【R18】ビキニアーマーの女

成子

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02 イサークのお説教

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「ヴィヨレ、馬鹿かお前は。酒場で酒を飲む時はグラスを必ず空にして席を立つのが常識だろう。媚薬が混入した酒を飲まされるところだったんだぞ」
 私が座るベッドの前には屈強な男がいる。名前はイサーク。私はそのイサークに盛大な溜め息をついた後、お説教を受けていた。

「だって。今日は飲まないとやってられない気分だったのよ」
 私は宿屋のベッドに座ったまま両手を太ももの間に挟む。深い紫色をしたビキニアーマーも、戦場では勇ましいが、イサークに怒られていたら何の迫力もない。

「酒を飲むヤツじゃないだろ。お前は」
 小さくなる私の前で、イサークは二回目の溜め息をついた。胸の前で組んだ片方の手で眉間の皺を押さえる。

 イサークの言う通りだ。飲まないとやっていられないというものの、二十歳の私は人生でお酒を飲んだのは指で数えるぐらいだ。苦いばかりのビールもこの日だけはたらふく飲んでみたいと思ったのよ。

「飲みたい時もあるの!」
「……」
 私が子供の様にわめくとイサークに無言で睨まれた。

 イサークは長身の男だ。硬質の黒髪は襟足が長くはねている。長めの前髪から覗く黒い瞳は鋭い。射貫かれたら思わず心臓を直接掴まれた気分になる。

 イサークは無言で、ズボンのポケットから長さ十センチにも満たないガラスの瓶を取り出し、ベッド側のテーブルに置く。一見女性の香水のボトルに見えるがこれが全然違うらしい。

「お前の隣に座っていた男から取り上げた瓶だ。後一滴残っている。これは強力な媚薬だ。俺も見るのは久し振りだ」
 薬や薬草に詳しいイサークが言うのだから、相当な媚薬なのだろう。

「そうなんだ」
 媚薬どころか薬の知識に暗い私にはピンとこない。

 私のぼんやりした態度にカチンときたのかイサークは長身を折り曲げて、ベッドの縁に座る私に精悍な顔を近づけた。

「この媚薬は数滴口に含んだだけで男も女も我を忘れて交わる事しか考えられなくなるんだ。更に触れただけで達するという信じられない代物で、長期間使い続けると廃人になる恐ろしいものなんだぞ」
 普段は寡黙なのに今回は目をつり上げて怒るイサークだ。

 珍しいわ。こんなに沢山話してくれるなら、普段から話し相手になって欲しかった。だって冒険をしている間ペアで戦っていた私とイサークだったけど、ずっと私が一人だけ話している様なものだから。

「詳しいのね、イサーク。もしかしてこの媚薬を使った事あるの?」
 私は少し酔っているせいもあって、怒られていても少しも響いてこなかった。

 だって、それより私は今、人生最大のショックを受けているのだから。

 私の暢気な態度にイサークは、こめかみの血管を太くした。声を大きくする事はないがイサークは臓物が冷え込む様な低い声で呟いた。

「……俺は国お抱えの暗殺者だったからな。薬物には詳しいんだ」
 その時の知識を活かし、イサークは私にお説教をしているのだ。暗殺者だった事はあまりイサークは触れられたくない様だ。触れられたくないところに踏み込んだ私に腹が立ったのだろう。

 だけど私もそんな事は百も承知だ。別に媚薬の件で「使った事あるんだぁ~ねぇねぇその時の具合はどうだったぁ~?」など酔っ払って、イサークの事をからかいたかったのではない。

「だって……」
 怒るイサークの瞳を見つめる。一重の男らしい切れ長の眼だ。冒険の先々で、ときめく女性達がいた事は知っている。だけど、私は別の事で頭が一杯だった。口を開いたらこらえていた涙が溢れてきた。

「ヴィヨレ?!」
 今までどんなに魔物と戦って怪我を負い、痛い目に遭っても泣く事は一度もなかった。そんな私にイサークが驚き慌て出す。

 今日の私は心がボロボロになっているのよ。

「ぐすっ、ひっく。ううっ~」
 私は両手で顔を覆って泣いた。
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