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135 新 オベントウ大作戦 その1

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「ナツミ。ビキニのブラ、胸元のフレアが可愛い~しかもオフショルダーって水着っていうより踊りの衣装って感じ。いいなぁ私もそっちにすれば良かったかしら。ところでどうしてヤリを持っているの?」
 リンダが海から上がってきた私の姿を見つけて駆け寄ってくる。

 リンダは腰の辺りまでカットが入った、黒いワンピースの水着を着ていた。胸元は大きくV型になっていて背中も腰の辺りまで空いているセクシーなものだった。そしてその水着は、手足の長い彼女の為に作られたものの様だった。

 白い肌とウェーブのかかったプラチナブロンド。今日は髪の毛をポニーテールにしてとても活動的に見えた。ダイエットで苦しんでいたのが嘘の様でとても元気になっている。もちろんほっそりとしたスタイルだ。

「ヤリじゃないよ魚をとる為の道具、もりだってば。褒めてくれてありがとう。胸元がフレアなのは小さな胸を隠す為なんだけどね」
 私の右手にあった銛を見て首を傾げるリンダだった。
 
「オレンジ色って子供っぽいと思っていたけれどそんな事はないのね。お尻の辺りがプリプリして果物みたい。でもさ、銛といいその腰にぶら下げている籠は頂けないわね」
 リンダの隣にはトニが白い水着を着て立っていた。

 その水着はリンダとの色違いで、赤い色の髪をリンダと同じ様にポニーテールにしている。リンダと対照的で胸やお尻が大きいが引き締まったウエストは女性から見ても魅力的だった。

 小麦色の肌が夏の海の下輝いていて、まさにファルの女性を象徴する姿だった。
 つまりトニも水着姿が似合っている。そんな彼女は両腕を胸の前で組んで私の腰にぶら下がっている籠を見つめた。

「私は魚や貝を潜ってとっていたから籠が必要だったの。浜に戻ったらこの籠を置いてくるからさ。トニも水着を褒めてくれたありがとう。このビキニパンツだけど横の紐も二本遣いで気に入ってるんだ。ただね、お尻のカッティングが最近益々大胆な事になってるなって」
 私がクルリとその場で水しぶきを上げながら、一回転するとトニとリンダが二人で声を上げて両手を叩いた。

「ナツミってば何を言っているのよ。そのお尻のカッティングこそが格好いいんじゃない」
「そうそう。プリプリの果物に似たお尻にかぶりつきたくなる男性がきっと沢山いるわよ」
「そうだったらいいんだけどね……」
 何故か同じ店の同僚ではなく、ライバル店の人気踊り子二人に論される私だった。

 リンダとトニは私の両腕をそれぞれが引っ張りながら楽しそうに声を揃える。

「「とは言っても、それはザックが許さないと思うけれどもね」」

 二人は笑って意気投合しながら私をズルズルと引っ張り、浜に出来ている人だかりの元へ歩き出す。数日前までいがみ合っていたとは思えない位仲良しになったトニとリンダだ。

 どうしてこの二人が水着姿なのかと言うと『ゴッツの店』の踊り子達が、オベントウ売りに協力してくれる事になったのだ。

 先日の『ゴッツの店』で繰り広げられた出来事が相当良い方向に進んでいるらしく、店主のゴッツさんが気前よく踊り子達をオベントウ売りの時だけ、派遣してくれる事になったのだ。

 浜辺の人だかりの正体は、露店を出している『ジルの店』だ。おにぎりを購入出来て、持ち帰り可能なオベントウとして販売している。

 雨季に入る前から制作していたリアカー式の露店が遂に完成し稼動しているのだ。このリアカーを店からずっと引きながら浜辺で広げ露店を出す。

 お祭りの時に出る露店と遜色ないものだった。

 店には呼び子や売り子として『ジルの店』と『ゴッツの店』の踊り子が皆水着姿で出迎えてくれる。その中には、マリン、ニコ、シェフのダンさん、シン、ザック、ノアがいる。

 この面子で人が集まらない理由はなく、オベントウ販売を開始した当日から話題になり、お昼休みの軍人やファルの町の男女が集まった。
 初日などは三十分でおにぎり二個セットのオベントウは完売となってしまった。今日は三日目だが、訪れる軍人やファルの町の人達は、途絶える事がなく、オベントウのおにぎりを増やして販売している。

 ファルの町は夏真っ盛りだから食材が傷みやすい事も考慮し、殺菌効果のあるバナーポテの葉を採用し、食べやすい様に紙にくるんで渡す。
 もちろん持ち帰る事も出来るから、皆買ったあと好きな場所で好きな時間に食べる事が出来る。

 サンドイッチやクプレプと言った軽食も同じなのだが、お米を丸くして食べると言う事がとても新鮮なのか人気となった。更に冷たいレモン水もサービスで一杯飲める事も好評だった。

 水資源が豊富なファルの町だけれどもお店から出されるものが無料というのはとても新鮮みたい。

 おにぎりの握り方や具材。そして海苔代わりの葉。味も時間をかけて検討した事がとても良かったのか大当たりとなった。皆のアイデアの結晶だ。
 
「うめぇ! 米ってこんなに美味いのか」
「オベントウって持ち帰れるのか。へぇ~喰いやすそうだしいいなぁ」
「いつも食いに行く店を探すのが大変だったけど海辺まで売りに来てくれるとは助かる」
「不思議だなぁパエリアだって丸めるだけでこんな喰いやすくなるのか。俺はクプレプとかサンドは中身が漏れて苦手でな」
「白い米だと思っていたけれど中から具材が出てくるのが楽しみだよな。あっこれ肉団子だぜ」
「サンドやクプレプもいいけれどそればっかりだと飽きるし、新鮮だな」

 皆それぞれ感想を口にして、とても喜んでくれた。

 更にとても重要なポイントがある。これが大好評で沢山の人が訪れる様になった。

「やっぱり『みずぎ』を着た女は最高さ。可愛くて美しい女を眺めながらって昼休みを過ごせるなら、午後の仕事も頑張ろうって思うだろ」

 売り子になった皆は水着になり海ではしゃいで見せた。これが集客のフックとなっている。

 コホン。

 しかも女性だけではないのだ。

「でもなぁ。俺は別にザックやノア、シン……しかもムキムキ筋肉男、ダンの。とにかく野郎の『みずぎ』姿は見たくない」
 そうなのだ。

 ニコだけが着る予定だった水着を、男性皆が着る事になったのだ。

「何でだよ。別に良いだろ。水着は女のものだけじゃないぜ」
「そうだそうだ。見ろよ俺の肉体美!」

 オベントウとお釣りを渡しながら、ノアやザックはボディビルダーの様にポーズをする。

 とても美しいノアとザックの体。男性の視点から見てもきっと惚れ惚れするだろう。

 軍人としての屈強な体。
 鍛えられた腕、胸板、腹筋背筋。
 下半身は水着は黒のハーフパンツタイプで覆われている。私が現代から着ていた水着の素材を真似ているので、競技用のものと変わりない。もちろんミラの制作だ。

 引き締まった腰から長い足が隠れる事なく見えて、ノアとザックのスタイルの良さを改めて確認する事が出来る。

 現代と違う事と言えば、太股にベルトで結ばれた短剣が装備されている事だろうか。

 実に健康的で完璧な鍛え上げられた肉体美に目を奪われる。

 一瞬、魅入っていた軍人も慌てて首を左右に振った。

「ケッ! 格好つけやがって。大体何だ股間を見せつけるぴったりした感じって。いいかぁ! 俺だってなぁザックと同じ様な姿になったら、女から黄色い声だって上がるんだからな」
 ザックからお釣りをもらった軍人が口を尖らせた。

 股間は見せつけていないと思うけれども。どうもぴったり具合が気になるみたいだ。

 気を悪くしてしまった彼の側にはマリンがそっと近づいてにっこりと笑った。

 マリンはシンプルな白いビキニだった。透き通る肌と白いビキニを見て男性はゴクンと生唾を飲み込んだ。

「ごめんなさいね。ノア達が意地悪な事言って。オベントウを買ってくれてありがとう。また来てね」
 その一言に軍人はあっという間に気をよくした。

「気にしてないさ。じゃぁな!」
 そう言って去って行った。

 流石マリン。夜の店で酔っ払いを相手にしてきた彼女は実に商売上手だ。

 私は苦笑いをしながらザックやノアが水着を着る事になったいきさつを思い出していた。



***

「ジャーン! 遂に男性水着が完成しました! はい拍手~」
 店の営業を終えて、酒場の片隅で遅い食事をとっていたザック、ノア、マリン、私の前でミラが手を叩いてファッションショーを始めた。

「ゲッ。男性の水着って」
「えぇ~マジかよ」
 ノアとザックが手からフォークを落として呆然とする。

「いいからいいから! それでは二つのタイプを見てよ」
 ミラの一声で酒場にある舞台にスポットライトが当たる。

 そこにはショートパンツタイプの水着を着たニコとハーフパンツタイプの水着を着たシンが腰に手を当てて立っていた。

 ニコの体は少年といった様子だが手足が長くこれから成長したら楽しみな様子が窺えた。それにシンはしっかりと鍛えられていてバランス良くて惚れ惚れするものだった。

「今二人が着ているのは白い色だけどこれは試しに作ったものだから。色だけじゃなくて柄物も出来るから好みのものが作れるの。もちろん泳ぐ時もまるで何も身に付いていないぐらい抵抗がないという優れものなの。軍人は剣を身に付けたいと思うから膝上までの型にしたの。これはシンの意見を取り入れたのよ。太股の長さぐらいの剣をベルトで固定する事も出来るから。素肌に固定するよりいいって」
 そう言ってシンが太股と腰骨の辺りにベルトを巻きつけ短めの剣を装着する。

 これは……凄い。そして素敵だ。
 久しぶりに男性の水着姿を見て私は感動した。
 ミラが私の意見とニコやシンの意見を取り入れて男性用の水着を見事に完成させていた。現代のものと遜色ない程だ。

 それなのに、ザックとノアが口を尖らせて凄く嫌そうに溜め息をついた。
「えぇ~俺もそれ着るのかよ。って言うか入るのか? 股間の辺り」
「そうだよなぁ。股間辺りがぴったりって俺のデカいんだぜ。気になるんだけど」

 外で女性を平気で抱くくせに、水着如きに抵抗があるとは。

 ザックが私の水着を初めて見た時も踊り子衣装より恥ずかしいと言ってのけた事を思い出した。それに二人して股間股間って何なのよ。別に女性を抱く直前の状態ではないのに。
 って、私は何を言っているのだろう。

 感覚がずれているのよね。ファルの町に住む男性って。

 よし、こうなったら作戦開始だ! 
 私とマリンそしてミラは視線を合わせて頷いた。

「うわぁ~シン! 素敵ね。シンってそんなに体を鍛えていたのね。普段着じゃ分からなかったよ。逞しくて見直しちゃった。ミラがシンが格好いいっていう理由がよく分かるわ」
 私は両手を胸の前で合わせて目をキラキラさせる。そしてシンをうっとり見つめる。

 その様子を見て、私の隣に座って頬杖をついていたザックが驚いて目を丸める。

「はぁ? ナツミどうしたんだ。俺の方が逞しい事を知っているくせに。毎晩ベッドで見ているのは俺の体だぞ」
 グイッと顔を近づけて私の横顔を睨みつける。

 引っかかった。あまりにも予想通りの反応で私は吹き出しそうになる。

 けれども、ここはこらえて、と。

「水着で泳ぐ姿って格好いいよ。私のいた世界ではこんなの当たり前だし」
「当たり前だと! こんな股間の形が想像出来るぴったり具合が?」
「そんなところばかり目が行くなんてザックってどうかしてる。泳ぎやすい上に男性の肉体美が見えるって素敵だよ」
 そう言って私は再びうっとりしてみる。

 シンは私が演技をしている事を知っているのもあり、居心地悪そうにしている。とは言うものの、褒められてまんざらでもなさそうだ。鼻の頭をポリポリとかいて顔をほんのり赤くしていた。

 そんな私のうっとりする姿と言葉にザックが悔しそうに歯ぎしりをした。

 その姿がおかしかったのかノアが両手を叩いてザックを笑う。
「ハハハ。いい気味だなザック。悔しそうなザックの顔なんて滅多に見られないからな。ざまぁみろってやつだ。マリンもそう思うだろ。って、マリン?」
 ザックを指差して笑うノアは隣に座っているマリンに同意を求める。しかしマリンは両手を胸の前に当ててニコをうっとり見つめていた。

「驚いたわニコも素敵。美少年って言葉はニコの為にあるんじゃないかしら。ニコその場で一回転してみて。わぁ! 背中からお尻にかけてのラインも綺麗ね。いつも立ち姿が綺麗だと思っていたのよ」
 頬をほんのり染めて見つめるマリンの顔が可愛くて思わず私もドキリとしてしまう。

「マ、マリン? 美少年って、え?」
 動揺しているのかノアがテーブルの上の手をカタカタと震わせていた。

 しかしマリンは瞳の中にハートが見える様な顔つきでノアを見つめる。

「だってファルの町の男性って皆ムキムキ筋肉質ばかりだし。見飽きるって言うかお腹一杯って言うか。汗臭さを感じさせない少年で、美しいって貴重だわ」
 ホゥと溜め息をついてみる。甘い溜め息にニコが顔を真っ赤にして俯いてしまう。

「俺だって昔は美少年だったろ? 出会った頃の俺を思い出せよ。俺はザックと違って成長が遅かったから十五歳くらいまでは背も低かったし痩せ型だったし」
 突然昔の事を持ち出すノアだった。マリンの気が削がれているので必死だ。

 ノアの必死さ加減がおかしいかも。
 私は吹き出すのを我慢して顔を俯く。

「そうね出会った頃のノアは確かに痩せ気味で顔の作りは美しかったわよ。だけど裸なんて見た事ないし。今のノアも細目で筋肉ムキムキな男性と比べると美しくて素敵だけど。青年になってしまったし。その代わりにニコを観察して愛でているのよ」
「かっ観察? 愛でているって」
 ノアは声をひっくり返してしまう。

 駄目おかしい笑ってしまう。

 必死にこらえていると、マリンが私の方に振り向いて同意を求める。

「ナツミもそう思うわよね。私、今日のニコを見て、男性が踊り子衣装や水着を見てうっとり見つめる気持ちが理解出来たかも」
 マイペースにニコニコ笑うマリンだった。

「う、うん。そ、そうだね」
 私もプルプル震えながらマリンに答える。

 マリンって元々天然だけれども今回の発言も半分本気なのではないかな。演技下手のノアと違って上手い。

 しかし駄目かも。笑ってしまいそうで私もこれ以上演技出来ない。

 そう思った時ミラが助け船を出してくれた。パンと手を叩いてミラに注目が集まる。

「分かるわ~あたしもそうだもの。でもさぁノアとザックだって水着を着たらもっと男前になるかも。そうしたら、もしかしてナツミもマリンも惚れ直すんじゃないかなぁ」
 チラリとミラがノアとザックに視線を送る。
 
 瞬間、ガタンと大きく椅子を倒してノアとザックが立ち上がる。

「ミラ。水着は俺の分も用意してくれ。採寸が必要なら今からでもいいぜ」
 長めの前髪を片手で払いながらノアがフッと微笑む。

 格好をつけても遅い様な気もする。

「俺も水着を着る。ぴったりでも平気だぜ。ナツミが惚れ直すなら何でもする」
 ザックまでも前のめりだ。

 あんなに股間股間と言っていたのにね。

 こうしてノアとザックをはじめとする男性陣は水着を着る事に抵抗がなくなったのだった。

 水着を素直に着たノアとザックの二人は意外な程動きやすくてそして何より泳ぎやすい事に驚き、再び私達が肉体美を褒めちぎった事で気分をよくして着る様になった。

 シンは元々水着の事は認めていたし、更にネロさんに手伝ってもらって素材のブラッシュアップを検討している様だ。もしかすると軍で採用される可能性があるかも知れないと言っていた。

 そしてニコは、ビキニタイプの水着を免れたので気をよくしてショートパンツタイプのものを水着として着る様になった。

 残念だなぁ。ビキニでも素敵だと思うけれども。男性の水着に特段変な思いを抱いていない私はそう感じたけれども、ザックがまた大騒ぎしそうなので黙っている事にした。

***

 そんなザックやノアの姿を遠くから伺いながら、砂浜の露店から遠く離れた場所で、女性二人の声が聞こえた。
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