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22 和馬の返事
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アダルト動画の事を盾にして和馬は、私が好意を寄せていた事にしている。
和馬は告白を受けた側で私の事を好きだったわけではない。社内で恋人を作った事がない和馬だ。そんな『好きではない相手』からの告白を何故受けたのか皆興味があるだろう。是非その回答は聞いておきたい。
(例えば『俺も好きだった』とか……うわぁ~それってくすぐったい)
お昼には百瀬さんから、電話では舞子から『早坂が告白をしたと思った』という言葉が脳裏をかすめた。だから期待をしてしまったのだ。
思わず口元がヘニャッと曲がって薄笑いをしそうになった。慌てて正したけれども、その私の様子が和馬に伝わってしまった。
和馬はニヤリと笑う。小さなテーブルの上に上半身を倒して下から私を覗き込む。
「お前は俺が何て答えたと思う?」
「えっ。そ、それは、その」
全てがお見通しだと言わんばかりの顔と言葉に、私は口を閉ざし慌てて視線を逸らした。
「えーと。何て答えたかなぁ~『実は俺、直原の事』──」
「!」
真っ直ぐに見つめる和馬。ダークブラウンの瞳が細くなる。優しそうに光る瞳と中低音の聞き心地のいい声。私はゴクンと唾を飲み込む。
(もしかして和馬は私の事好きだった?)
言葉の先を待つ私の両手が、テーブルの上で緩く拳を作る。その拳を和馬の大きな手が包み込む。身を乗り出して和馬がゆっくりと私の左耳に唇を寄せて息を吹きかける。それだけで私はゾワッと、鳥肌が立ってしまった。
和馬はそんな私の腕を見つめながら掠れたとびきり色っぽい声でこう囁いた。
「……好きなんだ」
心臓が止まる──かと思った。私はずっとほんのり赤かった顔を上げて驚いて和馬の顔を見つめる。至近距離で見つめる和馬の顔は──
必死に笑いをこらえているのが分かった。
(だっ! 騙したわね~!!!)
私は悔しくて、ギリギリと歯を食いしばった。和馬の頬に平手をお見舞いしようと振り上げたが、和馬は私の手を簡単に掴んでおでこをゴチンとつけた。
「痛っ」
「バーカ。騙されてやんの。俺の事をいつだったか『頭がザル』って言った仕返しだよ」
「うう。こんな時に仕返しなんて。しかも、す、す、好きとか」
(いくら何でも冗談が過ぎるでしょっ!)
ちょっと期待していた自分がいる事は秘密にしておきたい。無駄にときめいた等と言ったら『那波も俺の顔好き?』とか言い出しかねないし。
「期待していた那波の顔面白かったぜ。耳まで真っ赤になるんだな。照れるとさ」
「屈辱的……」
頭がザルなんて。それは和馬とペアを組んでいた時に、大喧嘩──じゃなくて。議論、討議、 うん、ディスカッションと言う事にしておこう。その時に放った私の言葉だ。その後も『メモ代わりにするな』とか『頭の容量はそれだけか』と言ったけど。最初の言葉を覚えているとは。
その後、和馬とは何度かそう言ったディスカッション(あえて言うけれども)を繰り返して仕事をしていったのだ。
(よく覚えているわね。私だって佐藤くんの事がなければ忘れかけていた最初のディスカッションなのに)
暴言を言われた方はいつでも覚えているっていう事だろう。そのしっぺ返しが今来ているのかも。私は諦めて溜め息をついたら、和馬は軽く笑って立ち上がった。
「もう十二時だぜ。月曜日なんだからさ。そろそろ寝よう。明日はお弁当の準備もあるんだろ?」
「あっ。えっ。ちょっと」
あれよあれよと私は和馬に手を引かれベッドに押し込まれる。すっかり二日間で慣れてしまったのか、和馬はテキパキとベッドに入ると部屋の灯りを落とした。
狭いベッドなのに、私を後ろから抱きしめるような格好で布団に入る。私の体を横抱きにしてすっぽりと包み込む。
ベストポジション──と言った感じだ。和馬の位置と私の位置、それぞれすっぽりとはまる。
「はぁ~これこれ……凄く心地いい」
エアコンで冷えた体が、和馬の体温で温まっていく。とろとろに溶かされていくような心地よさに私は何も言えなくなって力を抜いてしまう。
(そうなんだよね。心地いいって言うのは私も同感)
人と体温を分け合う。布団の中で緩く抱きしめられると和馬の心音が聞こえる。私の心音より少しゆっくりな音。この音を聞いていると瞼が下がっていくる。和馬は私の臀部に自分の腰を押しつける。和馬の陰茎が少しだけ固くなっているのが分かった。だから私は、ウトウトしかけたが、思わずゴクンと唾を飲み込んでしまった。
(何っこれって。えっ?)
一人パニックになっていると、私を抱え込んでいる和馬が小さく笑った。
「眠たいと勃つんだよ……それともヤる?」
中低音の掠れた声に心臓がはねる。
(無駄に色っぽいの止めて欲しい。そうなのか。眠いと、勃っ……もう。そうじゃなくて)
心臓がドキドキと高鳴っているのはバレているからどうしようもないだろう。でも慌てている事が伝わって欲しくなくて必死に声のトーンを抑える。
「今日は駄目。だって明日も忙しいのに」
「だよなぁ。これからはずっと一緒だからな。いくらでも──っ、痛っ。俺の腕をつねるな」
「もうっ。寝るの」
「冗談だよ。お休み……那波」
「お休み……和馬」
(和馬の馬鹿。これからはずっと一緒だから──だなんて。少しも思っていないくせに)
私と和馬は本当の恋人みたいにお休みを言いストンと眠りについた。
意識が途切れる瞬間、好きだ──と、聞こえた。それは、私の深層にある願望なのかも……と思った。
和馬は告白を受けた側で私の事を好きだったわけではない。社内で恋人を作った事がない和馬だ。そんな『好きではない相手』からの告白を何故受けたのか皆興味があるだろう。是非その回答は聞いておきたい。
(例えば『俺も好きだった』とか……うわぁ~それってくすぐったい)
お昼には百瀬さんから、電話では舞子から『早坂が告白をしたと思った』という言葉が脳裏をかすめた。だから期待をしてしまったのだ。
思わず口元がヘニャッと曲がって薄笑いをしそうになった。慌てて正したけれども、その私の様子が和馬に伝わってしまった。
和馬はニヤリと笑う。小さなテーブルの上に上半身を倒して下から私を覗き込む。
「お前は俺が何て答えたと思う?」
「えっ。そ、それは、その」
全てがお見通しだと言わんばかりの顔と言葉に、私は口を閉ざし慌てて視線を逸らした。
「えーと。何て答えたかなぁ~『実は俺、直原の事』──」
「!」
真っ直ぐに見つめる和馬。ダークブラウンの瞳が細くなる。優しそうに光る瞳と中低音の聞き心地のいい声。私はゴクンと唾を飲み込む。
(もしかして和馬は私の事好きだった?)
言葉の先を待つ私の両手が、テーブルの上で緩く拳を作る。その拳を和馬の大きな手が包み込む。身を乗り出して和馬がゆっくりと私の左耳に唇を寄せて息を吹きかける。それだけで私はゾワッと、鳥肌が立ってしまった。
和馬はそんな私の腕を見つめながら掠れたとびきり色っぽい声でこう囁いた。
「……好きなんだ」
心臓が止まる──かと思った。私はずっとほんのり赤かった顔を上げて驚いて和馬の顔を見つめる。至近距離で見つめる和馬の顔は──
必死に笑いをこらえているのが分かった。
(だっ! 騙したわね~!!!)
私は悔しくて、ギリギリと歯を食いしばった。和馬の頬に平手をお見舞いしようと振り上げたが、和馬は私の手を簡単に掴んでおでこをゴチンとつけた。
「痛っ」
「バーカ。騙されてやんの。俺の事をいつだったか『頭がザル』って言った仕返しだよ」
「うう。こんな時に仕返しなんて。しかも、す、す、好きとか」
(いくら何でも冗談が過ぎるでしょっ!)
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「期待していた那波の顔面白かったぜ。耳まで真っ赤になるんだな。照れるとさ」
「屈辱的……」
頭がザルなんて。それは和馬とペアを組んでいた時に、大喧嘩──じゃなくて。議論、討議、 うん、ディスカッションと言う事にしておこう。その時に放った私の言葉だ。その後も『メモ代わりにするな』とか『頭の容量はそれだけか』と言ったけど。最初の言葉を覚えているとは。
その後、和馬とは何度かそう言ったディスカッション(あえて言うけれども)を繰り返して仕事をしていったのだ。
(よく覚えているわね。私だって佐藤くんの事がなければ忘れかけていた最初のディスカッションなのに)
暴言を言われた方はいつでも覚えているっていう事だろう。そのしっぺ返しが今来ているのかも。私は諦めて溜め息をついたら、和馬は軽く笑って立ち上がった。
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「あっ。えっ。ちょっと」
あれよあれよと私は和馬に手を引かれベッドに押し込まれる。すっかり二日間で慣れてしまったのか、和馬はテキパキとベッドに入ると部屋の灯りを落とした。
狭いベッドなのに、私を後ろから抱きしめるような格好で布団に入る。私の体を横抱きにしてすっぽりと包み込む。
ベストポジション──と言った感じだ。和馬の位置と私の位置、それぞれすっぽりとはまる。
「はぁ~これこれ……凄く心地いい」
エアコンで冷えた体が、和馬の体温で温まっていく。とろとろに溶かされていくような心地よさに私は何も言えなくなって力を抜いてしまう。
(そうなんだよね。心地いいって言うのは私も同感)
人と体温を分け合う。布団の中で緩く抱きしめられると和馬の心音が聞こえる。私の心音より少しゆっくりな音。この音を聞いていると瞼が下がっていくる。和馬は私の臀部に自分の腰を押しつける。和馬の陰茎が少しだけ固くなっているのが分かった。だから私は、ウトウトしかけたが、思わずゴクンと唾を飲み込んでしまった。
(何っこれって。えっ?)
一人パニックになっていると、私を抱え込んでいる和馬が小さく笑った。
「眠たいと勃つんだよ……それともヤる?」
中低音の掠れた声に心臓がはねる。
(無駄に色っぽいの止めて欲しい。そうなのか。眠いと、勃っ……もう。そうじゃなくて)
心臓がドキドキと高鳴っているのはバレているからどうしようもないだろう。でも慌てている事が伝わって欲しくなくて必死に声のトーンを抑える。
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「だよなぁ。これからはずっと一緒だからな。いくらでも──っ、痛っ。俺の腕をつねるな」
「もうっ。寝るの」
「冗談だよ。お休み……那波」
「お休み……和馬」
(和馬の馬鹿。これからはずっと一緒だから──だなんて。少しも思っていないくせに)
私と和馬は本当の恋人みたいにお休みを言いストンと眠りについた。
意識が途切れる瞬間、好きだ──と、聞こえた。それは、私の深層にある願望なのかも……と思った。
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