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026 7月31日 紗理奈の考察
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紗理奈は少し視線を逸らして紅茶のカップを見つめながら話し始めた。
「明日香の前では言いにくいんだけど。私、才川とは反りが合わないって言うか」
紗理奈は転校生で、私と怜央とは中学校から一緒だった。
私の住んでいる町はファミリータイプの社宅が多い。家族での出入りが多いので転校生が来る事に地元の人は慣れていた。そして転校生に対して怜央は率先して仲良くなるのだが、紗理奈はあまり怜央とは接触をしたがらなかった。
(怜央の事あまり好きじゃないんだろうなって思っていたけど、当たりだったみたい)
「うん。知ってたよ」
私がポロリと話すと紗理奈が軽く肩を上げ笑った。
「あはは、バレてたか」
それから紗理奈はゆっくりと話し始めた。
「才川って人によって態度を変えるんだよね。八方美人って感じではないんだけどさ。人に上手く合わせていると言えばその通りなんだけど。それが逆に私には『上から目線』って感じがして苦手なんだよね」
「上から目線か。仲良くしてやるって言っている様に感じるって事かな? 私は怜央って誰とでも仲良くなれるなぁって思っていたけれども」
そんな風に紗理奈が感じていたとは。
(誰とでも仲良くなる怜央なのに。言われてみれば紗理奈の雰囲気が分かっているのか、怜央はあまり紗理奈には近づかなかったな)
怜央と紗理奈は同じ様に反りが合わないと感じていたのかもしれない。
「才川の態度って『俺が思うお前はこうだ』って、決めつけている様な気がするんだよね。現に萌々香とか言う幼なじみの子と明日香とでは態度が違うでしょ」
「あ~うん。言われてみれば」
態度がずいぶん違うというのは三月末の幼なじみの集まりで知ったばかりだ。
(あの怜央の態度が本音なのか、そもそも萌々香ちゃん仕様なのか分からないけど。あそこまで露骨に変わられるとね)
「そういうのってさ嫌じゃない? 『俺は分かって合わせてやっている』って感じがさぁ。アレさえなければね。才川が努力家で基本良い奴なのは知ってるし」
「……うん。そうだね」
「才川の明日香への態度なんて、一番『俺様』感が出ていて腹が立つなって思っていたのよ。あっ、このタルト、メチャクチャ美味しい!」
そこでようやく紗理奈はパクパクとタルトを食べ始めた。
「えーそんなに怜央って私の前では俺様なの? 全然分かんなかった」
私は後ろにある紗理奈のベッドに背中を預け、天井を見上げる。
(怜央にも好き勝手をされ萌々香ちゃんにも鼻で笑われ。結局気づいていない私。という事だよね?)
「私、そんなに鈍いのかな」
小さく落ち込む。鈍いを通り越して馬鹿って事なのかな。
「確かに。明日香は鈍いし純粋だなぁと思うけど──」
もぐもぐと紗理奈はタルトを食べ進める。
「む」
私は不満そうな顔をして身体を再び起こす。
分かってはいるけれども指摘をされると何だか不愉快。紗理奈が紅茶を一口飲んで舌を出した。
「怒らない怒らない。褒めているの。明日香は才川とずっと一緒にいるからそういう事を感じなかったのかもね。私が才川に対してそんな風に感じるのは転校が多いせいかな」
「転校?」
「そう。転校が多かったから相手を観察しちゃうのよ。小学生の時とか初対面の印象って大事だし。こんな事考えているんじゃないかなーとか。こういう人なんじゃないのかなーとか観察してさ。それが結構当たる様になってね。たまーに外れる事もあるけれど」
「へぇ~そうなんだ。確かに紗理奈の洞察力は鋭いって思うよ」
「相手の様子を見ちゃうのはあまり良い癖とは言えないかもしれないけれども。極端になると才川みたいに相手によって態度を変えてしまうからね。私がそんな事になったら自分を見失っちゃうわ」
紗理奈はそこまで言って少し瞳を伏せる。
(何だか難しい話になってきたかも)
私はそう感じて自分の行動を振り振り返ってみる。
「私はそういう風に考えた事一度もないかも」
(もしかして鈍感を通り越して馬鹿なのかしら?)
少し不安になる。
「だよね。分かるなぁ。明日香はそういうの全然ないよね。人に対してあまり構えてないって言うか。珍しいタイプだよ」
「褒められているのよね?」
「褒めてる褒めてる」
そう言って紗理奈は手を振って見せた。
(全然褒められている気がしないんだけど)
私が不満そうに口をへの字に曲げると紗理奈は笑っていた。
「逆に明日香みたいな『来る人、皆同じ』っていう付き合い方っては私には難しいかも。私は適度な距離を保たないと、自分が苦しくなるんだよね。かといって距離を保つには結構精神的に強くないといけなかったりして。まぁ、その、色々あるのよ」
「……そうなんだね」
転校が多い紗理奈は私より沢山の友達との軋轢を乗り越えながら生きてきたのだろう。
(七緖くんの考え方が私と違うのも、転校ばかりを繰りかえしていたからなのかな。言われてみれば紗理奈と近い雰囲気なんだよね七緖くんって)
ふとそんな事を思った。
「でもさ明日香の話を聞くと、幼なじみと言うか一ヶ所にとどまって生きていくのも、なかなかどうして大変なんだなぁって思った。皆、仲良し~て訳じゃないのね。力関係が無意識に存在しているというかさ。うーん何か難しいわね。この話はひとまず終わりって事で」
「うんそうだね」
私も瞳を伏せて考える。
(力関係か。マウントは萌々香ちゃんからは感じるけれども。俺様態度の怜央も私に対してマウントを取っているのかな。言われてみれば喧嘩をしてもいつも謝るのが私が先だったりするし)
「幼い頃からの積み重ねが無意識に力関係に影響しているから何も言えなくなるのかもね」
ぽつりと呟いた言葉はとてもしっくりときた。
(うんそうなのかもしれない。七緖くんと紗理奈に感謝だわ)
その収まりの良い感覚に、私は一人目から鱗が落ちる思いだった。
しかし、呟いた私の声は紗理奈には聞こえなかった様だ。
「ねぇそれよりさこのタルト美味しいわね。あと二つあったけど……どうする? 明日香も食べちゃう?」
「うん食べちゃおう」
「太るけど……あっ午前中だから大丈夫かな?」
「午前中に食べるからカロリーゼロだよ」
「だよね~」
紗理奈と私はもう一度タルトを食べる事を決め、新たに紅茶を入れ直す事にした。立ち上がろうとした紗理奈がもう一度座り、話し始めた。
「っとタルトを食べる前に。話を変えて、七緖なんだけど」
「七緖くん? うん」
私は首を傾げて紗理奈の顔を見つめた。
「明日香の前では言いにくいんだけど。私、才川とは反りが合わないって言うか」
紗理奈は転校生で、私と怜央とは中学校から一緒だった。
私の住んでいる町はファミリータイプの社宅が多い。家族での出入りが多いので転校生が来る事に地元の人は慣れていた。そして転校生に対して怜央は率先して仲良くなるのだが、紗理奈はあまり怜央とは接触をしたがらなかった。
(怜央の事あまり好きじゃないんだろうなって思っていたけど、当たりだったみたい)
「うん。知ってたよ」
私がポロリと話すと紗理奈が軽く肩を上げ笑った。
「あはは、バレてたか」
それから紗理奈はゆっくりと話し始めた。
「才川って人によって態度を変えるんだよね。八方美人って感じではないんだけどさ。人に上手く合わせていると言えばその通りなんだけど。それが逆に私には『上から目線』って感じがして苦手なんだよね」
「上から目線か。仲良くしてやるって言っている様に感じるって事かな? 私は怜央って誰とでも仲良くなれるなぁって思っていたけれども」
そんな風に紗理奈が感じていたとは。
(誰とでも仲良くなる怜央なのに。言われてみれば紗理奈の雰囲気が分かっているのか、怜央はあまり紗理奈には近づかなかったな)
怜央と紗理奈は同じ様に反りが合わないと感じていたのかもしれない。
「才川の態度って『俺が思うお前はこうだ』って、決めつけている様な気がするんだよね。現に萌々香とか言う幼なじみの子と明日香とでは態度が違うでしょ」
「あ~うん。言われてみれば」
態度がずいぶん違うというのは三月末の幼なじみの集まりで知ったばかりだ。
(あの怜央の態度が本音なのか、そもそも萌々香ちゃん仕様なのか分からないけど。あそこまで露骨に変わられるとね)
「そういうのってさ嫌じゃない? 『俺は分かって合わせてやっている』って感じがさぁ。アレさえなければね。才川が努力家で基本良い奴なのは知ってるし」
「……うん。そうだね」
「才川の明日香への態度なんて、一番『俺様』感が出ていて腹が立つなって思っていたのよ。あっ、このタルト、メチャクチャ美味しい!」
そこでようやく紗理奈はパクパクとタルトを食べ始めた。
「えーそんなに怜央って私の前では俺様なの? 全然分かんなかった」
私は後ろにある紗理奈のベッドに背中を預け、天井を見上げる。
(怜央にも好き勝手をされ萌々香ちゃんにも鼻で笑われ。結局気づいていない私。という事だよね?)
「私、そんなに鈍いのかな」
小さく落ち込む。鈍いを通り越して馬鹿って事なのかな。
「確かに。明日香は鈍いし純粋だなぁと思うけど──」
もぐもぐと紗理奈はタルトを食べ進める。
「む」
私は不満そうな顔をして身体を再び起こす。
分かってはいるけれども指摘をされると何だか不愉快。紗理奈が紅茶を一口飲んで舌を出した。
「怒らない怒らない。褒めているの。明日香は才川とずっと一緒にいるからそういう事を感じなかったのかもね。私が才川に対してそんな風に感じるのは転校が多いせいかな」
「転校?」
「そう。転校が多かったから相手を観察しちゃうのよ。小学生の時とか初対面の印象って大事だし。こんな事考えているんじゃないかなーとか。こういう人なんじゃないのかなーとか観察してさ。それが結構当たる様になってね。たまーに外れる事もあるけれど」
「へぇ~そうなんだ。確かに紗理奈の洞察力は鋭いって思うよ」
「相手の様子を見ちゃうのはあまり良い癖とは言えないかもしれないけれども。極端になると才川みたいに相手によって態度を変えてしまうからね。私がそんな事になったら自分を見失っちゃうわ」
紗理奈はそこまで言って少し瞳を伏せる。
(何だか難しい話になってきたかも)
私はそう感じて自分の行動を振り振り返ってみる。
「私はそういう風に考えた事一度もないかも」
(もしかして鈍感を通り越して馬鹿なのかしら?)
少し不安になる。
「だよね。分かるなぁ。明日香はそういうの全然ないよね。人に対してあまり構えてないって言うか。珍しいタイプだよ」
「褒められているのよね?」
「褒めてる褒めてる」
そう言って紗理奈は手を振って見せた。
(全然褒められている気がしないんだけど)
私が不満そうに口をへの字に曲げると紗理奈は笑っていた。
「逆に明日香みたいな『来る人、皆同じ』っていう付き合い方っては私には難しいかも。私は適度な距離を保たないと、自分が苦しくなるんだよね。かといって距離を保つには結構精神的に強くないといけなかったりして。まぁ、その、色々あるのよ」
「……そうなんだね」
転校が多い紗理奈は私より沢山の友達との軋轢を乗り越えながら生きてきたのだろう。
(七緖くんの考え方が私と違うのも、転校ばかりを繰りかえしていたからなのかな。言われてみれば紗理奈と近い雰囲気なんだよね七緖くんって)
ふとそんな事を思った。
「でもさ明日香の話を聞くと、幼なじみと言うか一ヶ所にとどまって生きていくのも、なかなかどうして大変なんだなぁって思った。皆、仲良し~て訳じゃないのね。力関係が無意識に存在しているというかさ。うーん何か難しいわね。この話はひとまず終わりって事で」
「うんそうだね」
私も瞳を伏せて考える。
(力関係か。マウントは萌々香ちゃんからは感じるけれども。俺様態度の怜央も私に対してマウントを取っているのかな。言われてみれば喧嘩をしてもいつも謝るのが私が先だったりするし)
「幼い頃からの積み重ねが無意識に力関係に影響しているから何も言えなくなるのかもね」
ぽつりと呟いた言葉はとてもしっくりときた。
(うんそうなのかもしれない。七緖くんと紗理奈に感謝だわ)
その収まりの良い感覚に、私は一人目から鱗が落ちる思いだった。
しかし、呟いた私の声は紗理奈には聞こえなかった様だ。
「ねぇそれよりさこのタルト美味しいわね。あと二つあったけど……どうする? 明日香も食べちゃう?」
「うん食べちゃおう」
「太るけど……あっ午前中だから大丈夫かな?」
「午前中に食べるからカロリーゼロだよ」
「だよね~」
紗理奈と私はもう一度タルトを食べる事を決め、新たに紅茶を入れ直す事にした。立ち上がろうとした紗理奈がもう一度座り、話し始めた。
「っとタルトを食べる前に。話を変えて、七緖なんだけど」
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