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034 そして溶けていく

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「あっそれ駄目ぇ!」
 シャワーは一度止めてもらえた。何故なら、肌に触れるシャワーの飛沫ですら何だか敏感に感じる様になってきた気がするからだ。

 私はフーッフーッと肩で息をしながら、背中を反らせた。跨いでいるザックの太股を私の雫が濡らしているのが分かる。

「駄目じゃない。なぁどれが良いんだ? もう一度、な?」
「もう一度は、無理だから」
「いーや無理じゃない。ちゃんと教えろ。教えるまでこのままだ」
「そんなの答えられない」
 私はここまで痴態を晒しておいても、言葉にする事に対して抵抗していた。

 ザックが私の小さな胸の頂きを弄び始めて数分しか経っていないのに。もう何度高い声を上げたのか分からない。

 なのにザックは、私に言わせよう言わせようとする。

「ほら、こういう風に周りを触るのは?」
「! それは。はぁ」
 ザックの両方の太い人差し指が、胸の頂きを円を描く様にゆっくりと撫でる。
 体が跳ねてザックの腕を掴んでこらえる。
 体の中に熱がたまっていくばかりで逃す方法がなくて辛くなる一方だ。
「なぁ、教えてくれよ」
「……その触り方はっ」
「触り方は?」
 言わないと絶対に許してくれない様だ。ザックの馬鹿っ。
「気持ちが良い……っ」
 私は恥ずかしさで耳まで真っ赤になる。
「ふーん。じゃぁ今度これは?」
 そう言って次々と触り方を変えてくる。
「痛いっ! それは嫌っ」
「そうか。じゃぁもうしない」
 ザックが小さく耳元にキスをして小さく謝ってくれた。ザックを横目に睨むがあまり体に力が入らなくなってきた。

 痛さで一度快感がリセットされる様な気分になり、溜め息をついたのも束の間、今度は人差し指だけで頂きだけを弾く。
「それは……」
「それは?」
 必死になる私を横目にザックはのんびり答える。

 泡のついた体の滑りはまだ生きている。更に少し触って止めるを繰り返すザックのせいで、体が凄く敏感になっている。

 一気に上り詰める様な感触に思わず腰を揺らしてしまう。胸しか触られていないのにこのまま上り詰めてしまうの? 自分が恥ずかしくて顔が赤くなるが、快感がどうしても勝ってしまう。
「駄目ぇ!」
 ギュッと目をつぶって弾ける体の感覚に身を任せようとした。
 しかし、ザックはもう少しで達するというところで両手をパッと離してしまった。
「あっ……」
 突然放り出された感覚に呆然とする。
 燻った熱が何処にもはけ口がなく、怒りに似た様な感覚が支配する。
「駄目なんだろ?」
 ザックのニタリとした声が耳で聞こえた。

 その瞬間、ザックが私が上り詰めるのをワザと止めたのが分かった。
 私は俯いて頭を左右に振った。
「どうした?」
 優しく声をかけられるが、恥ずかしくてこの先を期待した自分にどうして良いのか分からず、とうとう涙が溢れるてしまう。

 俯いていたせいで、ポタポタと大粒の涙が跨がったザックの太股に落ちていく。
「酷いザック。かっ、体が、変になるっ」
「ゴメン。悪かった」
 ザックも最初はからかっていたけれど、私の涙声と顔を見たら眉を下げて謝ってくれた。

 その一言を聞くと、こらえていた涙が止めどなく溢れて、私はしゃくり上げる様に泣いた。
 ザックはバツが悪そうに私の脇を抱えて、今度はくるっと向かい合って抱きしめてくれた。今度はお腹にザックの杭を感じる。……反省しているのか少しくったりと力をなくしている様だ。
「ザック、うっ、ヒック」
 反省しているのが少し分かったら、今度は安堵で涙が出て来た。
「悪かった。済まない。意地悪しすぎたな」
 ポンポンと背中を叩いてあやしてくれる。優しく撫でてくれる大きな手。

 頑なに体を閉じていたのは自分だと思うけれど。これは辛い。
 だったら、もっと快感に身を委ねてしまえば良いのかな。
 恥ずかしい事かもしれないけれど、凄く素敵な事かもしれない。

 ザックから与えられるキスも熱もとても切ないものなのだから……

 ザックはそれが分かっているから、ワザと言わせる様に仕掛けてくるのかもしれない。
 そう解釈した私は思い切って鼻をすすり上げた。

「お願いだから」
 私は両腕をザックの首に回して、しゃくり上げる声を抑えながら、呟いた。
「うん?」
「お願いだから、途中で止めたりしないで……ちゃんと最後までして欲しいの」
 恥ずかしくなんかない。
 ザックならきっと受け止めてくれる。この燻った熱をきっと逃してくれる。
「そう言ってくれるのを待ってた」
 ザックはそう呟くと雨の様にキスを降らせた。
 息がつかなくなる様なキスをくれたかと思うと、今度は真正面から胸にかぶりつかれた。しかし優しく舌でなぶるだけだ。
「ああっ」
 私は喉をそらせて体をザックに押し付ける。
 途端にザックが私の潤っているぬかるみに、自分自身を突き立て激しく揺さぶった。
「んっ!」
 グンとザックも私の体の出来るだけ奥をついてくる。
「ザック、気持ちがいいよぅ」
「ああっ。俺も……イイ」
 あっという間に責め立てられて、全体から汗が噴き出る。
 腰を掴まれてガツガツ下から突き上げられ突然訪れる頂点。
「あっイクッ!」
 私は直ぐに上り詰めて、体を震わせる。だがザックは止まってくれない。
「ザック。私もうイッてるのに!」
 上り詰めてもその先に飛ばされそうで、怖くてザックにしがみつく。
「怖いよっ。これ以上はぁ」
「大丈夫だからっ。俺も、出るっ。ああっ……」
 ザックは腰を奥まで打ち付けると、ザックがギュッと瞳を細めて歯を食いしばった。

 最後は溜め息の様な声を上げて、肩で大きく息をする。

「はぁ、はぁ」
 酸欠気味になり、大量の空気を吸い込もうと私は必死になった。
 先ほどの泣き出した涙とは別の生理的な涙が溢れる。
 その涙をザックが口づけて舐め取ってくれる。
「俺、ナツミの中で溶けそう」
「うん」
「今度はベッドでな……」
「うん。もっと……」
 ザックを感じていたい。
 最後そう呟くとザックが嬉しそうにシャワーのコックを捻って、温かいお湯を一緒に被った。

「でもなぁ。やっぱ三分もたねーわ。何でだ?」
 ザックはがっくりうな垂れる。
「気にしなくても良いのに……だって私こそ三分もってないのに」
「ナツミは別に良いだろ? これからも存分に気持ちよくなってくれたら俺は嬉しい」
「うん」
 ──ザックの場合、一回目だけがそうなのであって、ここからが長いのに……
 今晩も長くなるなぁと思いながら、ザックのキスを受けた。

 自分の事をさらけ出しても、ザックは受け止めてくれる。きっとこれからも。
 私はすっかりザックの虜になりつつあった。





 ベッドで私を散々啼かせたザックは、ようやく満足したのかベッドに潜ってシーツをかけてくれた。今日は色々意地悪だった様な気もする。

「なぁところであの話。マジでやるのか?」
「あの話って?」
「だから、ノアとマリンの、何とか、きょう、きょう……何だ?」
「ああ、水泳教室?」
「それ」
 ザックはベッドの上で私の頭を肩に乗せたまま顔を近づけて、不満そうに声を上げた。
「うん。するよ。具体的な事はこれからなんだけど……ふぁ」
 私は睡魔が襲ってきてウトウトしながら話し続ける。

 ザックが今日意地悪だったのは、この水泳教室のせい?
 回らない頭で必死に考えてみる。
 まさかね。大人なザックがそんな事で嫉妬するなんて。

「ノアは乗り気じゃないのに?」
「でも、マリンはやる気満々だったよね?」
「それなんだよなぁ」
 ザックは溜め息交じりに声を上げる。





 夜の店の手伝いをする少し前に、マリンが突然言い出した。
「ねぇナツミはどうやって泳げる様になったの?」
「ああ。最初は水泳教室に通って」
「すいえい、きょう、しつ?」
「うん。泳ぎを教えてくれる学校があるんだけどね──」

 学校と言ってもスイミングスクールなのだが。
 私はどうやって泳ぎを覚えたのかをマリンに説明した。

 最初は顔をつけるのも怖かったけれど、その内泳げる様になった事や泳ぎを教えていた事を改めて話した。

 マリンは踊り子の衣装の裾をモジモジしながら、頬を赤らめて私に小さく呟いた。
「ねぇ泳ぐのってナツミに教えてもらったら、私でも出来る?」
「え?」
「私もナツミみたいに泳げる様になりたいなって……」
 マリンのセリフに私は驚いて、カトラリーを整理していた手を止めてしまった。
「もちろん泳げる様になるよ。でも、海で溺れたのに怖くない?」
 マリンはふるふると首を左右に振って、両手を祈る様に組んで微笑んだ。
「この間、海に貝を捕りに行った時、ナツミが海から飛び出るのを見て凄く感動して。私も泳ぎたいなぁって……」

 凄く感動して……って。
 とても嬉しい言葉をもらえた。こちらこそ嬉しくなってしまうよ。

 泳げないし怖い思いもしたのに、それでも私を見て泳いでみたいって思ってくれただけで、水泳していて良かった。

 私はマリンの手を取って微笑むと大きく頷いた。
「もちろん」
「ありがとう!」
「色々考えなきゃね? 泳ぐ場所とか、水着とか。後それから──」
 私とマリンはその場で小さくピョンピョン跳ねる。しかし、地響きする様な声が聞こえた。
「聞いたぞ。マリン」
 ノアだった。ノアは白いシャツを腕まくりし、モスグリーンのエプロンをしていた。いつもは剣をぶら下げているが、今は違う。左手には包丁を右手にはキャベツの様な野菜を持っていた。

 流石ノア。何を着ても何を持っても絵になる。

 しかし、顔はお昼食べたアラビアータの様だ。つまり怒り顔。
「あっノア。聞いてたの?」
 マリンはニコニコしながらノアを見上げる。

 ノアのこの顔はどう考えたって、駄目だって言いたいのだよね。

 そうだよね。このファルの町で考えると女性が泳ぐなんてのはもってのほかだし。危ないって思うよね。この私ですら、色々な事情を考えると仕方がないかと諦めかけた時だった。

 全く雰囲気を読まないマリンが、良い事を思いついたわ、と言い出した。
「ノアも一緒にナツミに教えてもらいましょうよ」
「え」
 ノアは、怒り顔について無視された上に、まさかのお誘いに目を点にした。

「ああ、何て良い考えなの。だって泳げる様になったら私とノアの二人でこの間ナツミとザックが泳いでいた様な事が出来るのよねぇ」
「う、うん。そうだねぇ」
 マリンは目をキラキラさせながら私に食いついてきた。

 なるほど。最終的には海でザックと私のイチャイチャを自分達でも再現したいのか。
 何て単純で分かりやすい希望なのか。私は苦笑いをしてしまった。
 それでも動機なんてそんなもんだよね。私は協力する事を改めて申し出た。

「いや、マリン。だけど……」
 あまりのマリンのテンションに、押しに押されたのはノアだった。
「ねっノア楽しみね! 頑張りましょう、そうしたらノアの弱点もなくなるし! よし、今晩は頑張るぞ~」
 マリンは一人盛りあがって、二の句が継げないでいるノアを置き去りにしていった。
「……また、後で話そうか?」
「そうだな。そうしてくれ……」
 ノアは肩を落としてトボトボと厨房に戻っていった。
 今日は踏んだり蹴ったりだなぁノアって。



 マリンってあんな感じだったか? 最近、凄く元気なのは何故なのだろう?
 まさか……ナツミの医療魔法で解毒されて、ついでに脳天気そうな元気までもらったわけではないよな?
 ノアは、元気に去っていったマリンの後ろ姿を思い出しながら首を傾げた。

 確実に何かが変わりつつある。

 ザック、マリン、そして次は──自分なのかもしれない。
 ノアは、そう思いながら野菜の千切りに集中する事にした。





「俺も、マリンとノアに教えるの少し反対」
 意外にもザックがブスくれている。私の髪の毛を撫でながら、ブツブツ言い始めた。
「何で?」
 私は散々啼かされた後だったので、ウトウトするのをこらえながらザックの話を聞こうと努力をする。
「だって、俺といる時間が絶対少なくなるし……」
 口を尖らせて垂れた瞳の端を赤くしていた。つまらない嫉妬が恥ずかしい。
「何言ってるの? ザックも一緒に手伝ってくれないと困るよ」
「え。俺も? 俺は泳げるぞ」
「教えている最中に、ノアとマリンの二人に何かあったら私だけじゃ対処できないもん。ザックが一緒に来てくれるって思っていたから、私安心してたのに……」
 ああ、眠くて眠くて仕方ない。船を漕ぎ始めたが頑張ってザックの言葉を待つ。

「俺も一緒に教えるのか? 一緒にいて安心?」
 意識が……最後に瞳に映ったのは、ザックが頬をうっすら赤く染め目を丸めた表情だった。

「うん。私もザックと一緒の時間を過ごしたい……一緒に、一緒に……いて?」
 いて欲しいの。
 そう伝えたいがもう言葉も発せない。私は眠りに落ちた。



 ザックは思った以上に顔が赤くなっているので口を片方の手で塞いだ。
「何でそこで、急に可愛くおねだりするんだよ……」
 ナツミが当たり前の様に、俺が側にいる事を考えてくれた。
 こんな僅かな事が嬉しいなんて。
 知らなかった自分が暴かれていく。

 ザックは眠りについたナツミを再び抱きしめて、自分も眠りについた。
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