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085 私の弱さ

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 ファルの町に来る前、嫌な夢を見た後は中々眠りにつけなくて、結果寝不足になる事が多かった。

 だけれど、ザックが背中を叩いて抱きしめて眠ってくれたお陰でその後おかしな夢は見ないで眠る事が出来た。

 まだ微睡んでいたいと思う。ゆっくりと重たい瞼を開くと、ザックは私の顔を覗き込みながら髪の毛をずっと撫でてくれていた。

「ザック……おはよう」
 私が寝ぼけながら名前を呼ぶと、ザックは微笑んでくれた。

 夢の中のザックはとても残酷なキスを私の目の前で披露したけれども、現実のザックはとても優しかった。

「おはようって言っても、時間は十時過ぎだがな」
「え?!」
 私は驚いて飛び起きた。

 どうしよう完全に遅刻だ! 起き上がった私の腕をザックが引き止める。

「大丈夫だ。ダンが昨日、今日は昼からでいいと言っていた。まだ、時間はあるからゆっくりしろよ」
 ザックが私をベッドに引き戻した。

 閉塞感のある時間泊の部屋は締め切っているが、今は窓は開け放たれていた。心地よい風が部屋の中に流れてくる。
 太陽の輝きが部屋の中に差し込んでいる。

「いい風……」
 ベッドに戻るとザックと私の温もりでまた眠りに落ちそうになる。
 
「怖い夢を見たと言ってナツミが飛び起きただろ? だからナツミが眠ってから窓を開けて空気を入れ換えたんだ。寝心地は良かったみたいだな」
 ザックが自分の上半身を起こし、ベッドの上に枕を重ねもたれかかった。
 それから、私の体を改めて抱き込んで体重を預けるように促した。

「ありがとうザック。ごめんね……」
 ザックの上半身裸の胸に頬をつけ私は甘えた。

 昨日の夢が切なくて胸が締めつけられる。

 体をすり寄せるとザックの心臓の音が聞こえてきて再び安心する。頬をつけたまま恐る恐る見上げるとザックは片方の眉を上げて笑ってくれた。
 それから、片方の手で私の頬を優しく撫でてくれる。
 
 黒いフードの女性の「ザックはマリンを抱いた事がある」という言葉がかなり私に重たい影を落とした。
 
 昨日のうちに話をザックにするべきだった。
 しかし、話すタイミングがなかったよね。結構忙しいんだな私。そういえば『ジルの店』の仕事も楽しくなってきてついつい時間を忘れてしまうのがいけなかったな。
 改めて私は溜め息をついた。
「そんな不安そうな顔をするな。もしかして、俺が連続で抱いたりしたから疲れたのか?」
「え?」
「昨日は外だったし。声を出せなくて辛いし、疲れたよな?」
 ザックはグリーンの瞳を細めて私のこめかみにキスをした。その瞬間倉庫裏での情事を思い出してしまい頬が赤くなる。
「そ、そのせいで疲れたっていうよりも、何だか毎日忙しくて飛ばしすぎたって言うか。毎日が楽しいから疲れている事に気がつかなかったみたい」
 私は慌ててザックにすがりつく。
 ザックは私の慌てように目を丸くして背中をさすってくれた。
「そうだなぁ、ナツミは大活躍だしな。オベントウとかおにぎりとか? それに俺の相手をするのも疲れるよなぁ。悪かったな」
 クスクス笑いながらこめかみに何度もキスを落として髪の毛を撫でてくれる。
 囁く声が響いてときめいてしまう。撫でられる掌も温かくて凄く気持ちがいい。
 されるがままだが、私は意を決してザックの少しお腹の下辺りにまたがる。
 それからザックの両肩に手を置いて視線を合わせる。
 ザックも姿勢を正しながら私の動きに合わせてくれる。
「どうした?」
「あの、その、えっと」
 どうしよう、何と切り出したらいいのだろう。

 私は黒いフードの女性が言っていた、マリンとの関係について尋ねようとして口を開くが言葉が続かない。

 どうしてなの。カイ大隊長やノアには直ぐに食ってかかったのに。どうして聞けないの?

 私は自分の事となると途端に臆病になり尋ねる事が出来なくなってしまった。
 黙り込んでしまった様子をザックが心配そうに覗き込んで私の両頬を包みこんで髪の毛をかき上げるように顔を上に向かせた。
「やっぱり俺の相手を毎晩するのが辛いか?」
 ザックが酷く誤解をしたので私は慌てて否定する。
「違うよ。ザックとのエッチが毎晩辛いって言うんじゃなくて。ザックとすると凄く気持ちがいいから、直ぐにグニャグニャになっちゃって。と、とにかく疲れてもエッチは嫌って事じゃないのっ。ザックとするのは凄く幸せで好きだからっ」
 私はザックとエッチをするのが疲れて嫌だと誤解されるのは堪らないので、慌てて早口で話してしまう。

 しかし、そう告げた後で驚くほど恥ずかしい事を口走った様で顔を赤くしてしまう。

 真正面にいるザックは口をポカンと開けていた。寝癖のついた金髪が所々撥ねていて何だか可愛い顔になっていた。
「俺とするのは凄く幸せで好きって」
 私の言葉をザックは反芻すると、ゆっくりと頬を染めてゴクンと唾を飲み込んだ。
 一番恥ずかしいと思った言葉を繰り返されて私は声を大きくした。
「そこだけ繰り返さないでっ。えーと、えーと」
 それから窓が開いている事に気がつき更に慌てる。
「どうしよう窓が開いていたんだった。この会話丸聞こえ」
「ブハッ」
 ザックはいつもの如く吹き出すと肩を揺らして笑って私を抱きしめる。
「わっ」
 私はバランスを崩してザックにしがみつく。ザックの体から香るベルガモットの香りに安心する。
「はぁ、もうナツミときたら。分かっているから安心しろ。俺もお前とエッチするのは幸せで心が満たされる。同じ気持ちで嬉しいさ。でも体の調子を崩さない程度にしないとな」
 そう言うと、もう少し寝ようぜと付け足して私をベッドに寝かしつけた。
「えー? もう目は覚めたよ」
「いーや。後三十分は眠れるぜ。ほら目を閉じろ」
 ザックが再び私を横抱きにして背中をポンポンとリズム良く叩いた。すると不思議と力が抜けて眠くなってきた。
 窓から潮の香りがする風がふわりと入ってきた。

 あ、いい風……心地いい。

「さぁ、目覚ましはセットした。もう少し寝ようぜ」
「うん。ありがとうザック。そばにいてね」
「当たり前だ」
 ザックが大きなあくびをした。

 駄目だ聞けない。だけれど聞きたい。
 ねぇ、ザック。マリンと関係があったのは本当なの?
 それならどうして──
 マリンの隣にいるのがザックではなくノアなの?

 そこまでは聞けなくても、前半は尋ねる事が出来るでしょ。
 だってザックを信じているなら、聞けるでしょ。

 なのに何で私は聞けないのだろう。またしゆうみたいに嘘をつかれてしまうのが怖いのか。
 私はそう考えながら、睡魔に勝てず二度寝をしてしまった。



「で、二度寝したから寝坊したの? それでゴミ捨てに来るの遅れたのね」
 トニが両腕を組んで路地の壁に背を預ける。今日は真っ白のホルターネックの膝まであるワンピースを着ていた。浅黒い肌にとても映えて素敵だった。
「今日は姿を見せないから来ないのかと思ったのに単なる寝坊か。と言う事は、ザックさんが無茶したんだろ?」
 ソルがモスグリーンのバンダナの下で輝く瞳を細めて笑った。今日はバンダナと同じ色の麻素材のシャツを着ている。チュニック風で袖が広がっている。風を大きく受けると気持ちが良さそうだ。草木染めの様な風合いだった。

 ソルの言葉にトニが人さし指を立てて振る。
「当たり前でしょ、ザックなんだから。毎晩ベッドでは求めるに決まっているでしょ」
 ソルが肩をすくめて両手を上に上げる。
「そうなんだろうけどさぁ、寝坊ってザックさんらしくないよな」
「確かにね。むしろザックはどんな時でも、さっさと帰っちゃうって感じだし。寂しいけど……その点は妬けるわね。つまり、ナツミにご執心なんでしょ」
「流石、詳しいなあんた」
じゃないわよ。いい加減あんたこそトニさんって呼びなさい。でも素敵ね。ザックがつい寝坊するぐらいナツミに溺れるなんて。微笑ましいわ」
 トニがウットリしながら、自分の体を抱きしめていた。
「俺だってじゃない。ソルっていう名前があるのに。何度言えば分かるんだ」
 ソルがトニの事を白い眼で見つめる。
 
 何だろうこのトニとソルの会話って。
 私はザックが求めるから寝坊したなんて言っていないのに。

 ザックが恋人であるがゆえなのか。と言うか、二人のザックの認識がどうにも。
 
「二度寝のお陰でよく眠れたけれども。仕事には三十分遅れちゃうし。ダンさんは許してくれたけど、何だか申し訳なくて」
 私は例の如くゴミを捨て細い路地の掃除に取りかかる。ゴミ捨て場の周辺は何故か細かいゴミが散乱している。猫や犬が悪戯するのかな。はたまた、ゴミ回収の人がばらまいてしまうのか。私は竹箒を手に掃除に取りかかる。

 今日もソルとトニが細い路地のゴミ捨て場に現れる私を待ち構えていた。(何故なの)
 二人は昨日のお昼から今の時間にかけての出来事を話していく。

「昨日『ジルの店』は大盛況だったみたいね。しかもカイ大隊長やレオ大隊長も来ていたんでしょ?」
「俺も聞いた。その時にカイ大隊長とジルさんが恋人同士だって公言したんだってな?」
「しかも、それにナツミが一枚噛んでいるらしいじゃない。流石ねぇ」
「オッホン、俺も聞いたぜ。何でも二人の関係について、さっさと公言しろと詰め寄ったんだってな」
 トニとソルが矢継ぎ早に言葉を繋げていく。
 まるで剛速球で二人共がキャッチボールをしている様だ。と言うか、私に投げつけるボールを奪い合うといったところだが。
 噂についてリサーチ済みの二人だ。昨日の話だと言うのに、ちょっとした情報通だ。

「私は公言しろとは言っていないよ。あれ? でも詰め寄ったのはあってるのかな。でも、詰め寄ったけどそういう意味では……」
 まさか勘違いで『不貞行為ダメ』を叫んだとは言えず私は口籠もる。そんなの恥の上塗りだし、失礼極まりない。
 その様子を単に私が遠慮して話せないと勘違いしたのか、トニとソルの二人はそれ見た事かと言い放つ。

「やっぱり! 泣く子も黙る冷徹カイ大隊長を前にしても一歩も引かないなんて凄いわねナツミって」
「本当だな。そんな事が言えるのは『ファルの宿屋通り』ではナツミぐらいだろうな」
 トニとソルが二人して盛り上がり、細い路地が無駄に活気づく。

 この二人って最初の印象と真逆の二人だなぁ。

 トニはクールな女性だと思っていたけれど、意外とお喋りな可愛い女性だし。
 ソルも貧民街の不良かと思えば、単に年頃の男の子で話をすると柔らかい雰囲気で面白い。噂話の根元だったりするので要注意だが。
 
 私は掃除が終わったので竹箒を片づけ、二人に向き直って笑ってしまった。
「あら? 何かおかしい事言ったかしら」
 トニが首を傾げる。フワフワのウェーブした髪が揺れていた。
「だって二人共会話が面白いなぁって。トニはお店でもそういう風にお喋りな感じなの?」
「えー? 違うわよ。私はこうやって男にしなだれかかって、悩みを頷いて聞くだけよ」
 トニはそう言うとソルにわざとしなだれかかって、豊満な胸を押しつけた。ホルターネックから覗く谷間が更にくっきりと影を作る。
 
「ハハッ。トニのお喋りを散々聞いた後だと、しなだれかかられても演技だって分かって興ざめだぜ」
 まだ二十歳前とは思えない余裕の態度でソルは笑った。これはかなり女性の扱いに慣れているのだろう。中々整った顔だから町の女の子達も放っておかないのだろう。経験も豊富そうだし。

 そう私が考えているとトニがパッとソルから離れて嫌そうな顔をした。

「生意気な事言うわね。だから最初から演技しないとさ。男って結局若い子や体目的になるじゃないのさ」
 トニはバシッとソルの背中を叩いた。
「痛ッ! しかも暴力的じゃぁな」
「うるさいわねっ。あんたこそ年上ばっかり相手してると、いざ同年代と恋愛しようとしたってうまくいかないわよ」
 フンと鼻息も荒く両腕を組んでトニはそっぽを向く。

「まぁ、まぁ。トニと話すの凄く楽しいし。今度お店に来たお客さんに話しかけてみたら? そんなしなだれかかって男性の話ばかり聞くなんて事しないでさ」
 私の提案にトニは目を丸くする。腕を組んだまま私の方に振り向くと顔をズイッと近づけた。
「えぇ?! 冗談でしょ。そんな事したら店に来る客に嫌がられるわよ」
「そうかなぁ? 意外と楽しく話が出来るかもよ。もちろん相手の話も聞きながらだけどさ。頷いてばかりじゃつまらない時もあると思うし。私はこう思うけど位だったら言ってもいいんじゃないの?」
「えぇ~」
 トニは眉をハの字にした。
「ハハッ。そうすりゃ今までのが全部演技ってバレて、笑われるかもな」
 ソルが茶々を入れる。
「うるっさいわね」
 二人が喧嘩になりそうなので私は慌てて割って入る。
「そんな事ないんじゃない? だってトニのイメージは格好いい色っぽい女性だけど、話すと可愛い面が沢山あって楽しいって思うよ?」
「えっ! 可愛いって……そんな。ナツミにそんな事言われるなんて」
 トニがパッと頬を染めて両手で頬を覆った。このギャップが可愛いと思うのだけれどなぁ。
「止めとけよナツミ。調子に乗るぜ、トニの野郎」
 ソルにはこのギャップが理解できない様だ。若者だからかな。
「ソル! 野郎じゃないっての! でも、相手の話を聞きながらねぇ。ふむ」
 トニは両頬に手を置いたまま考え込んで、パッと笑った。
「よし! やってみようっと。最近めぼしい男もいないしね。少々実験してもいい頃合いかも」
「何だよ……そりゃ。目当ての男の前じゃ結局演技するのかよ」
 ソルが口を尖らせていた。

「ふふふ」
 そんな二人のやり取りに微笑んだ時、裏口が開いてマリンが顔を出した。

「ナツミそろそろ、あ……」
 顔を出したマリンがソルとトニの姿を見つめたら、驚いてドアを半分閉じた。

「ワオ。マリンさんじゃん。相変わらず綺麗だなぁ」
 直ぐに思った事を口にするのはソルだった。直ぐに顔を緩めている。本当に正直だ。
 そんなソルに対してマリンは薄く笑う。
 愛想笑いかもしれないが美しい人はどんな表情でも絵になる。

「……」
 その様子を無言で見つめるのはトニだった。表情が豊かだったのに突然無表情になる。
 マリンはトニと視線を合わせたら、薄く笑うのを止めサッと視線を逸らした。

「あの。ナツミ、みんな待ってるから早くね」
 マリンは早口でそう言うと私が返事をする前にドアを閉めて去っていった。

 どうしたのだろう? マリン……

「ナツミ。マリンは同じ時期に『ファルの宿屋通り』で働き出したし、店は違うけど名うての踊り子って事で尊敬しているけどさ。好きになれないのよね、悪いけど」
「え?」
 不意に話しはじめたトニに驚いて私は振り向いた。
「だってさぁ、昔はよく人の男を取ったりした事があったのよ。マリン本人は誤解だって言うけどね。昔は結構『ジルの店』に突撃する他店の踊り子が多かったのよ」
「!」
 腕を組んで首を傾げて眉を寄せるトニに私は目を丸めてしまう。
「ふーん。ナツミに突撃したトニみたいに?」
 そこでソルが笑って茶化した。
「うるっさいわね。まぁ、そうよ。私みたいに突撃するのがマリンに関しては結構多かったのよね。そうねぇそうやって他店の踊り子が文句を言うのは『ファルの宿屋通り』でも一番だったんじゃない? 澄ました顔して男を手玉に取るのが上手いったら」
「そんな……」
 事はないよ、と続けようとしたが瞬間、黒いフードの女性の言葉が頭を掠める。

 ザックハ マリント ネタコトガ アルノヨ

 私は言葉を続ける事が出来なかった。

 トニがそんな私の肩に手を置いて話を続ける。
「それなのにマリンって最高の男、ノアの恋人におさまったでしょ? 他の男達を手玉に取っていながらよ。それにノアと一緒にいれば仲がいいザックも隣に侍らせる事になるでしょ」
 その瞬間、昨日の酒場のシーンが蘇る。ノアとザックに挟まれたマリンは美しくて際立っていた。私も羨ましくて仕方なかったので、トニが言う事もよく理解できる。

 だけど──マリンは本当に優しくて、可愛い女性なんだよ。泳ぎを覚えたいとか言い出したり、あの美しい踊りも筋肉を見れば分かる。きっと凄く努力したから彼女は踊れる様になったんだよ。

 だけれど私の喉は張り付いたようにカラカラで二の句が継げない。

「ノアにマリンにザックっていう三人組と言うか。マリンが常に真ん中で両手に美男子よ。腹が立つでしょ」
「トニ……」
 どんどん話し続けるトニの言葉をようやく遮る事が出来た。
 私の困った顔を見たトニはバツが悪そうに肩をすくめた。
「まぁね。妬みよ妬み。分かっているのよ。悪かったわね」
 トニは勢いよく言ったが最後は謝ってくれた。素直に認めてしまうのがトニの良いところだ。

「結構長く話していたな。じゃぁ、ナツミ、トニまた明日な」
「そうね、私もいくわ。また明日ね」
 ソルとトニはそう言って手を振って去っていった。

「うん。またね」
 また来るのか……
 楽しいから良いけれどもね。と、思いながら私は苦笑いで二人に手を振った。

 私もマリンに嫉妬している。
 容姿や振る舞い、私がなれない素敵な憧れる女性像をもっているマリン。
 そしてザックの事も──

 ああ、まるでお姉ちゃんはるの様だな。
 だけれどマリンはお姉ちゃんとは違う。それにザックもしゆうとは違う。

 私にとってマリンは『ファルの町』で出来た大切な友達だ。
 意外とおっちょこちょいで天然なマリン。
 大好きなのに。どうしてトニに「違うよ」って言えなかったの……

 ごめんねマリン。私の心が弱くて。私はマリンに心の中で謝った。

 そして私は両手で頬をパンパンと叩いて顔を上げた。

「よしっ! 頑張れ私!」
 私を認めてあげるも慰めるのも私しかいないのだ。だからもっと強くならなきゃ。

 突き進むって決めたのだから。

 改めて私は心に誓い『ジルの店』に続くドアを開けた。
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