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14 期待に応えたい
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外回りの営業に出かけていった、市原くん、山本くん、佐藤くんだった。
しかし、思った通りで佐藤くんは外に出てすぐ私に電話をかけてきた。
『直原さん。申し訳ないっすが、一個忘れていた見積もりがあって』
電話の向こうで、体が大きいけどコソコソと小さな声で話している様が目に浮かぶ。
「先週何度も言ったのに」
予感的中。やっぱり週明け早々佐藤くんはトラブルに発生しそうな案件を忘れていた。
(もう、だから先週きちんと確認するように言ったのに!)
なので、私は先週末におかしい様な気がしていたから先回りして見積もりをお願いしていた。
『ホントッすか~? いやぁ流石直原さんっすね!』
(流石じゃないわよ。本当にどうしてくれよう)
月曜日から私のイライラゲージを佐藤くんはいとも簡単に上げてくれる。でもここは、怒りにまかせて怒鳴っても仕方ない。私はグッと息を吸い込んで淡々と答える。
「お客様には佐藤くんに依頼を受けて私が送ったと伝えておくわね。とにかく、何度も言っているけれども、佐藤くんはきちんとメモを取」
『あっ。次の電車がきたんで切ります。メールありがとうございまーす』
私のお小言風の話を始めると、佐藤くんは一方的に電話を切ってしまった。
私は切れた受話器を怒りで震えながら置くしかなかった。
(くっそぉ~あいつ分かっていて電話を切ったわね。本当にどうやって注意しても同じなんだから。一度凄い勢いで佐藤くんの前で切れてみたらいいのかしら?)
いつかこの受話器を叩き壊してしまうのではないかと心配してしまう。
私は一度電話を叩き壊している事がある。そう……昔、和馬とペアを組んで仕事をしていた時の事だ。
今の佐藤くんと同じ様な事だった。要領のいい和馬だったが自分への過信から抜けているところがあった。佐藤くん程ではないがミスが多かったのだ。でもあの時は、私も一年目だったし同期だったのもあって、言いたい放題だった。
和馬に適当に電話を切られ、何を用意していいか分からず途方に暮れた事があった。一度や二度ではなかったので、とうとう三度目に社内帰ってきた和馬にくってかかった。
『何だと。もう一回言ってみろ』
『何度でも言うわよ。あんたの頭ザルよ!』
『ザル?! 俺だって忘れる事はあるんだ! そこをフォローするのが直原だろ!』
『はぁ? 早坂の勝手な行動はフォローしかねるわよ。信頼あってこそのフォローなのよ! 私をメモ帳代わりにしないで。それともあんたの頭の容量はたったそれだけなわけ?』
『何だと!』
まるで子供の喧嘩みたいで池谷課長を始め周りのみんなが面食らっていたっけ。
和馬とはおでこを付き合わせて大喧嘩。そのうちつかみ合いが始まりそうなものだった。だけど、比較的言いたい事を言ってすっきりすると、どちらが悪いかではなく何が良くなかったのかを検討したっけ。当時から和馬は社内で注目の的、女性からも大人気だったのでその和馬に怒鳴った私は皆からドン引きされたっけ。
そうやって一年間過ごして頑張ったからこそ成長した和馬だった。今は、違う課でとても信頼されているみたいだし。
少しの懐かしさに微笑むけど、残念な事に今の私の状況が当時とさほど変わっていないので、落胆の溜め息をついた。
(だけど、当時の様な事をしたら、佐藤くんは後輩だし。あっという間にパワハラだと言われるよね)
どうやって佐藤くんに対処したらいいのか。頭を抱えるしかなかった。
(少し池谷課長に相談してみようかな)
でも相談して、私が使えないって思われるのも嫌だ。そもそも佐藤くんのそういう癖がある事は池谷課長からも言われていたし。
──そういった部分を直原が指導していって欲しい──
池谷課長はそう私に言っていた。きっと池谷課長は佐藤くんの悪い癖を直せると、私に期待をしているはずだろう。
その期待に応えたい──と私は両手を握りしめた。
そんな事が午前中あったので、私はすっかり和馬とお弁当の事をスポンと忘れていた。
しかし、思った通りで佐藤くんは外に出てすぐ私に電話をかけてきた。
『直原さん。申し訳ないっすが、一個忘れていた見積もりがあって』
電話の向こうで、体が大きいけどコソコソと小さな声で話している様が目に浮かぶ。
「先週何度も言ったのに」
予感的中。やっぱり週明け早々佐藤くんはトラブルに発生しそうな案件を忘れていた。
(もう、だから先週きちんと確認するように言ったのに!)
なので、私は先週末におかしい様な気がしていたから先回りして見積もりをお願いしていた。
『ホントッすか~? いやぁ流石直原さんっすね!』
(流石じゃないわよ。本当にどうしてくれよう)
月曜日から私のイライラゲージを佐藤くんはいとも簡単に上げてくれる。でもここは、怒りにまかせて怒鳴っても仕方ない。私はグッと息を吸い込んで淡々と答える。
「お客様には佐藤くんに依頼を受けて私が送ったと伝えておくわね。とにかく、何度も言っているけれども、佐藤くんはきちんとメモを取」
『あっ。次の電車がきたんで切ります。メールありがとうございまーす』
私のお小言風の話を始めると、佐藤くんは一方的に電話を切ってしまった。
私は切れた受話器を怒りで震えながら置くしかなかった。
(くっそぉ~あいつ分かっていて電話を切ったわね。本当にどうやって注意しても同じなんだから。一度凄い勢いで佐藤くんの前で切れてみたらいいのかしら?)
いつかこの受話器を叩き壊してしまうのではないかと心配してしまう。
私は一度電話を叩き壊している事がある。そう……昔、和馬とペアを組んで仕事をしていた時の事だ。
今の佐藤くんと同じ様な事だった。要領のいい和馬だったが自分への過信から抜けているところがあった。佐藤くん程ではないがミスが多かったのだ。でもあの時は、私も一年目だったし同期だったのもあって、言いたい放題だった。
和馬に適当に電話を切られ、何を用意していいか分からず途方に暮れた事があった。一度や二度ではなかったので、とうとう三度目に社内帰ってきた和馬にくってかかった。
『何だと。もう一回言ってみろ』
『何度でも言うわよ。あんたの頭ザルよ!』
『ザル?! 俺だって忘れる事はあるんだ! そこをフォローするのが直原だろ!』
『はぁ? 早坂の勝手な行動はフォローしかねるわよ。信頼あってこそのフォローなのよ! 私をメモ帳代わりにしないで。それともあんたの頭の容量はたったそれだけなわけ?』
『何だと!』
まるで子供の喧嘩みたいで池谷課長を始め周りのみんなが面食らっていたっけ。
和馬とはおでこを付き合わせて大喧嘩。そのうちつかみ合いが始まりそうなものだった。だけど、比較的言いたい事を言ってすっきりすると、どちらが悪いかではなく何が良くなかったのかを検討したっけ。当時から和馬は社内で注目の的、女性からも大人気だったのでその和馬に怒鳴った私は皆からドン引きされたっけ。
そうやって一年間過ごして頑張ったからこそ成長した和馬だった。今は、違う課でとても信頼されているみたいだし。
少しの懐かしさに微笑むけど、残念な事に今の私の状況が当時とさほど変わっていないので、落胆の溜め息をついた。
(だけど、当時の様な事をしたら、佐藤くんは後輩だし。あっという間にパワハラだと言われるよね)
どうやって佐藤くんに対処したらいいのか。頭を抱えるしかなかった。
(少し池谷課長に相談してみようかな)
でも相談して、私が使えないって思われるのも嫌だ。そもそも佐藤くんのそういう癖がある事は池谷課長からも言われていたし。
──そういった部分を直原が指導していって欲しい──
池谷課長はそう私に言っていた。きっと池谷課長は佐藤くんの悪い癖を直せると、私に期待をしているはずだろう。
その期待に応えたい──と私は両手を握りしめた。
そんな事が午前中あったので、私はすっかり和馬とお弁当の事をスポンと忘れていた。
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