剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
9 / 586
第2蝶 初めての戦闘編

ボスっぽいの登場

しおりを挟む



「なんだ、なんだァ、手下どもが全滅だァ、オマエそのなりで魔法が使えるのかよォ、光と強化か?まぁ何にせよ希少な魔法使いだぁ、こりゃあ高く売れるぜぇっ!!」


 リーダー格らしき最初の男が、長めの鉈らしき武器を右手に持ち、肩辺りを叩きながら出てきた。

 その顔はいい獲物を見つけた喜びなのか、僅かに口角が上がっていた。


 この男は手下に命令した後一番後ろに下がって行った。
 だから手下が影になって閃光が届きづらかったのだろう。

 それにしても手下がやられて、何とも思っていないのだろうか?

『結構際どい状態だよ?』

 私の透明壁スキルの攻撃で吹っ飛んでいった手下たちは「うーうー」と声を上げてはいるが、誰一人として立ち上がれる者がいない。

 恐らく至る所の骨や内臓に深いダメージを負っているだろう。
 私の戦闘力では、普通の人間はそうなる。

 そんな手下たちを前にしても何も感じないのだろうか?

 まあ、それを言ったら私もなんとも思ってない。

 なんて元のゲーム内だったら言いたいが、この世界では命を狙われてもある程度の倫理観は持ち合わせている。

 だってこの世界は――――

『きっと本物だから……』


 目の前で痛みに我慢できず唸り声を上げる男たち。 

 ユーアを撫でた時の髪の毛の手触りや
 小さい手を繋いだ時の手の温もり。

 これはきっと本物だ。

 だから私がいた世界のように
 『私敵と認識した者を、私敵と認識した者』
 
 その全員を今までの様に消滅させることは出来ない。
 それをしたらきっと私は変わってしまう。それが怖い。


「こりゃあ、久し振りに楽しめそうだぁ! 勢い余って殺っちゃっても悪く思うなよォ―、今の稼業の前はランクC間近の冒険者だったんだからなァ――!!」


 後から出てきた男の、そんな前口上を聞いて背中から震えが伝わる。

「………………」

 背負っているユーアの体が小刻みに震えている。
 ランクCの部分に反応して更に怯えてしまったのだろう。

 それでも背中の小さな存在は、私の耳元で信じられない事を叫ぶ。


「ス、スミカお姉ちゃんこのままじゃ二人とも助からないよっ! だからすぐボクを下ろしてっ! ボ、ボクがなんとか時間を稼ぐからスミカお姉ちゃんは逃げてっ! お願いだよっ!」

 ユーアは震える声でそう私に懇願する。
 それはいくらユーアのお願いでも聞ける訳がない。


『………………』

 スゥ―

 私はユーアが降りやすいように少し前かがみになる。
 そしてゆっくりと地面に降ろした。

「――――スミカお姉ちゃんっ! 美味しいお菓子ありがとうね。それとボクを助けてくれて、手を繋いでくれてありがとうっ! ボク凄く凄く嬉しかったんだっ!――――」

 ユーアは険しい表情で、私を庇うように一歩前に出る。

 決意が漲るその手には小さなナイフが握られていた。
 きっと採取用に使ってたものだろう。


「お―お―、最後の挨拶とやらは終わったのかァ? 最初はガキンちょか、まァどっちから来ようが結末は変わらねぇけどなァッ!!」

 私の前に出たユーアを見て、威嚇するように啖呵を切る男。

「ううっ」

 それを目の当たりにしてもユーアは怯まない。
 小さい体の真正面で受け止める。

 そしてナイフを握り走り出す。

「ボクが、ボクがっ! スミカお姉ちゃんを守るんだぁっ――!!」

 そのか細い体と、頼りないナイフを持って突き進む。
 それが敵わないと知っていてもユーアは立ち向かう。

 タタッ!

 その身を犠牲にしてでも、

 タタッ!

 今日会ったばかりの私を守るために。


 だが――――

「きゃっ!?」

 ユーアは中間まで走り出した途端に透明な何かに包まれる。
 この世界でも一番安全な私の透明壁のスキルに。

「な、何でっ!? これじゃスミカお姉ちゃんがっ!」
 
 そんなユーアは透明壁の中で暴れる。
 突然の事で混乱しているのだとわかる。

 だから私は近づいてユーアに声を掛ける。

「違うよユーア。私があなたを降ろしたのはアイツを叩きのめす為だから。だから安心してその中で待ってて? 私が絶対にユーアを守るから」

 混乱するユーアに出来る限り優しく声を掛ける。

「ス、スミカお姉ちゃんっ!?」
「今だけはスミカお姉ちゃんを信じて待っててねっ」

 ユーアにそう告げて、最後の男を指さしそして口を開く。

「何がランクC間近よっ! 数で囲んで金品奪うただの貧乏ゴロツキでしょう? 私の格好をどうこう言う前にあなたは鏡を見たことがあるの? 正直見るに堪えないっ! ダサイし、臭いし、服装のセンスも最悪っ! で、いつから体を洗ってないの? ここまで腐った臭いがするんだけどっ!」

 私は男を睨みつけて一気に捲し立てる。

「ス、スミカお姉ちゃん?」

 壁の中のユーアは困惑した顔で私をみている。

 だってしょうがないでしょう? 事実なんだから。
 まあ、目的はそれだけじゃないけど。


 男は私のその言葉に流石に頭にきたのだろう。

「く、くっ、このぉガキぃっ――――」

 目が吊り上がり、歯を剥き出しにし、持っている武器で「ガンッガンッ」と何度も地面を力任せに叩きつけている。

「あれ? 気付いてなかったの? それは失礼。本当の事言っちゃって」

 それを見て、ここぞとばかりに更に煽る。


「――――ッこんの、クソガキがァァッッ――――!!!!」


 最後の挑発を聞いた男は、鬼の様な形相で武器を振り上げ
 私に向かって全力で走り出してきた。

 私はそんな男に透明壁スキルを展開した。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...