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<回想> 2月1日 付き合おう 1/2
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年が明けてゆっくりと過ごしていたら一月もあっという間に過ぎてしまった。
私と怜央の家は一戸建てのお隣同士。二階にある部屋もお隣同士。お互いの部屋は窓を開ければベランダを挟んですぐだ。
数十センチのお隣同士のベランダから行き来する事が幼い頃にはよくあった。ベランダを飛び越えて行ったり来たりしていると、お互いの両親に「危ないから止めなさい」と怒られたっけ。
中学に入るとお互いの性差を意識してベランダの行き来はなくなった。ただ、自分の部屋からベランダに出ると顔を合わせるから世間話程度ぐらいはしていた。
両親同士も仲が良いからよく夕食を一緒に食べていた。高校生になると部活中心となった生活に仲は良いけれども両親同士の付き合いのみとなって私と怜央が顔を合わすのは少なくなっていた。
怜央は一月にあったバレーの試合から帰ってきて一段落した頃だった。大城ヶ丘高校の男子バレーボール部は、五年ぶりに全国ベスト4まで進んだが残念ながら敗れてしまった。しかし一年生ながら活躍した怜央の知名度も全国区になった。
私はそんな怜央に呼び出され、久しぶりに才川家を訪れていた。しかも怜央の部屋に来る様にとの事。怜央の部屋に入るのは数ヶ月ぶりだ。確か怜央の洗濯物が落ちていたのを届けたのが最後だったかな。確か冬に入る前だった。
玄関のチャイムを鳴らすと怜央のお母さん、おばさんが快く出迎えてくれた。
おばさんはスタイル抜群だ。おじさんと一緒に会社経営をしている。出かける途中なのかビジネススーツ姿だった。そんな状況でも久しぶりに訪れた私を抱きしめる様に迎え入れてくれた。
「明日香ちゃんじゃない! 久しぶりね。会えてうれしいわ。お隣同士なのになかなか顔を合わせなくなったわね。それより、見ないうちに凄く美人になって」
そう言いながらおばさんは腰を抱きながら頬を撫でてくれた。
「お久しぶりです。美人なんておばさんだけですよ言ってくれるの。あの、怜央に呼ばれたんですけれども部屋ですか?」
美人なんてくすぐったい。だから恥ずかしくなり早めに用件を切り出した。
「怜央が呼び出したの? あの子ったらなんにも言ってくれないんだから。怜央なら部屋にいるわよ。怜央、明日香ちゃんが来たわよ」
おばさんは矢継ぎ早に話すと玄関入り口にある階段に向かって声を張った。すると階段の上から怜央の声だけが聞こえた。
「ああ。明日香、俺の部屋に来てくれ」
その声を聞いたおばさんが肩をすくめた。
「何が『明日香、俺の部屋に来てくれ』よ。呼び出しておいて玄関に来て自分が案内しなさいよねぇ。全く」
おばさんは綺麗に塗られたネイルの手を頬に当てて首をかしげて見せた。
「案内だなんて大げさですよ」
私がそう答えるとおばさんはスリッパを出してくれた。「ありがとうございます」と挨拶をしながら、靴を脱ぎスリッパを履く。するとおばさんはこう言い出した。
「私も久しぶりに明日香ちゃんとお話がしたかったのに。これから出かけないといけないのよ。夫も先に出かけたから、今は怜央だけなのよ家にいるの」
怜央だけしか家にいない──そんな事実を言われて思わずドキリとしてしまう。
怜央の家に上がるのは久しぶりなのに、怜央以外の家の人がいないって言われると妙に意識してしまう。動きの止まった私を見たおばさんはバシバシと背中を叩いた。そして私の耳元で小さく囁いた。
「怜央の周りに何人か幼なじみの女の子がいるけれども、私としては明日香ちゃんが怜央の彼女になってくれるなら大歓迎よ。なんてね」
「え」
突然囁かれた内容に私は驚いて目を丸める。すると、おばさんはサッと私から離れて、わざと二階にいる怜央に聞こえるぐらいの大きな声で笑った。
「明日香ちゃん、怜央が悪さするかもしれないから部屋のドアは開けっぱなしにしておく様にね」
その声を二階で聞いた怜央の怒号が響いた。
「そんな事する訳ねぇだろ」
その声を聞いたおばさんは肩をすくめて可愛く舌を出していた。おばさんにからかわれただけなのかもしれない。私はおばさんと別れて二階へ上がった。
その時おばさんが「幼なじみの女の子がいるけれども」といった事は、後日嫌って言うほど思い出す言葉となる。
怜央の部屋のドアは大きく開いていた。入ると部屋の隅に重たそうな鉄アレイを移動していた怜央が振り返った。
「適当に座ってくれ。あ、ベッドんとこで良いぜ」
部屋に入る様に言われ、怜央にベッドに座る様に促される。
低くてよく通る声にドキリとする。こんな時自分が無表情で良かったと思う。照れたりするなんて可愛い素振りは私には似合わない。それこそ怜央にも笑われてしまう。
普段は怜央の制服姿しか見ていないけれども、部屋着で白いパーカーとグレーのサルエルパンツを穿いていた。サルエルパンツから覗く足は十分に長い。百八十七センチの身長を折り曲げて鉄アレイを片付けている。
「ありがとう。お邪魔します」
緊張するのは久しぶりの怜央の部屋だかだろうか。ぐるりと怜央の部屋を見回す。紺色を基調にした部屋はいかにも男の子らしかった。
窓の側ある勉強用の黒いテーブルの上には教科書やノートが散らばっている。バレーボールの大会で不在だった間に出された課題に取り組んでいた様だ。
私は怜央の部屋を観察しながらゆっくりとベッドの端に腰をかけた。
私と怜央の家は一戸建てのお隣同士。二階にある部屋もお隣同士。お互いの部屋は窓を開ければベランダを挟んですぐだ。
数十センチのお隣同士のベランダから行き来する事が幼い頃にはよくあった。ベランダを飛び越えて行ったり来たりしていると、お互いの両親に「危ないから止めなさい」と怒られたっけ。
中学に入るとお互いの性差を意識してベランダの行き来はなくなった。ただ、自分の部屋からベランダに出ると顔を合わせるから世間話程度ぐらいはしていた。
両親同士も仲が良いからよく夕食を一緒に食べていた。高校生になると部活中心となった生活に仲は良いけれども両親同士の付き合いのみとなって私と怜央が顔を合わすのは少なくなっていた。
怜央は一月にあったバレーの試合から帰ってきて一段落した頃だった。大城ヶ丘高校の男子バレーボール部は、五年ぶりに全国ベスト4まで進んだが残念ながら敗れてしまった。しかし一年生ながら活躍した怜央の知名度も全国区になった。
私はそんな怜央に呼び出され、久しぶりに才川家を訪れていた。しかも怜央の部屋に来る様にとの事。怜央の部屋に入るのは数ヶ月ぶりだ。確か怜央の洗濯物が落ちていたのを届けたのが最後だったかな。確か冬に入る前だった。
玄関のチャイムを鳴らすと怜央のお母さん、おばさんが快く出迎えてくれた。
おばさんはスタイル抜群だ。おじさんと一緒に会社経営をしている。出かける途中なのかビジネススーツ姿だった。そんな状況でも久しぶりに訪れた私を抱きしめる様に迎え入れてくれた。
「明日香ちゃんじゃない! 久しぶりね。会えてうれしいわ。お隣同士なのになかなか顔を合わせなくなったわね。それより、見ないうちに凄く美人になって」
そう言いながらおばさんは腰を抱きながら頬を撫でてくれた。
「お久しぶりです。美人なんておばさんだけですよ言ってくれるの。あの、怜央に呼ばれたんですけれども部屋ですか?」
美人なんてくすぐったい。だから恥ずかしくなり早めに用件を切り出した。
「怜央が呼び出したの? あの子ったらなんにも言ってくれないんだから。怜央なら部屋にいるわよ。怜央、明日香ちゃんが来たわよ」
おばさんは矢継ぎ早に話すと玄関入り口にある階段に向かって声を張った。すると階段の上から怜央の声だけが聞こえた。
「ああ。明日香、俺の部屋に来てくれ」
その声を聞いたおばさんが肩をすくめた。
「何が『明日香、俺の部屋に来てくれ』よ。呼び出しておいて玄関に来て自分が案内しなさいよねぇ。全く」
おばさんは綺麗に塗られたネイルの手を頬に当てて首をかしげて見せた。
「案内だなんて大げさですよ」
私がそう答えるとおばさんはスリッパを出してくれた。「ありがとうございます」と挨拶をしながら、靴を脱ぎスリッパを履く。するとおばさんはこう言い出した。
「私も久しぶりに明日香ちゃんとお話がしたかったのに。これから出かけないといけないのよ。夫も先に出かけたから、今は怜央だけなのよ家にいるの」
怜央だけしか家にいない──そんな事実を言われて思わずドキリとしてしまう。
怜央の家に上がるのは久しぶりなのに、怜央以外の家の人がいないって言われると妙に意識してしまう。動きの止まった私を見たおばさんはバシバシと背中を叩いた。そして私の耳元で小さく囁いた。
「怜央の周りに何人か幼なじみの女の子がいるけれども、私としては明日香ちゃんが怜央の彼女になってくれるなら大歓迎よ。なんてね」
「え」
突然囁かれた内容に私は驚いて目を丸める。すると、おばさんはサッと私から離れて、わざと二階にいる怜央に聞こえるぐらいの大きな声で笑った。
「明日香ちゃん、怜央が悪さするかもしれないから部屋のドアは開けっぱなしにしておく様にね」
その声を二階で聞いた怜央の怒号が響いた。
「そんな事する訳ねぇだろ」
その声を聞いたおばさんは肩をすくめて可愛く舌を出していた。おばさんにからかわれただけなのかもしれない。私はおばさんと別れて二階へ上がった。
その時おばさんが「幼なじみの女の子がいるけれども」といった事は、後日嫌って言うほど思い出す言葉となる。
怜央の部屋のドアは大きく開いていた。入ると部屋の隅に重たそうな鉄アレイを移動していた怜央が振り返った。
「適当に座ってくれ。あ、ベッドんとこで良いぜ」
部屋に入る様に言われ、怜央にベッドに座る様に促される。
低くてよく通る声にドキリとする。こんな時自分が無表情で良かったと思う。照れたりするなんて可愛い素振りは私には似合わない。それこそ怜央にも笑われてしまう。
普段は怜央の制服姿しか見ていないけれども、部屋着で白いパーカーとグレーのサルエルパンツを穿いていた。サルエルパンツから覗く足は十分に長い。百八十七センチの身長を折り曲げて鉄アレイを片付けている。
「ありがとう。お邪魔します」
緊張するのは久しぶりの怜央の部屋だかだろうか。ぐるりと怜央の部屋を見回す。紺色を基調にした部屋はいかにも男の子らしかった。
窓の側ある勉強用の黒いテーブルの上には教科書やノートが散らばっている。バレーボールの大会で不在だった間に出された課題に取り組んでいた様だ。
私は怜央の部屋を観察しながらゆっくりとベッドの端に腰をかけた。
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