剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第2蝶 初めての戦闘編

レベルアップと無双少女

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「こんのォ―― クソガキがァ――――ッ!!!」


 最後の男は、余程私の挑発が頭にきたのだろう。
 殺気立った表情で歯を剥き出し武器を振り上げ突進してくる。

「はぁ―」

 そんな男を見ながら、呆れるように短くため息をついてしまう。
 簡単に挑発に引っ掛かる間抜けな男に。

 いくら私みたいな小娘に馬鹿にされたからといって、生死がかかる戦場で正気を無くしてどう戦えるというのだろう。

 沸騰した頭で見えるのは怒りを向ける相手だけ。
 それ以外はほとんど何も映らないし、考えられないはず。

 そう仕向けたにしても、余りにも愚鈍な行動だ。


 そして怒りの形相で突進してくるその男は――――

「おわッ!?」

 その足元を『ガッ』と何かに躓いたように前のめりに上体を崩す。

「だから簡単に引っ掛かる」

 私は男の足元にブービートラップのように、透明壁を展開していた。

「キレたら視野や思考が狭まるからね」

 まあそれは冷静であろうがなかろうが、関係なく引っ掛かるに決まっているけど。ただもう少し冷静であったならば、私の視線に気づいても良かったはずだ。


 何故なら――


 私の視線は男の足元に向いていたのだから。


 勢いよく倒れ込もうとする男に更に透明壁スキルを展開する。

 ガンッ!!

「がはッッ!!」

 そのスキルは男の真下、倒れ込もうとその突き出した顎を強烈に捉える。
 そして、その威力に男の体は真上に向かって宙を舞う。 

 男は空中にカチ上げながら、その口から唾液やら砕けた歯やら血飛沫やらを撒き散らせながら5メートル程垂直に体が飛んでいく。


「まだまだこんなんじゃ許さないっ!!」

 タンッ

 透明壁足場にして未だ上昇する男を追いかける。


 そして――

「これは私の分っ!!」

 ガアァンッ!

「ぐはぁッ!!」

 男は更に下からの強烈な一撃で、更に5メートル程までにカチ上げられる。


「そしてこれは――――っ!」

 タンッ

 更に追従し、空中に浮かぶ男の両足をガシッと掴む。


「――――私のユーアを怖がらせた分だぁっ!!」


 ドッゴォォォ――――ンッッ!!!!


「ご、はぁッッ!!」


 そのまま男を容赦なく、10メートル下の地面に叩きつけた。




―――――


【透明壁LV.2】

『任意の場所(2箇所)に設置&操作可能。半径5メートルの範囲』
『任意の大きさ(0.1Mー5Mに)に縮小可能』
『着色可』(視覚化)

 実は最後の男を除く手下の戦いでスキルのレベルが上がっていた。
 そのおかげでレベルが上がったのは嬉しい誤算だった。

 これでかなり融通が利くようになった。
 まず2箇所に設置できるのは非常に優秀。

 なんたって1個はユーアの守りに使え、私は攻撃に専念できる。
 ソロでも、更に1個はフリーに使える。

 攻撃にも防御にもトラップにも。
 本当にチートな装備だ。



―――――



 タンッ

「ふうっ」

 地面に降り立ち一息吐き出す。
 そして地面に叩きつけた男に視線を移す。

「………………」

 地面に叩きつけられたリーダー格の男はぴくりとも動かない。
 ただ息はあるようで胸が上下している。

 それでも私は攻撃を止めるつもりはない。

 私のユーアをあんな目に合わせたのだ。
 あんな小さい少女に、命を捨てるほどの覚悟をさせたのだ。

 だから私はまだ攻撃の手を緩めない。

「そしてこれは、私のユーアをびっくりさせた分っ!!」
「更にこれは、私のユーアを襲おうとした分っ!!」
「続いてこれは、私のユーアを変な目で見た分っ!!」
「ついでにこれは、私の胸がちいさーの――――!!」


 横たわる男をガシガシと蹴り続ける。

 男の意識がないのをいい事に、あらぬ濡れ衣を着せていく――



「ふぅ~ いい仕事したぁっ!」

 ピクピクと動くリーダー格の男を見下ろしながら額の汗を拭うが、防具の能力のお陰で汗は出ていない。気分の問題だ。

 私はアイテムボックスから、ドリンクタイプのレーション(バナナ味)を出して、それを一気に飲み干す。

 やっぱり労働の後の一杯は最高だね。


 それを見て、トテテとユーアが私に近づいてくる。

 リーダー格の男の意識がないのを確認したので透明壁は解いてある。
 私の元に来たユーアには、マンゴー味を渡してあげる。

「はい、ユーアにも」

「ス、スミカお姉ちゃんありがとう。またボクを助けてくれたんだね……」

 ユーアは安心したのか、目に涙を貯めて話しかけてくる。

「ユーアこそ、私を逃がそうとしてくれたでしょう? おあいこだよ」

 ユーアの頭を撫でて答える。

「それでね、スミカお姉ちゃん、あのね、ボク聞きたい事があるの…………」
「う、うん、何ユーア?」

 そうだよね、今までの私の『異常』を見ても何も聞いてこなかったもんね。

 ただ今回は流石に度が過ぎたと思う。

 でもユーアには知って貰った方がこれからも都合がいい。
 それにユーアにはなるべく隠したくないから。


 私は覚悟を決めて、真剣な眼差しのユーアの目を見る。

『………………だけど』

 ただ全てを話すにはまだ怖過ぎる。
 ユーアにどう思われるかが私は怖い。
 奇異な目で見られたくないし嫌われたくない。


 そんなユーアは、俯きがちになって口を開いた。

 ドキドキ

「あのね、スミカお姉ちゃん、ボクはスミカお姉ちゃんの物なの?」
「へっ?」

 私は思わずガクっとずっこける。
 アニメだったらメガネがズリ下がってるところだ。

 まあ、メガネしてないけど。

 えっ!?
 でもこのタイミングでそれなの?

「あっ………………」


 そういえば、気絶している男を、スタンピングしている時に連呼してたっけ。
「私のユーアを~」とかなんとか。

 更に続けて、ユーアはその小さい口を開く。
 
 そして出てきた言葉は――

「あと、スミカお姉ちゃんのお胸はこれからだよっ! ボクはそう思うんだっ! だ、だから誰かのせいにしないでくださいねっ!」

「へっ!?」

 それも聞かれていたァ――――っ!!

 ユ、ユーアそんな目で見ないで! 気の毒そうな目で見ないで!! 残念な子を見るような目でみないで!!! これアバターだから! 本物じゃないよっ? 現実の私は『ボンッキュッボンッ(死後)』だよっ!ボンッキュッボンッっ! 大事なことだから二回言ったよっ!

 そんなユーアに今は説明できない自分に悲しくなった。
 そして私は自分に嘘をついた。

『ボンッキュッ、ボンッ…………』

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