締まりのない顔で相槌を打ったり、笑顔で話しかけている。
私はそんなだらしない顔を見て、更に通報したい欲求に駆られる。
余りにものその変貌ぶりに。
でも、そこがユーアの魅力って言えば、きっとそうなんだろう。
そんな風にも思える。
私? 私も大人気だったよ?
話しかけては来なかったけど、チラチラと視線は感じていたからね。
多分だけど声を掛けずらかったんじゃないかな?
ほら、高嶺の花とか、高貴な雰囲気とかあるじゃない? 蝶には。
そういうのを本能的に感じちゃったんじゃないかと思う。
視線が合ってもすぐ逸らしてたしね……
※
「ではルーギルの旦那。自分らはここらで集落に戻ります。また何かありましたら声を掛けてください。いつでもお手伝いしますので」
ルーギル以外の男たちは、ここでお別れらしい。
元罪人なのもあって、極力街には出入りしたくないそうだ。
「おうッ!『スバ』ありがとよ。またよろしくなッ!」
ルーギルに声を掛けた背の高い細身の体躯の男は『スバ』というらしい。
スバは集落を纏める元冒険者で、ルーギルにはその時の恩義があるらしい。
スバと男たちはユーアに手を振って、私には軽く会釈して帰って行った。
※※
「スミカお姉ちゃん、着きましたっ!」
「へえ~、意外と大きいんだね」
「大変な目に合ったけど生きて帰れたぜッ!」
そして私たちはコムケの街の門に辿り着いた。
コムケ街を守る門には、二人の門兵が立っており、出入りする人物をチェックしている。
私たち三人は、順番に街に入る人たちの最後尾に並んだ。
そして私たちの番になり、ルーギルを先頭に街に入っていく。
その際にルーギルは胸ポケットより冒険者証を出し、ユーアも同じようにして、門兵に見せて入っていく。
「おう、ルーギル随分可愛らしいお供を連れてんな、今日はもう終いか?」
「んぁ、そうだな。後はギルドに報告するだけだッ」
顔見知りなのか、門兵の一人とルーギルが話している。
「ちょっと先輩、後がつかえちゃうんで、話は後にして下さいよ」
すぐさまもう一人の若い門兵に注意される。
「おう、悪い悪い、またなルーギル!」
「おぅ、じゃーなッ!」
なんて締めくくり、次は私の番。
「…………ず、随分へんな、変わった格好だな? 見ない顔だがこの街は初めてか? 悪いが嬢ちゃんもカードを見せてくれ」
門兵の男は、私と視線を合わさずにそう聞いてくる。
「……………………」
なんかこの人、初対面の美少女に『変』とか言い掛けなかった?
「持ってないよ。ないと街に入れないの?」
「今時、身分カードが無いって、一体どんな田舎から来たんだ?」
「えっ? ず、ずっと遠い大陸の山奥に住んでたんだ。だからカードとかなかったんだよ」
適当にそっれぽい話を作ってみる。
「遠い大陸の山奥? フリアカ大陸か? まぁ、あそこなら仕方ないか。ならこっちに来てくれ」
「そ、そうそうっ! そのフリフリ大陸っ!」
おおっ! 言ってみるもんだねっ!
門兵の男に付いていき、すぐ近くの詰め所らしき小屋に案内される。
それを聞いていたユーアとルーギルは、
「え!? スミカお姉ちゃん冒険者じゃなかったの?」
「……スミカ嬢、あの強さで冒険者じゃねぇとかおかしいだろッ!」
「………………」
そんな事を言われた。
知らないよ。
そんな世界の常識みたいに言われたって。
「嬢ちゃん、この用紙に記入してこっちのカードには魔力を通してくれ」
椅子に座った私を見て、一枚の紙と薄いカードを差し出してくる。
「は、はいっ? まりょくって、あのまりょく!?」
「そうだ。その魔力だ」
「ね、ねえ、魔力って誰でもだせるの? わ、私のいた所では聞いた事ないんだけど。ど、どうなのっ! 魔力が出ないと街に入れないのっ?」
なんとか動揺を抑えて聞いてみる。
「うん? そうなのか? だが魔力は誰でも持っているぞ。実践レベルで使える奴は稀だが…… まあ、とりあえずカードに手をかざしてみてくれ。出来ると思うぞ」
門兵はそう言ってカードを差し出してくる。
「う、うん、やってみるよ」
カードを受け取り、緊張しながら、なんとなく『念』らしき物を送ってみる。
「お、おおおっ!!」
するとカードが薄っすらと白く光り出した。
「うん、全然問題ないみたいだな。これで仮登録は終わりだ。街民として本登録する場合は教会にいってくれ。ギルド関連に登録したいなら、各ギルドに行ってくれ。ようこそコムケの街へ」
そう言って笑顔で手を差し出してくる。
「あ、ありがとっ」
私も笑顔で握り返しお礼をする。
ふぅ、やっと街に入れたよ。
※
「待たせてごめんね、二人とも」
詰所の外で待っていた、ユーアとルーギルに合流した。
「どうするんだ? スミカ嬢。その強さなら冒険者に登録するのか?」
すぐさまルーギルが聞いてくる。
「ス、スミカお姉ちゃんっ! ボクと一緒の冒険者になってください! スミカお姉ちゃんと一緒に冒険したいですっ!!」
ユーアがキラキラした目で素敵な提案をしてきた。
「そうだね、ユーアと一緒に冒険しようかっ!」
ユーアの頭を撫でながら微笑んで答える。
「うんっ! やったーっ! ありがとうっ! スミカお姉ちゃんっ!」
ユーアも満面の笑顔で答えてきた。
もちろん、ユーアが冒険者って聞いた時から決めていた。
だって、一緒に生きていく事と、守るって決めたんだから。
「おぅ、そうと決まれば冒険者ギルド行くぞ。こっちは報告もあるし、スミカ嬢も俺と集落の奴らの事を確認すんだろォ」
ルーギルを先頭に、その後ろに付いていく。
私たちは、仲の良い姉妹の様に、手を繋いで歩いていく。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる