【R18】ライフセーバー異世界へ

成子

文字の大きさ
上 下
5 / 168

005 ここは何処なの?

しおりを挟む
 気が付くと冷たく暗い場所で私は横たわっていた。

 暗く深い海の底を漂っている様だ。だけれど少しも苦しくない。ああ、冷たいけれども何だろう心地がいい。

 このまま沈んでいられたら──
 眠っていられたら──
 辛い事など忘れてしまえるのに──
 辛い事って?

 その瞬間ザーッと波が起こり水中が渦巻く様だ。渦がはじまっているその先には、笑っている恋人だったしゆうと姉のはるの姿が見える。

 二人は微笑み合っている。

 ああ、美男美女。雑誌から抜け出た様に美しいカップルだ。

 秋は背が高くてサラサラのストレートの髪で後ろは短く切り上げている。前髪は眉にかかるぐらいの長さで、隙間から見えるくっきりした二重の瞳とスラッとした鼻。顎から耳にかけてのラインもスッキリしていてとてもハンサムだった。サッカーで鍛えられた体は彼が勤めているスポーツジムのモデルとしてポスターになるぐらいだ。

 春見はスマートだが出るところは出て、引き締まるところは引き締まるといった女性から見ても理想的な体型だ。ふわっとした栗色の髪に大きな瞳。いつも柔らかく微笑んでくれるが、時折見せる何ともいえない色気があり、同性ですらときめいてしまう。

 比べて私は、水泳選手体特有の広い肩幅と、筋肉質でおっぱいもあるっていうより胸板って感じで。それはお腹は引き締まっていますけれども下手すればそのあたりの男性よりも逞しいシックスパッドが拝める時があったりなかったり。

 秋の隣に並べばちょっとした弟的な感じですけれど。

 微笑み合っていた二人は突然俯いて、徐々に美しい顔をゆがませる。

 何故そんな悲しそうな顔をするの?

 姉の春見は静かに涙を流した。

「私はなつに酷い事を。夏見にちゃんと私の気持ちを伝えてから、秋君の事を受け入れるべきだったのに」

「違うんだ。俺が悪いんだ。俺が心変わりした事をちゃんと夏見に話をしないままにこんな……」

 秋が両手で顔を覆って、くぐもった声で呟いた。声には後悔が滲んでいる。

 それを遠くで見ながら私はどんどん冷めていく。

 皆が皆話をしなかった事を後悔して自分を責める。

 裏切られた私としては、一番悪いのは目の前にいる二人なのではないかと思うけれど。

 そんな私もあの現場で、三人が鉢合わせた時もおちゃらけて本当の気持ちを伝えなかった。

 春見の事は大好きだけれど、コンプレックスもあり何をやってもかなわないと諦め、私自身向き合えなかった。今までそうやって回避する人生だった。

 唯一のよりどころだった水泳だって、特に自慢の出来る成績は残せなかった。社会人になったって就職先が見つからずスイミングスクール、ライフセーバー、海の家のアルバイト、全てが中途半端としか言いようもなく。自信をなくしていた。

 本当の気持ちをぶつけていたら何か変わっていたのかな?

 後悔が胸にチクッと刺さった時、真っ暗だった辺りを照らす光が見えた。

 上を見上げると水面の様に白く光キラキラしたものが見える。ここは海の底だ。

 そうだ。もう一度、自分の気持ちとちゃんと向かい合おう。
 もし伝えた後に関係が壊れてしまったら。
 どうやって関係を修復するかはその後だ。

 そう心に決めて大きく手をかき、水面へ向かって浮上した。

「……ちゃんと話さなきゃ」
 呟いてゆっくりと瞳を開けると、見た事もない天井が目に入った。

 天井には空調を調整する大きな三枚の羽根がついた金属製の扇風機が目に入った。ゆっくりと回りながら、外から入る空気と部屋の中の空気を循環していた。

「あれ?」
 私はクッションの良いベッドの上で枕に埋もれながら目をこすった。白いカバーに入った羽布団が体にかけられていた。

 体を起こして自分の様子を見る。派手な黄色のTシャツやオレンジ色のパンツ、その下に着ていたツーピースのスポーツタイプの水着も全て脱がされていた。代わりに着ていたのは白いロングのシャツ一枚。

 洗い立てのいい香りがする。体は海水につかっていた割にはべたつかない。誰かがきれいに拭いてくれた様だ。髪の毛はやはりお風呂に入ったわけではないので、少しべたついているが、頭皮からミントの香りがする。これも精一杯清潔にしてくれたのだろう。

 ベッドからゆっくりと片足を下ろし部屋中を見わたす。六畳ほどの広さの部屋で、壁も床も木材で出来ていた。きれいに掃除されており、自分が寝ていたベッドの横にあるテーブル上には、水を張った陶器の小さなボウルが置かれている。

 ボウルの水からミントの香りが仄かにする。ベッドの反対側の奥には小さな机と椅子、その隣に本棚がある。本棚には何の本も置かれていない。どれも装飾のないシンプルな家具だ。

 ベッドの側には背もたれのついた木の椅子が置かれている。誰かが座っていたのか椅子の上には本が一冊置いてあった。部屋には一つだけ小窓がついており外から潮の香りがしている。

 まだ日が高いので、町の雑踏のざわめきと海鳥の鳴き声が聞こえた。

「ここは何処なの……」

 全く覚えのない部屋で呆然とするしかなかった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...