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052 祭りと裏町 その2
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「あんなに大勢の前でキスするなんて……」
私は先程のキスについてザックに抗議をしていた。指を絡ませて手を繋いで歩くザックの後頭部に言葉を投げつける。
しかし、頭1つ高いザックが振り向いて楽しそうに笑った。
「ナツミが色っぽいのは事実なんだし。ソル達の顔を見たか? ポーッとしていたな。それに、周りの男達の羨ましそうな視線がさぁ。いやぁ~、快感だわ」
快感だわ、って。
私は未だに顔から火が出る程に恥ずかしいのに。
港付近を通り過ぎるまでずーっとザックは周りの男性に声をかけられていた。
全く誰だか分からないがバシバシ肩を叩かれながら皆口々に声をかける。
「ザック。とうとう恋人を決めたか!」
「ああ。イイだろ? ナツミって言うんだ。よろしくな」
「へぇ~異国の女か。目が潤んでいて色っぽいなぁ。何処で出会ったんだ?」
「『ジルの店』さ。可愛いのに色っぽいんだ。あ、駄目だぞ。手を出すなよ」
「ザックに殺されたくねぇから手は出さないよ。しかし、体のボリュームが寂しい様な気がするが」
「体つきとか気にしているようじゃぁ、お前もまだまだだな~」
ザックはそう言って周りの男性達に手を振る。人だらけだったのにザックが歩く先はまるで道が出来たかの様に開いていく。
目には見えないがザックが歩くところだけ石畳に赤絨毯が引かれている様だ。
ありがとう、ありがとう。手を振り進んで行くザックに、腰を抱え込まれたまま引きずられるのはキスの余韻で恥ずかしい私だった。
ようやく道1本、裏の通りに入ったのだが、至るところから声をかけられる。石畳の細い道を歩く先々で”ザック”と声が上がる。
何本目か複雑に入り組んだ細い道を入ると人が少なくなり、私は一息つけたのだった。
「どうした。疲れたのか?」
「ううん。疲れてはないけど……」
ザックがとても人気があるのが凄く分かった。老若男女関係なく、皆ザックの事を知っているし。声をかける人が皆楽しそうに嬉しそうにしていたのが印象的だ。
観光旅行者も足を止めて雰囲気に便乗してか、おめでとう! 等と言われてしまった。
裏の通りに入ってからも祭りの雰囲気はあるのだが、ファルの町の人々までもが気軽にザックに声をかける。
「ザックが凄く有名で、皆に好かれているのがよく分かったよ」
「そうかぁ? 陽気なファルの町の住人だからだろ。それより、ナツミの事をかなり見つめていた男達もいたからな。俺は気が気じゃなかった」
「そんな訳ないし……」
私を見つめていたのは確かに男性もいたかもしれない。それは、ザックの恋人に興味があるからだ。
それに、女性からの視線なんて恐ろしい程突き刺さった。
ザックの恋人って聞いた途端の皆の表情と言ったら……
突き刺す様な視線はもちろんザックに向けられているのではなく私に向けられいた。
女性達は私の頭の先からつま先までじっくり品定めをしていた。
『大した事ない』っていう声が聞こえたのも1度や2度ではない。
しかし、そんな大したことないのが何故恋人に収まったのかが、気になり許せない様だった。
まぁ、『大した事ない』っていうのはその通りなので気にはならないけれど。
睨まれるのは怖いなぁ。何事もなければいいけれども。
「いいや。そんな訳あるんだ」
ザックはナツミの言葉を否定する。
確かにザック自身もナツミを当初は少年だとか子供でまだまだ未発達だと思っていたが、最近のナツミはふとした仕草に女を感じる様になってきた。
輪をかけて今日のナツミは化粧のせいなのか顔立ちがとても女性らしく、神秘的だ。ファルの町にはいない女の顔をしている。それを男性が放っておく訳がない。
俺が別荘の玄関で我を忘れて盛るぐらいなのだから……しかし、アルマもあんなに竹箒で殴らなくてもいいのに。
オレンジ色のワンピースに惹かれると、直ぐに黒髪と黒い瞳が視界に飛び込んでくる。短い髪の毛の女はファルの町にはいないから、変だと一瞬思う。しかし、短い髪の毛も冷静に見ると、ナツミの魅力に合っているのだ。首やら肩やらの露出している部分が際立って目を惹く。
大きな黒い瞳は神秘的で視線が合うとドキッとする。
ソル達もナツミを見つけて声をかけたのだろう。
目ざとい……そうだ、あいつらも女好きだった。確か16か17歳だったか? 10歳程俺と歳の差が開いていたはず。
経験が少ない、少し風が吹けば勃つ様な10代が、ナツミを抱こうものなら想像しただけで恐ろしい。ナツミの抱き心地とか具合と言ったら凄いのだ。ソル達はあっという間に虜になって朝から晩までナツミを離さないだろう。
……10代だった頃の俺がナツミに出会っていたら、そうなると思うから。
とは、口が裂けても誰にも言えない。
もちろんナツミの真の魅力はそれではないのだが。
その魅力に気が付いたらどんな事になるやら。だから、ナツミにはまりそうな男の排除や牽制はしておかなくてはならない。しかし──
「切りがないな」
「え?」
ザックが神妙な面持ちで呟いた。突然黙り込んだかと思うと溜め息交じりの言葉だった。
「何が?」
私はザックに尋ねる。しかしザックはジッと私を見つめたら諦めた様に笑った。
「惚れた弱みだ。あ、そこの店だ」
「???」
私は首を傾げながらザックが指差す店を確認して改めて辺りを見回す。
気が付くと大分裏手の町まで連れてこられていた。もちろん初めて立つ場所だ。
傾きかけた太陽の光が長い影を作っているので、建物との間にある石畳の道には影が落ちている。道幅は人がすれ違うと肩がぶつかる程狭い。
空を見上げるとその道を挟み込む様に建物がひしめき合っている。レンガ造りの建物と白壁の建物の2種類がある。
2階建てもあれば、6階建てのまである物、実に様々だ。
頭上には道と道を挟み込んで、洗濯物の白いシャツが沢山はためいている。どうも居住区の様だ。
建物の1階は店が並んでいる様だが、看板だけ出ている店、大きく窓が開いていて中が見える店等様々だ。
文字が読めたら何屋なのか分かるのに、残念。
祭りで地元の人間が外に出ているのか行き交う人が多い。だが、表通りとは雰囲気が異なり、あまり大騒ぎしている様子はない。
ザックが指したお店の前につく。間口四間程の店先には、アクセサリーがところ狭しと並んでいた。ブレスレット、ピアス、ネックレス、指輪、ゴールド、シルバー、革紐を編み込んだ物など様々だ。
「うわぁ。アクセサリーがいっぱいだね……」
私は物珍しさに声を上げてしまった。
「ん~? 観光客かい。え、黒髪ってもしかして!」
私が声を上げると、暗くなっている店の奥から声がした。
腰まである長いストレートの金髪をかき上げる長身の男性が奥から出てきた。
前髪も後ろの髪と同じでパッツンと眉下辺りで切りそろえていた。
色白の彫りの深い顔。一重の鋭い瞳はザックと同じ濃いグリーンの色をしており、薄い唇はうっすらピンク色だ。ザックと同じぐらいの背格好だった。
麻素材の白い長めのシャツは足のくるぶしまであり、腰の下辺りまで深いスリットが入っていた。その隙間からは赤いピッタリとした長ズボンが見えた。
シャツのボタンは胸の半分まで開いていて胸の辺りが見えている。
あまり筋肉質ではないのか痩せていた。
ファルの町は男前が実に多い様な気がする。いや、それともザックやノア達の周りに寄って来ていると言うのだろうか。ザックとはまた違う男の色香にクラクラする。
その男性は私を見つけるなり、大声を上げ早足で近づいてきた。
「あんたザックの女だろ。ナ、ナツ? 名前は何だっけ、まぁいい。顔をよく見せてくれ。瞳どれだけ黒いんだ」
言うなり金髪ストレートヘアの男は、突然抱きついてこようとした。
「ヒッ」
勢いよく飛んで来た長い腕に私は目を丸くして固まってしまったが、ザックが間一髪で助けてくれた。
ザックに腕を引っぱられると、大きな体の後ろに隠された。
「こら、ウツ。抱きつくな」
「ザック酷いな。彼女の顔をよく見せろよ。黒い瞳なんて初めて見るんだ」
「抱きつく必要ないだろう」
「さっきソルが触ったという肌も確かめたい」
「もうその話を聞いたのか。駄目だ」
ザックとウツと呼ばれた男性が、店先で大きな体を突き合わせてお互いを睨みつける。
2人共腰を落としてお互いの動きを見つめていた。
何だかカバディみたいだな。等と思っている場合ではない。
ウツさんは大きな手を前に出して握ったり広げたりを繰り返している。
ヒッ。私の肌を触る気満々な様だ。
ウツさんの切りそろえた前髪の奥から覗く瞳が、ザックの背中に隠れている私を覗き込みニヤッと笑った。
「いや、触る。今日は朝からお前にたたき起こされ頼まれた仕事をしたんだ。だから話に聞いた、もちっとして、しっとりとした肌は俺にも触る権利がある」
左手に拳を作るとザックの前に突き出す。
「頼んだ仕事とナツミは別だろ」
ザックは突き出されたウツさんの拳を叩いていた。
「名前はナツミか。ふーん。ザックそんな事言うんだったら……なぁ。ナツミ! こいつの去年の話は聞いた?」
「え?」
ウツさんは腰をかがめてザックの後ろに隠れる私に笑って声をかけた。こいつとはもちろんザックの事だ。そこからウツさんは凄い早口だった。
ザックが小さく”ヤバイ”と声を上げたのを聞いた。
「そこの路地裏、行き止まりでアレには凄くいい感じなんだよな。窓が上の方にあったり、うっすら明るい光が差し込むからチラ見できるって言うか。それで、誰かに覗き見されるんだけど。それが興奮するっていう女が多いんだマジで。ザックは本当に女をとっかえひっかえでさ。軍人だから金もあるってのに、時間泊利用するとか持ち帰ればいいのに。そんなに溜まってんのかって。もう歳も30代目前だってのに、やる事なすこと10代から全然変わってなくてさ、女も喧嘩しだして酷いのなんのって」
「ぎゃー!」
ザックの叫び声がそれはそれは辺りに響いた。
「……」
私は溜め息をつくしかなかった。
もう、もう……
それっぽい事は何度も聞いていたけれど。
過去は過去だけれど。女性も同意済みなのだろうけれど。
もう、ザックってザックって……
改めてとんでもない人を好きになってしまったと私は思った。
私は先程のキスについてザックに抗議をしていた。指を絡ませて手を繋いで歩くザックの後頭部に言葉を投げつける。
しかし、頭1つ高いザックが振り向いて楽しそうに笑った。
「ナツミが色っぽいのは事実なんだし。ソル達の顔を見たか? ポーッとしていたな。それに、周りの男達の羨ましそうな視線がさぁ。いやぁ~、快感だわ」
快感だわ、って。
私は未だに顔から火が出る程に恥ずかしいのに。
港付近を通り過ぎるまでずーっとザックは周りの男性に声をかけられていた。
全く誰だか分からないがバシバシ肩を叩かれながら皆口々に声をかける。
「ザック。とうとう恋人を決めたか!」
「ああ。イイだろ? ナツミって言うんだ。よろしくな」
「へぇ~異国の女か。目が潤んでいて色っぽいなぁ。何処で出会ったんだ?」
「『ジルの店』さ。可愛いのに色っぽいんだ。あ、駄目だぞ。手を出すなよ」
「ザックに殺されたくねぇから手は出さないよ。しかし、体のボリュームが寂しい様な気がするが」
「体つきとか気にしているようじゃぁ、お前もまだまだだな~」
ザックはそう言って周りの男性達に手を振る。人だらけだったのにザックが歩く先はまるで道が出来たかの様に開いていく。
目には見えないがザックが歩くところだけ石畳に赤絨毯が引かれている様だ。
ありがとう、ありがとう。手を振り進んで行くザックに、腰を抱え込まれたまま引きずられるのはキスの余韻で恥ずかしい私だった。
ようやく道1本、裏の通りに入ったのだが、至るところから声をかけられる。石畳の細い道を歩く先々で”ザック”と声が上がる。
何本目か複雑に入り組んだ細い道を入ると人が少なくなり、私は一息つけたのだった。
「どうした。疲れたのか?」
「ううん。疲れてはないけど……」
ザックがとても人気があるのが凄く分かった。老若男女関係なく、皆ザックの事を知っているし。声をかける人が皆楽しそうに嬉しそうにしていたのが印象的だ。
観光旅行者も足を止めて雰囲気に便乗してか、おめでとう! 等と言われてしまった。
裏の通りに入ってからも祭りの雰囲気はあるのだが、ファルの町の人々までもが気軽にザックに声をかける。
「ザックが凄く有名で、皆に好かれているのがよく分かったよ」
「そうかぁ? 陽気なファルの町の住人だからだろ。それより、ナツミの事をかなり見つめていた男達もいたからな。俺は気が気じゃなかった」
「そんな訳ないし……」
私を見つめていたのは確かに男性もいたかもしれない。それは、ザックの恋人に興味があるからだ。
それに、女性からの視線なんて恐ろしい程突き刺さった。
ザックの恋人って聞いた途端の皆の表情と言ったら……
突き刺す様な視線はもちろんザックに向けられているのではなく私に向けられいた。
女性達は私の頭の先からつま先までじっくり品定めをしていた。
『大した事ない』っていう声が聞こえたのも1度や2度ではない。
しかし、そんな大したことないのが何故恋人に収まったのかが、気になり許せない様だった。
まぁ、『大した事ない』っていうのはその通りなので気にはならないけれど。
睨まれるのは怖いなぁ。何事もなければいいけれども。
「いいや。そんな訳あるんだ」
ザックはナツミの言葉を否定する。
確かにザック自身もナツミを当初は少年だとか子供でまだまだ未発達だと思っていたが、最近のナツミはふとした仕草に女を感じる様になってきた。
輪をかけて今日のナツミは化粧のせいなのか顔立ちがとても女性らしく、神秘的だ。ファルの町にはいない女の顔をしている。それを男性が放っておく訳がない。
俺が別荘の玄関で我を忘れて盛るぐらいなのだから……しかし、アルマもあんなに竹箒で殴らなくてもいいのに。
オレンジ色のワンピースに惹かれると、直ぐに黒髪と黒い瞳が視界に飛び込んでくる。短い髪の毛の女はファルの町にはいないから、変だと一瞬思う。しかし、短い髪の毛も冷静に見ると、ナツミの魅力に合っているのだ。首やら肩やらの露出している部分が際立って目を惹く。
大きな黒い瞳は神秘的で視線が合うとドキッとする。
ソル達もナツミを見つけて声をかけたのだろう。
目ざとい……そうだ、あいつらも女好きだった。確か16か17歳だったか? 10歳程俺と歳の差が開いていたはず。
経験が少ない、少し風が吹けば勃つ様な10代が、ナツミを抱こうものなら想像しただけで恐ろしい。ナツミの抱き心地とか具合と言ったら凄いのだ。ソル達はあっという間に虜になって朝から晩までナツミを離さないだろう。
……10代だった頃の俺がナツミに出会っていたら、そうなると思うから。
とは、口が裂けても誰にも言えない。
もちろんナツミの真の魅力はそれではないのだが。
その魅力に気が付いたらどんな事になるやら。だから、ナツミにはまりそうな男の排除や牽制はしておかなくてはならない。しかし──
「切りがないな」
「え?」
ザックが神妙な面持ちで呟いた。突然黙り込んだかと思うと溜め息交じりの言葉だった。
「何が?」
私はザックに尋ねる。しかしザックはジッと私を見つめたら諦めた様に笑った。
「惚れた弱みだ。あ、そこの店だ」
「???」
私は首を傾げながらザックが指差す店を確認して改めて辺りを見回す。
気が付くと大分裏手の町まで連れてこられていた。もちろん初めて立つ場所だ。
傾きかけた太陽の光が長い影を作っているので、建物との間にある石畳の道には影が落ちている。道幅は人がすれ違うと肩がぶつかる程狭い。
空を見上げるとその道を挟み込む様に建物がひしめき合っている。レンガ造りの建物と白壁の建物の2種類がある。
2階建てもあれば、6階建てのまである物、実に様々だ。
頭上には道と道を挟み込んで、洗濯物の白いシャツが沢山はためいている。どうも居住区の様だ。
建物の1階は店が並んでいる様だが、看板だけ出ている店、大きく窓が開いていて中が見える店等様々だ。
文字が読めたら何屋なのか分かるのに、残念。
祭りで地元の人間が外に出ているのか行き交う人が多い。だが、表通りとは雰囲気が異なり、あまり大騒ぎしている様子はない。
ザックが指したお店の前につく。間口四間程の店先には、アクセサリーがところ狭しと並んでいた。ブレスレット、ピアス、ネックレス、指輪、ゴールド、シルバー、革紐を編み込んだ物など様々だ。
「うわぁ。アクセサリーがいっぱいだね……」
私は物珍しさに声を上げてしまった。
「ん~? 観光客かい。え、黒髪ってもしかして!」
私が声を上げると、暗くなっている店の奥から声がした。
腰まである長いストレートの金髪をかき上げる長身の男性が奥から出てきた。
前髪も後ろの髪と同じでパッツンと眉下辺りで切りそろえていた。
色白の彫りの深い顔。一重の鋭い瞳はザックと同じ濃いグリーンの色をしており、薄い唇はうっすらピンク色だ。ザックと同じぐらいの背格好だった。
麻素材の白い長めのシャツは足のくるぶしまであり、腰の下辺りまで深いスリットが入っていた。その隙間からは赤いピッタリとした長ズボンが見えた。
シャツのボタンは胸の半分まで開いていて胸の辺りが見えている。
あまり筋肉質ではないのか痩せていた。
ファルの町は男前が実に多い様な気がする。いや、それともザックやノア達の周りに寄って来ていると言うのだろうか。ザックとはまた違う男の色香にクラクラする。
その男性は私を見つけるなり、大声を上げ早足で近づいてきた。
「あんたザックの女だろ。ナ、ナツ? 名前は何だっけ、まぁいい。顔をよく見せてくれ。瞳どれだけ黒いんだ」
言うなり金髪ストレートヘアの男は、突然抱きついてこようとした。
「ヒッ」
勢いよく飛んで来た長い腕に私は目を丸くして固まってしまったが、ザックが間一髪で助けてくれた。
ザックに腕を引っぱられると、大きな体の後ろに隠された。
「こら、ウツ。抱きつくな」
「ザック酷いな。彼女の顔をよく見せろよ。黒い瞳なんて初めて見るんだ」
「抱きつく必要ないだろう」
「さっきソルが触ったという肌も確かめたい」
「もうその話を聞いたのか。駄目だ」
ザックとウツと呼ばれた男性が、店先で大きな体を突き合わせてお互いを睨みつける。
2人共腰を落としてお互いの動きを見つめていた。
何だかカバディみたいだな。等と思っている場合ではない。
ウツさんは大きな手を前に出して握ったり広げたりを繰り返している。
ヒッ。私の肌を触る気満々な様だ。
ウツさんの切りそろえた前髪の奥から覗く瞳が、ザックの背中に隠れている私を覗き込みニヤッと笑った。
「いや、触る。今日は朝からお前にたたき起こされ頼まれた仕事をしたんだ。だから話に聞いた、もちっとして、しっとりとした肌は俺にも触る権利がある」
左手に拳を作るとザックの前に突き出す。
「頼んだ仕事とナツミは別だろ」
ザックは突き出されたウツさんの拳を叩いていた。
「名前はナツミか。ふーん。ザックそんな事言うんだったら……なぁ。ナツミ! こいつの去年の話は聞いた?」
「え?」
ウツさんは腰をかがめてザックの後ろに隠れる私に笑って声をかけた。こいつとはもちろんザックの事だ。そこからウツさんは凄い早口だった。
ザックが小さく”ヤバイ”と声を上げたのを聞いた。
「そこの路地裏、行き止まりでアレには凄くいい感じなんだよな。窓が上の方にあったり、うっすら明るい光が差し込むからチラ見できるって言うか。それで、誰かに覗き見されるんだけど。それが興奮するっていう女が多いんだマジで。ザックは本当に女をとっかえひっかえでさ。軍人だから金もあるってのに、時間泊利用するとか持ち帰ればいいのに。そんなに溜まってんのかって。もう歳も30代目前だってのに、やる事なすこと10代から全然変わってなくてさ、女も喧嘩しだして酷いのなんのって」
「ぎゃー!」
ザックの叫び声がそれはそれは辺りに響いた。
「……」
私は溜め息をつくしかなかった。
もう、もう……
それっぽい事は何度も聞いていたけれど。
過去は過去だけれど。女性も同意済みなのだろうけれど。
もう、ザックってザックって……
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