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118 裏町へ その6

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 ザックが辺りに集まった人々をもり立てたせいで、広場には人だかりが出来ていた。それを、ザームが問題ないから散る様に伝えると、何事もなかった様に皆が日常生活に戻っていった。

 ザックをはじめ私達はザームが座っていたデッキチェアーを囲む様に集まった。大きなパラソルが影を作ってくれるおかげで直射日光を避ける事が出来た。
 
「む。そうか、跡をつけられていたのか。通りでおかしいと思った。ザックはいつも以上に人の話を聞かないし、ノアはいきなり肩をねじ上げるし」
 ザームがデッキチェアーに座り押さえられた肩をぐるりと回した。まだ少し傷むのか腕を後ろに回した時引っかかりを気にしているようだった。筋がおかしくなったのだろうか。

「悪かったな。店を出た時からずっとだぞ。尾行を撒こうと思って複雑な道を歩いたのに全く駄目でさ」
 ザックが自分の首の後ろを押さえて溜め息をついた。

「お店からずっとつけられていたの? 全然知らなかった……それで複雑に曲がっていたんだね」
 もっとシンプルに路地を曲がって目的地に進めばいいのにと感じたけれども。そんな理由があったとは。

「通りで複雑に曲がると思っていたわ」
 マリンも私と同じ意見なのか、隣にいたノアを見上げていた。ノアも頷いていた。

 ザックは私の顔を見て微笑むと頭を撫でた。

「つけられている事を教えなくて悪かったな。ナツミとマリンが『何処なの?』と言いだしてキョロキョロするとまずいと思ってな」
 くっ。ザックの言う通りなので言い返せない。私が口をへの字に曲げると、ザックが笑って片方の手でほっぺたを引っ張った。

「こーら、むくれるなよ。ナツミ可愛い顔が台無しだ。じゃぁ改めて紹介するぜ」
 ザックはザームの方に手をさしのべ、私の背中を押す。ザームと視線が合った。

 近くで見るとよく分かるが、背格好はザックと同じぐらいでとてもガッチリしていた。坊主頭は剃っているものではなかった。頭髪がないのだ。眉毛も薄くほとんどない。そして三白眼。無表情でも怖い顔つきだった。

「強面だがいいヤツなんだ。名前はザーム。やたらオイルでテカっているし、頭に毛はないが俺と同じ歳だ。俺とノアは小さい頃からの仲間で、ザームはこの裏町の親を亡くした子供や身寄りのない女の世話をしているんだ。この奥の建物内にある湯屋を経営している。で、ザーム。彼女の名前はナツミ。異国から来た女性だ。そして噂で知っていると思うが俺の恋人だ」
 ザックは私にザームを。ザームに私を紹介してくれた。

 そうだ挨拶しなくては。私はお辞儀をする。
「はじめまして。ナツミです『ジルの店』でウエイトレスをしています」
 あれ? お辞儀より握手がよかったのかな? 私は頭を下げたまま固まってしまった。

「む。よい、顔を上げよ。噂はソルはもちろんトニからも聞いている。更に町の男女皆が噂しているが、恐ろしい女と聞いていたのに、何と! まだあどけない少女ではないか。ザック……とうとう子供にまで手を出したのか。実に見事な黒髪で黒い瞳とは。宝石の様に美しい」
「は、はい。ありがとうございます」
 ザームが頭を下げた私を見て片手で制した。

 うう「顔を上げよ」って。そんなに深いお辞儀ではなかったんだけれどな。それに、ソルは分かるけれども、トニも裏町出身だから私の話をしているのかな。恐ろしい女って……皆どんな噂話をしているの?

 そこでザックが私の両肩を抱いて体を起こす。
「ナツミ、頭を下げる事ないぜ。ザームなんだし。ザームもいい加減止めろよな。その王様ごっこみたいなのは。それにナツミは子供じゃないシンと同じ歳なんだぜ」
 ザックが私の背中をさすりながら口を尖らせた。

「エッ?! シンと同じ歳って嘘でしょ。信じられない。私より若いのは分かっていたけれども……十四、五かと思っていたわ」
「そ、そんな子供じゃないよ」
 十四歳では中学生ではないか。
 
 エッバがザックの言葉に目を丸め、私の隣で頭から爪先までを言ったり来たりしていた。最後胸元を見つめて首をかしげていた。

「だって年齢にしてはささやかすぎるし。もしかして、小さい頃食事とか十分に取れなかったの? 東の国って大変なのね」
「いや、そういうわけでは……」
 どうせ私の胸はささやかですよ。私は苦笑いをするしなかなった。

「む。シンと同じとは驚きだな。東の国出身は若く見えるのだな。しかしザックの恋人など苦労するだろうに。ナツミ何か困った事があればいつでも俺に言ってくるといい」
「ねぇから! そんな事は」
 ザームは王様ごっこが抜けないのか口調がやたらゆっくりだ。そんなザームの前で喚いたのはザックだった。

「む。しかし……相変わらずノアは容赦ないな。肩が外れるかと思ったぞ」 
「悪かったよ。オイルを塗っていなければ手加減が出来たんだがな」
 ノアが座ったザームの前に立ちながら、手を拭っていた。まだオイルでべたついているみたいだ。

 ノアを椅子に座ったまま見上げたザームは頬を染めた。日焼けした頬なので分かりにくいが、瞳がこれでもかと開き鼻息を荒くして話しはじめる。

「む。全く俺ほど鍛えていなければノアの押さえ込み、ねじ上げには耐えられなかっただろう。しかし……ねじ上げられる心地よさ。ああ、何度経験してもよいものだ。痛覚と快楽は常に背中合わせだな」
 右手を上に左手を胸に当てポーズを取るザーム。

 気持ち良いって。エッバの言う通り痛めつけられて喜ぶというのは本当らしい。

「相変わらずだなザームは。変わらなくて安心するぜ。だが、何だよそのポーズは。いちいち芝居がかっているのな」
 ザームの挙げた右手を叩き落としながらザックが笑った。

「む。ノアに与えられた痛みつまり快感を表現したのだが」
 ザームは口をへの字にして首をかしげた。「何かおかしなところがあるか?」とまで付け足した時にはザック、ノア、エッバが大きな溜め息をついて頭を抱えていた。

「快感って……本当にそれは理解が出来ない。まぁいい。ザームが上手く芝居に乗ってくれて助かったしな。だがザームと話をはじめると話が逸れて仕方ねぇ。とにかく芝居をさせた件について説明をするぜ」
「!」
 ザックの一言に皆が集中して耳を傾けた。
「協力を頼みたいんだ。捕まえて軍人に突き出したい暴力的な奴隷商人がいるんだが──」
 ザックが低い声でパラソルにいる人間にだけ聞こえる声で、静かに話しはじめた。



 ザックは内容を選び話す事にした。一部だけでも秘密を話すとそれだけ危険が及ぶだろう。しかし、このままでは確実に裏町の人々も奴隷商人の手に染まる可能性が高い。例の魔薬の話だ。媚薬と勘違いして使用したらとんでもない事になってしまう。

 ザックはノアに視線で同意を求めた。ノアも強く頷いた。





「む。何とも酷いものだな魔薬とは。薬で人間が壊れてしまうのか。そんな恐ろしいものを裏町に持ち込まれては大問題だ」
 ザームは薬の話を聞いて唸った。エッバや他の女性二人も身震いをして、自分の体を抱きしめていた。
「そうだ。ウツの店で取り扱う様な媚薬とは全く違う。同じ感覚で使用したら取り返しがつかない。こんなものを裏町に持ち込んだら『ファルの町』の人間は駄目になって、南の国の様に滅んでしまうかもしれない」
 ノアも強く頷いた。

「む。滅ぶとはそんな事はさせない。では、ザックとノアの作戦通り、派手な奴隷商人が俺達裏町に接触してきたら、話に乗った振りをすればよいのだな? ザックとノアに怨みがある振りをして。そして直ぐに報告をすると。うむ、理解した。エッバ達も理解をしたな? ならば裏町の俺の配下にいる子供達や女達に説明して、口外しない様に通達をしてくれ」
 デッキチェアーに姿勢を正して座るザームは両腕を組みながらパラソルの陰に入っていたエッバと羽扇子を持って扇いでいた女性二人に目配せをした。

「うん。分かったわ。私達もナツミ達と話をしたり付き合いがあっても、毛嫌いをして掌を返した様に見せればいいのよね? そして奴隷商人達の話にのった振りをする」
 エッバはそう言いながら、羽扇子を持つ女性二人に視線を移す。同じ様に女性も頷く。

「そうだ。この奴隷商人は主に俺──と、ノアに怨みがある。十年前にこいつらとゴタゴタがあってな。今でも俺達をよく思っていない陰湿なヤツらなんだ。だから俺達が嫌がるやり方を取るだろう。狙われているのは、ナツミとマリンそして裏町の人間だ。だが、それを逆手に取る。そして捕まえる」
 ザックは両手を腰に手を当て説明をする。パラソルの影の中、濃いグリーンの瞳を細めて口元を歪ませて笑う。それではザックが悪人の様な顔だ。

 本当は奴隷商人の頭であるダンクは、ザックに対して怨みがある。だが、ザックは言葉を切ってノアの名前を追加していた。そうしておかないと、ザックの恋人である私が狙われるのは分かるが、マリンが狙われている理由を明かす事が必要になってしまう。

「む。奴隷商人は裏町の地理について、エックハルトのおかげで詳しい様子だし。裏町の誰かをそそのかしたり、仲間に引き入れた話は聞かない。おそらくザック達の商売──オベントウ売りの動きによって俺達に接触してくるだろうな」
 ザームが黒くツルリと輝く頭を撫でながら考え込んだ。その様子を見たザックが強く頷き、しゃがみ込み片膝をついてデッキチェアーに座るザームの視線に合わせる。

「俺がもし奴隷商人なら、オベントウ売りがそこそこ軌道に乗った頃を狙う。何故ならば、緊張が少し緩んでいるからだ。その瞬間にナツミとマリンを目の前で堂々と攫う。古巣の裏町の仲間、ザーム達ですら俺を裏切ったとなれば──俺を精神的に痛めつける事が出来るだろ」
 静かに低い声で話すザックの言葉に私も唾を飲み込む。

 ザックを痛めつける──
 自分が痛めつけられるよりも周りを傷つける事で痛めつける。何と酷いやり方なのだろう。

 ザームが数秒ジッとザックを見つめて隣に立つノアに視線を移した。
「お前達はいつも死に急ぐ様なところがあると心配していたのだがな。大切なものは何もない、何も持たないと決めていて。ザックとノアに本当に大切なものが出来てよかった」
 ザームがボソボソと呟いていた。その声は私には聞こえなかったがザックとノアには聞こえた様で二人共目を丸めて吹き出していた。

「ははっ。裏町にいた頃は特にな。それに最近まではな……楽しければそれでよかったんだ」
 ザックはそう言って軽く笑うと立ち上がった。
「そうだな。ザームのくせによく俺達の事を観察していたものだな」
 ノアも軽く笑った。

 その様子に私とマリンは首をかしげたが直ぐにザームが大声を上げて立ち上がった。

「む。ザームのくせにとは聞き捨てならんな。まぁいい。とにかく理解した。ザック、ノア、俺達も協力するさ。何かあればソルを使って直ぐに連絡する」
 そう言ってザームはザックとノアの肩を叩いた。それを見たエッバ達も強く頷いた。
 
 私も十分に気をつけて自分の身を守らないと。作戦に乗ってくれている裏町の人や、ザック達が怪我をしてしまう事態にならない様にしなくては。私は両手をギュッと自分の胸の辺りで握り絞めた。

「よし。それじゃぁ海の方へ移動しようか。ナツミ待望のな?」
 ザックがウインクをして私の頭をポンとたたいた。

 私はザックの顔を見て満面の笑みで頷いた。
 やったぁ! 海に行ける。
 
「さて、海に行って、昼ぐらいには店に戻らないといけないしな」
 ザックが私の頭から手を離して、シャツのボタンを一つ外した。暑くなってきたのでパタパタと扇ぐ。
「そうだな。じゃぁ、ザーム頼んだぜ」
 ノアもそう言って、ザームと視線を合わせた時だった。

 ザームがポンと手を叩いた。

「む。そういえばノア、一番上の兄。アルは大丈夫なのか?」
 突然出てきたお兄さんの名前にノアだけではなく、ザック、マリン、私はザームを振り返る。
「む。何だ、その俺を射貫く視線は。何か変な事を言ったか? ああ、そうかノアは兄を嫌っていたのだったな」
 四人からの視線を受けてザームは首をかしげた。

 いけないいけない突然、問題を起こした張本人、アルさんの名前を聞いたから思わず反応してしまった。

 問題を起こしているノアのお兄さん、アルさんはまだ行方知れずだ。マリンを殺そうとした事で『オーガの店』が営業停止になったと同時に、アルさん自身も休暇中となっている。

 そういえば、アルさんの名前と素行は聞いているけれども、どんな顔立ちなのだろう?

 ノアは妾の子供──と言っていたので、アルさんとは異母兄弟だ。と、なると顔立ちは似ていないのかな。ならば、アルさんはネロさんと似ているのかな。後でザックとノアに聞いてみよう。

 ノアがザームの発言に慌てて取り繕い笑いながら手を振った。
「ま、まぁそうだな。仲は相変わらず悪いしな。アルは休暇中だからどうしているかまでは……ん? 『大丈夫』とはどういう事だ?」
 ノアが小さく首をかしげてザームを見つめる。

「む。もう数か月も前の話だが、裏町の路地でアルを見かけてな。朝方だったから酒を飲んで朝帰りでもしていたのだろう。その時、何度も大きく咳いていて苦しそうだったのでな。声をかける前にアルは立ち去ったが、彼が咳いていた裏路地に大きく吐血した痕があったからな、何処か体が悪いのかと」
 ザームが指でこめかみを押さえ思い出しながら話す。吐血といった言葉に私達は大きく驚いてしまった。

「吐血だって?」
 ノアが驚き目を見開いた。あまりのノアの驚きように、ザームは急にしどろもどろになった。
「む。た、多分だぞ! ま、まぁ俺も……もしかして飲みすぎで吐いたのかと思ったのだが、多分あれは吐瀉物ではなく、吐血だったと思う。うん。多分だ」
 
「どうしてそんなに自信がないんだよ」
 ザックが尋ねると、ザームが急に立ち上がって身振り手振りで大きく話し出した。

「むぅ。じ、実はなその後、突然雨が降り出してだな。あっという間に地面を洗い流してしまったのだ。しかも、朝方とはいえ辺りは真っ暗でな。しかも奥の路地で月明かりもなかったのでな。とにかく匂いが、血の香りである気がしたから、何処か体が悪いのかと──」
 ザームは堂々としていたが、皆に見つめらだんだん小さくしぼんでいった。

 そこでエッバが大きく声を張り上げた。エッバもアルさんの名前を聞いた途端、嫌そうに鼻に皺を寄せていたのだ。
「えー? 見間違いじゃないの? だってあのアルでしょぉ。あいつ感じが悪いから嫌い。それに、領主の息子のくせに裏町では飲んで暴れる事もあるし。女もまるでものみたいに扱うしさぁ。典型的な嫌な感じのお貴族様よね。どうせ、酔っ払って暴れすぎて気持ち悪くなっただけなんじゃないの」
「む。そうか。やはり俺の勘違いか。ならいい。気にしないでくれ」
 エッバに言いくるめられて恥ずかしそうに座り直すザームだった。

 ノアはザームを見つめながら口元を押さえて少し考え込んでいた。
「ノア?」
 マリンが心配して声をかけるとハッとして、改めてザームとエッバを見つめる。それからいつもの様に王子様スマイルでゆったりと笑う。

「アルは休暇中で何処にいるのかは分からないんだ。だが、また裏町で暴力を振るう様なら教えてくれ」
 優しいノアの声にエッバは溜め息をついて両手を上に上げた。

「そう言ってくれると助かるわ。ノアの前で言うのもどうかと思うけれども、アルって暴れると怖いからさぁ」
「はは……兄だけど俺も困っているんだ」
「そうよね、家族が乱暴だと困りものよね。そうそう、私の知り合いの兄弟も──」
 ノアの困り顔にエッバが思い出した様に知人の話をしはじめた。その話にマリンも参加をしていた。

 ザックだけは、何かを思い出しように口元に手を当てて考え込んでいた。濃いグリーンの瞳が地面の一点を見つめていた。そして覆った手の内側で何か呟いている。
「それでネロが薬を。そうか、そういう事なのか」
 そう聞こえた。

「ザックどうしたの? ネロさんの薬って?」
 私が尋ねると、ザックは驚いて目を丸くしたが、私の顔を見ると小さく首を振って笑った。
「思い出した事があるんだが、まぁいい。後で店に戻ってから話すさ。あ、そうそう。思い出したと言えば、ノア何だよあの芝居は!」
 ザックが手を叩いて横にいたノアの肩を掴んだ。

「あの芝居って──ふふん、なかなかいい芝居だったろ?」
 エッバの話が終わったところなのか、ノアが胸の前で両腕を組み隣のザックに胸を張った。しかしその様子にザックが愕然とした。

「あれが? 酷い芝居だったぞ。台詞の語尾伸びが酷くて危うく吹き出すところだったぜ」
「何だと?! 完璧だと思ったのに」
 心外だと組んだ両腕を外しながらノアは目を丸めた。

 あの棒読みが完璧なんて。私はザックの後ろに控えながら肩を上げて固まってしまった。

「む。確かに妙な語尾伸びだったな」
 ザームもザックの言葉に頷いた。ザームにも同様の指摘され、ノアは慌てて私達に振り返る。
「マリンにナツミ、そんな事ないよな? 俺としては傍若無人な軍人といった想像だったんだ。いい感じの演技だっただろう?」
 ノアのアイスブルーの瞳が同意を求めて揺れていた。

 突然振り向かれて私は驚いて一緒に振り向いたザックに助けを求めたが、ザックは舌を出すだけで助けてはくれなかった。ザックの意地悪。ノアの質問にどうやって答えればいいの。
 私はあやふやに笑う事しか出来なかった。マリンは何と答えるのだろう。恐る恐る隣のマリンを見ると、ニッコリ微笑んで口の前で両手を合わせた。

 ふんわりと笑うと短く切った髪の毛が揺れて、バラの香りが仄かにした。美しいお人形さんに似た笑顔にエッバも息を飲んでいた。

 その笑顔にノアも褒められた子供の様に嬉しそうに笑う。

 よかった……マリンはノアを上手く褒めてくれそうだ。声を弾ませてマリンは話しはじめた。

「うん。傍若無人な軍人だったのね。だとしたら台詞を覚えた新人役者みたいだったわ! ザームとザックは元々傍若無人だからなのかしら? それとも演技の素質があるのかしらね、自然だったけど。でもでも、ノアは頑張り屋さんだからきっと練習すれば演技も上手くなるわよ。うふふ~楽しみね。となると、私も一緒に演技の練習した方がいいかしら。ん? ノア、ノア? どうしたの?」

 言葉でとどめを刺した少しずれているマリンに、ノアは儚く散っていった。
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