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057 秘密の魔法石
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今更ながらザックのモテモテっぷりと、彼のしてきた行動を何故か私自身が痛感していた。
リンさんの『ネロさんが来る様にお願いして』の発言から、女性は更に追加で3人訪れた。合計で私は6人の女性と対面した。たった1日でこれなのだから明日からどうなるのだろう。
『ジルの店』のドアを叩くぐらいだから『ファルの宿屋通り』で働く女性達ばかりだった。皆の特徴はスラッとしていて流し目で男達を籠絡出来る雰囲気を持った色っぽいお姉さんだった。更に羨ましい事に出るところは出て引っ込むところは引っ込むというナイスバディばかりだ。
中にはザックがベッドでどんな態度だったかペラペラ話し出す女性までいてどうしようかと思った。しかし、私の知っているザックとはかけ離れていて目を丸くしてしまう。
「ザックは1回が長くて中々離してくれないの。それに、何度も気持ちよくしてくれて強くて素敵。耳元で艶っぽく囁く言葉も強引だけど、それがいいのよ。キスは最後に1度だけ。最後なのに腰が砕けそうなぐらい上手いのよ。子供みたいなあんたが、本当に知ってる?」
私はザックの最高の行為を味わっているけれど、あんたみたいな子供が分かるかしら?
そう言っているのだろう。完全に馬鹿にした言葉だった。
相手が変わればそんなのは違うのは分かっているけれど、突然聞かされたベッドの話は流石に面白くなかった。
「へー。そうですかぁ」
完全に棒読み、無表情で答えた私に、女はやはりムッとして去って行った。
ひとまず上手くかわせたと考えるけれども……
もうっ! 何がご不満なのよっ。そもそもどんな顔して対峙すればいいのよ。
『へぇ~そうですかぁ。アハハ』
うーん。違うなぁ。笑っても相手の態度にエスカレートしそうだ。
こんな時どういう風にかわせばいいの。
フンッだ。私だってザックがベッドでどんな風なのか知っているけれどさっ!
『ザックは必ず1回目は3分持たないし。中々離してくれないのと気持ちいいのはよく分かりますけど、キスは最初から最後まで口が腫れると思うぐらい頂けますけど。最後は甘えたみたいにずっと抱きしめられて幸せですよね~』
とか、言えば良かったとでも?
そう思うが、リンさんの言葉がちらつく。
『同じ目線で喧嘩をしないっていうのは──賢いわね。ナツミ』
そうだ。同じところに落ちてしまってはいけない──
落ち着いて対応しているつもりでも少しずつ、イライラと淀みが募っていく事は確かだ。
私はこの気持ちを何と呼ぶか知っている。
嫉妬だ。
私は嫉妬しているのだ。
「ナツミ……大丈夫?」
酒場の床掃除が終わり、中庭で大量のシーツを取り込んでいた私の後ろで心配そうに声をかけてくれたのはマリンだった。
先程まで一緒にいたミラは、別の仕事を任され厨房で野菜を洗っているはずだ。
「大丈夫って?」
「ぼんやりしているみたいだから。さっきも、その、色んな女性達が来ていたし」
マリンが後ろで取り込んだシーツを籠に入れながら私の方をジッと見つめていた。
「うん、まぁ、その、えっと」
私はそれ以上言葉が紡げないでいた。
張り付いた様な笑みをマリンに向けながら固まってしまう。
彼女たちの言葉を上手くかわしたつもりでも、少しずつ私にダメージを与えてくる。
最終的には6人共どれも威力がある言葉だったのだ。
そして、それは黒々としていてドロリとした感情が私の中で巣くっていく。
しかし、それを言葉にしてしまうのは情けない自分をさらけ出す様で嫌だ。
「嫌よね。恋人と関係のあった女性の話を聞かされても」
「!」
マリンがストレートに言及してくるので私は張り付いた顔から解放される。
「過去の事を言われても仕方がないのに。気になるのよね、気がおかしくなるぐらい」
マリンが籠に入れたシーツの上に自分の手を置いた。
頑張って酒場の床掃除をしたので、ポニーテールに結っている髪が少し崩れていた。首に辺りに垂れた後れ毛が風に揺れている。
「マリン……」
もしかしたらマリンも同じ様な思いをした事があるのかもしれない。
だって、相手はザックと肩を並べる、いや、それ以上かもしれない王子様のノアなのだ。
「いっそのこと、関係のあった女性達は皆黙っていてくれればいいのに。知らないままだったら何も考えずにいられるのにね……」
「そうだね」
それをわざわざ告げに来る女性達。
相手が悔しがるのを見て何になると言うのだろう。
私だって知らなければ、この感情が生まれる事もない。知ってしまったらもう止められない。しかし、この気持ちにも何処かで結着をつけなければならない。
そういう私自身、『嘘をつかないで』──そうザックにお願いしているのだから、彼の全てを知っていくとどうなるのだろう。
私はどれだけザックに思いを募らせて、嫉妬しなければいけないのか。
「困った2人だよね。ノアもザックもさ」
私は肩をすくめてマリンに苦笑いをする。この気持ちに結着がつくのは当分先だろう。
「ふふ。でも、ザックはナツミの側にいる。ほら、ここに」
マリンは笑いながら、私の側に来てシャツの間から覗くネックレスを指差した。
昨日から私の首に突然に増えたこのネックレスについて、朝一番に飛びついてきたのはミラだった。
「ザックに貰ったのね。きゃー素敵。あたしもシンから貰ったのよ!」
ペアのブレスレットなの! と金色のブレスレットを見せて、嬉しそうにはしゃいでいた。
マリンもノアから何とシルバーリングを貰っていた。シルバーの細い華奢な指輪だが、ペアリングになっているそうだ。
ミラと2人できゃぁ、きゃぁ言いながらリングを見つめ素敵を連呼したのが今朝の事だ。
その時マリンとミラが私のネックレスを、うっとり見つめていた事を思い出した。
「これでザックのいつもつけている香水を贈ってきたら、ナツミを閉じ込めておきたくて仕方ないのね~いや、束縛かしら?」
等と呟かれてしまった。
それを言うならブレスレットも指輪もそうなのではないか──そう思ったが何を言っても冷やかされそうで困った。
しかし、ペアになっていないのが私だけなので、ザックに近々お返しをする必要があるかもと考えていた。
「確かザックが軍学校に入る前につけていたピアスと同じ色ね。もしかして同じ宝石なのかしら?」
「よく知ってるね」
「色が独特だから覚えていたの。何て言う宝石なの?」
マリンがニッコリ笑って首を傾げた。
確かに、涙の形にカッティングされた石は深いグリーンに輝いている。ザックの瞳と同じ色なのだが。角度を変えると明るいグリーンに見えたり、濃すぎてブルーグリーンにも見える。まるで透明度の高いファルの海の様だ。角度によって表情を変える。
「やっぱり珍しいんだね。これ、魔法石なんだよ。ザックが一滴血を垂らしたら瞳の色になって……」
「え!」
マリンは魔法石と聞いて驚いて飛び上がり1歩引いた。
それから何故か自分の口を押さえ、キョロキョロ辺りを見回し誰もいない事を確認すると、ほっと小さな溜め息をついて私の顔の前に自分の顔を近づける。
マリンの綺麗な白い頬が目の前にある。銀色の睫毛、宝石の様な青い瞳。急に顔を近づけられたので私は少し驚いて仰け反る。
「ど、どうしたの」
「ま、魔法石って。ナツミそれってザックに求婚された事と同じよ!」
マリンは力強くでも囁く声で私の目の前で呟いた。
「えっ──ムグ」
私はそれ以上声を発する事が出来なかった。目を最大級に大きくしてマリンの顔を覗き込んだ。まるで女2人がキスでもしそうな距離でコソコソ話をする。
「大きな声を出さないから手を離すけど、いい?」
私はマリンの言葉に何度も頷いた。
「プハァ。だ、だって、願掛けみたいなものだからって」
私はマリンの二の腕を掴んでボソボソ強い声で聞いた事を話す。
確かにザックはこのネックレスをくれる時異常に緊張していた様だったけれども。
『えっと、その。このネックレスはその証しなんだが。その、よく考えたら重いよなぁ』
そう言いながらもザックの手は震えていた。
えええ~あれってそういう意味だったの?!
そこまで突き抜けたプレゼントだとは思っていなかった。
「待って、でも。ほら、だって、生まれた時にお母さんから貰った魔法石だって言っていたから、それなら、ほら求婚って意味ではなく──」
それに対してもマリンは私のおでこに自分のおでこをつけて呟いた。
「魔法石は家族で贈り合う事はあるわよ。だって、魔法石は自分の命を分け与えて輝くのよ? 凄く愛情が込められているものよ。ファルの町では求婚の意味でね。石はどんなアクセサリーにつけてもいいんだけど」
「そ、そうなんだ……」
命を分け与えて輝く──ザックの血を一滴垂らしたら宝石に変わった。私は落ち着きを取り戻しながら、ふとザックが切った指の事を思い出した。
私は咳払いをして更にマリンと顔をつきあわせてボソボソ喋る。
「ね、ねぇ。その魔法石に命を分け与えるのって血?」
「そうね。血の場合が多いわね」
「その血を出す為に左の薬指を少し切ってみるって言う事に意味は──」
「それは『永遠の愛を誓うって』意味になるわね」
「あ」
愛?!
私は驚いて、叫びそうな自分の口を自分で塞ぐ。驚いてしまったが、私は凄く嬉しくて口の端が震える。嬉しいけれど、まだ出会って間もない私に。ザック本当に? どうなっているの?
驚きながら笑うってどういう顔なのだろう。
自分の表情の引き出しにまたおかしな顔が追加される。
「ど、どうしよう。凄く素敵ね!」
小声で興奮した声を上げるのはマリンで私の手を掴んでピョンピョンその場で跳ねる。
「ま、待ってでもザックにちゃんと確認するからその、えっと」
ザックって本当に何事もさりげなくスマートにこなしてしまう。
この贈り物に本当にマリンが言う様な意味が込められているのなら私は──
──
『俺と同じ瞳の色になるんだ。だから、ナツミが同じ様に石に血を垂らすときっと黒い宝石になるだろうな』
『えぇ~黒い石かぁ。何だか呪いの石みたい』
『呪いって。そんな事ないだろ。きっとナツミの瞳と同じぐらい神秘的で美しいはずさ』
──
等と、何も知らなかったとは言え酷い言葉を返していた事になる。どうしよう……随分と間抜けすぎる。
「分かってるわ。魔法石の事は秘密にしておくから」
マリンはそう囁いて、私と一緒に手を繋いだままその場でピョンピョン跳びはねる。
私も一緒になって跳びはねて、無言で笑っていた。
中庭で干されたシーツを取り込みもせず、顔をつきあわせた私とマリンが手を繋いで無言で笑いながら跳びはねる姿に、店の皆が何か呪いをかけているのではないかと囁いていた。
リンさんの『ネロさんが来る様にお願いして』の発言から、女性は更に追加で3人訪れた。合計で私は6人の女性と対面した。たった1日でこれなのだから明日からどうなるのだろう。
『ジルの店』のドアを叩くぐらいだから『ファルの宿屋通り』で働く女性達ばかりだった。皆の特徴はスラッとしていて流し目で男達を籠絡出来る雰囲気を持った色っぽいお姉さんだった。更に羨ましい事に出るところは出て引っ込むところは引っ込むというナイスバディばかりだ。
中にはザックがベッドでどんな態度だったかペラペラ話し出す女性までいてどうしようかと思った。しかし、私の知っているザックとはかけ離れていて目を丸くしてしまう。
「ザックは1回が長くて中々離してくれないの。それに、何度も気持ちよくしてくれて強くて素敵。耳元で艶っぽく囁く言葉も強引だけど、それがいいのよ。キスは最後に1度だけ。最後なのに腰が砕けそうなぐらい上手いのよ。子供みたいなあんたが、本当に知ってる?」
私はザックの最高の行為を味わっているけれど、あんたみたいな子供が分かるかしら?
そう言っているのだろう。完全に馬鹿にした言葉だった。
相手が変わればそんなのは違うのは分かっているけれど、突然聞かされたベッドの話は流石に面白くなかった。
「へー。そうですかぁ」
完全に棒読み、無表情で答えた私に、女はやはりムッとして去って行った。
ひとまず上手くかわせたと考えるけれども……
もうっ! 何がご不満なのよっ。そもそもどんな顔して対峙すればいいのよ。
『へぇ~そうですかぁ。アハハ』
うーん。違うなぁ。笑っても相手の態度にエスカレートしそうだ。
こんな時どういう風にかわせばいいの。
フンッだ。私だってザックがベッドでどんな風なのか知っているけれどさっ!
『ザックは必ず1回目は3分持たないし。中々離してくれないのと気持ちいいのはよく分かりますけど、キスは最初から最後まで口が腫れると思うぐらい頂けますけど。最後は甘えたみたいにずっと抱きしめられて幸せですよね~』
とか、言えば良かったとでも?
そう思うが、リンさんの言葉がちらつく。
『同じ目線で喧嘩をしないっていうのは──賢いわね。ナツミ』
そうだ。同じところに落ちてしまってはいけない──
落ち着いて対応しているつもりでも少しずつ、イライラと淀みが募っていく事は確かだ。
私はこの気持ちを何と呼ぶか知っている。
嫉妬だ。
私は嫉妬しているのだ。
「ナツミ……大丈夫?」
酒場の床掃除が終わり、中庭で大量のシーツを取り込んでいた私の後ろで心配そうに声をかけてくれたのはマリンだった。
先程まで一緒にいたミラは、別の仕事を任され厨房で野菜を洗っているはずだ。
「大丈夫って?」
「ぼんやりしているみたいだから。さっきも、その、色んな女性達が来ていたし」
マリンが後ろで取り込んだシーツを籠に入れながら私の方をジッと見つめていた。
「うん、まぁ、その、えっと」
私はそれ以上言葉が紡げないでいた。
張り付いた様な笑みをマリンに向けながら固まってしまう。
彼女たちの言葉を上手くかわしたつもりでも、少しずつ私にダメージを与えてくる。
最終的には6人共どれも威力がある言葉だったのだ。
そして、それは黒々としていてドロリとした感情が私の中で巣くっていく。
しかし、それを言葉にしてしまうのは情けない自分をさらけ出す様で嫌だ。
「嫌よね。恋人と関係のあった女性の話を聞かされても」
「!」
マリンがストレートに言及してくるので私は張り付いた顔から解放される。
「過去の事を言われても仕方がないのに。気になるのよね、気がおかしくなるぐらい」
マリンが籠に入れたシーツの上に自分の手を置いた。
頑張って酒場の床掃除をしたので、ポニーテールに結っている髪が少し崩れていた。首に辺りに垂れた後れ毛が風に揺れている。
「マリン……」
もしかしたらマリンも同じ様な思いをした事があるのかもしれない。
だって、相手はザックと肩を並べる、いや、それ以上かもしれない王子様のノアなのだ。
「いっそのこと、関係のあった女性達は皆黙っていてくれればいいのに。知らないままだったら何も考えずにいられるのにね……」
「そうだね」
それをわざわざ告げに来る女性達。
相手が悔しがるのを見て何になると言うのだろう。
私だって知らなければ、この感情が生まれる事もない。知ってしまったらもう止められない。しかし、この気持ちにも何処かで結着をつけなければならない。
そういう私自身、『嘘をつかないで』──そうザックにお願いしているのだから、彼の全てを知っていくとどうなるのだろう。
私はどれだけザックに思いを募らせて、嫉妬しなければいけないのか。
「困った2人だよね。ノアもザックもさ」
私は肩をすくめてマリンに苦笑いをする。この気持ちに結着がつくのは当分先だろう。
「ふふ。でも、ザックはナツミの側にいる。ほら、ここに」
マリンは笑いながら、私の側に来てシャツの間から覗くネックレスを指差した。
昨日から私の首に突然に増えたこのネックレスについて、朝一番に飛びついてきたのはミラだった。
「ザックに貰ったのね。きゃー素敵。あたしもシンから貰ったのよ!」
ペアのブレスレットなの! と金色のブレスレットを見せて、嬉しそうにはしゃいでいた。
マリンもノアから何とシルバーリングを貰っていた。シルバーの細い華奢な指輪だが、ペアリングになっているそうだ。
ミラと2人できゃぁ、きゃぁ言いながらリングを見つめ素敵を連呼したのが今朝の事だ。
その時マリンとミラが私のネックレスを、うっとり見つめていた事を思い出した。
「これでザックのいつもつけている香水を贈ってきたら、ナツミを閉じ込めておきたくて仕方ないのね~いや、束縛かしら?」
等と呟かれてしまった。
それを言うならブレスレットも指輪もそうなのではないか──そう思ったが何を言っても冷やかされそうで困った。
しかし、ペアになっていないのが私だけなので、ザックに近々お返しをする必要があるかもと考えていた。
「確かザックが軍学校に入る前につけていたピアスと同じ色ね。もしかして同じ宝石なのかしら?」
「よく知ってるね」
「色が独特だから覚えていたの。何て言う宝石なの?」
マリンがニッコリ笑って首を傾げた。
確かに、涙の形にカッティングされた石は深いグリーンに輝いている。ザックの瞳と同じ色なのだが。角度を変えると明るいグリーンに見えたり、濃すぎてブルーグリーンにも見える。まるで透明度の高いファルの海の様だ。角度によって表情を変える。
「やっぱり珍しいんだね。これ、魔法石なんだよ。ザックが一滴血を垂らしたら瞳の色になって……」
「え!」
マリンは魔法石と聞いて驚いて飛び上がり1歩引いた。
それから何故か自分の口を押さえ、キョロキョロ辺りを見回し誰もいない事を確認すると、ほっと小さな溜め息をついて私の顔の前に自分の顔を近づける。
マリンの綺麗な白い頬が目の前にある。銀色の睫毛、宝石の様な青い瞳。急に顔を近づけられたので私は少し驚いて仰け反る。
「ど、どうしたの」
「ま、魔法石って。ナツミそれってザックに求婚された事と同じよ!」
マリンは力強くでも囁く声で私の目の前で呟いた。
「えっ──ムグ」
私はそれ以上声を発する事が出来なかった。目を最大級に大きくしてマリンの顔を覗き込んだ。まるで女2人がキスでもしそうな距離でコソコソ話をする。
「大きな声を出さないから手を離すけど、いい?」
私はマリンの言葉に何度も頷いた。
「プハァ。だ、だって、願掛けみたいなものだからって」
私はマリンの二の腕を掴んでボソボソ強い声で聞いた事を話す。
確かにザックはこのネックレスをくれる時異常に緊張していた様だったけれども。
『えっと、その。このネックレスはその証しなんだが。その、よく考えたら重いよなぁ』
そう言いながらもザックの手は震えていた。
えええ~あれってそういう意味だったの?!
そこまで突き抜けたプレゼントだとは思っていなかった。
「待って、でも。ほら、だって、生まれた時にお母さんから貰った魔法石だって言っていたから、それなら、ほら求婚って意味ではなく──」
それに対してもマリンは私のおでこに自分のおでこをつけて呟いた。
「魔法石は家族で贈り合う事はあるわよ。だって、魔法石は自分の命を分け与えて輝くのよ? 凄く愛情が込められているものよ。ファルの町では求婚の意味でね。石はどんなアクセサリーにつけてもいいんだけど」
「そ、そうなんだ……」
命を分け与えて輝く──ザックの血を一滴垂らしたら宝石に変わった。私は落ち着きを取り戻しながら、ふとザックが切った指の事を思い出した。
私は咳払いをして更にマリンと顔をつきあわせてボソボソ喋る。
「ね、ねぇ。その魔法石に命を分け与えるのって血?」
「そうね。血の場合が多いわね」
「その血を出す為に左の薬指を少し切ってみるって言う事に意味は──」
「それは『永遠の愛を誓うって』意味になるわね」
「あ」
愛?!
私は驚いて、叫びそうな自分の口を自分で塞ぐ。驚いてしまったが、私は凄く嬉しくて口の端が震える。嬉しいけれど、まだ出会って間もない私に。ザック本当に? どうなっているの?
驚きながら笑うってどういう顔なのだろう。
自分の表情の引き出しにまたおかしな顔が追加される。
「ど、どうしよう。凄く素敵ね!」
小声で興奮した声を上げるのはマリンで私の手を掴んでピョンピョンその場で跳ねる。
「ま、待ってでもザックにちゃんと確認するからその、えっと」
ザックって本当に何事もさりげなくスマートにこなしてしまう。
この贈り物に本当にマリンが言う様な意味が込められているのなら私は──
──
『俺と同じ瞳の色になるんだ。だから、ナツミが同じ様に石に血を垂らすときっと黒い宝石になるだろうな』
『えぇ~黒い石かぁ。何だか呪いの石みたい』
『呪いって。そんな事ないだろ。きっとナツミの瞳と同じぐらい神秘的で美しいはずさ』
──
等と、何も知らなかったとは言え酷い言葉を返していた事になる。どうしよう……随分と間抜けすぎる。
「分かってるわ。魔法石の事は秘密にしておくから」
マリンはそう囁いて、私と一緒に手を繋いだままその場でピョンピョン跳びはねる。
私も一緒になって跳びはねて、無言で笑っていた。
中庭で干されたシーツを取り込みもせず、顔をつきあわせた私とマリンが手を繋いで無言で笑いながら跳びはねる姿に、店の皆が何か呪いをかけているのではないかと囁いていた。
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