【R18】さよならシルバー

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<回想> 3月29日 私は二番目

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 久しぶりに集まった幼なじみと話が弾む。萌々香ちゃんが用意してくれた食事をしながら、だらだらと何時間も話をしたり、テレビゲームをしたり過ごす。そんな中、怜央と私が付き合い始めたという話題では皆が祝福してくれた。貸し切りとなった狭くも心地よい空間で盛り上がる。


 ◇◆◇

 そろそろお開きにしようという事になり、テーブルや食事を片付けていると一番年上の雄介くんが近づいてきた。
「明日香ちょと」
 雄介くんが小さな声で手招きをする。私は雄介くんの側のテーブルに移る。
「雄介くん。あまり今日は話が出来なかったけれど、さっき萌々香ちゃんから就職が決まったって聞いたよ。おめでとう」
 私はのんきに話を始めると、雄介くんは辺りを少しキョロキョロしながら人差し指を立てた。私に黙る様に伝えてきた。
「どうしたの?」
「いいから、片付けるフリをして」
 雄介くんは私の隣で机の上のお皿を片付けながら小さな声で更に話を続ける。

 周りには皆まだだらだらと話をしながら残り物の食事をつついていたりしていた。だから私と雄介くんがこそこそ話をしている事に気がついていたなかった。

「怜央は今いないな?」
「え? うん。さっき一緒にお皿を洗いに行ったよ? 萌々香ちゃんが手伝えって怜央を引っ張っていった」
「萌々香が……そうか」
 すると雄介くんが小さくぼそぼそと低い私にだけ聞こえる声で話し始める。

「いいか? 明日香。怜央と付き合うのは俺もいいと思うけれども、萌々香には気をつけろよ?」
「気をつけるって?」
 一瞬何を言われているのか分からなくて首を傾げた。更に低い声で雄介くんが私の肩をポンと叩いた。
「年上とか幼なじみとそういうの気にしなくて良いのだからな?」
「え?」
 私は何を言っているのか分からなくて首を傾げる。すると雄介くんが優しく笑って私の頭を一つ撫でて他のテーブルの片付けに移動してしまった。

(どういう意味?)

 私は分からなくてテーブルを拭く布巾を取りに厨房の方へ足を向けた。



 奥にある厨房で怜央と萌々香ちゃんがカウンター側に背を向けてお皿を洗っている。

 私はカウンターに近づき、のぞき込む。何やら萌々香ちゃんがやたら怜央に近づいて何か話をしている。
(何を話しているのかな?)
 水道の蛇口をひねっていたので、声が聞こえない。だから私は大きな声で布巾を取ってもらえないかと声をかけようとした。

 その途端怜央が蛇口を止めて、シンクに張った水の中に手を入れてお皿を取り出しスポンジで洗い始めた。

 突然、お皿の音と怜央の声が響く。
「何だよ? 聞こえない」
 怜央が横に並ぶ萌々香ちゃんを見下ろしながら低い声で尋ねた。

 怜央の声に先を越され私は大きく開けた口を慌てて閉じた。二人はカウンターの側にいる私には気づかず会話を続けていた。

「だから、明日香ちゃんにさ、私との事話した?」
 萌々香ちゃんは怜央の顔をのぞき込む様にして身体を寄せた。

(え? 何の事?)
 訳が分からず私は首を傾げカウンター奥からは見えないと思う影に移動した。奥の薄暗い場所にいる怜央と萌々香ちゃんの背中を私はこっそり見つめる。

 それにしても萌々香ちゃん怜央に近い様な気がする。何かその感じが嫌で私は両手で拳を作った。

 萌々香ちゃんにのぞき込まれた怜央の顔は分からないが淡々とした声で答えていた。
「話す訳無いだろ」
「じゃぁさ……やっぱり秘密にしておいた方がいいのよね」
 萌々香ちゃんがお皿をシンクの中に沈めて怜央の肩の辺りまでぐっと顔を近づける。
 怜央は近づけられた顔をよける様に首を反対側に曲げた。
「当たり前だろ。明日香に話すなよ」
 怜央の声と洗ったお皿が重なる音が聞こえる。

(私に話すなって。何を?)
 私の心臓の鼓動が早くなる。ゴクリとつばを飲み込んで身体に力を入れてその場で二人の会話に耳を傾ける。

「そうよね。明日香ちゃんそういうの鈍そうだものね。それに知ったらショックだろうし」
「当たり前だ。萌々香と週に二回はしていた事なんて話せるか」

(えっ?)
 私は怜央の低くて笑う声に思わず自分の手を両手で塞ぐ。体中の血が頭から足に全部流れて立っていられなくなりそうになる。それにお互い呼び捨てで呼び合っていた。それって──

 萌々香ちゃんは肩を揺らして笑い出す。
「ふふふ。凄く残念。怜央と身体の相性良かったから楽しみだったのに」

 カラダノアイショウ

「馬鹿言え。萌々香は他にもいるんだろ。そういう男」
「だって怜央の童貞を捨てるのに付き合ったんだから感慨深いでしょ。それにかれこれ半年ぐらい続いたわよね」

 ドウテイステルノニ

 私は身体がガタガタと震えて動き出す事が出来なかった。

「童貞って……うるせぇよ。最後にやってから半年はしてねぇのに」

 ヤッテカラハントシ

「だって怜央が急に忙しくなるんだもの。バレーボール馬鹿って言うかさ。それに~ひどいわよ」
「バレー馬鹿って何だ。それに何がひどいんだよ」
「萌々香の知らないうちに明日香ちゃんと付き合う事にして。怜央が明日香ちゃんの事好きなのは知っていたけれどもさ」
「何で萌々香に俺が誰と付き合うとか報告がいるんだよ」
「だって明日香ちゃんが彼女じゃさすがにさ。これから私が怜央とエッチ出来ないじゃない」
「もう散々やり尽くしただろ。それに明日香はそういうのじゃないからなやめてくれ」
「ブーブー。萌々香は反対しまーす。鈍くてその手の事に弱い明日香ちゃんは、怜央には似合わないと思いまーす」
「嫌だね。俺は明日香がいいんだ」
「もう~これだからキツネ顔の美人って嫌なのよね。大っ嫌い。怜央みたいな男も虜にするんだから」
「キツネ顔? 明日香がか。ハハ、確かにきつい感じの美人だけれどな。でも可愛いんだぜ」
「ヤダヤダ聞きたくなーい。明日香ちゃんなんて大っ嫌ーい。萌々香から怜央くん取っちゃうんだもーん」
「俺は元々萌々香のものじゃねぇよ」


 もう聞きたくない。


 怜央と萌々香ちゃんはお互い笑いながらお皿洗いを再開した。


 私はゆっくりと壁を伝って少し離れているトイレにようやくたどり着いた。

「おぇっ……うっ」
 必死に声を殺して先ほどまで食べたものを全て吐き出してしまった。

(怜央どうして? 萌々香ちゃんと関係していたのなら、どうして私と付き合おうと思ったの?!)

 心の中で何度も叫びながら私は吐き続ける。そして、食事を運ぶ前言った萌々香ちゃんの言葉を思い出す。

 怜央は、寂しがり屋だとか、怜央を大切にして欲しいとか。

(何が……何が、お姉さんとしてのお願いよ。全部私が怜央を取った腹いせの、マウントなんじゃないの)
 そう思うのに。
 馬鹿にされているのに。
 分かっているのに。

 腹立たしさよりも悲しさが勝って何も考えられない。

 幼なじみなのに──何で? 私は悲し過ぎて、胃液が出るほど吐き続けたのに涙が出てこなかった。

 私は何も知らない馬鹿な子だったのだ。そして──

二番目)
 それとも萌々香ちゃん以外にも怜央には女の子がいたかな?

 結局私は、怜央の一番ではなかったのだ。
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